【連棟住宅の切り離し物件で融資が否決された】再建築の問題と建築基準法の規定

先日、住宅融資を申し込んだ方から、「違法性が懸念される物件であるため担保物件として評価できない」と金融機関の担当者から指摘され、申込みが受け付けられなかったとのご相談を受けました。

詳しく話を聞くと、当該物件は4戸1棟のうちの2戸、いわゆる連棟式建物のうち2戸分を切り離して解体し、その敷地に一戸建てを新築したものでした。

連棟式建物が建築される理由は、狭小地の有効活用や建築コストの低減といった側面もあります。

その一方で、土地の形状や広さ、道路要件など様々な制約により、複数の戸建て建築が困難な場合に検討されることがあります。

その場合、単独での再建築が認められない可能性があります。

連棟式建物は、厳密には敷地や庭を共有し、マンションと同様の権利形態を持つ「タウンハウス」と、敷地が明確に区画されている「テラスハウス」に分類されます。

これらについては、不動産会社のミカタ「【連棟住宅の取引に潜む課題】実務で押さえるべき重要ポイント」との記事で詳述しておりますので、ご参照ください。

敷地権によって権利形態は変化しますが、建物の壁が2/3以上隣家と繋がっている点は共通しています。

そのため、切り離しには区分所有法の規定に基づき他の所有者の同意を得る必要があり、また単独で建築要件を満たしているかの確認が不可欠です。

これらの要件を満たしていない場合、その工事は新築ではなく大規模修繕とみなされます。

当然、融資を申し込んでも新築とはされずリノベーション住宅となり、住宅ローン控除をはじめとする税制上の恩恵も制限されます。

金融機関によっては、担保価値無しと判断される可能性もあるでしょう。

前述の相談事例も、こうした点が指摘されていました。

不動産業者にとって建築基準法の素養は不可欠であるにもかかわらず、例えば宅地建物取引士の試験で50問中2問程度の出題に留まることからも分かるように、不動産取引に関する知識が重視され、建築基準法に関する知識は軽視されている印象を受けます。

その分野は建築士が担えばよいと認識しているのかも知れませんが、少なくても取り扱う物件が違法建築や既存不適格物件に該当するか否かを把握するために、相応の知識は不可欠です。

しかしながら、不動産業者に従事する方々で建築基準法に精通している割合は決して高くありません。

本稿では、顧客から相談が寄せられる可能性の高い連棟式建物の切り離し、そして新築とは見なされない建て替えについて詳述します。

隣家の応諾だけでは足りない理由

同条件の一戸建てと比較して、価格が割安で購入しやすい連棟式建物ですが、その一方で、切り離しや再建築の困難であるという欠点も抱えています。

土地が明確に区画されている「テラスハウス」であれば、隣接住戸から承諾を得れば良いと誤解している不動産業者は少なくありません。

しかし、権利形態によらず連棟式建物は、原則として区分所有建物とみなされます。

そのため、建物の切り離しや建て替えには、区分所有者による決議が必要です。

全体を建て替えるのではないため、多数決割合にいては議論の余地があります。

しかしながら、少なくても3/4以上、理想としては4/5以上の決議を得ておくのが無難です。

実際、平成25年8月に東京地方裁判所において、連棟式建物の切り離しに関する裁判が行われました。

当該物件は土地が分有(区分)された連棟式建物でしたが、裁判所は、そのような権利形態であっても、各区分所有者は他の区分所有者の有する敷地に対し、相互に占有権原を設定していると見なされると判示しました。

専有権原は、物を専有する根拠となる法律上の原因を指し、体表的な例としては賃借権、地上権、留置権、質権などが挙げられます。

裁判所が、連棟式建物を所有する各所者に相互の占有権原が設定していると見なされるとした理由は、連棟式建物の特質によるものです。

占有権原,不法占拠

この事件は、連棟式建物の一部を解体し、そこに別の建物を新築したことに対する違法性が争われたもので、原告である他の連棟式建物の所有者は、以下のような請求をしました。

①新築された土地上に地上権を有することの確認
②上記1に基づく地上権設定登記
③区分所有法第57条第1項(区分所有者の共同利益に反する行為)に基づく新築住宅の撤去
④当該土地の明け渡し
⑤切り離しによって生じた損害の賠償

裁判所は、これら原告による請求のうち1、2については明示的な権利設定がないことを理由に棄却し、同様に4についても、本件土地の明け渡しまで求めることはできないとして請求を棄却しました。

しかし、3については区分所有者の共同の利益に反する行為であるとみなして撤去を認め、さらに、解体・切り離し工事により生じた外壁の損傷、浴室タイルのひび割れ、天井からの雨漏りなどの損害を発生させた責任は重いとして、損害賠償の請求も認めたのです。

裁判例から学ぶこと

前述した裁判例から、権利形態によらず連棟式建物の切り離しや建て替えを検討する場合、予め他の区分所有者から承諾を得ることが極めて重要だと分かります。

また、切り離しに伴う工事が他の物件に少なからぬ影響を与える可能性があることを理解し、具体的な補修方法を提示すると共に責任の範囲を明確にし、誠意をもって実施することで、将来的な問題発生を抑制することが重要だと分かります。

連棟式建物の戸数については、建ぺい率や容積率といった基本的な建築基準法規を遵守する限り制限は設けられていませんが、一般的に2戸から4戸を1棟とするケースが多いでしょう。

同意を得る戸数が比較的少ないため、承諾の取り付けには各戸訪問が現実的な方法となりますが、その際には口頭だけでなく、承諾を得た証として書面による同意書を取り付けることが重要です。

国土交通省や各不動産保証協会からは、連棟式建物の解体・切り離し同意に関する統一されたフォーマットは提供されていません。

そのため、独自に作成する必要があるものの、後日の紛争を防止するためには少なくとも以下の内容を盛り込む必要があります。

①件名:切り離し同意書・解体同意書など
②宛名:同意を要する建物所有者全員
③差出人:解体・切り離しを行う当事者(申請者)
④建物の概要:図面を添付することが望ましい
⑤本文:
●解体する建物の所在地
●工事に基づく注意事項(騒音・振動・埃など)
●工事完了後の補修内容・方法および責任の所在
●工事期間・安全対策
⑥同意者の署名・捺印・日付

これらの内容を盛り込めば、最低限必要とされる同意内容は担保されますが、実務において他の所有者が懸念するのは、切り離しによって建物の強度が弱まり倒壊の危険性が増すこと、また、雨漏りや建具開閉の不具合、壁の変形などが生じる可能性です。

一般的には、共有する壁を残し、そこに必要に応じて耐震補強を実施した上で、構造用合板の貼り付けを行い、その後に外壁を施工するのが一般的です。

しかし、こうした口頭で伝わりにくい内容であるため、図面に詳細な補修方法を記載して添付する必要があるでしょう。

加えて、可能な限り、切り離しても耐震性への影響が生じない旨を証明することが望まれます。

連棟式建物が推奨されない理由

連棟式建物の切り離し自体は、切り離し後の建物が建築基準法に違反する状態とならない限り制限されません。

しかし、切り離すことで容積率、接道要件、斜線制限などの規定に抵触する場合には、切り離し行為自体が不法行為となり得ます。

また、残された建物も違法状態となるため、他の所有者に甚大な影響をもたらす可能性が高まります。

切り離しや解体により違法状態となる物件については、全体として再建築する以外に解決策は存在しません。

しかし、分譲マンションのように修繕積立金を徴収していない連棟式建物においては、再建築費用の拠出に困難を伴います。

そのため、所有者全体の4/5以上による建て替え決議も困難を極めますが、それ以上に費用の捻出が最大のネックとなるのです。

単独でも全体でも再建築には困難が伴うため、それが連棟式建物の購入が一般的に推奨されない理由となっています。

このように、切り離しや再建築の困難さが連棟式建物における最大の問題点となりますが、それ以外にも、以下のような問題点がよく指摘されます。

●住宅ローンの利用が難しい
●売却価格が低くなる
●日当たり・風通しの問題
●隣家からの音漏れ

連棟式建物を斡旋する場合には、顧客に対しこのような問題点があることを説明すると同時に、「連担建築物設計制度」が利用できないか、あらかじめ検討する必要があります。

この制度は、複数の建築物についてそれぞれ位置や構造、安全管理上の問題などの諸条件を満たしている場合、それらの建築物が全て同一の敷地内にあるものと見なして建築基準法の規制を暖和する制度です。

制度については、以前不動産会社のミカタに寄稿した記事「【再建築不可の連棟住宅が建て替え可能?】 連担建築物設計制度を知っていますか?」にて詳述しておりますので、ご参照ください。

建物が存続する限り、居住自体が制限されることはありませんが、資産性を考慮した場合、単独で再建築できるか否かが重要なポイントとなります。

求められる専門性と倫理

高額な財産を取り扱う不動産業者には、極めて高い専門性と倫理感が求められます。そのため、国家資格である宅地建物取引士試験では、宅地建物取引業法にとどまらず、民法、借地借家法、不動産登記法、建物区分所有法といった権利関係に関する法規や、都市計画法、国土利用計画法、農地法などの法令上の制限、さらには所得税、印紙税、固定資産税といった税金に関する分野まで、幅広く出題されるのです。

これらの関連法は、いずれも不動産取引を行う上で欠かせないものですが、広範な出題範囲ゆえに偏りが見られます。

そのため、試験対策として学習しただけでは、実務上必要とされる知識を必ずしも網羅できるとは限らないのです。

不動産業者の責務は、顧客の利益を守ることにあります。そのために最も重要なのが、徹底した調査と適切な説明責任です。

しかし、適切な調査や説明を行うには相応の知識が不可欠であり、それが欠けている状態では、説明責任を果たすことはできません。

不動産トラブルの多くは、必要な説明が省略されたり、顧客の理解が不十分な状態で契約が締結されたりすることで発生します。

特に、連棟式建物は多くの課題を抱えており、将来的に発生しうる問題について適切に説明されていなければ、顧客に甚大な不利益を与える結果となります。

媒介業務に留まらず、顧客のリスクマネジメントを担うのが真のプロフェッショナルであるという認識を、私たちは改めて持つ必要があるのです。

まとめ

不動産業者にとって、取引量の多寡は売上に直結するため、顧客への説明責任を果たすことに熱心になりすぎて売上が下がれば、事業の継続が困難となるのは事実です。

そのため、ときに虚偽とはならない範囲で、婉曲な表現が用いられることがあります。

連棟式建物においては、「単独では再建築できませんが、基礎や柱を残して建て替えることは可能です」といった説明が典型です。

壁や屋根の見付面積が過半を超える大規模修繕については建築確認の申請が必要ですが、3戸以上の連棟式建物であれば、1戸の大規模修繕は過半とはなりません。

そのため、申請を行わずリノベーション工事を実施できてしまいます。

申請が必要なので、改正建築基準法で規定された省エネ基準を満たす必要もありませんし、先述した説明も法的には虚偽といえないでしょう。

しかし、登記簿上の新築年月日は改められず、たとえ所有者が「建て替えた」と主張しても、対外的には修繕工事を実施したに過ぎないと判断されます。

当然、金融機関も新築住宅とは見なしませんし、住宅ローン控除をはじめとする税金の優遇措置も受けられません。

このような実態について適切な説明がなされていなければ、顧客は連棟式建物を購入しても特段の問題はないと認識してしまうでしょう。

果たして、この状況で適切な説明責任が果たされたといえるでしょうか。

売上件数を念頭に置けば、どこまで説明責任を尽くすべきか葛藤するのは当然です。

また、理解度には個人差があるため、詳細に説明をしたからといって必ずしも理解が深まるわけではなく、顧客によっては詳細な説明を嫌がる方もいらっしゃいます。

宅地建物取引業法で規定された説明範囲は省略できる性質のものではありませんが、「顧客の意思決定に影響を与える重要な事項」の定義は広範であり、法的には具体的な規定が存在しません。

だからこそ、不動産業者は提供する情報の透明性、勧誘方法、取引の公正性などを考慮し、どこまでの範囲をどのように説明するか、自らの信念と照らし合わせて都度判断するほかないのです。

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