【空家が不正利用された!】物件所有者が直面するリスクと防止策

先日、空き家を相続した物件所有者から「どうやら、不正薬物の受取先として利用されていたらしい。これにより、罪に問われることはないか心配だ」という相談を受けました。

相続した物件は遠方にあり、管理も充分に行き届いていない状態でした。また、相続前に物件所有であった父親は数年前から施設に入居していたため、実質的に数年前から空き家状態が続いていたとのことです。そのため、様子見に出向いた時は隣家に挨拶し、「何か問題があれば連絡して欲しい」とお願いしていたものの、特に連絡は無かったようです。

また、築年数が経過しているため、鍵は簡素なピンシリンダー錠が使用されており、防犯面で不安が残る状態でした。所有者はディンプルシリンダー錠への変更を予定していましたが、変更前に犯罪に利用され、警察から連絡を受ける結果となりました。

物件管理が不十分だったことにより罪に問われる可能性を心配していた所有者に対して、筆者は「結論として、空家に無断で侵入されて犯罪行為が行われた場合、物件所有者が罰を問われることはありません」とお伝えしました。

日本の刑法は「自己責任の原則」を採用しています。これは行為者に善悪の区別がつき、自分の行動を抑制する力がある場合にのみ刑罰を科するとするという基本原則があるからです。この考えは、刑法第38条にも反映されており、「罪を犯す意思がない行為は、罰しない」と定められています。

ただし、空き家の所有者が適切な管理を怠ったことが明らかな場合、例えば、玄関の鍵が壊れて誰でも自由に出入りできる状態が近隣に知れ渡っているようなケースでは、空き家内で傷害事件などが発生した場合に過失傷害罪が適用される可能性はあります。これは、所有者に対し管理責任が問われるからです。

さらに、犯罪に利用されたことがきっかけで、自治体から管理状態に対する指摘を受け、管理不全空き家に指定されるリスクも生じます。犯罪が行われなかった場合でも、近隣環境に悪影響を及ぼしている場合には、管理不全空家や特定空家に指定されることがあります。

そのため、管理が行き届いていない空き家には、売却も含めた適切な対策を講じることが重要です。実際、空き家が犯罪に利用される事例は増加しており、物件所有者はこの現実を理解する必要があります。

近年、相続登記の義務化や罰則強化など、空き家問題解消のため法改正が進められていますが、
それでも空き家の数は増加しています。不動産業者として、管理ができない空家をどのように活用するか、処分方法も含めて適切な理解を深めることが求められます。

覚えておきたい犯罪利用件数■

2025年1月10日、警察庁はインターネットの特殊詐欺対策ページ上で、「特殊詐欺の具体的な手口として、被害金の送付先に空き家(空き部屋)が利用されている実態がある」と注意喚起を行っていました。また、密輸された不正薬物の送付先としても空き家が利用されていることについて言及しています。

この注意喚起は、主に不動産業者や宅配・配送業者に向けられています。これは、空き家の不正利用を察知できる可能性が高いのは、不動産業者や宅配・配送業者だからです。

前述の通り、空き家に侵入されて犯罪行為がなされても、所有者や管理する不動産業者が刑法上の責任を問われる可能性は低いでしょう。壊れた鍵や窓を放置するなど、杜撰な管理をしていない限り、責任を追及されることはありません。

しかし、風評被害のリスクは別問題です。例えば、空き家が「匿名・流動型犯罪グループ」の拠点として利用された場合、物件所有者だけでなく、捜査が行われることで近隣住民にも事実が周知される可能性があります。その結果、「犯罪行為に利用された部屋である」という情報が、告知義務に該当する可能性は高くなります。

刑法罰を問われないことと、告知義務の有無は別の問題です。購入者や賃借人の判断に影響を与える事実については、告知する必要があります。これにより売却や賃借人の成約に悪影響が及んだ場合、管理の在り方について社会的責任を問われる可能性があるのです。

空き家の不正利用に関する具体的な統計は公表されていませんが、特殊詐欺の手口については広く公開されています。にも拘わらず、特殊詐欺事件は後を絶たず、認知件数や被害額は増加傾向にあります。

不動産業者には、犯罪を未然に防ぐ社会的責任があります。適切な管理や対策を講じることで、空き家が犯罪に利用されるリスクを低減し、地域社会の安全に貢献できるのです。

善管注意義務は不動産業者に対して厳しい■

筆者は、2023年8月に不動産会社のミカタに寄稿した、『【空家管理を簡単に受託してはいけない!】警視庁や税関も目を光らせる、後を絶たない不正利用について』との記事において、空き家が犯罪に利用される事例が増加傾向にあることを警告しています。

この記事では、空き家が不正利用される事例が増えている事例に触れ、安易に管理を引き受けることの危険性を訴えています。例えば、空き家の玄関付近にキーボックスを設置し、それが不正に利用されて犯罪が発生した場合でも、不動産業者が刑事罰を問われる可能性は低いでしょう(前述の通り)。しかし、管理を引き受けた時点で「善良なる管理者の注意義務(以下、善管注意義務)」が発生します。これは、有償であるか否かを問わず課せられる責務です。

ご存じの通り、善管注意義務とは「社会通念上あるいは客観的に見て当然要求される注意を払う義務」であり、民法第400条にその規定があります。この義務は、一般の人々には「自らの所有物件と同等の注意をもって管理する責任」として認識されていることが多いでしょう。しかし、不動産業者に課せられる善管注意義務は、一般的な見解以上に厳格に判断される可能性があります。

例えば、人の死に関する告知について、国土交通省が定めた「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を遵守すれば問題ないと考える方もいます。しかし、善管注意義務の観点から見た場合、買主や賃借人が告知あり物件を忌諱していることを知りながら、ガイドラインの判断基準にしたがって告知しなかった場合、道義的責任を問われる可能性があります。この点についてはガイドラインでも留意するように促しています。

買主や借主が納得して判断したうえで取引が行われることこそが重要であり、このような留意事項は不動産業者に課せられた善管注意義務の一環であると理解されています。これは規定以上に道義的責任を問うものであり、不動産業者はこの点に十分注意を払う必要があるのです。

覚えておきたい不正利用の手口■

前回の寄稿記事でも、不正利用を防止するための対策を幾つか取り上げました。しかし、警察がその手口を広く公表すれば、犯罪者側は必ず対策を講じてきます。犯罪者は、警察の後手に回らないよう、常に新しい手口を開発しているため、私たちが知ることのできる手口も変化し続けているのです。

事件発生後の手口分析は、どうしても後手に回ることになります。そのため、私たちは現在確認されている手口を知るだけではなく、想像力を駆使新たな手口に備え、未然に防止する必要があるのです。

現在確認されている代表的な不正利用の手口は、以下のようなものがあります。

◯郵便受けを利用

空き家の郵便受け(集合ポストを含む)に架空の表札を貼付して、その後、投函された不在連絡票を抜き取り、郵便局などから現金や不正薬物が入った荷物を受取る。

◯隠された鍵を利用

電気やガスなどのメーターボックスに保管された鍵を使い空き家に侵入。住人になりすまして現金や不正薬物が入った荷物を受取る。

◯直接荷物を受取る

空き家やマンションのエントランスなどで待ち構え、荷物を受取る。

◯暗証番号の盗み取り

キーボックスの暗証番号を不正(使用時に盗み見るなど)に取得し、その鍵で空き家に侵入。住人になりすまして現金や不正薬物が入った荷物を受取る。玄関ドアの鍵に暗証番号キーが導入されている場合、同様のケースによる不正利用が確認されています。

◯空き家を利用して口座を開設

空き家の住所を利用して、不正に口座を開設させる

これらの手口は、空き家管理をしっかり行っていれば防げる可能性が高いものです。巡回頻度を増やすことで犯罪者の不正利用を防止できます。さらに、所有者にこれらの手口を説明し、適切な対策を促すことで、抑止効果が期待できるでしょう。

一方で、不正利用を働く犯罪者は年々手口を巧妙化させています。例えば、賃貸仲介会社の社員が、事業者間サイトを通じて空室情報を流出させて逮捕された事例や、実在する不動産業者の社員を名乗りキーボックスの暗証番号を聞き出したケースもあります。

空き家の管理を委託されている不動産業者は、キーボックスの暗証番号を教えないように配慮するほか、内見希望者に鍵を貸しださないようにするのが最も安全です。しかし、繁忙期で人手が足りない場合、鍵を貸し出すケースが多く見受けられます。

一般的に、鍵を貸し出す際には、名簿に業者名(担当者名を含む)や連絡先を記載させると同時に名刺を受取りますが、名刺の偽造は容易であるため注意が必要です。実際、連絡して在籍確認を行うケースは稀で、通常は、返却予定期日を超過しない限りは行われないのが現実でしょう。

犯罪者の手口は年を追うごとに巧妙化していることを理解し、不審な点が懸念される場合には、貸し出す前に在籍確認を行うなどの対策を講じることが大切です。

まとめ

今回は、巧妙化する組織犯罪の一環として、空き家の不正利用について解説しました。令和6年(2024年)7月1日に施行された改正宅地建物取引業法では、報酬規定が見直されると同時に、宅地建物取引業法第34条の2関係、いわゆる媒介以外の関連業務についても具体的な見解が示されました。

この改正により、空き家の増加防止や適正管理を促進するために必要な助言や総合調整等業務について、区分を明確にしたうえで適切な手続きを経て行えば、媒介報酬とは別に報酬を受けることが可能になりました。

しかし、空き家の管理業務は単なる物件管理にとどまらず、定期的な点検や除草に加え、不正利用を防ぐための防衛対策を講じることも含まれます。

不正利用を完全に防ぐことは現実的には難しいかもしれません。また、仮に不正利用が発覚しても、不動産業者が刑事責任を問われることは少ないでしょう。しかし、道義的責任が生じることは確かですし、物件所有者から批判を受ける可能性もあります。

私たち不動産業者には、物件所有者の期待に応え、近隣に与える影響を最小限に抑えるために備える責任があります。これを実直に行うことで、媒介報酬以外の報酬が得て経営基盤を強化し、社会的信頼も得られるのです。

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