早いもので今年も9月に突入しました。
「全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)」では1984年(昭和59年)に9月23日を「不動産の日」に制定しました。
それにちなんで毎年、実施されているのが消費者の住居に関するニーズと現状の把握を目的とした「不動産の日アンケート調査」です。
2023年版(調査期間2022年9月23~11月30日)は今年2月に公開されています。
調査は20歳以上の男女を対象としてインターネットにより行われており、昨年は23,349件、本年は23,091件が回答数となっています。
もっとも、統計学的な信頼区間は95%を保持していますから、回答結果のブレは許容できる誤差の範囲でしょう。
筆者は昨年、「【比較検討すると見えてくる!】不動産の日アンケート結果による顧客の意識変化」とのタイトルで記事を寄稿しています。
公示価格が全国平均で上昇した今年度では顧客にどのような意識の変化が生まれているのか興味深いところですが、結果については来年公開される集計結果を待たなければなりません。
ですがその結果を知る前にはその前年の結果について理解しておくことが大切でしょう。
意識変化は、比較検討により確認できるからです。
そのような理由から、2023年2月に公開済みの「住宅の居住志向及び購買等に関しての意識調査」を参考に傾向について解説したいと思います。
参考:住居の居住志向及び購買等に関する意識調査((公社)全国宅地建物取引業協会連合会 、(公社)全国宅地建物取引業保証協会)
現在は不動産が買い時?
一般の方が不動産を購入する目的は様々ですが、もっとも多い理由は居住でしょう。
ただし住めれば何でも良いというものではなく、駅からの距離や築年数・間取り・構造・価格・資産性など様々な要因を比較検討して決定しています。
その中には漠然とではありますが「融資を利用すれば購入できそうだし、今が買い時だから」という理由も含まれているでしょう。
実際に私たちが友人・知人などのと会話している際によく質問される「結局、いまって不動産は買い時なの?」という質問。もっとも答えにくい質問です。
業務としては融資金利の変動状況や法改正・税優遇などについてポジティブに捉え「今が購入のチャンスです」と胸を張って答えるのが不動産業に従事する者の正しい姿かも知れません。
ですが実際のところ顧客自身の置かれている状況や諸条件、購入する必要性などを勘案し自らが答えを出すこと。
つまり買い時かどうかを自ら判断することが大切でしょう。
結局のところ買い時は人それぞれだということです。
それでは2023年に「不動産は買い時だと思う」人はどれくらい、いたのでしょう。
わずか6.4%となっており前年比で-4.1%の減、2015年の調査開始以降、過去最低となっています。
当然の帰結ではありますが「買い時だと思わない」と回答した方が0.8%増加しています。
買い時だと思う、もしくは思わない理由のトップ3は2年連続で同じでした。
金利が上昇する前に購入をするのが「得」であり、税制の優遇措置の充実度や不動産価格は今後も上昇を続けることを理由として「買いどき」だと回答する方がいる一方で、収入不安・不動産価値の下落・税制優遇措置の縮小廃止される可能性などを理由として「買い時だと思わない」と回答しているのです。
「不動産価格は今後も上昇を続ける」と回答した方が過去最高に
買い時なのかどうかは不動産価格により左右されるものです。
つい先日公開された野村不動産ソリューションズが実施した「住宅購入に関する意識調査」でも、「不動産価格は今後とも上がると思うか」との質問にたいし「上がると思う」と回答した方が42%と、2019年の調査開始から最高値を記録したと発表されていました。
もっとも、同じアンケートで「不動産は買い時だと思うか」との質問にたいし、「買い時だと思う」と「どちらかと言えば買い時だと思う」と回答したのは全体の33.1%しかおらず、「買い時だと思わない」の48.1%を下回っています。
不動産の日アンケート結果では「買い時だと思わない」が26.4%、分からないが67.2%でしたが、野村不動産ソリューションズのアンケートにおいては48.1%が購入時期ではないと回答しているのは興味深い傾向です。
設問の順番や回答者の傾向によっても回答にはブレが生じますから、比率だけで即断することはできませんが、共通しているのは買い時ではないと考える方が増加傾向にあるということです。
持ち家思考派は堅調に推移
日本人の持ち家思考は根強いものです。
土地統計調査は5年に一度実施されます。
前回調査が平成30年でしたから、今年(2023)10月1日より調査が開始されます。
前回調査によれば、住宅総戸数は6240万7千戸(前回調査より2.9%増加)一世帯あたりの住宅数が1.16戸になっています。
これは総世帯数5400万1千世帯を上回る数の住宅戸数が現存しているということですから、空き家数が848万9千戸(空家率13.6%)という結果を招いています。
気になる持ち家比率は1973年以降60%前後で推移しており、前回調査では61.2%とされています。
海外との持ち家比率を比較したデータは公にされていませんが、「住宅の所有形態」についての調査結果が内閣府から公開されています。
この調査は別世帯である子世帯の同居などについてもカウントされてしまうため純粋な持ち家比率を比較したものではありませんが、日本88.6%、韓国78.4%、アメリカ67.6%、スウェーデン55.3%、ドイツ52.1%となっており、「持ち家思考」だけではなく取得率が高いことも確認されています。
「不動産の日アンケート結果」においても前年比1.7%減少しているものの、およそ約8割(77.9%)は「持ち家派」であるとされています。
昨今、若い世帯を中心に賃貸思考の増加、持ち家離れが報道されています。
確かに日本においては不動産価格の上昇から取得時年齢も高くなり、収入不安などから買い控える世帯が増加しています。
ですが、可能であれば購入したいというのが本音でしょう。
住宅購入と収入は相関関係にありますが、実際に年収700万円以上の8割以上が持ち家であるとの調査結果が、総務省統計局による調査で発表されているのです。
ですから潜在的に住宅を購入したいと考えている方々が、何を重視して物件を選ぶのかを知っておくことが大切なのです。
賃貸・購入ともに重要なのは金額・立地・交通の三要素
さて前項までに、住宅を所有したいという意識自体は減少していないと述べてきた訳ですが、実質問題として不動産の成約件数は減少傾向にあります。
土地取引を例にしても、法務省統計月報をまとめた表から成約件数が減少しているのが確認できます。
取引件数は減少しても、価格は着実に上昇しています。
最近の傾向ですが、査定依頼があり適正価格を提示すると、「不動産価格は上昇しているのでしょう。
なんでそんなに安く査定してくるの?」と言われることがあります。
確かに都市部再開発の余波が広がるなど、全国平均の公示価格は上昇しています。
ですがどこもかしこも値上がりしている訳ではありませんし、住宅地は特にその傾向が強い。
根拠なく高値が通用する訳ではないのです。
積極的に投資され「値」を上げている一部の地域が全体を牽引しているだけだということが、一般の方にはなかなか理解できないようです。
その点において、これから購入する世帯は冷静です。
不動産価格が上昇傾向にあるから尚更でしょうが、売買・賃貸ともに「お金」、つまり売買金額や賃料が妥当であるかどうかが最も重視されています。
次いで環境・交通の利便性と続きますが、売買と賃貸では2位と3位が入れ替わっているものの、どちらも重要な要素であることに違いありません。
たとえばアメリカの不動産情報サイトRedfin(レッドフィン)による調査では、ミレニアム世代と比較すればZ世代の方が同年齢時の持ち家比率は高いとの調査結果を公表していましたが、今後、日本でもそのような傾向が高くなる可能性があります。
既存住宅にたいする抵抗感が年を追うごとに薄れてきているからです。
可能であれば自分の希望通り好きな場所で注文住宅を建築したいという願望はあるのでしょうが、昨今の土地や建築価格の高騰、そして自分自身の収入を考えればやはり無理がある。
そこで物件の状態や諸条件、価格とのバランスなどを相対的に評価して抵抗感なく既存住宅を検討する世帯が増加しているのです。
不動産を販売する側である私たちが、このような変化を見過ごしてはなりません。
その他覚えておきたい傾向
双方が合意すれば契約締結の時間設定に拘束されず、ペーパレス化に対応でき印紙代も節約になる。
電子署名などに慣れていなければ抵抗感はあるでしょうがそれを差し引いてもメリットの方が多い電子契約。
皆さんもすでに導入済み、もしくは導入を検討されているでしょう。
ですが、顧客側の認知度はいまだに低いようです。
そもそもの話として電子契約を知っていると回答した方はわずか6.3%しかおらず、72.7%もの方が「知らない」と回答しているのです。
さらに、印紙税が非課税になるのなどのメリットがあるなら利用したいと答えた方が20.5%いるものの、ほぼ同数が「書面の方が安心だ(売買)」と回答しているのです。
強制するものではありませんが、間違いなく双方にとってメリットのある電子契約ですから私たちも意識して啓蒙活動に取り組んでいきたいものです。
また「住んでいる地域のハザードマップを見たことがある」割合は前年比6.9%減少しているものの41.4%と高い水準で推移しており防災意識の高まりが伺える一方で、天災に対する住まいの意識は減少しています。
建物構造や立地・築年数が、天災への備えとして住まい選びには必要であるとなっていますが、これらもわずかながら減少しているのは興味深い動向です。
国土交通省白書によれば、過去10年間と比較して自然災害発生件数とその規模について60%以上が増加したと回答しているのに、不動産に関しての防災意識が減少に転じているのは何故でしょうか?
統計学的な偏りによる可能性も考えられますが、既存住宅に抵抗感が少なくなりつつある状況から、防災についての説明は私たちが意識して行う必要があるのでしょう。
まとめ
営業マンが実績をあげ続けるためにはどうすれば良いか。
不動産業に従事していれば、これは永遠のテーマです。
高額であることから時代に翻弄され、安定的に実績を上げ続けることは簡単ではありません。
そのため確度が高い情報収集のシステム導入や、注目を浴びる情報発信の方法などを模索する訳です。
会社にとって「良い営業マン」と、顧客にとっての「良い営業マン」は同列ではありません。
問題を起こさず実績を上げてくれる営業が会社に求められる「良い営業マン」の資質です。
ですが顧客にとっての「良い営業マン」は、メリットだけではなくデメリットについても分かりやすく丁寧に説明してくれる人なのです。
それを裏付けるように、不動産会社にたいして顧客が最も期待するのは「優秀な担当者」の割当です。
結局のところ、不動産についての様々な知識を有しており、それを分かりやすく説明してくれる担当者は顧客から信頼され実績をあげ続けるということでしょう。
筆者の周りを見ても、長年、第一線で不動産業に従事し続けている方はそのような資質を有している方ばかりです。
「誰でもできるが誰しもが続かないのが不動産営業」だと言われますが、市場動向を勘案し状況を伺いながらも王道を歩む営業マンが、結局のところ時代に左右されず実績をあげていくということでしょう。