民法改正により「瑕疵担保」の概念が変わる

1896年 (明治29)に制定された民法は2020年に改正され、基本法が新しくなりました。

改正範囲は主に “債権” に関わる部分で、不動産実務においては「売買契約」「賃貸借契約」に改正民法が反映されます。

120年ぶりともなる大改正であり、不動産業界においては数年前から改正内容について注目されていました。

ここでは主に大きく概念の変わった「瑕疵担保責任」について、改正点を整理してみます。

瑕疵担保責任から契約不適合責任へ

旧法にもとづく売買契約書においては、瑕疵担保責任について次のように規定していました。

・物件に隠れた瑕疵があることにより、買主が目的を達せられない場合に契約解除または損害賠償が可能・契約解除によっても買主に損害がある場合は損害賠償が可能
・瑕疵担保責任にもとづく買主の契約解除と損害賠償請求権は引渡し後1年以内が有効

新法による売買契約書では次のようになります。

・物件の種類や品質に関し契約内容に適合しないもの(契約不適合)がある場合は、買主は修補および損害賠償の請求ができる
・ただし上記において、契約不適合が社会通念上売主の責めに帰することのできない場合は除く
・物件に契約不適合があり、その不適合の内容が軽微ではない場合、修補を催告し契約解除ができる
・契約解除により買主に損害がある場合には、損害賠償請求が可能
・ただし上記において、契約不適合が社会通念上売主の責めに帰することのできない場合は除く
・物件に契約不適合があり、相当な期間を定めて修補を催告したうえ、契約解除と損害賠償請求に代わり代金の減額を請求することが可能
・契約不適合があった場合、引渡し後1年以内に通知すると、契約解除と損害賠償請求権はいつでも行使できる

旧法では「隠れた瑕疵」とひとくくりされた不具合について、特約によりすべての隠れた瑕疵に対する責任を免除することが可能でした。

しかし新法では、契約全体の債務不履行までも免除することになり、すべての契約不適合に対して免除する特約は使えなくなりました。

したがって契約不適合責任を負わない不具合などについては、個別に明記し売主・買主が合意しておく必要が生じたのです。

たとえば次のような明記が必要になります。

・過去に雨漏れしたことがあり雨漏れに関しては責任を負わない
・旧耐震基準により建てた建物であり耐震性能については責任を負わない

以上のようにひとつひとつを明確にしておかなければ、後に買主が「契約不適合」と判断した場合、修補の請求や損害賠償または代金の減額請求を受ける可能性があります。

さらに契約不適合の事実を1年以内に通知すると、請求そのものは1年経過してからでも可能となりました。

不動産に関係する民法改正

120年ぶりの民法改正ですが、非常にわかりやすくなったといえそうです。

不動産に関係する他の改正点をみていくと、そのように感じる部分があります。

1. 追完請求権

瑕疵担保責任には「追完請求権」がありませんでした。

つまり不完全な部分や不具合があっても、売買契約においては取引の目的物は「特定物」のため、売主には完全なものを引き渡す責任はないとし、ただし買主の損害賠償や契約解除を認めていました。

しかし建物の請負契約では、瑕疵があった場合の修補請求権を旧民法では認めていました。

買主によっては損害賠償よりも不具合を修補してもらえれば・・・と考えるケースもあり、より自然なことといえるのです。

改正民法は買主の「追完請求権」を認めたので、常識にそった法律内容になったといえます。

2. 代金減額請求権

契約した対象に不具合などがあった場合、代金の減額を請求する権利は旧民法ではありませんでした。

ここも一般感覚からすると納得のいかない部分でした。

追完請求権が認められたことにより、買主が追完請求をし売主が追完履行しない場合には、不適合の程度により代金の減額を請求することが可能になったのです。

3. 履行利益も損害賠償の範囲

損害賠償の範囲が改正民法により拡大しました。

旧法では損害賠償が認められる範囲は「信頼利益」まででしたが、改正により「履行利益」も請求できるようになりました。

この点に関しても履行利益の賠償請求は、一般感覚として妥当なものといえるでしょう。

改正民法と今後の不動産業

法律は将来起こりうるすべてのトラブルを解決するものではありません。

成文法では解釈できない事象や、想定外の事象などがあった場合、類似の裁判を参考にして判断するケースもあり、そのような利用の仕方をするのが「判例」です。

改正民法により瑕疵担保責任は、法定責任から債務不履行責任へと変わりました。

根本的な概念の変更にともない、判例による解釈が変わる可能性があるのです。

宅建業法制定からすでに70年、民法および宅建業法にもとづき、さまざまな裁判における判断が下されてきました。

そのなかには判例にもとづいた判決もあり、法律は成文法の成立だけによって目的を果たすわけではありません。

今後は改正民法にもとづいたさまざまな判例の積み重ねにより、不動産業にかかわる紛争が生じた場合の法律解釈がされていくでしょう。

契約にかかわる宅建業者のコンプライアンスも、ますます大きく求められるようになります。

『重要事項説明におけるハザードマップの位置づけ』で述べたように、宅建業者に期待される社会的責任は大きく変わってきました。

「不動産屋」「千三ツ屋」「不動産ブローカー」などと呼称される時代は過ぎ去り、宅地建物取引の専門家は “士業” として認められ、コンサルティング能力も必要とされるようになりました。

2020年、宅建業者には新しい民法にもとづき、よりわかりやすくトラブルのない、公正な取引の実現が期待されています。

まとめ

57回にわたり不動産業の歴史について “私見” を披露してきました。

日本において “産業” としての「不動産業」が誕生したのは、民法が制定された1896年(明治29年)ころと考えてよいのではと思います。

このときには「東京建物」が設立され、三菱・三井・住友・安田と財閥による不動産業の形成がなされました。

以来120年余の歴史を刻み民法は改正されることとなり、不動産業界も新しい時代を迎えることになったといえるでしょう。

奇しくも全世界は「コロナ禍」という、未曽有の災害にも匹敵する苦難のなかにいます。

産業構造や仕組みにも変化が起こる可能性があります。不動産に対する価値観にも変化があるかもしれません。

2020年は大きな転換点になるのかもしれません。

追記:民法の改正点については法務省が公表している「民法(債権関係)の改正に関する説明資料」がわかりやすく、参考になると思います。

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