10年以内に予想される不動産テックの大きな変化は、売買仲介業の事業基盤にも影響を与え、経営戦略を見直さなければならない可能性があります。
不動産仲介業者の今後の選択肢として、買取事業に活路を見出す必要があると考えられ、仲介専門の事業者は経営方針を転換する時期が来ています。
ここでは今後10年以内に生じる不動産業界の変化と、買取りを主体とした仲介業者の経営戦略について解説します。
不動産仲介業の役割とは
不動産を売り買いするのが不動産会社の仕事と、思われる時代は過去のことになりそうです。
現代はポータルサイトに多数の物件が掲載され、売りたいと考えている人にはAIが瞬時に査定価格をはじき出してくれます。
・引渡し手続きに問題が無く代金決済が安全におこなわれる
・契約対象物件の性能面などに瑕疵がない
・売買価格は納得のいく適正な金額である
このような条件がクリアされると不動産会社を介さずとも、直接取引をおこなうことが可能です。
売主は一般媒介契約に留めておくと、自ら販売活動をすることに何の支障もありません。
不動産流通のソリューションは売主買主の自由な活動を支援してくれ、不動産仲介業の必要性を否定する流れに進んでいくことでしょう。
買取りか仲介か
仲介業の社会的役割が薄れていくことが予想されますが、では仲介業者は今後どのようなビジネスモデルを描けるのでしょう。
仲介業は不動産の売却を希望する所有者の存在が必要です。
所有者が売却を意図する原因として次の2つがあげられます。
・売却して資金が必要になった
資金が必要になった場合、売却以外にも現代は次のような方法があります。
・リバースモーゲージ
事業者にとってリースバックは「買取り+賃貸」であり、リバースモーゲージは「予約売却+貸付」となります。
このような資金調達方法が増加すると、売買市場に物件が出ることはなく相対的に仲介物件数の減少につながっていくことでしょう。
仲介物件数の減少は仕事の減少であり、競争は厳しく強い企業は売買案件を独占し、弱い企業は売却の難しい物件しか扱えないような二極化が生まれます。
仲介業界の寡占化
二極化の現象はレインズで地域を特定して販売中物件を検索し、取扱業者ごとに並べ替えをすると、大手仲介業者の取扱件数の多さでよくわかります。
地元密着で商売をする小さな不動産会社の件数は少なく、リストに掲載されない業者もいます。
確実に仲介業界では大手不動産会社による寡占化が進んでいます。
さらに電話・FAXでのビジネススタイルをつづけている小規模事業者に代わって、DX(デジタルトランスフォーメーショ)により最先端の不動産テック企業が登場しています。
新築から中古へとストックビジネスが注目される今日ですが、仲介業で圧倒的多数を占める小規模事業者は、プレーヤー交代を余儀なくされる状況といえるでしょう。
では仲介業者は今後どのようなビジネスモデルを描くべきでしょうか。
それは「買取り」ではないかと思います。
単に転売し利ザヤを稼ぐといった旧来の方法ではなく、リフォーム・リノベーションにより再生させ、新たな価値を創りあげるビジネスモデルはすでに先行企業が存在します。
オーナーチェンジ物件を買取りし、賃貸が終了した時点でリフォームすることにより、価値を付加して売却する「裁定取引」により成長した実例もそうです。
また再生した物件を高級賃貸物件として、ストックビジネスに活用するなどのモデルもあります。
小規模事業者であっても再生方法を研究しプロデュース力を高めることにより、差別化できる商品を生み出すことが可能になります。
そのことにより、ICTに多額の投資をかけられる大手および不動産テック企業とは別のマーケットで、生き抜くことができるのではないでしょうか。
買取り事業と投資資金
買取り事業をおこなうには物件を買取り再生させる資金が必要です。
資金調達は事業基盤の最重要テーマであり、企業の成長過程においても常にクリアしなければならない条件のひとつです。
資金調達方法には以下のようなものがあります。
・民間企業や財団などからの出資
・ベンチャーキャピタルや投資組合などからの出資
・個人投資家からの出資
・クラウドファンディング
小さな企業であっても効果的に資金調達を可能にするのが「クラウドファンディング」です。
クラウドファンディングによる資金調達は、インターネットによる投資家募集や勧誘を、不動産事業者ではないICT企業などに委ねることが可能です。
不動産会社が自ら投資家を募らずに資金調達が可能となる「小規模不動産特定共同事業」のスキームがそのひとつです。
小規模不動産特定共同事業については、改めてテーマとして取り上げる予定でおり、そのときに詳しく述べますが、不動産会社がクラウドファンディングにより買取り資金を調達できるようになったことは大きな機会を得たといえるでしょう。
不動産流通の変化
不動産は長い期間売買が禁止されていました。
何故なら土地の所有権は元々認められていなかったからです。
売買ができるようになったのは、土地の私有化がはじまった1872年(明治5年)のことです。
その後、宅地建物取引業法が制定される1952年まで、80年間は自由に不動産の売買が行われていました。
しかし取引に不正が生じるケースや、仲介する業者の不誠実な行為などにより、不動産取引において損害を蒙る人も出てきました。
宅建業法による規制により一定の規範が守られるようになったのが今日です。
しかし不動産テックが成長発展し、ブロックチェーンによる情報の共有管理などが実現すると、法規制よりも有効な方法により不動産が流通する仕組みができる可能性がでてきました。
これまで宅建業法を根拠とした不動産会社による仲介業務は、社会的な必要性が減少し、不動産流通のプレーヤーとして重要なポジションではなくなるかもしれません。
このような変化は非常に大きなもので、地域に根差した不動産会社であっても、ビジネス機会を失うほどの影響があります。
10年以内に不動産業界で起こるDX(デジタルトランスフォーメーショ)は、小規模な事業者ほど注目しなければならない出来事といえるでしょう。
まとめ
不動産テック、DX(デジタルトランスフォーメーショ)などの新しい動きにより、大きく変化する不動産仲介業の姿をみてきました。
企業活動は常に社会の変化を敏感に捉え、将来を先取りするような積極的姿勢が大切です。
売買物件の仲介業務を主としてきた不動産会社は、今後のビジネスモデルを考えるうえで「買取り」ビジネスを重要視しなければならない局面が到来すると想像します。
そのためには資金調達が必須であり、可能性の高い調達方法を戦略的に準備することをおすすめします。