転ばぬ先に覚えておきたい |紛争処理機関の利用方法

世間では、クレーム産業と言われている不動産業。
業務を行っていれば、皆様も少なからず様々なクレームを受けたことがあるでしょう。

これは売買に限らず賃貸住宅の場合でも当てはまります。

どのような業種でも多かれ少なかれクレームは存在しますが、不動産は簡単に交換のできる商品販売と違い、すぐに賠償責任や訴訟に発展し易いといった特徴があります。

クレームにたいして真摯に対応しても耳をかしてもらえず、「訴えてやる」とか「裁判で白黒つけよう」と、恫喝じみたクレームを聞くことがよくあります。

一つには、テレビでもよくある法律相談番組などが増加し「このケースは訴えられるでしょうか?」と、裁判をすれば簡単に決着がつくといった誤った認識の広がりや、インターネットやSNSの発展により知識格差がなくなったことも原因でしょう。

世知辛い世の中になってしまいましたが、不動産という仕事を選んでしまった以上は対応するしかありません。

皆様もご存じかと思いますが、日本の訴訟制度では裁判をして得られるメリットは驚くほど少ないものです。

不動産コンサルティングを中心として業務展開している私などは、数日おきに顧客からの相談案件で「裁判をしようと思う」というセリフを聞いています。

その際には「裁判してもメリットはほとんどありません。時間と費用の無駄になることが多いですから、それよりも落としどころを探って和解したほうが良いのではないですか」と提案するようにしています。

実際に裁判をおこなっても完全勝利に終わることはほとんどありません。

原告・被告の双方とも、証拠の出し合いに時間を取られ疲弊します。

もちろん私の場合もコンサル業務で仲裁人として交渉した結果、相手側があきらかに悪意を持って「契約不適合」「瑕疵」を発生させている場合は、業界の不正を正すといった意味で提携弁護士を介入させて追い込む場合もありますが、だいたいは相手側から歩み寄ってくるものです。

皆様も思いあたるかも知れませんが、不動産のような高額案件を長く取りあっかっていると独特の嗅覚が発達します。

つまり与しやすい相手か、そうでないか。

トラブル交渉をおこなった際、すぐに「訴えてやる」と口にして交渉する相手は、実はたいしたことがありません。

手ごわいのは「最終的には裁判も辞さないが……」と言ったスタンスで、理路整然と和解への道を探ってくるタイプの交渉相手です。

今回は「できる限り費用をかけず、穏便に問題を解決する方法」について、実際に裁判を行った場合の訴訟期間なども含め解説していきます。

判決までの期間はどれくらい?

不動産関連裁判においても、特に証拠調査に時間と費用が必要な「瑕疵」に関する訴訟は長期化する傾向が高くなっています。

多少古いデータではありますが、「瑕疵主張あり」の裁判は、審理期間が平均で20~25か月で推移しています。

不動産,紛争処理
最近の傾向としては、さらに長期化する様相を見せています。

その間に必要な弁護士費用の負担や、方針の打ち合わせ・調停に要する時間的なロスにもよるのでしょうが、審理に持ち込んでもおおよそ50~70%は「和解」もしくは「取り下げ」が行われます。

不動産,紛争処理
裁判を経てしか決着がつかない場合を除き、可能な限り訴訟に至る前に決着をつけるのが優れた不動産業者の腕の見せ所と言えるでしょう。

交渉を行う前に、法的な精査が必要なことから見ず知らずの弁護士を探し出して相談するケースを見受けますが、個人的にはお勧めしていません。

面識のない弁護士に相談に行けばかなりの確率で訴訟を進められます。

訴訟案件が増加すれば弁護士は売り上げがあがるのですから喜びますし、裁判が長期化すればもっと喜びます。

1999年の司法制度改革により司法試験制度は見直され、弁護士の数は一気に2倍以上に増加したことにより、事務所に座っているだけではクライアントが訪れないことから派手なパフォーマンスを見せる弁護士や、実際には補助者に電話を掛けさせているだけの過払い訴訟などで利益を得るインテリジェンスのない弁護士が増加しています。

公益職とはいえ、弁護士も商売ですから社会的な正義よりも売り上げに熱心になるのは分かります。

あまりこのへんの理屈を書くと、知己の弁護士から「そういうこと書かないでくれますか!!」とクレームが入りますのでほどほどにしておきますが、私たち不動産業者が考えるべきは「顧客利益」が第一であり、紛争に関しては余計な費用はかけず速やかに双方が納得できる状態に落ち着かせることです。

単独交渉がすんなりとまとまるなら越したことはないのですが、争いの内容によって第三者も交えた方がスムーズにいくと判断できる場合も多くあります。

必要に応じて第三者の仲裁機関を選択し利用する、もしくは斡旋してあげるのも、優れた不動産業者の資質であると言えるでしょう。

不動産適正取引推進機構の特定紛争処理事業を利用する

特定紛争処理事業としては、RETIO(一般社団法人 不動産適正取引推進機構)が斡旋しているものがあります。
https://www.retio.or.jp/info/info02.html
事業方針としては、都道府県の宅建業法主管課などの第1次処理機関で解決の出来ない紛争のうち、両当事者の同意が得られるものについて、紛争処理委員により調整や仲裁を行うものです。

これは私たち不動産業者からの申し出でも対応してくれます。

紛争処理委員は法律・土木・建築・不動産鑑定士・一般行政などの分野において約20名の専門家で構成されており、原則として費用が無料なのが嬉しいところです(事実確認調査などに多額の費用が必要な場合には実費負担が発生する場合があります)

申請方法は、行政庁や消費生活センターなどがおこないます。

残念ながら直接、機構へ申請することが出来ません。

ただし事前相談は受付されていますのでそちらを利用することは可能です。

経験則ではありますが、事前に詳細な電話相談をした場合には先方に相談記録が履歴として残されますので、行政庁など一次処理機関に相談を持ち込んだ際に「事前に不動産取引推進機構に電話相談をおこなって解決策を模索したが、和解案をみつけることが出来ず、機構利用により解決を図りたい」という主張が受理されやすくなり、「紛争処理要請」に進みやすい場合があります。

不動産,紛争処理
この紛争処理を利用する場合の流れは以下の表に記載されているとおりです。

不動産,紛争処理

注意点としては、先ほど解説したように第1次処理機関による同意なしに利用ができないこと。

また相手方が紛争処理に同意しなければ利用は出来ません。

専門家による調整手続きを以て和解が成立しない場合には、裁判所に審理が移行します。

第一次処理機関に話を持って行く場合には、相談内容を予め箇条書きで書面にまとめておくようにしましょう。

公財_紛争処理支援センターの利用

おもに建物についての契約不適合に関しての紛争処理機関です。
http://www.chord.or.jp/
公益機関ですので基本的に費用は無料です。

土地に関する瑕疵には対応していませんが、建物に関しての相談で利用しやすく「住宅瑕疵補償保険」を取り扱う会社でもトラブルが生じた場合の利用を推奨しています。

あまり知られていないのですが、この機関は「住宅瑕疵補償保険」に加入していなくても利用できます。

センター運用の目的として消費者救済を掲げており、業務内容としては主に下記のような業務をおこなっています。

1. 待機弁護士による相談・助言
2. 弁護士会による被害者救済活動への支援
3. 関係機関との情報共有

不動産,紛争処理

不動産,紛争処理

先ほど解説したように新築や中古住宅など建物に関しての紛争処理機関ですが、建物契約不適合は裁判を行っても長期化する傾向が高いことから、早い段階で第三者機関を利用して速やかにトラブルを解決するのも不動産業者に求められるスキルの一つです。

小額訴訟の利用

長期化することが多い不動産関連裁判ですので裁判を推奨はしませんが、トラブル内容が単純な金銭債権に関する場合で、かつ金額が60万円以下の場合には、小額訴訟を利用した方が速やかに解決できます。

少額訴訟とは、上記要件を満たす金銭債権に限定される民事裁判を、管轄地の簡易裁判所で簡単・迅速に判決を得られる制度です。

訴状は簡略化されており、私も小額訴訟の訴状は全て自分で作成しています。

また裁判の審理も原則1日で終了しますので、手間がかかりません。

不動産,紛争処理

少額訴訟は金銭債権に限定されており、私たち不動産業者が取り扱う具体的な案件としては、貸金返還請求・売掛金支払い請求・不動産賃貸者契約における家賃支払い請求・不動産賃貸者契約における敷金返還請求などです。

訴状も指定されている箇所に漏れなく記載する程度ですので悩むほどのものではありませんし、添付書類(証拠)も、賃貸借契約や修繕費などの見積もり領収書などを揃えるだけです。

訴状提出は原則、相手方住所地の簡易裁判所となりますが、一般的には賃貸借契約に「管轄裁判所合意」が記載されているでしょうから、合意管轄の簡易裁判所に訴状を提出することができます。

訴状を提出すると(原告の場合)、裁判所から架電があり簡単な内容確認と、裁判手続きの説明が行われます。その後、「呼出状」が送付されてきます。

審理日は原則で訴状提出から30日以内となっています。

被告の側に立つと、同時期に「訴状」が送付されてきますので、答弁書を作成して返信する必要があります。

その際に、少額訴訟ではなく通常の「民事裁判」を行うとして答弁することもできます。

原告側の場合に「通常裁判」で答弁されると、こちらも弁護士を立てなければ駄目になりますが、被告側にたった場合には駆け引きとして「通常裁判」へ移行すると答弁を行うこともあります。

これらの駆け引きも、「少額訴訟」に慣れることにより使いこなせることが出来るようになります。

「呼出状」に記載された日時に簡易裁判所に赴くと、法定審理が行われます。

裁判官は予め提出されている訴状・答弁書をもとに紛争の争点を整理し、論点について主張内容に不明な点などがあれば質問されます。

経験則から言えば、冒頭に裁判官から「訴状と答弁書の内容を精査したが、本件、和解をしたほうが良いのではないか」と、勧められることのほうが多い物です。

この和解案に、原告・被告の双方が応じれば即時に「和解調書」が作成され、和解が成立します。

和解が成立しない場合には、主張打ち切り(弁論終結)が宣言され、その日のうちに裁判官から判決の言い渡しが行われます。

まとめ

泥沼化しやすい不動産クレームですが、これは当事者同士がおたがいに意見をぶつけ合い、合意点が見いだせないことによります。

クレーム処理は業務の一環であるとはいえ、何ら生産性がありません。

落としどころをみつけて歩み寄り、迅速に処理することが双方にとってメリットがあります。

無論、「悪意の当事者」に対しては裁判をもって糾弾する必要がありますが、そんなに度々あることではないでしょう。

理想は当事者同士で話し合いをもち穏便に決着することです。

私に持ち込まれる紛争案件も、おおよそ8割は穏便に解決することができています。

ですが感情的になっている場合には相手側も論理的な思考が伴わず、和解交渉が決裂します。

そのような場合には迅速に、今回ご紹介したような第三者機関を介入させることにより相手側も軟化し、スムーズに和解が成立することが多い物です。

仲裁機関の介入は「権威には弱い」という多くの方が持っている特性を利用して、こちらの「本気度合い」と、最終的には裁判も辞さないという「意思の表明」、そして「可能であれば和解をしたい」という意思を理解してもらい迅速にトラブル処理をおこなうには有効な手段です。

クレームを泥沼化させないというスキルは、これからの不動産業者には必須だといえるでしょう。

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