【セーフティーネット住宅に関する疑問】利点と課題を徹底解説

「高齢者の4人に1人以上が、年齢を理由とした賃貸住宅への入居拒否を経験している」という調査結果が、株式会社R65(本社:東京都杉並区、代表取締役社長:山本遼)によって2023年7月に公開され話題となりました。この調査は、65歳以上で賃貸住宅を探した経験のある方々を対象に行われたものです。

賃貸住宅を借りられない、いわゆる「住宅難民」の増加は社会問題となっていますが、これは高齢者に限りません。近年では、解雇や派遣労働を打ち切りが原因で住居を失い、ハウジングプアに陥る方が増加しています。このような住宅困窮者をターゲットにした貧困ビジネスも問題視されています。

無料低額宿泊所はよく「ゼロゼロ物件」として募集されていますが、本来、無料低額宿泊所の運営は社会福祉法第2条第2項第1号で、「生活保護法に規定する救護施設、更生施設その他の生活困窮者を無料又は低額な料金で入所させて生活の扶助を行うことを目的とする施設を経営する事業」と定義されています。

しかし、一般の民間アパート等を数室借り上げて生活保護受給者を入居させ、自治体ごとに定められた生活保護費の住宅扶助額限度額を家賃に設定し、いわゆるサブリース的に中間マージンを搾取している事業者も少なからず存在しています。このような法的位置づけのない共同住宅は把握も難しく、行政でも実数値がつかめない状況となっています。また、家賃以外に共益費や福祉代行サービスの利用料などを徴収しているケースも確認されています。

筆者が相談を受け調査した事例では、居室にはキッチンやトイレ、風呂が設けられておらず、部屋もパーティションで区切られただけで個人スペースが2帖程度しかないにもかかわらず、賃料が住宅扶助額限度額に設定されているケースがありました。また、「ゼロゼロ物件」としながら、生活保護受給者にたいし敷金を請求するケースも見受けられました。

このような違法性の高い手法は許されませんが、老築化により市場競争率が低下し、募集しても入居者が見込まれない賃貸物件においては、住宅困窮者を対象にして入居を募集するのは選択肢の一つとなり得ます。

その場合、正確に理解しておきたいのが、平成19年に施行され、令和6年6月5日に改正された「住宅確保要配慮に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律等の一部を改正する法律」、いわゆるセーフティーネット法です。

この法律により、住宅確保要配慮者が円滑に入居できる賃貸住宅の登録制度が設けられましたが、制度の浸透度は一部の不動産業者を除き、低い状況です。例えば皆さんは、賃貸オーナーから「セーフティー住宅に興味があるので、登録した場合のメリットとデメリットについて教えて下さい」と質問された場合、正確に回答できるでしょうか。

住宅確保要配慮者との賃貸契約は、社会的意義が高い一方で、一定のリスクが伴います。単身高齢者の場合、孤独死リスクがつきまといますし、家賃滞納の可能性を懸念する場合もあるでしょう。しかし、正確な知識を持ち、事前対策を講じることで、空室に悩む賃貸オーナーの問題を解消し、住宅困窮者には住まいを提供するという、双方にメリットのある関係を築くことも可能性となるのです。

今回は、住宅確保要配慮者の現状に加え、セーフティーネット法の基本について解説し、さらにリスクを防ぐための具体的な方法について説明します。

住宅確保要配慮者の範囲

住宅セーフティーネット制度の対象となる住宅確保要配慮者は、法律で以下のように定められています。

●低額所得者(月収15.8万円以下)
※年間収入から給与所得控除、配偶者控除、扶養親族控除等を行った上の月額換算額(公営住宅法施行令で定められた算定方法)。

●被災者(発生から3年以内)
※激甚災害に指定された大規模災害は別の取扱い。

●高齢者
※心身状態には個体差があるため、法律では下限年齢を設けていません。ただし、セーフティーネット住宅を登録する場合には、手続き上、任意の下限年齢登録が必要です。

●障害者

●高校生相当以下を養育している者

上記以外にも、国土交通省令第3条(住宅確保要配慮に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律施工規則)に基づき、外国人、中国残留邦人等、児童虐待を受けた者、DV被害者、矯正施設退所者などが要配慮者とされています。また、各自治体が定める供給促進計画により、新婚家庭、LGBT、児童養護施設退所者なども対象となります。

受け入れる要配慮者の範囲を指定することは任意です。しかし、間口を広げることで入居希望者が増加する一方、特定の属性によっては意図しないトラブルが発生する可能性はあります。主観や思い込みで区別するのは避けるべきですが、制度が設けられた社会的意義を考慮し、慎重に判断する必要があります。

住宅確保要配慮者の現状と課題

住宅・土地統計調査によれば、単身世帯は総世帯数の約1/3(約1,800万世帯)を占めています。そのうち、高齢者が占める割合は30%程度ですが、この数は今後増加を続け、2030年には単身世帯の約4割以上、およそ800万世帯が単身高齢者世帯になると予測されています。

単身世帯は、全世帯と比較して収入の低い傾向が確認されますが、特に単身高齢者の場合、収入が300万円未満の世帯が8割以上を占めています。

こうした状況に伴い、居住支援法人に寄せられる相談件数が年々増加しているのです。つまり、住宅確保要配慮者が入居を希望しても、応じてくれる賃貸物件が見つからないといった相談が増加している状況です。

実際に、賃貸オーナーの一定数は住宅確保要配慮者に対して拒否感を示し、入居を制限しているのです。その主な理由として、近隣住民との協調性に関する不安、家賃滞納、孤独死、そしてその際における残存家財処理に対する懸念が挙げられています。

しかし、少子高齢化による人口減少や単身高齢者世帯の増加が予想される中、今後は住宅確保要配慮者を受け入れなければ、賃貸物件の経営が難しくなるオーナーが増加する可能性があります。

私たち不動産業者は、このような現実を踏まえ、賃貸オーナーに対して適切に助言する必要があります。賃貸オーナーは賃貸経営を健全化し、かつ事業を通じて社会貢献できるのです。そして私たち不動産業者も、セーフティーネット住宅を増やす活動を通じて収入と社会貢献を両立させられるのです。

しかし、適切な助言を行うには、賃貸オーナーが何を不安に感じ、どのようなサポートを求めているかを理解する必要があります。

「家賃債務保証」、「見守りや生活支援」、「死亡時等における残存家財処理」のサポートを着実に提供することで、多くの賃貸オーナーの不安を軽減できるのです。

住宅セーフティーネット制度へ登録するメリットとデメリット

住宅セーフティーネット制度への登録を検討される賃貸オーナーから、「登録すると、どのようなメリットがありますか?」とよく質問されます。

具体的には以下のようなメリットがあります。

1. 国や自治体から、登録報奨金、改修費、家賃補助などの支援が受けられる。

2. 専用ホームページに情報が掲載され、広く周知される。

3. 入居支援協議会や自治体からの紹介やサポートが受けられる。

また、自治体によっては家賃保証料等に関する費用の一部が補助されます。具体的には、家賃債務保証料、孤独死や残置物に関する保険料、緊急連絡先引受費用などが対象です。補助は初回のみで、金額は5万円/戸など自治体ごとに異なりますが、申請対象者は家賃債務保証会社、保険業者、居住支援法人などに限られます。

次に「デメリットは何ですか?」と質問されます。主なデメリットは以下の通りです。

●補助金を受ける場合、10年間セーフティーネット住宅として管理運営する義務がある。
●原則として一般入居者を募集できない(一定の要件を満たせば例外もあり)。
●近傍の同種の物件と均衡を保つことが求められ、家賃の額が制限される。
●新耐震基準や一定の床面積要件を満たす必要がある(さらに、消防法や建築基準法等に適合していることが前提条件です)。
●登録した住宅確保要配慮者の入居を拒むことができない(登録時に範囲を指定することは可能)。
●家賃滞納や孤独死リスクが存在する。

これらのデメリットのうち、家賃滞納については、認定保証業者による家賃債務保証や代理納付制度を利用することで、ある程度リスクを回避できます。また、孤独死リスクについては、居住支援法人のサポートを受けることで対応が可能です。

特に問題となるのは、補助金を利用する場合に10年間の管理運営義務がある点や、新耐震基準を満たす必要がある点です。改修補助費として国から1/3、自治体から2/3の補助(ただし上限額の範囲内)は受けられますが、建物全体の耐震補強工事費用は建物規模で変動するものの上限額を上回ることが多いため、資金の持ち出しを覚悟する必要があるでしょう。

また、登録時には、住宅確保要配慮者の範囲を指定できますが、登録した対象者に対しては、その属性を理由に入居を拒むことはできません(法第17条に基づく)。

例えば、「高齢者の入居は拒まない」と登録しているのにも拘らず、「孤独死の不安がある」との理由で入居を拒むことはできません。また、「子育て世帯の入居を拒まない」と登録した場合には、「騒音トラブルが発生する恐れがある」との理由で拒めないのです。

ただし、それ以外の理由、例えば「収入が不安定で家賃滞納の危険性が高い」、「言動が粗暴であり、近隣トラブルが懸念される」といった理由で入居を拒むことは許容されます。

さらに、不正な手段で登録した場合や、虚偽の登録をした場合、都道府県知事等から管理状況について報告を求めらた際にそれに応じない、または虚偽の報告をした場合には、20~30万円以下の罰金が科されるため、注意が必要です。

入居率の低下に悩む賃貸オーナーに対してセーフティー住宅の登録を推奨する際には、これらのメリットとデメリットを正確に理解し、適切にアドバイスを行うことが重要です。

リスクを回避するために

住宅確保要配慮者の現状と課題、サポート体制について説明し、セーフティーネット住宅への登録を推奨した後は、入居希望者を斡旋する通常業務に戻ります。ただし、補助金を受けてセーフティーネット住宅へ登録すると、賃貸オーナーには10年間、セーフティーネット住宅として事業を運営する義務が生じます。

問題が発生しても「登録を取り消したい」とは言えません。

したがって、賃貸オーナーへの登録推奨には道義的な責任が伴うのです。そのため、問題が発生した場合、適切なアドバイスを行うだけではなく、問題解決に尽力することが不動産業者の責任です。

そのためには、発生しやすい問題の傾向を把握し、適切な対処方法を理解すると同時に、居住支援法人の業務範囲を理解しておく必要があります。

住まいに関する相談や物件紹介、内覧同行などの入居前支援については、居住支援法人の9割弱が実施しています。また、入居後についても、近隣トラブル対応や安否確認、見守り支援を7割以上の居住支援法人が実施しています。これにより、賃貸オーナーが住宅確保要配慮者へ貸し出す際に抱く不安の多くは、私たち不動産業者と居住支援法人が協力することで解決可能だと分かります。

一方で、死後事務委任や家財処分、葬儀や納骨に関しては未実施としている居住支援法人は多く、他と連携して対応する割合も6割弱にとどまっています。

この背景もあり、令和6年(2024年)3月に国土交通省住宅局が公開した「住宅セーフティー制度の見直しについて」では、高齢者の入居を制限する理由として「居室内での死亡事故等に対する不安」が90%と報告されています。

そのため、私たち不動産業者は特にこの部分のサポートが重要です。

まず、居住支援法人との連携を密にして、見守りの頻度や状況を把握します。懸念がある場合には直接見回りを実施して、新聞や郵便物の滞留や夜間の電灯確認など、異常が生じていないか確認する必要があります。

不審な点が確認されれば、緊急連絡先と警察へ連絡して到着を待ち、立会のもと入室するのが望ましいでしょう。死亡が確認された場合には、警察に現状確認を依頼し、親族へ連絡します。

親族がいない、または遺体の引取りを拒否された場合には、自治体に連絡し、火葬及び埋葬の手続きを依頼します。

火葬、埋葬、遺品整理、原状回復費用は原則、相続人の負担となりますが、相続人がいない場合には、故人が残した財産(現金、有価証券、残置物の売却益など)で充当します。ただし、これには事前の委任契約(残置物の処理、賃貸契約の解除)が必要です。

また、賃貸オーナーの中には、「孤独死=事故物件」と誤解している方もいますが、「孤独死」や「事故物件」には法律上の明確な定義はありません。国土交通省による「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」でも、告知が必要なケースと不要なケースについて一定の指針を示しているだけです。

原則として「孤独死」は、特段の事情がない限り説明も告知も必要ありません。

私たちは事故物件の定義を正確に理解し、賃貸オーナーに説明する責任があるのです。

このように、セーフティーネット住宅として高齢者を受けいれる際、賃貸オーナーがもっとも懸念するのは孤独死の問題であり、それは居住支援法人の課題であることも認識し、適切な対応策を講じておくことが重要です。

まとめ

今回は、住宅確保要配慮者の現状、セーフティーネット法の基本、そしてリスクを防ぐ方法について解説しました。

執筆日(2024年10月11日)現在、国土交通省が運営する「セーフティーネット住宅情報提供システム」によれば、住宅セーフティーネット制度の登録件数が92万2,758戸であると確認できます。前年(2023年)9月末時点の登録件数が87万5,855戸でしたから、この1年間で約4.4万戸も増加しているのです。

しかし、住宅確保要配慮者専用賃貸住宅としている割合は依然として低く、居室面積や間取り、設定家賃などが要配慮者のニーズと合わないという課題があります。

一部では、改修補助や低廉家賃補助費などを目的として制度に登録し、実際には一般入居希望者を優先して入居させているケースも確認されています。

さらに、登録物件の多くは家賃保証への加入を条件としていますが、居住支援法人による家賃保証であっても、緊急連絡先が見つからない場合や家賃不払いによる退去歴、過去の信用取引状況によっては家賃債務保証が得られないケースもあります。このような制度上の矛盾や問題点を指摘すればきりがありません。

私たちには、住宅セーフティーネット制度の実態について正確に理解し、不動産業者として社会的責任を果たし、貢献する姿勢が求められるのです。

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