ワーケーションや多拠点居住など地方の物件が注目されており、家庭菜園や本格的な農業を営む生活を望むユーザーの増加もみられるようになりました。
このような現象は売買物件にも賃貸物件でも生じており、取り引きには「農地法」が適用されるケースもあります。
不動産の取り引きは本来自由におこなうことができるのですが、農地の取り引きに限ってはいろいろと制限があります。
この記事では田舎暮らし物件や畑付き住宅と農地法の関係について解説します。
デュアルライフに欠かせない畑
多拠点居住や田舎暮らしの魅力として、自然と調和した生活を語る人が多くなっています。
その中心となるのが野菜を作る「畑」や、キノコや山菜が豊富に採れる森林などが近接した生活環境です。
最近は「畑付き賃貸住宅」といったジャンルが生まれ、ポータルサイトには本格的に農業の体験をできる物件から、家庭菜園を楽しみながら生活できる物件が増えています。
売買物件も同様で「田舎暮らし向き」のコピーがついた物件も目立つようになってきました。
新型コロナ感染症対策としても多くなった「ワーケーション」の拠点として、畑のある生活環境を望むケースもあります。
畑で野菜を育て旬の味を楽しみ季節の移ろいを感じながら生活をする、このようなことが都会のなかでも可能になっていますが、実は農地を自由に使うには法律の制限があります。
畑として使える土地には2種類ある
畑となっている土地あるいは畑に使えそうな土地には2種類あります。
「農地」と「農地以外」です。
・農地以外とは土地登記簿上「農地」以外の土地、および地目が「農地」であっても、農業委員会の判断で非農地であることを証明できる土地
上記のように登記簿上において地目が「農地」となっている土地や、地目が農地以外であっても、農地法上の「農地」に該当する場合は、誰でも自由に農地を利用できるわけではないことに注意をしなければなりません。
農地法の制限
農地法は上記のように土地登記簿上の地目が「農地」となっている土地のほか、地目が農地ではなくとも、事実上『耕作の目的に供される土地』をいい、休耕地や山林に植えた「植林用の苗圃」や「果樹園」も農地に含まれます。
ただし宅地内などで一時的に野菜を作るなどの家庭菜園類は農地に該当しません。
農地の所有権移転・地上権設定または移転・賃借権設定または移転などは規制があり、農業委員会の許可が必要となります。無許可で権利移転などをした契約は無効になります。
また農地を農地以外の用途に使用する「農地転用」も農業委員会の許可が必要です。
上記のように、畑付き物件として賃貸借あるいは売買により権利の設定や移転がある場合には、農地と認められる土地に対して農地法が適用され規制を受けることになります。
農地は所在するエリアにより2種類にわかれます。
2. 上記以外の農地
市街化区域内の農地に対する規制
市街化区域内の農地は「生産緑地」として指定されており、都会に存在する土地でありながら宅地化せずに「都市農業」の基盤として、計画的に農地を保全する目的をもっています。
また生産緑地に指定された農地は市街化区域に存在する土地であっても、固定資産税の課税は農地並みとなり、一定規模以上の農地は生産緑地の指定を受けていることが多いのです。
生産緑地は「保全すべき農地」であり、その権利設定や移転に関しては農地法が適用され規制を受けることになります。
しかし2022年以降は生産緑地の指定が解除される農地が増加することが予想されており、宅地化される農地が増加する可能性が高くなっています。
農地の権利移転や設定などの申請は農業委員会になります。
市街化区域内の農地以外の農地に対する規制
市街化区域以外の農地は外見上も「農地」とわかる土地であり、たとえ休耕地であっても農地法の規制を受けることに変わりはありません。
市街化区域以外の農地は面積が広く、4haを超える農地に関する許可申請は農業委員会経由で、都道府県知事と市区町村の許可が必要になります。
農地の売買
「田舎暮らし向き」物件の売買で農地に該当する場合は農業委員会の許可が必要です。
住宅と農地を一体として売却する物件は農地法が適用され、購入者の農地に対する使用目的は「農業」でなければなりません。
また一般人が農業を目的として農地を購入できるかについては、農地法第3条第2項に次の規定があります。
2. 権利を取得する個人および法人に、耕作の事業に常時従事する世帯員や従業員がいる
3. 権利を取得する農地の面積が規定以上である
つまり取得した農地をすべて効率よく使用し、常時従事する人がいて面積が規定以上であれば購入は誰でもできるわけです。
問題は「全部を効率よく常時農作業」ができることを求めており、取得する前から農家である必要はありません。
取得後にきちんと農業が営めることが要件となっています。
規定の面積については「北海道では2ha、都府県では50a」と規定していますが、農業委員会が「別段の面積」を定めることができ、市町村によってもっと小さな面積でも可能になっています。
農地の貸借
農地を貸すには農地法にもとづく賃貸借または使用貸借にして畑を貸す方法と、「市民農園」として貸す方法があります。
農地法にもとづく貸借は売買のときと同様の要件が求められます。
市民農園には次の3つの方法があります。
2. 特定農地貸付法による場合
3. 農園利用方式による場合(法律の規制なし)
畑付き賃貸住宅では、入居者に効率よく農地全体を耕作させ、常時従業員がいる状態を求めるのはむずかしく、市民農園としての活用方法はハードルが低く有効な方法と言えそうです。
農用地利用集積計画
農地の売買や貸借手続きを農地法によらずに、所有権の移転や使用権の設定をよりスムーズにおこなう制度があります
農業経営基盤強化促進法にもとづくもので、市町村が「農用地利用集積計画」を作成し農業委員会が認めた場合に適用でき、特徴としては次のようなポイントをあげることができます。
2. 貸借契約の場合は期間満了により契約は終了する
3. 売買の場合は市町村が所有権移転を嘱託登記できる
農地の売買や貸借にあたっては、市町村の「農用地利用集積計画」の適用についてまず確認することが大切です。
参照:農林水産省「農地の売買・貸借・相続に関する制度について」
まとめ
農地の売買や貸借は農地法による方法と、農業経営基盤強化促進法にもとづく方法の2とおりあります。
農地法にもとづく方法は従来からおこなわれてきましたが、農業経営基盤強化促進法にもとづく「農用地利用集積計画」を作成する市町村が増えており、農地の取り引きは従来よりも柔軟になっています。
大都市の住宅地に存在する生産緑地は、2022年以降変化が生じることが予想され、不動産取引に農地が絡んでくる事例も増えてきます。
宅地建物取引と農地取引の線引きが薄くなり、農地に関する法的知識が不動産業者には必要とされるようです。