不動産調査の効率化と望ましい調査の範囲

売却物件の事前調査項目は多岐にわたり、調査漏れがあっては重要事項説明において十分な説明ができず、不完全な売買契約を締結してしまう可能性があります。

遠隔地の物件は出張費などもかかり、売主に別途経費の精算をお願いすることも必要になってきます。

最近は不動産調査をアウトソーシングにより専門の調査会社に依頼する方法があり、不動産会社の業務効率化を図ることが可能になっています。

ここではあらためて不動産調査の必要項目を整理し、調査業務のアウトソーシングについて紹介します。

売却物件の不動産調査

不動産調査をおこなう項目を調査先別に分類すると次のようになります。

法務局調査 登記事項証明書
公図
地積測量図
建物図面
近隣地の要約書
役所調査 都市計画法および建築基準法等の規制内容
前面道路
ハザードマップ
インフラ調査 水道
下水道
ガス
現地調査 境界石
越境物
近隣環境
上空・地中
前面道路
マンション管理会社調査 管理状況
管理規約
長期修繕計画
修繕履歴
重要事項調査報告書
管理組合届出様式

法務局調査

法務局調査は現在ほとんどがオンラインで可能になっています。

ただし閉鎖された地図や地積測量図、過去に建っていた建物を調査するのに必要な閉鎖謄本など、法務局に赴かなければならない調査項目があります。

遠隔地であれば郵送請求するか、急ぐ場合は現地まで出張する必要もあるでしょう。

法務局での調査項目は「登記しなければ第三者に対抗できない」不動産の特性により、正確でかつ最新情報であることが求められます。

また正確かつ最新な情報であれば取引において齟齬の生まれることはなく、調査結果がのちにトラブルになることはありません。

役所調査

役所調査は主に都市計画法・建築基準法・自治体による条例・その他関連法による規制内容の調査になります。

この項目は調査時点の情報になり、後に関係法令などの改正や新設があり、近い将来に可能性のある事項についてはできるだけ詳細な情報を伝える必要があるでしょう。

調査結果の正確性については、調査を行う実施者のスキルや理解度によることが多く、調査結果を検証する体制の整備が必要です。

調査そのものはオンラインでできる項目もありますが、地方自治体によっては庁舎まで出向く必要もあるでしょう。

役所調査の項目でとくに注意しなければならないのは「違反建築物」と「既存不適格建築物」です。

違反建築物は書類上で詳細にチェックしないと見逃すこともあり、違反建築物と既存不適格建築物の区分が簡単に判別できないケースもあり、重要事項説明義務違反に該当する場合もあり注意が必要です。

インフラ調査

インフラ調査は供給事業所に出向いて情報収集する必要があります。

主に図面の取得になりますが将来の設備更新予定など、知り得ることは漏れのないように注意しなければなりません。

日本各地ではインフラ設備が耐用年数を迎えているケースもあり、とくに水道事業の民営化がおこなわれている地方自治体では、調査不足により将来トラブルにつながる可能性もあります。

現地調査

重要事項説明に関し取引上のトラブル発生の多くは現地調査に関係する項目です。

建物に関しては「契約不適合責任」に関係する事象や、土地に関しては越境などの権利関係の調整が必要なものもあります。

また2020年から検討されている「心理的瑕疵」については、ガイドラインが整備されたとしても社会的に認知・周知されるには時間がかかり、今後も不動産取引上のトラブルとして重要な要素と言えるでしょう。

心理的な瑕疵と似たようなものに「環境瑕疵」もあります。

嫌悪施設については物件までの距離に明確な基準はなく、主観的な判断となります。隣人トラブルや近隣トラブルの有無や反社会的勢力の存在に気付かず、契約解除・損害賠償請求へとすすんでしまうこともあります。

ほかにも現地調査の不備や不足により買主から契約解除を申出されるケースはたくさんあり、この調査をアウトソーシングする場合には網羅できる範囲をあらかじめ確認することが大切です。

マンション管理会社調査

分譲マンションの管理はほとんどの場合、管理組合が国土交通省に登録をした「マンション管理業者」に業務の委託をしています。

管理業者は日常の維持管理業務のほか、管理費や修繕積立金の管理もおこなっており、月次の残高や滞納額など区分所有物件の売買に際し必要な、重要事項調査報告書を交付しています。

長期修繕計画や修繕履歴記録など管理に係る書類整備や、管理規約の改正・更新などの管理組合がおこなう業務のサポートもおこなっており、マンション管理業者が準備する書類にもとづき重要事項説明書を作成することが可能です。

不動産取引に関する不動産調査のアウトソーシング

2021年9月現在、不動産調査に関するアウトソーシングサービスをおこなっている事業者として次のような企業があります。

・東京カンテイ https://www.kantei.ne.jp/
・あおいアセットコンサルティング http://aoi-asset.co.jp/
・不動産コレクション http://fudocolle.com/
・こくえい不動産調査 https://www.chosa1.com/index.html

それぞれの事業者のサービス概要は以下のとおりです。

事業者名 調査可能エリア 調査項目 備考
東京カンテイ 全国 法務局調査
役所調査
インフラ調査
現地調査
業務委託契約書の締結が必要
あおいアセットコンサルティング 東日本 法務局調査
役所調査
インフラ調査
現地調査
メール見積・メール依頼
不動産コレクション 全国 法務局調査
役所調査
インフラ調査
現地調査
メール見積・メール依頼
こくえい不動産調査 関東・関西 法務局調査
役所調査
インフラ調査
現地調査
メール見積・メール依頼

不動産調査はある程度の経験が必要です。

不動産仲介会社では営業スタッフが調査業務もおこなっているケースが多く、経験の浅いスタッフが担当した場合の調査漏れやミスは、売買契約における重要事項説明義務違反など致命的なトラブルに発展する可能性があります。

また営業業務と調査業務の兼務はスタッフの負担を重くし、業務効率の面でも望ましいものではありません。

調査会社では専門の調査員がおり、とくに不動産取引上のトラブルになりやすい「現地調査」においては、豊富な知識と経験により信頼性の高い調査の実現が期待できます。

仲介会社においては社内に「調査部門」を設置し、社内における調査ノウハウや知見を高めることを実践しているケースもあると考えられますが、調査アウトソーシングも効率化を図る方法と言えるでしょう。

まとめ

売買物件はひとつとして同じものはなく、また以前扱った物件を再び売買することもあります。

同じ物件であっても時間が経過すると物件そのものの変化や、周辺環境の変化に法律上の規制の変化など、常に最新の状態や情報にもとづいた調査をしなければなりません。

取引上・契約上の瑕疵についても厳密性が求められる今日です。物件調査は徹底的に深堀する必要があると言えるでしょう。

一人でおこなうよりも二人でおこなう方がミスは少なくダブルチェックも可能です。

物件数が多く社内の調査だけでは時間が足りないなど、状況に応じてアウトソーシングの活用を考えてみてはいかがでしょう。

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