【保存版】2024年注目の賃貸住宅相談事例集

筆者のもとには、全国から様々な相談が寄せられてきます。

相談を持ちかけてくださる方は、不動産業者をはじめ、一般消費者や投資家など幅広く、その内容も多岐に渡ります。

そこで今回は、2024年に寄せられた賃貸住宅に関する相談の中から、特に注目すべき事例とその回答結果を振り返ってみたいと思います。

年末の締めくくりとして、どのような相談が寄せられ、どのように回答したかを共有することで、不動産業者の皆様にとって有益なヒントをお届けできればと思います。

契約に関する相談

Q1. オンライン契約について

『遠方のため、契約のために媒介業者へ出向けません。どの業者でもオンライン契約に対応していますか?』

オンライン契約が可能かどうかは不動産業者によって異なります。一部の業者は、契約関連書類を事前に郵送して、重要事項説明をオンラインで行っています。また、電子署名システムを導入し、全ての手続きを電子化している業者も存在します。一方、オンライン契約に対応していない業者も少なくありません。そのため、事前に確認が必要です。

解説

賃貸住宅における重要事項説明は2017年(平成29年)10月から、売買は2021年(令和3年)3月からオンラインで行うことが認められています。さらに、2022年(令和4年)の宅地建物取引業法の書面規定改正により、契約当事者の承諾を得た場合、重要事項説明書や契約書を電子書面で提供することが可能となりました。

ただし、電子書面の提供には、改変防止措置や承諾取得など詳細なルールが規定されています。

不動産業者は国土交通性が公開している『ITを活用した重要事項説明実施マニュアル』を参考に、適切な対応を行う必要があります。

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001769068.pdf

なお、顧客がオンライン契約を希望しても、不動産業者が応じる義務はありません。対応が難しい場合は断っても問題ありません。

Q2. 敷金・礼金について

『敷金や礼金の支払いが賃貸借契約の条件となっている場合、支払う義務はあるのでしょうか?』

契約条件として定められている場合、敷金や礼金を支払う必要があります。

解説

敷金(保証金と呼ばれる)は、賃料滞納や物件の損傷・破損などの補填を目的とした担保金です。一方、礼金や更新料は地域の慣習に基づく一時金です。契約条件として提示され、借主がこれに合意した場合には支払い義務が発生します。

Q3. 連帯保証人について

『成人しているのに連帯保証人が必要なのは納得できません。家賃債務保証会社を利用しているのに、なぜ保証人が必要なのですか?』

連帯保証人が求められる要件に、契約者が成人か否かは関係していません。また、家賃債務保証会社を利用していても、賃貸借契約の条件として連帯保証人が求められる場合もあります。この場合、契約条件に従う必要があります。

解説

連帯保証人は、借主が未成年者か否かにかかわらず、賃貸借契約上の債務を担保する目的で求められます。借主が未成年者である場合に求められるのは、法定代理人による同意や追認です(民法代5条第1項)。

近年では、連帯保証人の確保が困難であるとの理由から、家賃債務保証会社を利用すれば保証人は不要としているケースが増加しています。しかし、家賃債務保証会社は家賃債務を保証しますが、物件の損傷・破損などの債務は対象外です。そのため、家賃債務以外のリスクをカバーする目的で連帯保証人が求められるケースもあるのです。

Q4. 申込金の性質

『条件の良い賃貸住宅を申込み、申込み金を支払いましたが、急な転勤が決まりキャンセルしました。しかし、不動産業者が申込金の返金に応じてくれません』

契約が成立していない場合、申込金は預り金に過ぎません。不動産業者には返金に応じる義務があります。

解説

申込金を巡るトラブルは賃貸・売買を問わず多く見られます。大半が、「書面はなくても諾成での契約が成立している」と不動産業者が主張して返金に応じないばかりか、違約金を請求するケースです。

民法第555条では、「当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって効力を生じる」と規定していますから、書面の有無は合意形成に影響を与えないとの考えもなりたちます。しかし、賃貸によらず、不動産取引全般についてはその重要性を鑑みて、合意内容を明らかにするため詳細な契約書面が作成されるべきとの考えが一般的です。宅地建物取引業法で、法35条書面(重要事項説明書)や法37条書面(契約書)の作成及び説明、交付が義務とされているはそのためです。

提訴した場合には契約交渉過程などから、どの時点で合意が成立したかを斟酌して判断されますが、本件相談のケースでは不動産業者の主張が認められる可能性はありません。

入居者からの相談

Q1. 更新について

『貸主から更新を拒否されました。このまま住み続けるのが希望ですが、退去しなければなりませんか?』

更新拒絶に正当事由がない限り、退去に応じる必要はありません。

解説

更新とは期間満了後に賃貸借契約を存続させるための手続きです。更新手続きには次の2種類があります。

1. 合意更新:当事者間の合意に基づく更新
2. 法定更新:借地借家法の規定による更新

合意更新に法的な制約はありませんが、協議が整わずに成立しなかった場合には、期間の定めなく同一条件で更新されたと見なされます(借地借家法第26条第1項)。

貸主が更新拒否を主張する場合、以下の事由を総合的に考慮して判断されます。

① 借主の事情:借主が建物を必要とする事情
② 貸主の事情:借主が建物の使用を必要とする事情
③ 建物の賃貸者に関する従前の経過
④ 建物の利用状況
⑤ 建物の現況
⑥ 立退料の有無及びその額

Q2. 更新料について

『更新にあたって貸主から更新料の支払いを求められましたが、支払う義務はありますか?』

法令に根拠はありませんが、慣習や最高裁判例に基づき、適正な範囲内であれば支払う義務があります。

解説

更新料については法令上の規定が存在していないため、裁判所の判断が分かれていました。しかし、平成23年の最高裁判決で、『更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り有効である』との判断が示されたことにより、当該地域の慣習や更新料の相場と比較して著しく乖離していない限り(賃料1~2ヶ月分程度)は有効と見なされています。

Q3. 合意のない条件変更

『ペット可の物件でしたが、更新時から不可にすると言われました。応じる必要はあるのですか?』

更新は貸主と借主の合意が原則です。異議がある場合は貸主に説明を求め、よく話し合う必要があります。

解説

貸主から契約条件の変更通知を受け取り、提示された条件に納得できない場合、異議を明確に伝える必要があります。黙認すれば、変更を受け入れたと見なされるため、注意が必要です。

Q4. 賃料の違い

『居住している賃貸マンションで、同条件の部屋が安い賃料で募集されていました。賃料の値下げを交渉できますか?』

原則として賃料は、個々の契約ごとに決定されます。ただし、近傍同種の賃料と比較して不相当であれば値下げを要求できます。

解説

賃料に関する特約の有無によらず、賃料が当事者の賃貸借関係上、不相当になった場合には減額もしくは増額の請求ができます(賃料増減請求権:借地借家法第32条各項)。

ただし、賃料増額請求をするためには、以下の条件を満たす必要があります。

①租税等の負担減少及び増加
②土地や建物価格の上昇、及び減少など経済事情の変動
③近傍同種の賃料比較
④以上の条件にあてはまり、かつ一定期間賃料増減を請求しない旨の特約が存在しないこと

Q5. 賃料の滞納

『過去に賃料を滞納したことがあり、その際、再度遅れたら退去して貰うと言われていました。今回、数日ほど支払いが遅れたところ貸主から退去してほしいと言われました。応じる必要はあるのですか?』

賃料の滞納は賃貸借契約上の義務に反する行為ですから、それにより信頼関係が破壊されたと主張される可能性はあるでしょう。ただし、信頼関係の破壊は個別事情を勘案して判断されます。本件は数日ほどの延滞ですから、過去の経緯を斟酌しても退去に応じる必要はありません。

解説

信頼関係の破壊は以下の要素を総合的に考慮して判断されます。

①賃料の不払いの程度:滞納した期間
②賃料不払いに至る事情
③過去の賃料支払状況
④解除の意志表示後における借主の対応

債務不履行(賃料滞納)による契約解除については、一般原則として民法第541条で要求される以下の条件を満たす必要があります。

1. 相当の期間を定めた催告
2. 借主が催告期間内に賃料の支払いを行わないこと
3. 解除の意思表示

類似する裁判例から、「借主が特段の事情(信頼関係の破壊が妥当とは言えない個別の理由)」を立証した場合においては、解除を認めない(信頼関係破壊の法理)という判例理論が確立されています。

このような解除要件の厳格化が根底にあるため、本件のケースでは貸主の主張が認められる可能性は低いと考えられるのです。これは、「家賃滞納があった場合には即時退去する(無催告解除)」などの特約が設けられている場合でも同様です。

無催告解除の有効性については、個々の事案ごとに判断は異なりますが、「無催告解除が不合理と認められない特別な事情の存在」を考慮して判断すべきとの考えが、最高裁で示されています(最高裁判事542号:第1小法廷判決昭和43年11月27日)。

Q6. 自力救済

『賃料を1ヶ月分滞納したら、外出時に鍵を交換されてしまいました。これって、適法ですか?』

違法です。貸主が私的に強行行為に及ぶことは自力救済であるとして禁止されています。

解説

追い出し行為の違法性については、賃料滞納に基づく契約解除前と後に分けて判断する必要があります。相談ケースでは、賃貸借契約の解除が適正になされていません。この場合、貸主は借主にたいして賃貸物件を使用・収益させる義務を負っています(民法第601条)。

そのため鍵を交換して立ち入りできないようにする行為は、義務違反とみなされるのです。この場合に借主は、債務不履行による損害賠償の請求(民法第415条)が可能です。これは、「家賃の滞納があった場合は鍵の交換をする」との趣旨で特約が設けられていても同様です。

自力救済を認める趣旨の特約は、消費者契約法第10条に基づき無効とされるからです。

ただし、適法に契約が解除され貸主が建物の明け渡しを求めたのにもかかわらず借主が応じない場合には、裁判所の強制執行手続を経て明け渡しを実現することは可能です。ただしその場合でも、自力救済は認められないので注意が必要です。

Q7. 管理会社変更に伴うサービスの低下

『管理会社の変更後、共用部の清掃回数が減り、環境が悪化しました。直接、管理会社に対して改善要求できますか?』

管理会社に対する改善要求は、管理会社と直接契約をしている当事者に認められる権利です。したがって、貸主を介して要求する必要があります。

解説

貸主は、管理受託契約で定められた範囲内の業務が履行されない場合、苦情を申し立てることができます。ただし要求できるのは、管理受託契約で定められた管理業務の履行についてのみです。

一般的に管理会社が変更されるのは、サービス内容と管理費との相関関係が一致しない、もしくは多少サービスを低下させても管理費の負担を減少させたいからです。あくまで管理受託内容に基づき判断される性質のものであると理解しておく必要があります。

退去時の相談

Q1.原状回復

『退去時に求められた原状回復費用が高額で納得できない』

原状回復は、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」において以下のように定義されています。
「居住者の居住、使用により発生した建物価値減少のうち、賃借人の故意・過失・善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による消耗・損耗を復旧すること」

したがって、経年変化や通常の使用による損耗等の修繕費用は賃料に含まれると見なされます。不当に高額な費用を請求された場合、請求の内訳や詳細な説明を求めることが必要です。

解説

退去時に最も多いのが原状回復費用に関するトラブルです。建物の経過年数による減価割合について国土交通省は、従前から「法人税法」並びに「法人税法施行令」に基づく減価償却資産の見解や、大蔵省による「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」を参考にするとしています。

実際にガイドラインでも、耐用年数経過時に残存簿価1円になるよう、直線(または曲線)を描き、経過年数に基づき借主の負担を決定することとしています。

例えば、法定耐用年数が6年とされている壁や天井のクロスについては、6年目以降に退去する借主に対して原状回復費用を請求できません。

ただし、入居時点の各設備は、必ずしも価値が100%ではありません。その場合、経過年数のグラフを下方にシフトさせる必要があります。

借主の負担単位についてはガイドラインで細かく規定されていますので、内容を正確に理解して適切に判断する必要があります。

Q2.環境要因に起因する損傷

『建物性能の問題だと思いますが、結露でカビが発生している場合でも原状回復費用を負担しなければなりませんか?』

結露によるカビの発生について貸主に通知しておらず、通気や清掃など適切な管理を怠たっていた場合には支払う必要があります。

解説

結露の発生要因は様々であり、建物性能だけがその原因とは限りません。そのためガイドラインでも、「結露が発生しているにもかかわらず、貸主に通知もせず、かつ拭きとるなどの手入れを怠り、壁等を腐食させた場合には、通常の使用による損耗を超える」との見解を示し、借主に原状回復義務があるとしています。

Q3.鍵の交換費用

『退去時に鍵の交換費用を請求されました。応じる必要はありますか?』

原則として鍵の交換費用を負担する必要はありません。

解説

ガイドラインにおいても、「鍵の交換は入居者の入れ替わりによる物件管理上の問題であり、貸主の負担とすることが妥当」との見解が示されています。ただし、借主が鍵の破損や紛失していた場合は例外とされ、シリンダー交換費用相当分の全額を借主が負担します。

Q4.ハウスクリーニング費用

『清掃はこまめに行なっていたつもりですが、退去時にハウスクリーニング費用を請求されました。支払いに応じる必要はありますか?』

通常の清掃(ゴミの撤去、拭き掃除、掃き掃除、水回り・換気扇・レンジ回りの油除去)を定期的に実施していたのなら、原則として支払いに応じる必要はありません。

解説

借主が適切に清掃を実施していた場合には、ハウスクリーニング費用は次の入居者確保のためとされ、借主に負担を求めることはできません。ただし、水回りについては、定期的に清掃しても水垢やカビが発生することがあります。清掃が適切に実施されていたか否かの判断は、主観に左右される部分も多く判断は難しいものです。

そのため、借主の善管注意義務にあたるか否かについては、貸主を交え協議する必要があります。

Q5.退去予告期間を経過した場合

『急な転勤で退去する旨を連絡したら、特約があるので3ヶ月以上前に予告が必要と言われました。3ヶ月分の賃料相当額を違約金として請求されましたが、支払いに応じる必要はありますか?』

契約の中途解約に当たるため、違約金を支払う必要があります。

解説

特約で定められた違約金の額が、公序良俗に反し不当に高額な場合には消費者契約法第9条の規定により無効とされる可能性はありますが、「退去する場合、3ヶ月以上前に告知する」との特約は、一般的に採用されています。したがって、解約予告をしなかった本件では、契約上定められた違約金を支払う必要があります。

Q6.退去時の賃料精算

『退去時の賃料精算が、日割りではなく月割で請求されました。これは、適法ですか?』

特約がある場合、月割精算は有効です。

解説

賃貸借契約で貸主が得る賃料は、法定果実(民法第88条第2項)と見なされます。したがって、日割り計算が原則です。ただし、特約がある場合には公序良俗に反する内容でない限り有効とされます。

Q7.入居中の内覧要請

『退去予告をしたところ、入居を検討している方が内覧を希望しているので協力してほしいとの連絡を受けました。応じる必要はありますか?』

応じる必要はありません。

解説

賃貸借契約により、建物の使用権は借主にあります。そのため、本人の承諾なしに部屋へ立ち入ることはできません。

まとめ

今回ご紹介したのは、賃貸住宅の借主から寄せられた相談事例の中から、特に参考になるものを選び、回答例と解説を添えたものです。

借主からの相談事例は、ここで取り上げたもの以外にも多岐にわたり、貸主からの相談事例を含めれば、一冊の本にまとめられるほど豊富に存在します。もちろん、同様の質問であっても、外部要因や個々の事情により判断が異なる場合もあります。しかし、基本的な事例に対する理解を深めることで、より複雑なケースにも応用できる力が養われます。

賃貸住宅にまつわるトラブルは後を絶ちませんが、日頃から知識を広げ、適切に対応できるよう経験を積むことが重要です。今回の事例が皆様の日常業務やトラブル対応にすこしでも役立つことを願っています。

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