【ジェンダー理解の不足が招くトラブル】LGBT入居不可問題の背景

2024年10月2日、朝日新聞は福岡市内の不動産会社が賃貸物件資料に「LGBT不可」と記載していたケースが複数で確認されたと報じました。これを受け、10月3日に『一般社団法人 性的指向及び性自認等により困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会(LGBT法連合会)』は「このような商習慣が一般化しているとすれば、それは差別的扱いそのものであり、強い遺憾の意を表明する」との声明を出しました。

この指摘に対して、多くの不動産業者は『そのような事実はない』と回答するかも知れませんが、果たしてそれは本当でしょうか。

報道によれば、この不動産業者は性的マイノリティーの住居確保支援を掲げ、LGBTカップルからの相談も多く受けていたとのことです。2023年2月、福岡市内の男性が同性パートナーと同居する部屋探しのため同社を訪れたところ、紹介された物件資料には「ペット相談(犬)可」、「楽器相談不可」などの項目と並んで「LGBT可」、「LGBT不可」と記載されていたとのことです。

同社は取材に対し、「不適切で、誤解を招く事態であった」とコメントし、事態発覚後は速やかに修正したと述べています。差別する意図はなかったと説明していますが、配慮が不足していたことは否めず、性的マイノリティーの方々を傷つけた可能性について弁解の余地はありません。不動産業によらず、性的指向を理由に選択肢を狭め、差別的な表記を行うことは許されないのです。

今回この事例を取り上げたのは、同様のケースが私たちにも起こり得るからです。不動産業者には、契約当事者の利益保護、知識の向上、コンプライアンス重視などが求められます。そのうち、特に重要なのが「信用・品位を害する行為をしない」ことです。これは、宅地建物取引業法第15条の2で定められた禁止行為であり、業界の基本ルールとなっています。

しかし、「信用」や「品位」という表現は抽象的であり、その範囲が明確ではないため、解釈に曖昧さが残ります。

実際に、LGBTの入居を拒否する賃貸オーナーは少なくありません。不動産業者には、公平かつ人道的な立場から、賃貸オーナーに対し差別的な取扱をしないよう適切に説明することが求められます。これはノブリス・オブリージュ(社会的に弱い立場にある人々を助ける道義的責任)に基づく対応であり、不動産業者に求められる信用と品位の具現化です。

自治体によっては供給促進計画に基づき、LGBTの方々を住宅確保要配慮者に準じる位置づけとしています。国が定める住宅確保要配慮者とは、低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子育て世帯、外国人の方とされていろ、LGBTの方々は該当していません。しかし、社会的な偏見や差別が根強いため、制度的な支援が必要なのです。

以上を踏まえ、私たち不動産業者がLGBTの方々に対して公平かつ品位ある対応を徹底するための具体的なポイントについて解説します。

LGBTとは

LGBTとは、Lesbian(レズビアン:女性同性愛者)、Gay(ゲイ:男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシャル:両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー:性自認が出生時の性別と異なる人)の頭文字をとった言葉で、性的マイノリティー(少数者)の総称です。最近では、自身の性自認や性的指向が定まっていない状態の方を示すQuestioning(クエスチョニング)や、これらに該当しない多様な性を表現する「+」を加え、「LGBTQ+」と表記されることも多くなりました。

調査機関や方法によりばらつきはありますが、日本における「LGBTQ+」の割合は人口に対し3~10%と推定されています。また、自身の性を「男」や「女」といった枠組みに当てはめないNon-binary(ノンバイナリー)や、性別を限定しないX-gender(Xジェンダー)、他者に性的興味や関心を抱かないAsexual(アセクシャル)など、より多様な性的マイノリティーを含めると、その割合はさらに増加するでしょう。

このように、多くの人が性的マイノリティーとして存在する社会では、差別を防止する取組が重要となるのです。

差別的な扱いを受けるのはLGBTQ+だけではない

紹介できる物件がない、賃貸オーナーからの承認を得られる見込みがない、物件探しに手間がかかるといった理由で、「LGBTQ+」の方々からの媒介依頼を引き受けず、行政への相談を勧める不動産会社があります。

しかし、筆者の経験では、行政が紹介する物件は選択肢が限られており、築年数や買物の利便性、公共交通機関へのアクセスなどの条件が悪い場合も少なくありません。「LGBTQ+」であるだけで希望が考慮されず、選択肢が狭められている現状を見直す必要があるのです。

当事者の話によれば、過去に対応経験のある不動産営業は協力的であることも多いようですが、未経験者は「対応した経験もないので失敗が怖い」といった理由で対応を拒否する場合が多いとのことです。また、経験者でも経験値や対応の質にばらつきがあり、望む結果を得られるかどうかは運に左右されると感じる方が多いようです。

不動産業はボランティアではありません。当然ながら行動に見合ったリターンが求められます。しかし、姿勢がビジネスライクに偏ると、社会的存在意義を果たせなくなります。

このバランスは難しいものですが、信用や品位を心がけることで、選択肢や行動の基準が変わり、社会的な役割を果たせる可能性も高くなるでしょう。例えば、賃貸オーナーに公平な対応を求め、相談者のニーズに対して柔軟な提案を行うのも、担当営業の心がけ次第なのです。

一方で、信用や品位を害する行為としては、秘密漏洩、威圧や脅迫的行為、差別的行為、虚偽の説明、詐欺的行為、悪質な勧誘行為などがあげられます。これらは、「信義を旨とし、誠実にその業務を行う」とする信義誠実の原則に反する行いです。

基本原則は理解されているはずですが、先述した信用や品位を害する行為について耳にする機会は多く、現実には処分を受けない程度の軽微な違反行為が繰り返されているのです。

資料作成や広告作成時に気をつけたいこと

「LGBTQ+」の方々を含めた住宅確保要配慮者に対して、どのような評点や対応が差別に当たるかについては、国土交通省が公開している「障害者差別解消法に違反する可能性がある具体的なケース」が参考になります。具体的には、以下のような事例です。

● 物件一覧表や広告、資料に「LGBTQ+」、「障害者不可」、「単身高齢者不可」などと記載すること。

● 「ご要望を満たせる物件がありません」として、相談に応じないこと。

● 住宅確保要配慮者等であることを理由に、賃貸人や家賃債務保証会社等への交渉など、必要な調整を行わずに断ること。

● 住宅確保要配慮者の方々に対し、不利益な内容を含む誓約書等への記載を強要すること。

また、これらの表記や対応に注意することに加え、以下の各用語の意味を正確に理解することが求められます。

●性的マイノリティー:LGBTQ+に含まれる性的少数者を差す。

●ジェンダーアイデンティティ:性自認のことで、本人が男性、女性、またはそれ以外であると認識すること。

●シスジェンダー:出生時の性別と自認する性が一致している人。

●トランスジェンダー:出生時の性別と自認する性が不一致である人。

●ノンバイナリージェンダー:性自認が男性でも女性でもない、またはそのどちらにも当てはめたくないとする人。

残念ながら、人は少数派に対して排除的な態度を取る傾向があります。周囲と異なるという理由だけで他者を排除しようとするのです。このような偏見を防ぐためには、正しい知識を持つことが重要です。

不動産業者は、相談者自身が性的マイノリティーであるとカミングアウトされることがあります。その場合には、「ありがとうございます」と返答し、セクシャリティを否定せず、受け入れる姿勢で対応することが望まれます。

また、守秘義務があるため当然ですが、当事者の同意なしに、性的指向や性自認に関する情報を開示してはなりません。情報共有が必要な場合には、その範囲を必ず確認する必要があります。

相続問題等に関する理解

日本は主要7カ国(G7)の中で唯一、同性婚を認めず、明確な法的保護を与えていない国です。

「同性婚を認めない民法の規定は違憲である」として、北海道の同性カップルが国に損害賠償を求めた裁判の控訴審では、札幌高裁が規定を「違憲」と判断しました。同様の裁判が東京地裁でも行われ、「憲法に違反する状態である」との判断を示されました。

これらの裁判例により、同性婚を認めない現行法は違憲状態であると判断されています。しかし、法改正が行われていないため、「婚姻は両性の合意にのみ基づく(憲法第24条第1項)」の規定により、同性パートナーの婚姻届は受理されないのです。

自治体によっては独自のパートナーシップ制度を設けており、「結婚に相当する関係」であることを証明しています。これにより、病院で家族として扱ってもらえたり、住宅ローンを利用する際に収入合算やペアローンが利用できたりと、一定の権利が認められます。しかし、法的効力までは認められていません。

配偶者は第1順位の相続権を有しますが、法律で規定された配偶者は、「両性の合意に基づく婚姻関係」に限定されます。したがって、同性婚の場合、相続権は認められません。

このため、以下のような不利益が生じます。

●住まいからの立ち退きを要求される。

死亡した物件がパートナー名義であった場合、第1順位の相続人がいなければ、第2順位(親などの直系尊属)へ、第2順位もいなければ第3順位(被相続人の兄弟姉妹など)が相続権を有し、所有権を取得します。そのため、所有権に基づき明渡しが求められるのです。パートナーシップ制度に基づく証明書がある場合、内縁関係により黙示の使用貸借契約が成立していたと反論できますが、それでも相続トラブルに発展する可能性は高いでしょう。

また、賃貸物件でも死亡した同性パートナー名義で契約されている場合、賃貸オーナーによる明渡しや契約解除請求などのトラブルが懸念されます。

●預貯金が引き出せなくなる。

生活費を入れている口座がパートナー名義であった場合、パートナーの死亡により口座が凍結されます。相続人が金融機関に出向いて手続きを行うことで凍結解除は可能ですが、同性パートナーには法律上の権利がないため、金融機関は対応しません。たとえ同性パートナー自身の預貯金が含まれていたとしても、それを証明することは困難です。筆者も、相談者の預貯金が、相続人に取られてしまい取り戻せなかった経験があります。

これら相続に関する不利益を防ぐには、生前から互いに遺言書を作成しておくことが有効です。遺言の有効性についての争いを防ぐために、公正証書遺言で作成することを推奨します。

また、贈与契約の一種である「死因贈与契約書」を締結しておく方法もあります。贈与者が死亡した時点で財産が移転する点で遺言と似ていますが、遺言が一方的な意思表示であるのに対し、贈与契約は当時者双方の意思に基づいて締結される点に違いがあります。

もっとも、これらの方法で故人となる同性パートナーの意思はある程度まで反映されますが、法定遺留分を請求される可能性があるため、注意が必要です。

不動産を斡旋する私たちは、これらの知識を深く理解し、性的マイノリティーの方々が不利益を受けないよう適切な提案を行う必要があるのです。

まとめ

性的指向及びジエンダーアイデンティティの多用性に関する理解は、依然として十分とは言えません。

令和5年(2023年)6月23日に施行された『性的指向及びジェンダーアイデンティティの多用性に関する国民の理解の増進に関する法律(LGBT理解増進法)』は、理解の促進を図るための重要な一歩です。しかし、その検討会が行われた2021年には、一部の国会議員から『道徳的に認められない』、『不条理で馬鹿げた考え』などの不適切発言が相次ぎ、社会における性的マイノリティの理解が不足している現状が浮き彫りになりました。

また、差別的な発言や冒頭で紹介したような物件資料の不適切な表記が繰り返される背景には、性的マイノリティに関する知識不足や誤解があると考えられます。個人の価値観を短絡的に生殖と結びつける発想は、現代社会における多様な家族のあり方への理解が不足しているからです。加えて、性的マイノリティの方々が様々な形で生殖や育児に関与している現実を知らないのでしょう。

私たち不動産業者は、生活の場を提供する立場として、性的指向やジエンダーアイデンティティの多用性について理解を深め、適切な対応を徹底する責任があります。こうした取組を通じて、信用と品位を築き、すべての人が安心して住まいを探せる環境を提供することが可能となるのです。

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