【774もの自治体が日本から消滅?】検証データから考える不動産業者の役割

「消滅可能性自治体」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか?

民間団体である「人口戦略会議」が、4月24日に分析レポートを公開したことで話題となった用語です。

令和6年,地方自治体「持続可能性」分析レポート

執筆日現在、日本には1,718の自治体(市町村)が存在しています。

報告書では、それらの地域を以下の4つに大別しています。

消滅可能性のある自治体は744

レポートでは、まず「地域別将来推計人口」における20~39歳の女性人口を「若年女性人口」と定義しています。

若年女性人口が減少すれば、それに比例して出生率も低下し、結果的に人口減少に歯止めがきかず消滅するという理屈です。

行政上において過疎地域は自治体単位でまとめられますが、1970年(昭和45年)に法制化された「過疎対策緊急措置法」は、令和3年4月に「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」に名が変わるまで、5次にわたり部分改正されてきた法律です。

この法律は、持続可能な地域社会を形成するためには、地域支援を受けながらも独自に活力を高める必要があるとして、自治体が自ら対策目標を定めることや、国や都道府県が支援する範囲について定められています。

転入超過数

この法律において過疎地域は、「人口」と「財力」の各要件で判定されます。

過疎地域であると指定を受けた場合は国税の特例や地方税に関しての減収補填措置のほか、国庫補助率の嵩上げや過疎事業債などの配慮措置が講じられます。

法の施行当初に指定された自治体は775市町村でしたが、新規団体と入れ替わりながらも増加を続け、令和3年3月31日現在では820市町村となっています。

全国の過疎地域

色分けされた地図(ピンク他)を見ると一目瞭然ですが、全市町村1718のうち、およそ47%が該当しているのです。

「人口戦略会議」の分析レポートは、このような現状を把握しつつ、さらに2010年から2040年までの30年間で、若年女性人口が半減する地域においては、70年後に2割、100年後には1割まで人口が減少する可能性があると指摘しているのです。

それが現実になれば、自治体として機能しません。

私たちが活動する地域の自治体が消滅するかは不確定としても、人口が減少すれば不動産需要は激減します。

需要が減少すれば、流通価格も下がるでしょう。

私たち不動産業者にとっては大きな問題です。

近年、働き方改革の影響もあり企業の転勤件数が減少し、それにより賃貸の斡旋を主業としていた媒介業者の倒産件数が増加しています。

人口の減少にかかわらず建築価格は上昇しており、地域格差でことなるものの平均として土地価格は上昇しています。

需要と供給のバランスが崩れてしまった激動の時代、私たち不動産業者はどのように将来を見据え活動していくべきなのでしょうか?

今回は消滅可能性自治体についての解説にくわえ、若年人口取り込みのため行われている地方自治体の取り組みを紹介することで、私たち不動産業者が検討する必要のある対策について考えたいと思います。

理解を深めておきたい部分

レポートは消滅可能性自治体を総人口の推移から論じているのではなく、出産適齢年齢(これについては明確な定義は存在していません)を20~39歳であると仮定して、その年齢に該当する女性の人口が減少することにより、いずれ消滅すると示唆しています。

もっとも、この方法だけでは偏りが生じることから、国立社会保障・人口問題研究所が公開している「日本の地域別将来推計人口」のうち、封鎖人口の推計結果データ(人口移動がなく、出生率と死亡だけの要因で人口が変化すると仮定した推計結果)を活用して、別途の分析も行われています。

これら2つのデータを検証することにより、課題が見えてくるのです。

封鎖人口(他地域との人口移動がなく、出生数と死亡数により変動すると仮定した人口)が顕著な地域においては、若年女性人口の急減防止と出生率の向上が課題となります。

また封鎖人口上は人口減少が穏やかであるはずなのに、移動仮定の分析において人口が急減している地域においては、人口流出防止が最大の課題となるのです。

つまり魅力的なまちづくりや雇用の創出などの対策が重要であると理解できるのです。

2014年にも同様のレポートが提出していますが、それを見ると、消滅可能性の高い自治体は896とされていました。

今回は744でしたから、表面上では改善されているようにも受け取れます。

実際に、消滅可能性から脱却した自治体が239にも及ぶからです。

「消滅可能性自治体」数の動き

ですが手放しで安心できないのが現実です。外国人の入国超過数が増加した影響により消滅可能性自治体から脱却した地域も見受けられますが、大半は若年人口を近隣自治体が奪いあった結果です。

最も重要な対策である少子化基調の改善は、依然として達成されてはいないのです。

出生率,合計特殊出生率の推移

2023年12月に国立社会保障・人口問題研究所が「日本の将来推計人口(令和5年推計)」結果を公表していますが、出生率の状況によって日本の推計人口は、2070年に8,000万人程度まで減少すると予測されています。

総人口の推移

総務省統計局が2024年4月に公表した人口推計によれば、日本の総人口は1億2,400万人とされていますから、予想が的中すれば、今後50年弱でおよそ4,000万人以上も人口が減少するのです。

それを防止するには、出生率を引き上げるしかありません。

政府が喫緊の課題として「少子化対策大綱」を設けたのも、それが理由です。

少子化対策大綱

もっとも具体的な施策の実施については、都道府県や、住民に最も身近な地方自治体に委ねられており、児童手当を始め妊娠・出産支援や母子保健、小児医療体制の充実などの対策は自治体の財政状況等により大きな隔たりがあります。

近隣に産婦人科が存在しないことから、長時間かけて通っている方もおり、緊急時には母子ともに危険が増します。そのような環境で出産を促しても、とても素直に了承できないでしょう。

また根底にある未婚化や晩婚化の進展も見逃してはなりません。

結婚や出産に関する意識も変化しているのです。

そのような現状を理解したうえで、私たちには職域や個人の立場で考えうる積極的な取り組みが必要なのです。

人口流出の原因は、地方でキャリア形成できないとの思いがあるから?

現状についての状況を理解していただいた上で、さらに人口流出の原因を探っていきましょう。

2024年1月に総務省が発表した住民基本台帳に基づく人口移動報告によれば、東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)については「転入超過(転入者が転出者を上回る状態)」が28年連続となっています。

都道府県別転入超過数,2022年,2023年

それ以外の大阪府、滋賀県、福岡県も転入超過したと発表されていますが、それら7都府県を除けばすべて転出超過状態です。

この現象が、首都圏一極集中と言われている状態です。

都心部に人が集中し、地方は流出に歯止めが効かない状況です。

人口移動理由については、様々な研究機関において実態データを基に分析されています。

それらを見ていくと、もっとも高い移動理由は「随意同伴」で、その後「住宅」、「職業」、「結婚・離婚」と続いています。

入学や進学も理由に挙げられていますが、前述した理由と比較すればその割合は低いといえるでしょう。

もっとも、非大都市圏から大都市圏の移動については「職業」が最も多く、大都市圏内での移動については「住宅」、「結婚・離婚」の割合が高くなっています。

自治体をまたいでの移動とは理由がことなる点は理解しておく必要があるでしょう。

職業に関して言えば、企業規模の大きな会社が大都市圏に集中していることも理由の一つでしょう。

給与や保証、福利厚生などを考えれば、少しでも規模の大きな会社に勤務したいと考えるのは必然です。

「地方ではやりたい仕事が見当たらない」と考える方も多いでしょうし、そもそも働き場所が限られている可能性もあります。

最近の傾向ではありますが、キャリアを積んで積極的に社会進出を果たしたいと考える女性の割合が増加しています。

とくに大学院への進学や職業を理由として大都市圏に移住する女性の割合が増加しているのです。

大企業の多くが東京23区に集中している

政府はこのような偏りを打開すべく地方と都市の双方に生活拠点を持った新たな働き方を後押しています。

新たな不動産業者としての視点

政府と自治体が連携して行っている取り組み事例を知りたい場合は、国土交通省都市局まちづくり推進課 官民連携推進室が運営している「官民連携まちづくりポータルサイト」を閲覧すると良いでしょう(https://www.mlit.go.jp/toshi/example

官民連携まちづくりポータルサイト

サイトでは様々な事例が紹介されていますが、中でも自治体の魅力を向上させるために必要な、人々の交流を促進するパブリック空間に着目したいと思います。

居心地が良く、人が集うスペースを創出する。

それにより通勤、通学、余暇活動などあらゆる場面において活動を見直す動きが出てきます。そのために必要なのがグランドレベルの形成です。

地域問題解決には多様な人材の集積と同時に、交流が不可欠とされます。

人材の集積には興味を惹き集う場所(空間)が必要とされ、それを達成すればまちの魅力を高め、さらに多様な人材を呼び寄せることができるとの発想です。

その基本的な考えを支えるのが、「W,E,D,O」の特徴を生かした空間です。

W,E,D,O

もっとも、このような空間造りは企業や個人が単独で創出できません。

官民一体の取り組みが必要です。

W,E,D,O,官民,取組

そこで商店街やオフィスを使いこなしている事例に着目しましょう。

これらは民有地ですが、リノベーションを通じての都市再生手法について学ぶべき点が多々あります。

注目したいのは、単にリノベーションを実施して貸し出すという発想ではなく、各種イベントの開催や期間を定めたレンタルショップの誘致、起業に向けた無料スクールの開催など、衣食住体験を通じてまちの魅力を伝えながら、移住者が増加する方法を模索していることです。

相続を原因とした空き家の増加は喫緊の課題ではありますが、立地や築年数によっては値もつかず、リノベーションや解体をしようにも費用を捻出するのが困難なことから放置されるケースが散見されます。

相続登記の義務化や、管理不全空家に指定された場合の不利益を考えると放置したままで良いわけがありません。

そこで近年は「みんなの0円物件」や「空き家活用サービス」などのプラットフォームが注目されるようになりました。

後述した空家活用サービスは、リノベーションに関する費用を所有者は事前に負担せず、賃借人から支払われる賃料から毎月差し引かれるシステムです。

初期負担がなく手放しで賃借人まで見つけてくれるサービスですから、空家を持て余している方にとっては魅力的に映るでしょう。

サービスを提供している企業については、問題意識を持って心から空家問題解消に取り組んでいるところもあれば、隙間産業として利益重視に見えるところなど様々です。

実際、自治体と一体となって空家問題に取り組もうと相談を持ちかけてもスンナリとは話がまろまりません。

これにはリソースの不足や、公的な立場であることから利活用や売却のでぃちらが良いか提案しにくいといった理由もありますし、無論、予算的な側面もあるでしょう。

そのような部分を解消するのは民間の方が得意です。だからこそ官民連携が大切なのです。

それぞれの得手不得手を理解し、協力することで地域経済の活性化が可能になりますし、地方創生にも繋がります。

皆さんが活動しているエリアの自治体を消滅させないためにも、現状理解や流出の原因を把握して、どのような対策により貢献できるか考えていく必要があるのです。

まとめ

現在、都心部や一部地域では、国内外の投資需要により不動産価格が高騰し、さらに円安の影響を受けた建築資材の高騰や建設業の2024年問題(働き方改革関連法に基づく労働時間規制による影響)もあり、人件費のさらなる高騰も予想されています。

今後人口が減少していく地域においてそのような価格が受け入れられる要素が見当たりません。

結局のところ二極化の様相がさらに顕著に表れてくる結果となっていくでしょう。

私たち不動産業者の約9割以上が従業者10人未満の中小企業です。

不動産業,従業者規模別の事業所数,2016年

事業規模を勘案すると、官民一体となった働きかかけなど夢物語に思えるかも知れません。ですが、そのように遠慮している時代ではなくなっているのです。

自治体が消滅(実際は統廃合される)してしまえば、エリアの不動産価格や取引量はさらに低迷するでしょう。

何らの行動を起こさないことは、自滅を受け入れるのと一緒です。

現状を理解したうえで何ができるかを考える。

それが必要とされる時代なのです。

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