不動産売買の仲介業務は売主と買主を結びつけ、大切な資産である不動産取引をなんの問題もなく成立させる重要な仕事です。
売りたい人、買いたい人が不動産会社に相談するところから仕事は始まりますが、どんなに早くても1ヶ月……長くなる場合は数年という期間が必要な重い責任を負う仕事が不動産売買。
取引成立後も法的責任を問われるケースがあり、有資格者である「宅地建物取引士」の責任はますます重いものになっています。取引士ばかりでなく仲介業務に携わる不動産会社のスタッフ、特に営業マンはお客様と接する第一線にたつ立場です。
ここでは不動産売買実務の全体像を、直感的に把握できるよう概要としてまとめました。各業務のステージではより詳細な説明すべき注意点がありますが、ここでは全体の流れを理解することに重点をおいた説明とします。
元付・客付・契約それぞれの業務フローとポイント
不動産売買での仲介業務は売主や買主と不動産会社との関係性や、業務の時系列により3つに分かれます。下図は3つの業務とその細目を、業務開始から取引終了までわかりやすく図解したものです。
仲介業務は大きく3つ。
- 元付業務
- 客付業務
- 契約業務
それぞれの業務の流れとポイントについて順に説明していきます。
1.元付業務の流れとポイント
売主から物件の売却を依頼された業者が “元付業者” であり、その業務が元付業務です。
媒介契約締結前に「不動産査定」をおこなっていることが普通ですので、売却物件の概要はある程度把握していますが、正式に媒介依頼を受けると元付業務は物件調査からスタートします。
【元付業務の概要】
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販売図面(マイソク)作成
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レインズ登録
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販売活動
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内覧立会
媒介契約の種類により媒介契約からレインズ登録まで期限が決まっており、「専属専任媒介契約」では1週間以内に登録する義務があります。
物件の調査不足はあとの取引において瑕疵の原因になることが多く、漏れのないよう調査をおこない、客付業者に公開すべき情報がまとまったら期限内にレインズ登録を済ませます。レインズへの登録をおこなうと登録証明書が交付されるので、必ず売主に提出することを忘れてはいけません。
またレインズ登録までの期間を利用して、自社で保有している購入希望者(購入見込み客)リストから、希望条件に合致しそうな客がいれば物件の紹介をすると、 “両手手数料” のチャンスもあります。わずか1週間~2週間ですが有効にビジネスチャンスを活用したいものです。
レインズに登録後は他社からの問い合わせに対応しながら、自社での客付け機会を狙って積極的な販売活動をおこないます。
販売活動により購入希望者が見つかる、あるいは他社の活動により購入希望者が見つかる場合もあります。どちらにしても必ず現地案内があるので、丁寧な物件説明をおこないましょう。
自社での現地案内では、お客様の反応をしっかり把握しておきましょう。万一、案内した物件が購入に至らない場合には、ほかの物件を紹介する際に参考情報となります。
元付業務をしていながら客付業務にもつながるアンテナを張っておくこと、これが優秀な営業マンの心構えです。
2.客付業務の流れとポイント
売却物件の買主を見つけるのが客付業務であり、客付けした業者が元付業者ではない場合を “客付業者” と呼んでいます。
客付業務は次のふたつのケースからスタート。
1. 不動産の購入を検討しているお客様からの「物件探し」依頼
2. 公開した売却物件情報への問い合わせ
2番目の「問い合わせ」客の場合は現地案内に進むことが多いので、ここでは1番目の「物件探し」を依頼されたケースについて話をつづけます。
【客付業務の概要】
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レインズ検索
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物件紹介
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現地案内
「中古住宅を買いたい」と希望するお客様。まずどのような条件の住宅を希望してるのか? できるだけ詳しく具体的にしていきます。
お客様は漠然とした希望を述べることが多く、条件が絞れない場合はたくさんの物件を紹介しても、結局決まらないことが多いもの。漠然としている希望を絞り込み、希望条件に優先順位をつけることがポイントです。
物件を調べ候補物件が見つかったら「物件紹介」そして「現地案内」と進みます。
現地で物件をみることにより、より条件が具体的に絞り込まれるもの。そしてお客様は担当スタッフと話し合いすることにより、考えかたが整理されていきます。
ここで気をつけたいことが「売ろうとしない! 」ことです。営業意識が強すぎるとつい “買わせよう” といった流れになってしまい、拒否反応のでることがあります。お客様が判断しやすいようなわかりやすい物件説明に徹することが大切。
物件はなんとなく気に入ってるが「本当に購入していいのだろうか? 」と、不安や疑問に思っている場合もあります。そのようなときには、ホームインスペクション(住宅診断)を提案してみるのも方法でしよう。
3.契約業務の流れとポイント
売却物件の現地確認と現地での説明が終わり、購入希望者が購入する旨の意思表示をおこなうと、 “契約業務” の開始です。
契約業務は元付業者と客付業者が協力しながら進めていき、業務上の責任についても共同で負います。
【契約業務の概要】
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条件交渉
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交渉成立
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売買契約準備
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重要事項説明
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売買契約
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決済引き渡し準備
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決済引き渡し
購入する旨の意思表示は書面によりおこなうので、購入申込書(買付証明書)に以下の買付条件を記載し署名押印してもらいます。
- 買付金額
- 売買契約希望日
- 決済引き渡し希望日
- 融資利用の有無
- そのほかの希望条件
買付金額は販売価格を下回ることが多いもの。
希望金額を明記することにより値引き要求する「指し値」という方法です。指し値がなければ販売提示価格で取引なので、ほかの条件が合意されるとすぐに契約準備に移ります。
指し値がある場合、元付業者は売主と協議をおこないます。
- 指し値に応じる
- 指し値に応じず取引を止める
- 新たに売り渡し価格を提示し購入希望者の判断を待つ
売主が出す結論はうえの3とおりです。2番目のケースはめったになく、指し値でOKとなるか売買価格の折り合いがつくまで、元付業者と客付業者を介して金額交渉がつづきます。
中間値あたりで折り合いがつき交渉がまとまることもありますが、ときには破談になることもあり、媒介業者がいちばん苦労するところです。
交渉がまとまると重要事項説明書の作成と売買契約書案の準備に着手。一般的にこの業務は「元付業者」がおこないます。
買主がローン利用する場合、この間に金融機関で「事前審査(仮審査)」をおこなうことが多く、客付業者は事前審査申込の補助業務をおこなったりします。
重要事項説明書と売買契約書案がひととおりできると、客付業者に連絡し「すり合わせ」をするのですが、最近はpdfファイルに変換しメール送付するなどしています。
特に特約条項や「瑕疵担保責任期間」についてはすり合わせをしっかりやる必要があるでしょう。
契約準備ができたら売主・買主のスケジュールを調整したうえで契約締結日を決めます。重要事項説明は契約の直前におこなうケースが多いですが、買主の意向によっては事前に説明する場合も。
契約締結が無事終了するとあとは粛々と決済・引き渡しに向けての準備に進みます。
- 元付業者は抵当権抹消の準備確認とか引き渡しに必要な書類の確認など
- 客付業者はローン本申込やリフォーム見積りの準備など
引き渡しには司法書士も立会いするので、スケジュール調整を忘れてはいけません。物件によっては抵当権者や債権者が同席することもあります。漏れのないように準備をおこないましょう。
まとめ
不動産売買の実務を簡単に説明しましたが、300万円の市街化調整区域にある100坪の土地を売るのも、3億円の一棟売りマンションを売るのも、仲介会社がおこなう仕事量は変わりません。
元付業者は物件調査からはじめて、契約前におこなう重要事項説明書の作成と売買契約の締結あたりがマンパワーのピークです。
客付業者は物件紹介からはじめて、現地案内そして買付証明をもらうころがピークです。
そのごの契約業務は取引が無事終わりそうな安堵感と、最後まで気を抜かないぞという緊張感がない交ぜとなった不思議な時間が流れます。
そして決済日の当日、お借りした銀行の会議室ですべて手続きが終わり、仲介手数料を受領するときに不動産仲介という仕事の楽しさをしみじみと味わうもの。
300万円の市街化調整区域と3億円の一棟売りマンションとでは、受領する手数料に50倍以上の違いがありますが、金額の問題ではありません。使命を果たしたという達成感がわきあがってきます。