レインズで物件検索をすると、よく見かけるオーナーチェンジ物件。
オーナーチェンジ物件はご存じのように、賃借権が維持されたまま所有権を移転することです。
通常、移転の原因は売買ですので、賃貸物件の売買と言い換えた方が分かりやすいでしょう。
オーナーチェンジ物件はすでに賃借人が居住している状態ですから、改めて募集する手間が省けます。
またレントロール(賃貸借条件等一覧表)により、運営状況や入居状況等などを事前に把握できますから、購入後の収支計画も立てやすいでしょう。
また購入にあたり融資を利用する場合にも、賃貸中である点や、実績としてのレントロールがエビデンスとして有利に働きますから、比較的審査に通りやすい傾向があります。
このようなメリットにより、投資初心者が初めて購入する物件として推奨されています。
ですが、オーナーチェンジ物件ならではの注意点も存在します。
そのような注意点については、私たちが適切に助言しなければなりません。
適切な助言により信頼が得られれば、それ以降の購入についても相談される可能性が高まるでしょう。
売却後も、共に成長する契機となるのです。
ただし正鵠を得た助言をするためには、問題点を正確に理解しておく必要があります。
そこで今回は、オーナーチェンジ物件を媒介する場合の注意点について解説したいと思います。
想定利回りは確実な収入になり得ない
投資物件を積極的に掲載しているポータルサイトと言えば、「楽待」、「健美家」が有名です。
それ以外にも「ホームズ」や「アットホーム」などが、投資用物件の専用ページを設け物件を紹介しています。
一般の方はレインズを利用できませんから、そのようなポータルサイトの物件情報を閲覧した後に相談してくるケースが多いでしょう。
相談者の中には、サイトに掲載されている「満室想定利回」の収入が得られると勘違いしている方がおられます。
確かにサイトを閲覧すれば、20~40%以上もの高利回りが得られる物件も掲載されています。
とくに売買金額の低い分譲マンションや戸建てにその傾向が見られます。
確かに、設定賃料で賃貸できれば表面利回りは掲載内容どおりになるのでしょう。
ただし、賃料の妥当性も考慮する必要があります。
それ以前に、物件の立地で賃貸需要があるのかと言った問題も検討する必要があるので、相応の「目利き」が必要です。
オーナーチェンジ物件は、すでに賃貸人が居住している状態です。
ひとまずはそれらの問題がクリアされているのですから、その点において投資初心者向けでしょう。
ですがオーナーチェンジ物件ならではの課題はあります。
まず居住中のオーナーチェンジ物件は高確率で内見できません。
元付け業者から提供される内部写真で判断するほかないのです。
賃借人からすれば、オーナが変わろうがそれにより不利益が生じないのなら、別に問題はありません。
ですから第三者にプライバシーを露呈する内見になど、協力する義務もないのですから、内見は無理と考えておくほうが無難でしょう。
ここで注意すべきは、内部(とくに設備機器)の劣化です。
内見できないのであれば居住前(原状回復後)の写真などで判断するしかないのですが、元付業者によっては十分な枚数が撮影されていないなど、判断が難しい場合もあります。
次に「入居偽装」と「レントロールの改竄」にも注意が必要です。
実際問題として筆者は、クライアントからの依頼で調査したところ、かなりの件数、入居偽装や改竄を確認しました。
調査のタイミングなどが影響している可能性も否定できませんが、「裏とり」が必要なのは間違いありません。
現地で電気やガスメーターが動いているかを確認すると良いでしょう。
物件が分譲マンションの場合には、玄関脇に設置されているMB(メーターボックス)を開けば確認できます。
また、過去の修繕歴やリフォーム内容については、必ず確認するようにしましょう。
特に設備機器(キッチン、浴室、トイレなど)は寿命があるため、交換履歴が確認できない場合、所有権移転後にすぐ交換が必要になることもあります。
工事内容の詳細を提供してもらい内容を吟味するほか、契約前に「物件状況報告書」を提供してもらい、予め内容を確認してから購入判断を促したいものです。
確実に抑えておきたい賃貸契約書の内容
オーナーチェンジ物件の売買においては、通常、賃貸借契約をその内容のまま引き継ぎます。
そのため、契約前に予め各契約条項について精査しなければ、予想もしなかった不利益を被る可能性があります。
すでに締結されている契約を、賃借人の同意を得ずに変更することはできません。
よしんば公序良俗に反する契約であれば、無効であるとして変更できる可能性はありますが、裁判が必要になるなど労力がかかります。
特に注意したいのが、以下の各条項です。
①契約更新
契約の期間については確認が必要です。賃貸中であるから、すぐに家賃収入が見込めると安心していたら、すぐに契約期間が終了し、賃借人に更新の意志もないことからすぐに空家になってしまったなんて笑えない話をよく耳にします。
②賃料の増減
賃料の増減については、契約当事者の協議により行えるとしているのが一般的です。
ですが経済事情の変動により賃料が不相当になったとしても、増額請求がすんなり認められることはありません(賃借人からの減額請求も同様です)
それだけに原契約の賃料については、予め近隣相場を調査し妥当なのかについて吟味しておくことが大切です。
賃料が高すぎるとして契約更新されないことは多々あるからです。
③敷金または保証金について
敷金や保証金の有無について確認するのは当然ですが、とくにオーナーチェンジ物件においては、償却分についてどのように取り決めしているか確認が必要です。
筆者の経験ですが、この償却分についてかなり曖昧にしている売買契約(賃貸借契約ではありません)が多いのです。
時折、敷金や保証金について何も記載されていない売買契約書を見かけることもあります。
これは敷金や保証金の引き継ぎには、法的根拠がないことも理由の一つです。
とはいえ、オーナーチェンジ物件を購入した新たな賃貸人には、引き継ぎの有無によらず賃貸借契約が解除された場合には返還義務(敷金等の受領が原契約でなされている場合)が生じます。
オーナーチェンジ物件の売買契約と、敷金や保証金の引き継ぎは別のものであると理解して、必ず売買契約に明記するよう注意しましょう。
④契約期間中の修繕
賃貸人には当該物件を使用収益できるよう、必要な修繕を行う義務があります。
賃借人の責に帰すべき明確な理由がある場合を除き、義務を免れることはできません。
そこで注意したいのが、前項で触れた設備機器等の劣化状況です。
修理はもとより、交換には多額な費用が必要になる場合もありますから、現状において賃借人から修繕希望が寄せられていないかなど、可能な限り確認しておく必要があります。
⑤契約の解除
通常の契約解除なら問題ありませんが、注意したいのは賃料未払時における契約解除についての条項です。
これについては令和4年12月12日に判決された、家賃保証会社による無催告解除・明渡犠牲条項の有効性について争われた裁判が印象的です。
賃料が3ヶ月以上滞納された場合、連帯保証人(家賃保証会社)が催告せず賃貸契約を解除できるとした特約が有効か、いわゆる「追い出し条項の是非」について争われた事件です。
この事件は上告審まで争われ、判決も二転三転しましたが、最終的には無催告解除・明渡犠牲条項のいずれもが差止め(つまり無効)とされました。
約款内容や前提条件により必ずしも全てのケースで「無効」とされることなないでしょうが、裁判例によりその可能性が高まったと言えるでしょう。
3ヶ月の滞納が相当の期間に該当するのは変わりませんが、無催告解除が容認されないことについては説明しておく必要があるでしょう。
⑥明け渡し時の原状回復
通常の使用に伴い生じた損耗や経年劣化を除き、賃借人には原状回復の義務を科しているのが一般的です。
ただし、賃貸借契約時の室内状況等が把握できない状態では、賃借人の責であるのか判断に戸惑う場合が生じます。
入居前の状況を確認できる資料が存在しているか注意しましょう。
また、令和5年3月に再改定された「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について、資料を渡すと同時に、自身も知見を深め顧客からの相談に備えることが必要です。
とくに原状回復の定義は「賃貸人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失・善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」であることを説明し、「借りた状態に戻すことを求めるものではない」という点について理解して貰う必要があるでしょう。
また残置物品があった場合の取り扱いについて、どのように約定されているかにも注意が必要です。
それ以外の注意点
オーナーチェンジ物件を購入した場合、既に入居中の賃借人が引き続き入居している状態ですが、賃借人の属性や信用情報について把握できないことがあります。
家賃滞納履歴ならレントロールで確認できるでしょうが、生活態度などはその限りではありません。
公益的なルールを守らない、他の入居者とのトラブルが頻発しているなどのネガティブ情報が隠蔽されている場合もあるでしょう。
トラブルについて記録が残されているなら提供してもらい、ない場合は口頭でも構わないので必ず確認するようにしましょう。聞き取り内容は打合せ記録書面に記載し、履歴として残しておく配慮も必要です。
とくに売却時の税率が短期譲渡所得(購入後5年以内)に該当する物件については、販売理由にも注意が必要です。
思わぬ原因が隠されている可能性もあるからです。
まとめ
入居済であるオーナーチェンジ物件は、購入後すぐに収益が得られることから投資初心者向けだと言われます。
これについて否定するつもりはありません。
ですが今回、解説したように、オーナーチェンジ物件ならではの注意点が存在しているのも事実です。
日本の法律が賃借人に対し有利であるのは直近に始まったことではありませんが、実際には賃貸人有利の解釈がまかり通っていました。
ですが度重なる法改正により、そのような手法は通用しなくなりました。
ですからオーナーチェンジ物件を媒介する場合には、それが売り・買いどちらの側であっても必要な調査は万端に、失敗することのないようフォローが必要なのです。
そのために知識を深め、問題点があるなら事前に説明できるよう調査を入念に行う必要があるのです。