最近、新聞やテレビ、ネットニュースなどで「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」に関するニュースを目にしない日はありません。
ご存じのように、トクリュウはSNSや求人サイトと利用した「闇バイト」で実行役を集め、特殊詐欺や強盗などを行う犯罪集団を指します。
警察庁が2024年7月に公表した令和6年版の警察白書では、この問題を特集しており、2024年4~6月の3ヶ月で摘発された人数は1,531名に達したと報告されています。しかし、被害報告が連日のように続く現状から、摘発が追いついていない状況が伺えます。
実行役と指示系統の関係性が薄いトクリュウ捜査には、末端から幹部へと突き上げていく従来型の捜査手法が通用しないからです。
実際に、警察白書でも摘発された実行役の半数以上は、SNSや求人サイト、ネット掲示板を通じて勧誘されたとしています。特に、SNS経由が41.8%と高く、「即日即金」、「高収入」をうたう募集広告がきっかけとされています。
首謀者や指示役は、メッセージが自動で消去されるアプリを使用して実行役と連絡を取るため、摘発は難航します。実際、2023年に逮捕・書類送検された2,425名のうち、首謀者やグループリーダーに該当するのはわずか49人(2%)にすぎませんでした。このような背景を踏まえると、被害を防ぐには自己防衛が重要だと分かります。
警察庁はこれまで漠然としていたトクリュウの大枠をつかんだとして、実態解明と取締を本格化する方針を示しています。同庁によれば、これらの犯罪グループは下記図のとおり、中核的人物を中心に4つのグループにカテゴライズされるとしています。
具体的には、強盗・窃盗、スカウト行為、特殊詐欺、悪質リフォームです。
このうち、不動産業者が防止に関与できるのは以下の2つです。
1. 強盗・窃盗を防止するために必要なセキュリティ強化
侵入経路や手口に関する理解を深め、適切な防犯設備の提案や設置に関する知識の提供
2. 悪質リフォームを防止するための相談業務
リフォーム工事の適正価格について理解を深め、適切なアドバイスを行う。
このように、防犯対策や悪質リフォームへの対応について適切なアドバイスを提供することは、不動産業者が果たすべき社会貢献の一環です。今回の記事では、そのために必要な知識について解説します。
強盗・窃盗は増加傾向に転じている
侵入犯罪は、住宅などの建物に侵入して行われる犯罪で、大きく以下の3つに分類されます。
1. 侵入強盗
凶器を用い、家人を脅して金品などを強奪する犯罪
2. 侵入窃盗
家人の不在や就寝時に住宅へ侵入し、金品を盗む犯罪
3. 住居侵入
犯意をもって無断で住居に侵入する行為。未遂罪も含まれます。
警察庁がインターネット上で運営する「住まいる110番」によれば、住宅を対象とした「侵入窃盗」の認知件数は、平成16年から令和4年まで減少傾向にありました。しかし、令和5年には1万7,469件と、前年対比で11.3%増加したことが報告されています。これは、一日あたり約48件の侵入窃盗事案が発生している計算になります。
一方、「侵入強盗」の認知件数も注目すべき動きがみられます。平成15年を最多に減少傾向が続いていましたが、令和5年は414件と、前年対比で42.8%も増加しました。
特に侵入強盗は、金品の被害に加え、身体的被害を伴う重大な犯罪です。
警察庁のデータでは、侵入強盗による身体犯の認知件数が増加していることを確認できます。平成16年から令和3年までは減少傾向にありましたが、令和5年は133件(前年対比33%増加)と、2年連続で増加しているのです。増加の背景には、特殊詐欺などの指示役の関与が指摘されています。
たとえば、2023年1月に東京都狛江市で発生した強盗殺人事件では、逮捕された実行犯4名が闇バイトへの応募をきっかけに犯罪に加担しています。この事件では指示役として、犯罪グループ「JPドラゴン」の幹部ら3名も逮捕されています。しかし、創設者を含む幹部の多くは依然としてフイリピンに在住しているとされ、組織全体の解明には至っていません。
トクリュウによる犯罪の影響が侵入犯罪の主因であるとは断定できませんが、近年の事件傾向を見ると、少なからず関連があることは否定できません。特にSNSや求人サイトを介した闇バイトの募集は、関与者の特定を困難にし、犯罪の実行を容易にしています。そのため、侵入犯罪の防止には、地域や個人レベルの防犯意識強化が求められるのです。
侵入犯罪の経路と防犯対策
侵入犯罪を防止するためには、侵入経路を理解し、その部分に重点を置いてセキュリティを強化する必要があります。
侵入手口は、一戸建て住宅、共同住宅ともに無施錠、ガラス破り、合鍵の悪用が多いとされています。そのため、普段から出入口や窓を確実に施錠する習慣を身につけることが、防犯対策の第一歩となります。
警察庁の統計によると、侵入強盗の75%は一戸建て住宅で発生しており、その多くが窓からの侵入です。戸建住宅はマンションと比べて窓の数が多く、防犯カメラやオートロックの採用も少ない点が理由として挙げられています。
特に、2階の窓については、無施錠のまま外出しているケースが多いため、施錠はもちろん、ベランダへ簡単に登れる足場がないか注意しておく必要があります。
次に、侵入手口ごと、防犯性能を高める具体的な対策を挙げます。
不在にする時は雨戸を閉める。
窓に補助錠を取り付ける。
防犯フィルムを貼る。
防犯ガラスや面格子、窓シャッターを設置する。
補助錠を取り付ける(ワンドア・ツーロック)。
ドア枠にガードプレートを取り付ける。
合鍵は自宅に保管せず持ち歩く。
郵便受けや玄関付近に鍵を隠さない。
必要最低限の本数だけ複製する。
メーカーや鍵番号を他人に見られないように配慮する。
財団法人都市防犯研究センターの資料によると、空き巣の約7割は、5分以内に侵入できない場合に犯行を断念するというデータがあります。
玄関ドアや窓からの侵入を完全に防ぐのは困難ですが、侵入に時間がかかる対策を講じることで、被害を大幅に減らせます。
防犯性能を高めた設備の導入と、日常的な防犯意識の向上が、侵入犯罪の抑止につながるのです。
トクリュウによる侵入は強引な手口が特徴
トクリュウの実行犯は、従来の空き巣強盗や侵入強盗と異なり、荒っぽい手口を用いるのが特徴です。これは指示役から、「住人に危害を加えてでも盗んでこい」と強要された結果で、身元がバレて自暴自棄に陥いる心理状態により、後先を考えず行動された結果です。
空き巣は、事前に下見を行い、家人の不在時を狙って犯行に及ぶことが一般的です。これは、犯罪者に「捕まりたくない」という心理が働いているからです。したがって、セキュリティ対策を施すことで一定の抑止効果に期待できるのです。
しかし、トクリュウ犯の場合、このような抑止策が通用しない場合があります。
例えば、バールで窓やドアを強引にこじ開けるなど、手荒な方法で侵入を試みることが多いのです。さらに、指示役により、在宅の有無にかかわらず侵入してきます。
そのようなトクリュウ犯に対しては、侵入時間を稼ぎつつ、速やかに携帯電話で警察へ通報することが重要です。
強盗犯が侵入してきたら、通話状態の携帯電話を握りしめて部屋に立てこもり、ドアの前に障害物を置いて侵入を妨げる。そのうえでいち早い警察の到着を待ち、可能であれば安全を確認したうえで外へ逃げるのです。
トクリュウ犯罪に対する最大の防御策は、日常的な心構えと準備です。「自分の身は自分で守る」という意識を持ち、セキュリティ対策を徹底するとともに、日頃から緊急時の行動について家族で話し合うことが重要です。
悪質リフォーム相談業務に必要な知見
住宅相談統計年報2024年版によると、住宅リフォームに関する相談件数は2016年に1万件を超え、2022年以降では12,000件以上が寄せられています。
具体的な相談内容としては、「契約に関するトラブル」が71.9%と最多であり、次いで「不具合に関するトラブル」が14.9%を占めています。
そのうち、46.9%のケースで契約解消が希望されており、多くの場合、「見積もり代金が不当に高額な契約を締結させられた」、「不必要な工事を契約させられた」ことが理由です。
こうした背景から、リフォーム相談に応じる際には、見積金額の妥当性を検証できる知識や、信頼できる相談先を確保することが重要です。
相談が多いリフォーム箇所は屋根や外壁ですが、住設機器全般の相談も見受けられます。
そのため、少なくとも屋根や外装工事の見積内容を理解しておくことが求められます。
以下は塗装工事における見積もり項目の基本です。
●足場代
仮設足場の組み立てと飛散防止シートの設置にかかる費用です。通常、開口部を除いた家の外壁面積(㎡)に応じて算出されます。
足場代の目安:1㎡あたり600~1,000円
飛散防止シート:1㎡あたり100~200円
ただし、足場の種類(単管足場、棚足場、ビケ足場)は、建物の大きさや立地によって使い分けされ、費用もことなります。見積もり書にその詳細が記載されているか確認する必要があります。
●養生費
マスキングテープやビニールにより、窓や車を養生するための費用です。
目安:1㎡あたり200~500円
●洗浄費
塗装前の高圧洗浄にかかる費用です。圧力単位や水道使用などの詳細が記載されているかがポイントです。
目安:1㎡あたり100~200円
●外壁、屋根塗装工事
下塗り(プライマー、シーラーなど)、中塗り、上塗りの工程が詳細に記載されていることが重要です。また、使用する塗料のメーカーや名称も確認しましょう。
アクリル樹脂塗料(耐用年数5~8年):1㎡あたり1,200~1,800円
ウレタン樹脂塗料(耐用年数8~10年):1㎡あたり1,700~2,500円
フッ素樹脂塗料(耐用年数15~20年:1㎡あたり3,500~5,000円
●コーキング費用
サイディングボードや窓の隙間に使用されるゴムパッキンの交換費用です。
撤去費用:1~3万円(一式)
打ち替え費用:900~1,200円
●諸経費
雑費や現場管理費として計上される項目です。通常、20,000円前後が一般的ですが、明らかに高額な場合は理由を確認する必要があります。
これらのポイントを押さえることで、見積もりが適正かどうかをある程度判断することが可能です。
また、使用する部材名称(足場材、塗料、コーキング)が正しく記載されているか、そして、塗装面積などの計算が正しくなされているか(計算書があればなお良い)を確認することも重要です。
トクリュウグループによる悪徳リフォームの特徴
トクリュウが関与する悪徳リフォームで多いのが、「点検商法」です。
たとえば、次のような発言で不安を煽り、高額かつ不要な工事を強引に契約させるのが典型的な特徴です。
●「塗装が劣化しているため、構造材が腐っている」
●「床下の換気が不十分で土台は腐食しており、このまま放置すると家が潰れる」
●「基礎にヒビが入っており、すぐに補強工事が必要」
これらの詐欺には、他の特殊詐欺事件に関与している者が加担している場合もあり、警察では闇バイトで雇われた犯罪組織、トクリュウとして認識し、警戒を強化しています。
トクリュウグループによる悪徳リフォームには以下の特徴が見られます。
●社名や所在地を頻繁に変更する。
●SNSの裏バイトで実行役を募集。
●実行役の大半が建築知識を有していない。
●被害者の8割以上が60歳以上
被害から顧客を守るためには、以下の対応が重要です。
1. 無料点検をうたう訪問業者には応じない
不安を煽る営業トークには耳をかさず、断ることを勧める。
2. 信頼できる業者を紹介できる体制を整備
地域で実績のある業者リストや、公的機関の情報を提供する。
3. 見積りや工事内容の適正性を事前に確認
軽率に契約することを戒め、複数の業者から見積を取り比較検討することを推奨する。
高齢者をターゲットにした悪質リフォームを防ぐためには、相談窓口となる側が詐欺の実態と正しく理解し、迅速かつ的確な対応を行うことが求められます。また、信頼できる業者の紹介や、被害者の不安を軽減するための助言が重要な役割を果たすのです。
まとめ
近年、「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」による被害が深刻化しており、警察庁は令和6年4月1日に「特殊詐欺総合対策要項」を制定しました。この方針に基づき、副総監名での通達が行われ、各都道府県警察も「特殊詐欺対策本部」を設置しています。被害防止マニュアルの配布や広報活動など、様々な対策が進められています。
これらの特殊詐欺には、以下のような手口が確認されています。
2. 悪徳リフォーム
3. 電話詐欺
4. 預貯金詐欺
5. 架空料金請求詐欺
6. 還付金詐欺
7. 金融商品詐欺
8. ギャンブル詐欺
9. キャッシュカード詐欺盗
被害を未然に防止するには、ニュースや記事に関心を持ち、手口について理解を深めることが重要です。「支え合い、助け合い」の精神を忘れず、社会全体で犯罪から身を守る意識を持つことが求められるのです。