【成年年齢引き下げから3年】若年層の消費者トラブルが示す新たな課題

2022年4月1日に成年年齢が18歳に引き下げられてから、間もなく3年目を迎えます。

この引き下げにたいし、売買を専業とする不動産業者はさほど危機感を抱きませんでしたが、賃貸業者は対応を余儀なくされました。一般的に18歳はまだ成熟しきっていない可能性が高く、契約行為におけるリスクについて正確な理解が求められるからです。

民法では未成年者が法律行為をする際に親権者の同意が必要とされ、これに反した契約行為は取り消すことができると規定されています(民法第5条第2項)。しかし、成年年齢の引き下げにより、18歳以上が行った契約は取り消せなくなりました。この変化は、不動産に関する契約に影響を及ぼしています。

実際に、「そんな話は聞いていない」、「知らなかった」、「理解していなかった」などと主張される事例が増加しているのが現状です。

法的には、契約当事者の一方にだけ不利益な条件を科すなど、公の秩序や強行法規に反しない限り、契約は有効とされます(民法第521条:契約の自由及び内容の自由)。ましてや不動産取引では、宅地建物取引業法の規定により契約締結前に重要事項の説明が義務付けられているため、適切に説明がなされている限り、「聞いていなかった」などの主張が通用するはずありません。

それにもかかわらず、現実にはそのようなトラブルが多発しています。

令和6年版消費者白書による消費生活相談件数の推移を確認すると、相談件数自体は減少傾向にあるものの、商品・サービス別のランキングでは「商品一般」に次いで「不動産賃貸」に関する相談が上位を占めています。また、年代別に見ると、20代からの相談件数が他の年齢層を大きく上回っています。

成年年齢の引き下げ層が特に問題を抱えやすいと断言することはできませんが、契約行為の重要性や法的な理解が不十分である場合、トラブルの発生リスクが高まります。

本稿では、令和4年3月に「賃貸借トラブルに係る相談対応研究会」が公開した『民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(再改訂版)』を参考に、賃貸契約のトラブル傾向と適切な対応方法について検証します。

賃貸契約におけるトラブルの現状と傾向■

成年年齢引き下げ以降、賃貸契約を巡るトラブルが増加しています。国民生活センターが公開しているデータによれば、2021年には約14万件であった相談件数が、2024年には約17.3万件と23.6%増加しています。

賃貸住宅に関する相談の約4割は例年通り「原状回復」に関する問題ですが、年代別の内訳を見ると、20~30代からの相談が半数以上を占めています。これは、初めての一人暮らしや転職などで賃貸住宅を利用する機会の多い年代であることが要因と推測されています。

特に新成年に多いのが、契約内容を正確に理解しないまま契約を締結したケースです。「退去時の原状回復費用について説明を受けた覚えがない」、「家賃保証会社の利用料が想定外に高い」などの主張が見られます。これらは重要事項説明時に提供された情報の不足や、契約者の経験不足が影響しているのでしょう。

相談内容を段階別に分類すると、入居中は修繕や管理に関する相談が多く、退去時には「原状回復費用と敷金返還に関する相談」に関するトラブルが突出しています。

この傾向は近年だけではありません。そこで、国土交通省は平成10年(1998年)に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を初めて策定しました。その後、裁判例や取引実務等の変化を反映して平成16年(2004年)、平成23年(2011年)に改定が行われ、令和5年(2023年)には新たな参考資料も公開されています。

この資料では、賃貸住宅の低下と原状回復の負担について具体的に記載されており、設備の経過年数(種別ごと、具体的な耐用年数の資料も提示されています)と賃借人の負担割合が示されています。本来であれば、このような基準が普及することで原状回復トラブルは減少するはずですが、実際には増加傾向にあります。

その要因として、民法やガイドラインでは経年変化や通常損耗を貸主負担としているのに対し、実際の契約ではこれと異なる特約が設定されていることの多い点が挙げられます。

賃貸借契約は「契約自由の原則」に基づき、貸主と借主の合意で自由に内容を定められます。この原則により、公の秩序や強行法規に反しない限り特約は有効です。しかし、契約者がこの原則や特約の及ぼす影響を十分に理解しないまま契約すれば、問題が生じるのも必然です。

不動産業者は、ガイドラインや契約自由の原則を踏まえ、契約者が十分に内容を理解できる説明を行い、トラブルを未然に防ぐため尽力する必要があるのです。

賃貸トラブルを未然に防ぐための対応策■

賃貸住宅におけるトラブルを未然に防ぐには、説明の質を向上させることが最も効果的です。特に、新成人など経験が不足している若年層に説明を行う際には、以下の具体的な対応策が必要です。

① 宅地建物取引業法に基づく説明の徹底
契約内容や特約に関する説明を省略せず、法に則った説明を行う。

② 理解を促す工夫
専門用語を分かりやすい表現に置き換えたり、図表やパンフレットなどの視覚資料を活用したりすることで、契約者の理解を深める。

③ 事前チェックリストの作成と共有
契約締結前に確認すべき項目をリスト化し、契約者と共有することで、重要事項に関する漏れ落ちを防ぐ。

④ 重要ポイントのリスト化
特に特約については注意すべきポイントを事前に整理し、具体的な例を挙げながら説明する。

⑤ トラブル事例集を活用した従業者教育の継続的実施
トラブル事例を教材として活用し、従業者が実務に即した対応力を磨けるようにする。

特約については、貸主の意向が強く反映される場合が多いため、条項内容について特に注意が必要です。

例えば、敷金(保証金)は名称にかかわらず、民法第622条の2で「借主の賃料滞納や不注意による賃借物への損傷・破損など、賃貸借契約から生じる一切の債務を担保するもの」と規定されています。

ただし、授受については契約当事者の合意に基づくとされています。

そのため、「家賃保証会社を利用するのに、なぜ敷金を負担しなければならないのか」と質問されますが、敷金は賃料債権のみを担保する性質のものではありません。

また、「敷引き」に関しても「退去時の損耗状態が不明なのに一律で敷引きされるのは納得できない」という相談が多くよせられます。無論、このような特約は違法ではありませんが、最高裁判例において「敷引金の額が通常損耗等の補修費用として想定される範囲内であれば有効」との判断が示されています(例:賃料1ヶ月分程度の敷引き)。

不動産業者は、このようなポイントを契約者に適切に説明し、内容を十分に理解してから契約を締結できるように努める必要があります。そのために、日常から知識をアップデートし、想定される質問に迅速かつ正確に回答できるように備えておく必要があるのです。

トラブル発生時の適切な対応方法

トラブル対応の鍵は「初動」にあります。

どれだけ注意を払っても、トラブルやクレームを完全に避けることはできません。しかし、適切な対応を迅速に行うことで、被害を最小限に抑えることはできます。以下の6つのステップを確実に実施することが重要です。

1. トラブルの原因究明に必要な情報収集
具体的な状況、関係者の証言、契約内容の確認、写真や録音、メッセージ履歴などの記録も重要。

2. 情報の共有
担当者間、関係部門、場合によっては外部機関と情報を共有し、問題の全容を把握する。

3. 復旧や対応策の検討
現状を復旧するための具体策を立案。例えば、損傷箇所の修繕や代替手段の提供など。

4. 責任区分の明確化
契約内容や関連法規に基づき、貸主、借主、不動産業者のいずれが責任を負うべきかを明確にする。

5. 補償・費用負担の把握
責任区分に基づき、必要な補償内容や費用負担を明示し、関係者に説明する。

6. 再発防止策の検討及び明示
同様のトラブルが発生しないよう、社内マニュアルの見直しや契約書の改訂を検討する。

これらの手順を迅速かつ的確に実施することで、トラブルによる被害を最小限に抑えることができます。

また筆者がこれまでサポートしてきた中で、トラブルが大きくなったケースでは以下の傾向が見られました。

このような経験から、初動の段階での情報収集や共有が特に重要だと断言できるのです。社内の対応フローや教育体制の整備が、再発防止に直結することについて、十分な理解が必要です。

まとめ

賃貸住宅におけるトラブルを完全に防ぐことは困難ですが、日頃の備えや迅速な対応によって問題を最小限に抑えることは可能です。そのためには、トラブルの傾向を把握し、問題発生時に的確に対処する意識とスキルが求められます。

営業マンは売上を重視しがちですが、トラブル対応に追われることで営業活動に支障が出る場合があります。逆に、トラブルを円滑に処理できる営業マンは信頼を築き、安定した成果を上げます。

このように、トラブル処理能力は優れた営業マンにとって欠かせないスキルだと言えるでしょう。

不動産業は、複雑な権利関係や様々な利害調整が絡むため、トラブルが発生しやすい業界です。しかし、迅速かつ的確に対応を行うことで、信頼関係の構築やリピーターの獲得に繋げられます。

本稿では、成人年齢の引き下げを背景にした若年層への対応や賃貸住宅のトラブル傾向を踏まえ、未然防止策や対応方法について解説しました。トラブルを防ぐのは難しくても、大事に至らせない努力は誰にでも可能です。不動産業者としての信頼を高めるためにも、日々の意識と実践を大切にしていきましょう。

【今すぐ視聴可能】実践で役立つノウハウセミナー

不動産会社のミカタでは、他社に負けないためのノウハウを動画形式で公開しています。

Twitterでフォローしよう

売買
賃貸
工務店
集客・マーケ
業界NEWS