不動産会社ってどうやって収益を上げているの?そんな疑問を抱く方は少なくないかと思います。
1896年に「東京建物」が創設され、土地に建物を建てて売るという現在の不動産デベロッパーのビジネスモデルが体系化されました。しかし現在に至るまで不動産業界の構造は大いに複雑化し、各企業は様々なビジネスモデルによって収益を上げています。
そんな不動産業界のわかりずらいビジネスモデルについて、今回は各セグメントごとに図式化し、わかりやすく解説していきたいと思います!
【導入】不動産業界の全体像
まずは不動産業界の全体像を見てみましょう。不動産会社は以下の6種類に大別することが出来ます。
②不動産売買仲介:不動産の売主と買主の仲介をする
③不動産賃貸仲介:不動産の貸手と借手の仲介をする
④不動産管理 :不動産の賃貸/分譲物件の管理をする
⑤不動産賃貸 :自社が持つ不動産を賃貸する
⑥不動産投資 :集めた資金で不動産を運用する
また、それぞれのセグメントの関係性は大まかに以下の図のようになっています。
それでは以下の章で①~⑥の不動産事業ついて、ビジネスモデルを中心に詳しく解説していきたいと思います。
①不動産開発
不動産開発とは、個人や法人から買い取った土地に家やマンション、オフィスビル、商業施設などを建設し、販売する事業です。「デベロッパー」や「ハウスメーカー」などがこれにあたります。販売相手は個人の場合もありますが、法人のケースが多いです。そのため不動産開発会社は、②や③の仲介会社と比べて一般消費者への認知度は低いかもしれません。また販売方法については、自社で販売することもありますが、一般的には同系列の不動産売買仲介会社に委託します。レオパレスなどのアパートデベロッパーは開発から販売までを一貫して行っている事例です。
以下に代表的な不動産開発会社を上げてみました。
- 総合デベロッパー
三井不動産、三菱地所、野村不動産 - 戸建デベロッパー
飯田ホールディングス、オープンハウスデベロップメント - アパートデベロッパー
レオパレス、大東建託 - ハウスメーカー
住友林業、積水ハウス
ではビジネスモデルについて見てみましょう。
【図解】不動産開発のビジネスモデル
不動産開発業者の最初のステップは土地の購入になります。土地の地権者と交渉の末土地を取得できたら、その土地の環境に合わせたプロジェクトの計画を行います。計画は自治体や国などとともに策定し、案が通れば着工します。建設はゼネコンに外注することが多く、その際にかかる建設費用を負担します。この建設費と土地の取得にかかった費用が主なコストとなります。そして、開発が終わった際に個人や法人、不動産会社などに売却した際の売却益によって収益を得ます。
なお上の図では表していませんが、土地の所有者が土地を提供するのに対し、開発事業者は建設費を出資する不動産開発形態もあります(等価交換方式)。その際は地権者が所有権を獲得した建物の一部以外から売却益を得ることになります。
②不動産売買仲介
不動産売買仲介とは、個人や法人などの不動産の売り手と買い手の間を取り持ち、契約の締結までをサポートする事業です。そのためほとんどのケースで中古物件を扱います。②不動産売買仲介会社と③の不動産賃貸仲介会社はいわゆる「不動産屋さん」として、一般消費者にとって不動産業界の中では最も身近な存在と言えるでしょう。また、高額な商材を扱うことなどから売買取引には専門知識を要し、契約締結の仲介を行うためには「宅地建物取引士」という国家資格が必要になります。
以下に代表的な不動産売買仲介会社を上げてみました。
- 三井不動産リアルティ
- 住友不動産販売
- 東急リバブル
- 近鉄不動産
- センチュリー21
- ハウスドゥ!
ではビジネスモデルを見ていきましょう。
【図解】不動産売買仲介のビジネスモデル
不動産売買仲介会社は①客付業者と②元付業者の2つに分けられます。
①客付業者は、買主に対して営業をかけ、適切な物件を提示したのちに買主から仲介手数料を得ます。
②一方の元付業者は、不動産の売主に対してアプローチをかけ仲介手数料を得ます。物件を売りたい人が見つかったら、客付業者と連携しながら一連の取引を完結させます。なお元付業者の中には、買主と売主両者に対して営業をかけ、両者から仲介手数料を得る会社もあります。こうした取引方法を「両手取引」といいます。一方、片方から手数料を得るモデルを「片手取引」といいます。
以下の「片手取引」「両手取引」の両社のビジネスモデル図をご覧ください。
以上の図からもわかるように、不動産仲介業はいずれもフィービジネスになります。その中で不動産賃貸仲介と不動産売買仲介の相違点となるのが、手数料の上限値の大きさです。以下の表からわかるように、売買仲介の手数料は数百万円にも上ることがある一方、賃貸仲介の手数料は数十万円程度となります。
売買 | 売買価格の3%+6万円(売買代金が400万円以上のケース) |
賃貸 | 賃料の1か月~2か月分 |
③不動産賃貸仲介
不動産賃貸仲介とは、個人や法人などの不動産の貸手と借手の間を取り持ち、契約の締結をサポートする事業です。②不動産売買仲介の「賃貸」バージョンといっていいでしょう。賃貸仲介の締結の際にも②と同じく「宅地建物取引士」の資格が必要となります。また以下で詳細に説明しますが、賃貸仲介と売買仲介では収益化構造に大きな違いがあり、③賃貸仲介の方が収益を上げずらいというのはポイントになりますので覚えておいてください。
以下に代表的な不動産賃貸仲介会社を上げてみました。
*なお、以下の会社の多くは⑤不動産賃貸と被っています。③不動産賃貸仲介をメインの領域として行っている企業の多くは地場の中小企業であり、ここに挙げる企業は大手企業なので開発から賃貸の流通、管理運営までを統合的に行っています。
- 大東建託
- レオパレス
- 三好不動産
- アパマンショップ
- ピタットハウス
ビジネスモデルは基本的に②不動産賃貸仲介と同じなので、そちらをご参照ください。
④不動産管理
不動産管理とは、マンションなどの共同住宅やオフィスなどの管理・運営を行う事業です。身近な例としては「マンションの管理人」が所属する会社になります。具体的な業務には清掃や設備修繕、管理組合との調整などが挙げられます。大手不動産企業が保有する物件の管理を行うことが多いため、そうした企業の系列企業、あるいは子会社が多くを占めます。
以下に代表的な不動産管理会社を上げてみました。
- マンション管理
三井不動産レジデンシャルサービス、日本ハウズイング、合人社計画研究所 - ビル管理
三井不動産ビルマネジメント、三菱地所プロパティマネジメント - アパート管理
積水ハウス、大東建託、大和リビング、東建コーポレーション
さて、ここからはビジネスモデルについて見ていきましょう。
【図解】不動産管理のビジネスモデル
不動産管理会社のビジネスモデルは比較的わかりやすいかと思います。
管理する物件がマンションなのかビルなのか等により収益化ポイントに若干の差異はありますが、一般的には不動産を所有する個人や法人から管理業務を引き受け、その報酬を受け取る形になります。
不動産業界では、売却益によって収益を得るショット型のビジネスモデルより、安定した収益を長期間に渡って得られるフロー型が好まれるようになってきています。
その中で不動産管理のビジネスモデルはとりわけボラティリティが低く、不動産賃貸仲介や不動産賃貸業務と一緒に営む不動産業者も増えています。
⑤不動産賃貸
不動産賃貸とは、自社で保有している不動産物件を個人や法人に貸し出すことで収入を得る事業です。③は主に自社で保有していない物件を紹介し、仲介手数料を得るのに対し、不動産賃貸では借り手から定期的な収入を得ることが出来ます。なお、アパートに関連する不動産会社などでよくみられる事例になりますが、開発から賃貸、管理までを統合して行っている企業もあり、業務は違いながらも会社としては①や③~⑤が同一となるケースも多くみられます。
以下に代表的な不動産賃貸会社を上げてみました。
- 大東建託
- レオパレス
- 三好不動産
- アパマンショップ
- ピタットハウス
大手企業の多くは賃貸と流通(仲介)を同時に行っているため、③不動産賃貸仲介の会社例と同じになりました。
ではビジネスモデルを見ていきましょう。
【図解】不動産賃貸のビジネスモデル
不動産賃貸は言わずもがな、保有する不動産の一部ないし全体を貸し出すことで、貸手からその報酬として賃料を得るビジネスモデルです。
賃料は相場によって決定するため、「駅から近い」「築年数が若い」といった不動産の性質によって差別化する必要があります。
⑥不動産投資
不動産投資とは、個人や法人などの投資家から集めた資金でビルなどを運用し、家賃収入や売却益などによって収益を得る事業です。運用する不動産には、ビルや集合住宅、駐車場、倉庫、商業施設など様々なものがあります。一般的には、不動産を証券化することで、事業者が自らの信用力やリスクに依存せずに資金調達出来たり、投資家が小口で投資を行えるようにします。
以下に代表的な不動産投資会社をまとめました。
- プロパティエージェント
- FJネクスト
- オープンハウス
- GAテクノロジーズ
それではビジネスモデルを見ていきましょう。
【図解】不動産投資事業のビジネスモデル
そもそも不動産の証券化には、①資産運用型と②資産流動型の2つのタイプがあります。収益が発生する仕組みとしてはどちらもほぼ同じ扱いですが、不動産投資事業のビジネスモデルを理解するにあたって両者の違いは非常に重要となってきますので、詳しく説明します。
①資産運用型とは、投資家の不動産による資産運用のサポートを目的としています。要するに資産運用型の不動産投資企業は、不動産を運用することを名目に投資家から資金を集め、仲介手数料をとることで永続的な企業活動を目指しています。よってまずは投資家から資金を集め、それを元手に不動産に投資して運用し、運用収益を投資家に分配します。そうしたことから、「資金ありきの不動産証券化」と呼ばれます。
②一方の資産流動型は、不動産を保有する企業の資金調達のサポートを目的としています。ある企業が不動産を保有している場合、その不動産が生み出す収益を担保に資金を集めたり、財務ポートフォリオを改善するために不動産を証券化するケースがあります。その際、証券化の手続きや証券の発行を代行することでその手数料から収益を得ます。よって第一に不動産があって、それをもとに収益を集めるという構造のため「資産(不動産)ありきの不動産証券化」と呼ばれます。
これらを前提としたうえで、両者のビジネスモデルをまとめると以下のようになります。
図からわかるように、資産運用型の不動産投資会社は投資家から手数料を得ることを主な収益源とするのに対し、資産流動型の不動産投資会社は不動産を保有する法人から手数料を得ることを主体としています。
まとめ
以上のように、不動産業界のビジネスモデルは多角化しており、その構造をうまく説明するのは容易なことではありません。
しかしながら上記の6つさえ説明できれば、ほとんどの不動産会社のビジネスモデルに対応できるでしょう。DXが進む同業界においても根本的な収益化構造は同じであり、その多くが以上の6つの派生形だからです。
これらの違いをしっかり押さえることで各社がいずれのセグメントに所属するのかを認識することができ、各社のビジネスモデルに関してさらに細かく分析することが出来るでしょう。