融資特約以上の申込みで融資が否決。この場合にローン特約は適用になる?

不動産は高額な買い物ですから、一般的な売買の場合に購入者は住宅ローンを利用します。

購入意思があっても住宅ローンの審査が承認されなければ決済金ができませんから、ご存じのように顧客を保護する意味合いで「融資利用の特約」付きで売買契約を締結するのが一般的です。

この特約は「ローン条項」などと言い換えられる場合もありますが、約款に盛り込まれる内容は所属する保証協会等の推奨契約書などによって多少の違いはありますが、概ね以下のような内容です。

1. 買主は、売買代金に関して表記された融資金を利用するとき、本契約締結後すみやかにその融資の申込み手続をおこなう。

2. 表記された融資承認取得期日までに、前項の融資の全部または一部の金額につき承認が得られないとき、または否認されたとき、買主は、売主に対し、表記契約解除期日までであれば、本契約を解除することができる。

3. 前項により本契約が解除されたとき、売主は、買主に対し、受領済みの金員を無利息にてすみやかに返還する。

4. 買主が第1項の規定による融資の申込み手続を行わず、または故意に融資の承認を妨げた場合は、第2項の規定による解除はできない。

日頃の契約で読み上げている内容ですから、これらについての解説は不要かと思います

そこで今回取り上げたいテーマが、融資の承認が得られなかった場合の解除についてです。

つい最近のことですが、筆者が売担として扱っている住宅用地を買側業者との共同仲介で契約締結しました。

結果的に融資の承認が得られず契約を解除しました。

買側に落ち度がない限りにおいて「融資利用の特約」は有効ですから、解除するのに依存はありません。

ただしすんなりと合意解除できるのは、当事者が契約約款等を遵守した上で誰の「責」にきすべき事由が存在せずに融資が否決された場合です。

今回のケースで買側業者は「いや~申し訳ありません融資が承認されませんでした。そこで契約解除したいのですが」と、申し訳ないという気持ちが微塵も感じられぬ言い方で電話連絡をしてきましたので「おいおい、ちょっと待て」と………。

いわゆる「不動産アルアル」ですが、このように契約の解除などの重要な内容をさも軽いノリで連絡してくる不動産業者は少なからず存在します。

皆様も経験があるのではないでしょうか?

売り側業者の責務として契約約款や特約条項の詳細は事前に、かつ詳細に説明をしていますから、売り主様のお宅に伺い「融資特約」を適用させる旨をご説明しても「残念ですがしょうがないですね。引き続き宜しくお願いします」と小言を言われるでもなく解除に応じて戴きました。

仲介手数料は成果報酬ですから無条件の白紙解約の場合には「タダ働き」となってしまいます。

ただし契約上において定められた権利の行使であれば、作為的な意図などが存在していない限り致し方ありません。

もっともそのようなリスクを回避するため契約締結前に融資の事前承認が得られているかどうか、もしくは問題なく承認される根拠があるかについて買側に確認を行います。

今回も当然に確認をおこないましたが、その返答が「別件で建売住宅の融資の事前承認を申し込みましたが満額承認が得られたお客様です。ですから問題ありません」でした。

あまりにも軽いノリであり、かつ初めての取引業者でしたから不安はありましたが、相手側業者の「言」を買主様に伝えたところ「契約締結に応じて良い」とのことでしたので契約を締結しました。

結果は………さきほどの電話連絡です。

「駄目でした」「はいそうですか」では子供の使いとなってしまいますから、言質の矛盾を問いただし判明したのが下記のような内容でした。

1. 融資特約記載以上の融資申し込み(買側業者の独断による)を行っていた。
2. 融資の「否決」ではなく減額承認(条件変更)であった。

最終的に売り主様の意向もあり白紙解除には応じたのですが、それまでにはスッタモンダありました。

今回はこのように、契約書に記載された融資金額以上の融資を売り側業者に連絡をせずに申し込んだ場合、つまり極端なオーバーローンを独断で申し込みした場合に融資特約が合法的に適用できるかについて法的な見解も交え解説いたします。

事例の補足

契約書,お金

さて冒頭で紹介した例はありがちな話ですし、融資承認が得られなければ決済金を拠出することができませんから取引を断念するしかありません。

ですが契約締結に要する労力が徒労に終わることを避けるため、当事者の信用状況を含め、可能な限り事前確認することは、プロである私たち不動産業者の「義務」であると言えるでしょう。

ただし共同仲介においては融資申し込み等の業務を行うのは買側業者であり、融資申込金額や条件、そして金融機関とのやりとりがどのように行われたのかまでは、直接的に売り側業者が知ることはできません。

問い合わせをすることはできますが、双方の業務範疇に踏み込んでの確認まで出来るわけではなく、結局のところは「きちんとやってくれているだろう」との信頼関係に基づくのが実情です。

せいぜい買側業者へ依頼して源泉徴収票や融資申込書の控えなどを送付してもらうぐらいです。

もっとも、基本として業者間の信頼関係に基づき買側が融資申し込みをサポートするのが大半ですから、売り側業者が買主に関してのそのような情報を入手することは一般的にありません。

紹介した事例では建売住宅の事前融資承認が得られていますし、今回の回答も「否決」ではなく返済負担率に無理が生じていることが主な理由と推察される「減額承認」でした。

建売住宅と土地を購入してそこに新築住宅を建築する「注文住宅」は、後者において総額が上がるのは当然ですが、その増加金額を自己資金で補うならいざしらず、単純に融資金額を増額しようとすれば返済負担率も引き上がります。

所得が返済負担率を補えるのであれば問題は生じないのでしょうが、今回は返済負担率を度外視して「一か八かの融資申し込み」を行っていたのでしょう。

ひょっとしたら返済負担率を勘案して融資を申し込むなんて知識がなかったかも知れません。

そこまでは「良い」として、問題は契約書に記載した融資特約以上の金額による申し込みです。

さてこの場合、特約条項の除外規定である「故意に融資の承認を妨げた場合」に該当し、契約の白紙解除は出来ないと解され手付金の没収が可能です。

ですがああでもないこうでもないとのやり取りで時間を浪費するのは目に見えていますし、さっさと新たな買い主を探したほうが売り主の意向に沿うことができ合理的です。

ですがせめて手付金は没収、可能であれば違約金の請求をして少しでも腹の虫を抑えたいと考えるのも人情でしょう。

オーバーローンの法的見解

ここで感情論から離れて、返済可能な金額を超えた融資にたいし融資特約が適用されるかについて考えてみましょう。

まず融資が承認されていても、それが極端な条件変更を前提としたものである場合には「白紙解除できる」となります。

媒介業者には買主の資金計画を斟酌し、ローンを利用する場合においては安全に取引が履行されるよう融資特約を設けて取引が安全に履行されるよう務める義務があると解され、極端な条件変更においては安全な履行ではないと解されるからです。

それでは極端な条件変更の基準は何かというと、重要事項説明書に記載される「金銭貸借の斡旋」に関する記載項目(内容)です。
記載された融資金額や金利等の内容から逸脱するような承認は、成立しないと同等であると考えられます。

これらの記載は重要事項説明書に限らず、宅地建物取引業法第35条第1項等により売買契約書にも記載する必要があります。

た・だ・しですが、原則論として買主の書類提出遅延や契約書等の記載された金額以上の融資申し込み、申込み予定金融機関以外の申込み等など買主の責めに帰すべき事由が存在する場合においてはその限りではないとされています。

ですから事例で紹介したケースでは、買側業者の独断で融資特約以上の金額で融資を申し込み、結果、減額承認されている訳ですから融資特約を認める必要はなく、契約を解除するのであれば手付金の放棄となります。

融資承認に条件が付された場合には?

判決,裁判

上記のような場合に融資特約が認められないことについて詳細な解説は不要だと思いますが、それでは当事者双方が合意の上で返済可能な金額を超えた融資を申し込みした場合、もしくは諸経費等も含めたいわゆるオーバーローンでの申込みをおこない、当初予定していたものと異なる「条件」で承認された場合にはどうでしょうか?

例えば「金利」を上げれば承認するといったケースや資金計画とはことなる保証会社による承認で「保証料」が増加し、資金計画の見直しが必要になった場合です。

このような買主本人の「責」に帰さない事由による融資特約の適用は「合法」であると解されます。

ただし当事者双方が合意のうえ申し込んだとしても、軽妙な条件変更に留まっている場合には融資特約を適用できないとする考え方が通説です。

実際にこのような軽妙な条件変更による融資特約の是非について争われたのが平成12年6月27日に判決された大阪高裁の事件です。

判決理由について裁判所は「銀行の審査により、希望条件と異なる融資条件が示される場合があることは、当然予想されることである」としました。

そのうえで融資特約として記載された内容について「申込み条件と寸分違わない承認条件でなければならないものと考えてはいなかったものとして推定される」として、買主の契約締結前における資金計画や実際の支払い能力等により許容できる程度の融資承認が得られれば、買主としてその承諾された融資条件による融資を受けて売買代金を支払う意思があったものと認められるとしました。

このような判例から、許容範囲内であると考えられる条件変更で融資特約を適用させることはできないと解されます。

反対に極端に当初の資金計画と乖離した条件変更は、当事者が実行不可能であろうと推測していたと解され、融資特約の履行は可能であるとの判断が明確になりました。

まとめ

最後になりますが、コラムをお読み戴ければご理解いただけるように事例において融資特約を認める必要は売り側にはなく、手付金の没収をおこなうことができます。

買主がどの程度、法的な性質を理解して特約に定めた以上の融資申込をおこなったのか定かではありませんが、買側業者にヒアリングした内容を精査すると、売買契約当初の資金計画では資金が足りず、主導権を握る買側業者が独断に近い形で融資を申しこんだ可能性が濃厚です。

売り側としては手付没収で、その後に買い側業者と買主が手付金について揉めてもあずかり知らぬことではありますが「買主さんも悪気があってのことではないだろうから、穏便に処理してあげてください」と、売り主が手付金を返し、白紙解除を望まれましたのでそのように処理をしました。

無論、買側業者の担当者にきっちり説教をしておきました。

今回の例によらず、契約書に記載された内容を遵守することは当然ですが、合意内容について変更が必要となった場合、速やかに当事者に連絡をしてお伺いを立て対処する。

余計なトラブルを引き起こさないための秘訣は、これにつきる知れません。

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