【民法改正】瑕疵担保責任とは?契約不適合責任になって変わること

2015年4月に閣議決定された民法の一部改正法案が、2020年4月に施行されました。

120年ぶりの改正ということもあり、特に債権法の分野において大きな改正が目立ちましたが、我々不動産業界においても今回の民法改正は大きな影響を与えています。

そのうちのひとつが、売買契約における瑕疵担保責任が契約不適合責任へと変更になった点です。

では、この変更は、不動産の売買契約において、どのような影響を与えるのでしょうか。

この記事では、契約不適合責任について変更になった点を重点的に解説していきましょう。

 

執筆者紹介
不動産管理会社で20年超のキャリアをもつ管理業務のスペシャリスト。
宅地建物取引士、賃貸経営管理士、定期借地コンサルタント、米国不動産経営管理士といった資格を持ち、
さまざまな経験と知識から管理物件の収益拡大や維持管理に取り組んでいる。

そもそも瑕疵担保責任とは?

そもそも瑕疵担保責任とはどのような責任なのでしょうか?

瑕疵担保責任とは、引き渡された不動産が通常備えているべき一定の品質・性能を有していないと判断された場合に、買主が売主に対し、修復や損害賠償、契約解除の請求が可能になります。

しかし、現在の考え方に合わなくなっているために今回、契約不適合責任へと変わりました。

次の項目から、なぜ契約不適合へと変わったのかについて触れていきましょう。

瑕疵担保責任が契約不適合になって何が変わる?

旧民法の考え方では、不動産は取替のきかない「特定物」とされていました。

そのため、隠れた瑕疵(欠陥)があっても修復をする余地はなく、不動産を現況のまま引き渡せば、「売主としての責任は果たしている」との捉え方だったのです。

しかし、それではあまりにも買主に不利な契約になってしまいます。

そこで売買契約書上の取り決めで「瑕疵担保責任」を付けることで、修復や損害賠償、契約解除といった救済措置を可能にしたのです。

旧民法の考え方に沿ってできた「瑕疵担保責任」ですが、そもそも論として「欠陥のない物件を引き渡してもらう」というのは、当然のことであるはずです。

「瑕疵担保責任」により一般論に近付けてはいるものの、旧民法の考え方そのものは、今の常識からは、かけ離れていると以前から批判されていました。

そこで、今回の民法改正により、不動産のような「特定物」の売買契約でも、現況で引き渡すだけではなく「契約の内容に適合した物件」を引き渡さなければいけないという債務を売主に負わせることにしたのです。

「契約の内容に適合した物件」という内容に変わり、買主は、新たに2つの選択肢が増えました。

1.追完請求とは?

1つ目は、「追完請求」です。

若しくは、修補請求ともいわれています。

契約不適合な不動産だと認められた場合、買主が追完請求した場合、売主は修理・補修を行い、契約にそった「特定物」の状態にしなければいけません。

例えば、戸建て住宅の引き渡し後に、雨漏りしていることが発覚したとき、買主は売主に対し、雨漏りの修補を請求できるというものです。

※ちなみに、瑕疵担保責任の場合、中古戸建ての引き渡し後に雨漏りが発覚した事例で、買主の雨漏り修補請求を否定する判決が、地方裁判所で下された判例があります。

また、追完請求は、修補だけではありません。

不足している部分の引き渡しや代替物を引き渡すことで追完が完了したと見なされます。

追完請求により、「どうやって売買契約に沿った特定物の状態にするか」を決定するのは、原則買主であるとされていますが、必ず買主の言う通りにしなければならない訳ではありません。

例えば、雨漏りをした物件に対し、買主が代替物の請求や、雨漏りをしない物件を要求したとしても、売主は修補をすれば、契約不適合責任に対応したと見なされます。

2.代金減額請求について

もう1つの選択肢が「代金減額請求」です。

売買した不動産に契約不適合が認められ、売主が追完請求をしたにもかかわらず、期間内に追完しなかった場合、代金減額請求が可能です。

追加請求のあとの権利ということになります。

※売買契約書に「契約不適合と認められた場合、ただちに減額請求を行使する」と明記しておけば、すぐに減額請求をすることも可能です。

現時点では「代金減額の計算方法」や、「減額の根拠」に関して、具体的には明示されていませんが、根拠はないにしろ、あらかじめ社会通念上問題がないと思われる程度の減額算定基準を、契約書に明記しておけば、実際に代金減額請求を行う際、スムーズに請求ができるようになるでしょう。

しかし、民法改正されて日が浅く、実際に減額請求を行った判例などがほとんどないことから、減額算定基準の設定は、非常に難しいともいえます。

個人間売買では代金減額請求権の免除が可能?

今回の民法改正において、当然のことながら売買契約書はいくつかの条文が変更になっています。

そこで、下記の主要不動産協会の売買契約書について取材を行いました。

・一般社団法人 不動産流通経営協会(以下、FRK)
・公益社団法人 全日本不動産協会(以下、全日)
・公益社団法人 全国宅地建物取引業協会連合会(以下、全宅連)

すると、個人間売買については、3協会のうち全宅連のみ、代金減額請求権の明記をしていません。

残り2団体においては、代金減額請求権を認めない文言となっていました。

これはなぜなのでしょうか?

まず全宅連は、個人間売買において代金減額請求権を明記していないのには以下のような理由があります。

“代金減額請求権は、実務の取扱いが定まっていないため、かえって混乱を招く可能性があるために明記していない”

しかし、買主の代金減額請求権を否定するものではないと明確に述べています。

残り2協会は、代金減額請求権を認めない文言になっていますが、基本的に契約不適合責任は「任意規定」となっている点が重要なポイントです。

任意規定は、契約書に記載がない場合は、法律の規定を適用するが、契約書の記載事項は契約書の内容が優先して適用されるといった性質をいいます。

つまり、「契約不適合」において、個人間売買の場合は、「免責」としても有効なのです。

売主の負担回避と、混乱を避けるために、契約不適合責任が認められたとしても追完請求に応じられない場合は、契約解除に限定したものと考えられます。

売主が宅建業者の場合も代金減額請求権の免責は有効?

売主が宅建業者の場合、代金減額請求権は免責にできません。

これは、売主が宅建業者の場合、宅建業法第40条により、不動産の売買契約において契約不適合責任が免責となる特約は無効と明記されています。

あくまでも「契約不適合責任を免責とする特約」が有効なのは個人間売買のみと理解しておきましょう。

催告解除と無催告解除

追完請求をしたのに、売主が応じない場合は代金減額請求を行うことができますが、他にも催告解除無催告解除が行使できます。

催告解除は、代金減額請求では納得できない場合には、催告して契約が解除できます。

無催告解除は、「契約の目的を達しない場合」において無催告で解除できますが、多少の不具合では無催告解除は認められません。

買主の追完請求は、満足いかなければ代金減額か解除を請求できるため、非常に強い権利です。

しかし、催告解除も軽微な不具合では認められていませんので、追完請求に応じないからといって、必ず解除までできるとは限らないことをしっかりと理解しておきましょう。

【その他】瑕疵担保責任が契約不適合になり変わったことは?

「瑕疵担保責任」が、「契約不適合」へと変わったことで、他に変わったことといえば、買主の権利に対する期間制限が変わりました。

ここで表にまとめてみましょう。

権利の行使 時効で消滅
瑕疵担保責任 瑕疵を知った日から

1年以内に権利行使

物件の引き渡しから

10年で消滅

契約不適合責任 契約不適合を知った日から

1年以内に通知

契約不適合を知った日から

5年

また、物件の引き渡しから10年で消滅

大きな違いは、契約不適合を知った日から5年で時効という点が追加されたことでしょう。

買主は、今回の民法改正によりいくつかの選択肢が増えた分、権利行使できる期間をきちんと設定された点が、瑕疵担保責任との違いです。

まとめ

今回の民法改正は120年振りということもあり、不動産の取引においてもさまざまな変化が見られます。

今回の民法改正に関する大きな理由は、4つあるといわれています。

・今までの判定の蓄積を取り入れた改正を行う
・今まで難解な文言を、わかりやすい文言へと変更する
・社会経済の変化や、時代の変化に対応する
・国際ルールとの整合性をつける

これらの理由を取り入れて、瑕疵担保責任が契約不適合責任へと変わり、新たな権利を買主に与えたということです。

例えば、管理や、賃貸仲介が主の方々も、売買領域における知識を求められることは非常に多いといえます。

管理の場合は、管理物件の売買に関係することがあります。

賃貸の場合は、売買と悩んでいるお客様の対応時に、売買の知識を求められることもあるでしょう。

今回の民法改正による不動産売買への影響をしっかりと理解しておきましょう。

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