令和6年4月に予定される改正建物省エネ法の一部施行に先立ち、国土交通省から改正に関しての基本方針が令和5年9月25日付けで公表されました。
また基本方針とは別に、建物に関しての売買や賃貸時において省エネ制度の表示を求める「建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度」、太陽光発電設備を代表する再生可能エネルギー設備の設置促進に関する「建築物再生可能エネルギー利用促進区域制度」が同日(令和5年9月25日)に省令・告示が公布されました。
この公布を受け、建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度のガイドラインも同日に公表されています。
これらは全て2050年に実現を目指すカーボンニュートラル、つまり温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするために強化される制度です。
これらの施行により2024年4月以降に建築確認申請が行われた新築住宅(賃貸物件も含む)については、広告時における省エネ性能表示について努力義務(それ以前に建築確認申請が行われたものや中古住宅については任意)が課せられました。
これを受け不動産広告最大手であるSUUMOが、2024年4月より省エネ性能ラベル表示制度ガイドライン制度ガイドラインに基づき、「掲載する新築住宅について省エネ性能表示を開始する」といち早く宣言しました。
努力義務の対象となる媒体は、新聞・雑誌広告・チラシ・パンフレット・インターネット広告などとされています。
結局はどの広告媒体を利用しても表示が求められるのですが、将来的な義務化への布石でもあるのでしょう、従わない場合には勧告等(勧告・公表・命令)の対象となるとされています。
これにより私たち広告を掲載する側としては、断熱に関しての知識が不可欠になります。
筆者が研修会などでそのような説明をすると、「新築は扱わないから、ウチには関係ない」という媒介業者さんもおられました。ですが表示対象物件を再販する場合には、新築時と同様に表示についての努力義務が科せられます(表示ラベルは、新築時に発行されたものがあれば再利用できます)。
確かに2024年4月以降に建築確認が提出され、竣工した住宅の売却依頼が入るのは数年後のことになるでしょうし、あくまでも努力義務ですから表示も義務ではありません。
ですが、同じ価格帯で同様の築年数、間取りや立地も似通っている性能表示された既築住宅と非表示の物件が売り出された場合、どちらの注目度が高いでしょう。
昨今の省エネ意識の高まりもありますから、断然前者(ラベル表示した住宅)ではないでしょうか?
結局のところ省エネ性能の基本、つまり一次エネルギーと二次エネルギーの違いや設計一次エネルギー消費量についてなど、最低限の知識を有していなければ表示されたラベルの説明もままならず、他社に後れを取ることになるのです。
今回は、公表されたガイドラインを参考に表示ルールや、最低限として理解しておきたい省エネ性能について解説します。
省エネ表示による注目度
新築注文住宅を扱う営業マンでなければ、これまで建物性能に関しての知識はそれほど必要とされてきませんでした。
新築であっても建売住宅などの場合、難しい数値の説明よりも外観の優美さや間取り、最新設備機器の説明だけで販売できたからです。
ですがガソリンを始めとした燃料費の高騰により、省エネに関する注目度は飛躍的に上昇しています。
外観が同じような住宅でも、省エネ性の違いにより冷暖房費などの負担が大きく違うことに一般消費者も気が付きました。
だからこそ住宅性能が注目されるようになったのです。
今後、広告などにおいて省エネ性能表示された物件と非表示の物件が混在することになりますが、どちらが目を引くかは言うまでもないでしょう。
2024年4月以前に建築確認申請が提出された新築住宅や既築住宅の表示は任意ですが、ZEH水準の性能が確保されている物件であれば、表示をしたほうが注目度も上がり売却にも有利に働くでしょう。
このような流れから、今後は省エネ性能に関して一家言ある営業マンの方が販売を有利に勧められる可能性が高まったのです。
国土交通省もガイドラインで、下記の業者は表示規則も含め省エネ性能に関し説明できるだけの知識が必要になるとして、他人事ではない旨を指摘しています。
そこで基本となる改正建物省エネ法の一部施行、つまり段階的に強化された以下の改正点に着目しましょう。
- 建設省エネルギー基準適合義務の対象を拡大(2025年度から)
- 適合性審査の容易な建築物にたいし、省エネ適判手続きの簡略化
- 2030年以降に新築される住宅・建築物にたいし、ZEH・ZEB基準の省エネルギー性の確保
- 省エネ性能表示制度の強化
- 建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示ルールを制度化
これは基本ですので、項目としてはすべて覚えておきたいものです。
最低限として正確に覚えておきたい用語
省エネ性能表示制度に基づき広告掲載されたラベルを説明するためには、下記の用語を理解しておく必要があります。
●建築物省エネ法
「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(平成27年法律第53号」の略称
●エネルギー消費性能
国が定める省エネ基準により、対象物件がどの程度消費エネルギーを削減できているかを見る指標(BEI)のことです。
省エネ性能制度では☆の数で表されており、数が多いほど削減率が高くなります。
設計一次エネルギー消費量/基準一次エネルギー消費量=BEIとして計算できます。
●一次エネルギーと二次エネルギー
前者は石油・石炭・ガスなど自然界に存在する状態のものであり、後者はそれらを返還・加工して得られるエネルギー(電気・都市ガス・灯油)です。
●基準一次エネルギー消費量
基準値とされる一次エネルギー消費量。外皮基準に適合した建築物に、標準的な効率の設備機器を設置した場合の一次エネルギー消費量として算定されます。
●設計一次エネルギー消費量
建築物における外皮や設備などについて、実際の設計仕様を基に算出された一次エネルギー消費量のこと。
同様の条件で二次エネルギーを算出した場合は、設計二次エネルギー消費量となります。
●設計一次エネルギー消費量適合要件
建築物の設計値(設計一次エネルギー消費量)と基準値(基準一次エネルギー消費量)をそれぞれ算出し、設計≦基準値になれば適合とされます。
表示されるラベル
表示されるラベルは、住戸・住棟・非住宅など建物の種類によってことなります。
また評価が自己によるものか第三者評価を受けているかによって掲載事項も異なります。
省エネ性能表示制度の発行物は、上記に掲載したラベルとエネルギー消費性能評価書の2種類です。
評価方法によって発行方法も異なりますので注意したいところです。
続いてラベル掲載事項の具体的な解説を行いますが、ここでは参考として住戸のラベルを例とします。
①エネルギー消費性能
まず①エネルギー消費性能です。
用語としては先述しましたが、対象物件がどの程度消費エネルギーを削減できているかを見る指標(BEI)のことで、表示ラベルでは☆の数で表現されています。
ZEH水準を満たしていれば☆三つ、それ以上の性能であれば削減率10%ごとに☆を一つ追加できます。
もっとも、省エネ性能は目に見える物でない反面、性能を引き上げのに必要なコストが高く、余程のこだわりを持った方の注文住宅以外においては、あまり現実的とは言えません。
そこで表示ラベルでは、断熱性能が同じであっても、太陽光発電搭載時における自家消費分の数だけ☆マークを追加できるようになっています。
②断熱性能
UA値(外皮平均熱貫流率_建物からの熱の逃げやすさ)とηAC値(平均日射熱取得率_冷房期)の2点について表された指標です。
UA値とηAC値を計算し、それぞれについて地域区分に応じた等級で評価し、いずれか低いほうの等級が表示されます。
数字が大きいほど、断熱性能に優れているとの目安になります。
ちなみに、ZEH水準を満たしていれば5になります。
③目安光熱費
住宅省エネ性能に基づき、一定の条件下で想定される年間光熱費の目安です。
住戸面積30㎡当たり1人で設定し、一日あたりの冷暖房・給湯・照明などの運転時間のほか、平日と休日の使用量などの生活パターンも想定し、さらに地域区分別の外気温をもとに使用量を想定して算出されます。
用語解説した設計二次エネルギー消費量に全国統一の燃料等単価を乗じて算出されていますが、ライフスタイルの違いやエネルギー価格の急激な高騰などにより差異が生じる可能性が高くなります。あくまでも計算で導き出される目安に過ぎません。
④ZEH水準等
エネルギー消費性能で☆3・断熱性能で5以上を達成していればZEH水準(非住宅はZEB水準)が表示されます。
また第三者評価(BELS)を取得している場合には、「ネットゼロエネルギーハウス」「ネットゼロエネルギー」の項目が表示されます。
使用ルールは遵守したい
省エネ性能表示制度に基づくラベルの使用が、販売に有利に働くのは間違いないでしょう。
積極的に活用していきたいものですが、ラベル発行には厳格に手順が定められていると同時に、その使用についても優良誤認されることがないよう注意するポイントがあります。
例えば一段の団地内で複数の建売住宅を販売する場合、性能評価はそのうち1棟しか行っていないのに、全ての建物が同等の性能を有していると誤認されるような表示はNGです。
またラベル発行済み住宅の再販時において、例えば給湯器の交換、外壁の張替えなどリフォーム工事などを行った場合、変更された仕様が新築時と同等以上であると確認できない場合には、ラベルの再使用は認められません。
これらの注意を怠ると、勧告等(勧告・公表・命令)の対象とされる可能性がありますので注意しましょう。
まとめ
「営業マンに、建物性能なんて余計な知識は必要ない!」
これは、筆者が過去に勤務していた会社でその代表に言われた言葉です。
相応の役職者として勤務してましたが、不動産業に係るものはすべからく業種の垣根を超え、建築・税務・法律など幅広い知識について学ぶ必要があると指導していたのですが、これが気にいらず思わず口をついたのでしょう。
察するに、学びを全面否定する意図ではなかったのでしょうが、営業マンは余計なことを考えず、ただ売上を上げることだけに集中すれば良いとの思いがあったのだろうと思います。
確かに物件力が備わっていれば、勢いで成約することも可能でしょう。
ですが、苦労せずに売れる物件ばかりを取り扱える訳でもないですし、他社との競合もあるでしょう。
顧客が営業マンを指名して依頼する時代が目前に迫っているのです。
不動産に関し豊富な知識を有している営業マンの方が有利であるのは間違いありません。
不動産のプロとしては、継続して学ぶ努力をしていきたいものです。