重要事項説明で求められる災害に対する安全性の意味

不動産の賃貸借契約・売買契約では、締結前に重要事項について書面を交付して説明をおこないます。

説明する内容のなかには法律による制限などがありますが、対象物件が存在するエリアの災害に対する安全性に関わる内容も含まれています。

宅地建物取引士は説明するにあたって、制限の内容に重きをおいて説明するケースと、エリアの安全性にまで踏み込んで説明するか取引士により異なっているのが実状です。

借主・買主は「利用者」の立場であることが多く、関心は「安全性」に対するものが強いと言えるでしょう。

ここでは「安全性」に関わる説明事項について、取引士が理解しておかなければならない基本的な事項について解説します。

重要事項説明において説明義務のある物件の安全性や制限

重要事項説明では対象物件に関して法律により受ける制限についての説明をおこないます。

次の法律は制限を受けると共に物件や物件周辺の安全性に関わる内容を含むこともあります。

1. 宅地造成等規制法
2. 水防法
3. 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律
4. 建築物の耐震改修の促進に関する法律
5. 特定都市河川浸水被害対策法
6. 津波防災地域づくりに関する法律
7. 砂防法
8. 地すべり等防止法
9. 急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律
10. 石綿障害予防規則

なかでも1~4は該当する物件が多く、買主は制限の内容よりも購入する物件の安全性について強い関心を持つことが多い項目です。

宅地造成等規制法による制限と区域指定

宅地造成等規制法は1961年に成立した法律で1962年に施行されています。

神奈川県と兵庫県で発生した集中豪雨による崖崩れがきっかけでした。

宅地造成工事により危険な盛土が行われ、豪雨により災害が発生することを防ぐため、危険な造成工事が行われやすい地形となっている区域を「宅地造成工事規制区域」と指定し、宅地造成工事に一定の規制を設けることが目的でした。

2021年4月1日現在、規制区域に指定された面積は国土面積のわずか2.7%です。

参考:国土交通省「地方公共団体別宅地造成工事規制区域面積一覧」

しかし宅地造成工事規制区域以外にも、危険性の高い大規模な造成宅地が存在したため、2006年の宅地造成等規制法改正により「造成宅地防災区域」を指定できるようにしました。

つまり宅地造成等規制法による制限は、まず「宅地造成工事規制区域」の指定により新たな宅地造成工事を規制し、さらに「造成宅地防災区域」の指定により既存の造成地に対しても災害防止の措置などができるようになっています。

「造成宅地防災区域」の指定は、これまで大きな災害発生があった地域で指定されており、危険性のある造成地がすべて指定されているわけではありません。

規制区域もしくは防災区域に指定されていない場合、重要事項説明においては「指定外」と説明するに留まっていますが、説明の意図は「宅地造成等規制法による制限を現在は受けていない」ことであって、制限を受けないほどの「安全性」があることを説明するものではありません。

しかしながら説明を受ける買主は「制限を受けない=安全」と受取る可能性があり、取引対象エリアの実状に合わせた説明が必要であると言えます。

水防法施行規則によるハザードマップ

重要事項説明,安全性

重要事項説明では水害に関するハザードマップの説明が義務化されていますが、ハザードマップはほかにも種類があり、全国自治体の整備状況は次のようになっています。

・水防法にもとづくハザードマップ:公表済98%
・想定最大規模降雨に対応したハザードマップ:公表済41%
・内水ハザードマップ:公表済75%
・津波ハザードマップ:公表済91%
・高潮ハザードマップ:公表済12%
・土砂災害ハザードマップ:公表済84%
・火山ハザードマップ:公表済100%

出典:内閣府政策統括官(防災担当)「令和2年版防災白書 付属資料」

水害に関しては3種類のハザードマップがあり、整備が進んでいるのは水防法にもとづくものであり、想定最大規模降雨に対応したハザードマップや、内水ハザードマップはより重要な情報とも言えます。

水害は頻度として土砂災害と合わせ非常に多いのが我が国です。

平成16年~平成25年の10年間に水害・土砂災害が発生した市町村は98%におよびます。

参考:国土交通省「河川事業概要2018 我が国の水害リスクの現状」

この事実も含めて取引対象物件の水害リスクについて、買主には正しく認識してもらう必要があります。

土砂災害防止法による制限と区域指定

土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(土砂災害防止法)は、2000年に成立し翌年施行された法律です。

1999年に広島県で土砂災害325件、死者24名という甚大な被害を生んだ豪雨がありました。

広島県の山地は花こう岩が多く、風雨により劣化し「マサ土」と呼ばれる砂のような土に変化します。

マサ土は水を含むと非常にもろく崩れやすい性質をもっています。

そのため大きな被害がでたのでした。

広島県だけでなく日本は山国であり、似たような自然環境の土地は国内にたくさんあります。

土砂災害防止法は施行後、全国の都道府県が対象地域の調査をおこない、土砂災害警戒区域および土砂災害特別警戒区域の要件に該当したエリアを指定する事業を進めています。

しかしこれらの区域に指定されると、資産価値が下落するなどの住民意識の影響もあり、なかなか進まないといった状況もありました。

国土交通省が公表した2020年12月31日時点での指定状況は、基礎調査により公表した区域数が676,771か所に対し、土砂災害警戒区域として指定されたのは640,810か所となっています。

約95%が指定済であり残りの区域には、将来的に指定されると予想される区域もあると考えられます。

参考:国土交通省「全国における土砂災害警戒区域等の指定状況」

土砂災害警戒区域に指定されると、住宅や社会福祉施設・学校・医療施設の建築行為について、土地の区画形質の変更を制限しています。

重要事項説明においては、その時点で土砂災害警戒区域に指定されていない場合は、指定外と説明することは言うまでもありません。

しかしその後に土砂災害警戒区域に指定される可能性はあり、区域外=安全とはいい切れないことに注意が必要です。

耐震性能について

既存住宅については「建物状況調査」について説明するよう定められています。

併せて建築と維持保全状況に関する書類や耐震診断に関する事項も説明するようになっています。

耐震診断については昭和56年6月1日以降の「新耐震基準」により設計されたものは、説明不要とされています。

一方、住宅ローン控除のため築年数が経過している物件については、耐震基準適合証明書を取得する物件があります。

耐震基準適合証明書は耐震診断ののち、補強工事が必要な場合は工事完了後に発行されます。

耐震基準適合証明は現行の耐震基準に適合している必要があり、1981年(昭和56年)6月1日以降の新耐震基準で建てられた物件といえども、現行基準には適合していないケースが多くあります。

とくに2000年6月1日からは改正された2000年基準になっていますので、それ以前の建築確認物件は耐震性能に違いがあります。

同じ新耐震基準の建物であっても性能が異なることはよく理解しておく必要があります。

また同時期に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」では、性能に等級を設け耐震性能については耐震等級1~3と3段階にしています。

耐震等級3は建築基準の1.5倍と高い耐震性能を保有しており、物件によって耐震性能に大きな違いがあることも伝える必要があるでしょう。

耐震性能については1981年の「新耐震基準」により大きく区分されていますが、新耐震基準のみで判断できないことを認識しておく必要があります。

まとめ

住生活基本計画の見直しにより、不動産取引においては災害リスクの提供を充実させるよう求められています。

災害リスクの情報提供をおこなうための機会として、重要事項説明はもっとも適したタイミングともいえるでしょう。

物件によっては大きなリスクが想定される場合もあり、商談のなかでリスクの存在について説明し、さらに重要事項説明において念を押すなどの対応も必要です。

宅地建物取引士には、借主・買主にできるだけ正確な情報を伝える義務があることを再認識しておきたいものです。

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