2024年が終わりに近づき、2025年が目前に迫っています。
2025年は、1947~1949年生まれの団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる節目の年です。この「2025年問題」により、社会全体で様々な影響が懸念されています。
不動産業界においても、次のような問題が健在化すると予測されています。
◯不動産相続の増加
◯社会保障費の増大による公共施設の縮小が与える影響
◯立地適正化計画が不動産市場に与える影響
これらの問題に加え、建築基準法改正による「4号特例」の縮小・廃止や、省エネ基準への適合義務化、さらに労働者人口の減少による人件費の高騰といった課題も、2025年を契機に顕在化する可能性があります。こうした変化は、不動産業者にとって大きな転換点となるでしょう。
このような背景から、2025年問題を題材にした不動産関連記事が散見されるようになり、記事を読んだ方から、様々な相談が筆者に寄せられてきます。特に注目すべきは「サブリース2025年問題」です。
全国の投資家からこの問題に関する相談が増加しており、その中でも、賃料増減請求やマスターリース契約の解約に関する件数が際立っています。この背景には、2025年問題が大きく影響していると考えられます。
本稿では、具体的な相談事例を通じて、この問題の核心に迫りたいと思います。どのような点が課題とされているか、また適切に回答を行うためにはどのような知識が必要なのかを詳しく解説します。
サブリース2025年問題の背景と課題
2025年問題が目前に迫る中、不動産業界では空き家の増加や不動産相続の急増といった課題が深刻化すると予測されています。その中でも「サブリース2025年問題」は、特に投資家や不動産業者にとって無視できないテーマです。
サブリース契約とマスターリース契約は混同されがちですが、前者はサブリース会社と賃借人による賃貸借契約(転貸借契約)、後者はサブリース会社と物件オーナーによる借り上げ契約(原賃貸借契約)を指します。ただし、マスターリース契約はサブリース契約を前提としなければ成立しないため、包括的に『サブリース』と呼ばれる場合があります。
厳密に言えば、2025年問題はマスターリース契約に与える影響を指します。そのため「マスターリース2025年問題」と表現するのが妥当ですが、一般には「サブリース2025年問題」との用語が浸透しているため、本稿でもこの表現を採用します。
マスターリース契約は、物件オーナーに安定した賃料収入を提供すると説明される一方で、実際にはサブリース会社の経営状況や市場動向に大きく左右される仕組みです。
近年、人口減少や都心部への人口集中が進み、特に地方における空き家率の上昇が深刻な問題となっています。さらに、2025年には団塊世代が後期高齢者となり、賃貸需要の減少が加速することが予測されています。
マスターリース契約には、市場動向や物件の状況に応じて賃料を改訂できる条項が盛り込まれています。人口減少や高齢化といった社会構造の変化は、物件の賃貸需要を減らし、サブリース会社の収益を圧迫する要因となりえます。そのため、サブリース会社は、契約で定められた範囲内で、物件オーナーに対して賃料の引き下げや契約の解除を要求してくるのです。
2020年(令和2年)に「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」が施行されました。同法の第三章で「特定賃貸借契約の適正化のための措置等(同法第28~36条)」が規定されており、これは「サブリース新法」とも呼ばれています。
施行されたのは、悪質なサブリース会社と物件オーナーとのトラブルが頻発したからです。
例えば、新築時は物件の訴求力が高く入居率も良好ですが、築年数の経過とともに訴求力が低下し、賃料の見直しが必要となります。サブリース会社は自社の収益を維持するため、物件オーナーに賃料減額や解約を申出ることがあるのです。
マスターリース契約は、長期的な収益確保を前提としています。そのため、途中で収支が変動すると、投資計画自体が破綻します。このようなリスクを十分に説明せず、物件の建築を勧める業者が横行したことで、以下の重要な規定が設けられたのです。
◯誇大広告の禁止(第28条)
特定賃貸借契約の解除に関する事項、家賃、維持保全の実施方法、解除に関する事項について、著しく事実に相違する表示、優良であると誤認させる表示の禁止。
◯不当な勧誘等の禁止(第29条)
判断に影響を及ぼす重要な事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為の禁止。
しかし、2025年には団塊世代が75歳以上の後期高齢者となり、その影響が市場全体に波及すると予測されています。これにより、マスターリース契約のリスクがさらに顕在化するのです。
特定賃貸借契約にも借地借家法の規定が適用される
特定賃貸借契約とはマスターリース契約のことですが、賃料増減請求については借地借家法の規定が適用されます。かつて下級審では、マスターリース契約に借地借家法が適用されるかについて判断が分かれていました。しかし、平成15年に最高裁第三小法廷は「マスターリース契約も賃貸借契約である以上、借地借家法第32条(賃料増減請求権)の適用を受ける」との判断を示めしました。
この判例により、サブリース会社が物件オーナーに対して賃料の減額を求める際には、借地借家法第32条の規定を遵守する必要が生じました。これは、サブリース契約の安定性に影響を与える重要な要素です。
一方、マスターリース契約の更新や解除については、判例が十分に固まっていないのが現状です。例えば、平成24年に東京地裁で争われたマスターリース契約の更新拒絶を巡る裁判では、建物オーナーが主張した正当事由が否定される判断が示されました。この裁判では、最高裁判断を踏まえたうえで借地借家法の規定を適用し、個別事情を考慮して結論が導かれています。
このように、更新拒絶や正当事由の判断基準については今後の司法判断に委ねる部分が多いものの、借地借家法の規定が重要な基点となるのは明らかです。
よくある相談事例
Q1.保障賃料の減額に関する相談
マスターリース契約では、契約当初は想定通りの家賃収入が得られます。しかし、建物や設備の経年劣化や入居率の変動に伴い、一定期間ごとに保障家賃の見直しを求められる場合があります。先述の最高裁判例により、増減請求が正当な根拠に基づいている限り、建物オーナーは協議に応じる必要があります。
協議が不成立の場合、減額請求の正当性について裁判で争う必要があります。その際、裁判が確定するまでの間は、サブリース会社が相当と認める借賃を一時的に支払うことが認められるため、注意が必要です。
Q2:マスターリース契約の解除に関する相談
「サブリース会社からマスターリース契約の解除を要望されたのだが、応じる必要はあるか」など
更新や解除についての判例は十分に固まっていませんが、最高裁判決により借地借家法の規定が適用されると考えるのが妥当です。
したがって、契約解除や更新拒絶については、正当事由が必要とされます。具体的な判断基準としては、以下の要素が斟酌されます。
◯使用の必要性
◯従前の経過
◯利用状況
◯財産上の給付
裁判においてはこれらの要素が総合的に考慮され、判断が下されます。
Q3:修繕工事の費用に関するトラブル
建物の価値を維持するためには、定期的な修繕工事が必須です。原則として修繕費用は物件オーナーの負担ですが、以下のようなトラブルが発生することがあります。
◯相場より割高な工事費用の請求
◯不必要な工事の要求
要求された工事内容や見積額が適切かを十分に確認することが重要です。不明点がある場合は、サブリース会社に任せず、オーナー自身で施工業者を選定すべきです。
Q4.サブリース会社の破綻
賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律に基づき、管理戸数200戸以上のサブリース会社には賃貸住宅管理業者の登録が義務付けられています。しかし、この登録は資力の保障を意味しないため、業績不振による倒産リスクが存在します。
サブリース会社が破綻した場合、保障家賃の支払いが停止します。この場合、マスターリース契約を解除し、オーナーが直接賃貸人としての地位を引き継ぐ必要があります。その際、以下の対応が求められます。
◯賃借人への説明を速やかに行う
◯賃料振込先の変更を通知
◯敷金の取扱について確認
保障家賃の支払い停止により、オーナーの経済的負担が増すため、事前に弁護士に相談し、可能な範囲での交渉準備を進めることが重要です。
Q5.特約や免責条項に関する相談
契約自由の原則に基づき、法令や公序良俗に反しない特約や免責条項は有効です。しかし、サブリース新法の施行後も、特約や免責についての説明が不十分なことで、トラブルが発生しています。
これらの相談に対応するためには、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」、「借地借家法」、および民法の規定を正確に理解しておくことが必要です。
2025年問題を見据えた提言
サブリース2025年問題は、単なる契約トラブルに留まらず、不動産業界全体に構造的な変革を迫る可能性があります。このような状況に対応するために、不動産業者には以下の取組が求められます。
1. 投資家への適切な助言
賃料の増減請求や解約の相談対応に加え、市場動向を踏まえた精度の高いアドバイスが求められます。そのため、サブリース事業のみならず、空家再生やシニア向け住宅運営など、収益モデルの多様化を提案するスキルが必要となります。それにより、投資家が抱える長期的な課題に対して柔軟な戦略を提供することで、信頼向上に繋がります。
●市場の変化に対応したスキルの向上
少子高齢化や地域ごとの人口増減を正確に把握し、適切なマーケットリサーチを行うことが不可欠です。その上で、実践で活用できる具体的な知識を習得し、顧客に対して説得力のある提案を行う必要があるのです。特に、空家問題が顕著な地方や高齢化が進む地域では、専門的な知識と地域特性を活かした施策が重要です。
まとめ
サブリース2025年問題は、不動産業者にとって大きな試練になると同時に、業界の変革を進める絶好のチャンスでもあります。
この問題に対応するためには、不動産業者が専門知識を最大限に活用し、投資家と連携しながら課題に取り組む姿勢が求められるからです。特に、契約の見直しや市場動向の把握、収益モデルの多様化を図ることで、安定した業界の未来を築くことが可能です。
2025年以降の激動する時代を乗り越えるために、今こそスキルの棚卸や自身の業務と市場動向の見直しを行い、新たな挑戦への準備を整えることが重要です。不動産業界全体が変革の波に乗り、持続可能な発展を目指す契機としたいものです。