【うかつなオーバートークに要注意!】認識の相違による損害賠償もありうる

2022年9月1日より、以前。

不動産会社のミカタコラムでも解説した不動産表示規約・同施行規則が施工されました。

物件からの距離や移動時間の広告表示に関して詳細なルールが定められ、これにより違法性の高い「おとり広告」等については厳格に対処するという政府の決意が感じられます。

もっとも、広告表示に限ったことではありません。

内見時などにおいて、予めの調査も行き届いていないのに「問題ありません!」と断定したり、空覚えの知識で誤った内容を説明してしたりという経験は誰にもあるでしょう。

「物件を売りたい!」という熱意によりついウッカリ、オーバートークになってしまうことは誰しもあると思いますが、物件購入の意思決定に影響を与える重要な要素については、何気なく行った説明により裁判にまで発展するケースがあるのはご存じでしょうか?

「そんな、口頭で言っただけで大げさな」と思うのは、申し訳ないですがこちらの都合です。

訴えた当事者からすれば、正しく説明されていれば、この物件の購入を決断していなかったという思いがあるからです。

「言った・いや言っていない」と争いになるのは、物件を引き渡してからの時もありますが、重要事項説明の時に辻褄が合わなくなることもあります。

特に「売り込もう」とする意識が強い場合には、必要な説明を十分に行っていないことが原因となる場合が多いものです。

筆者自身も不動産業界に入りたての時代、よく理解できていないことについて誤魔化して説明をしたことにより、いざ契約となって宅地建物取引士(当時は宅地建物取引主任者と呼ばれていましたが、いずれにしても筆者は取得していませんでした)が重要事項の説明を始めたら「営業から受けていた説明と違う。どういうことだ!」と詰め寄られ、同席していた宅地建物取引主任者や売り方業者の担当から白い目で見られ、説得を試みるも納得してもらえず契約できませんでした。

当事者からは責められ、会社に戻ってからも散々に罵倒された思い出があります。

経験不足で若気の至りと言えばそれまでですが、そんな経験も一度や二度ではありません(オーバートークではなく説明が不足していたことが原因の時もありましたが……)

何気なく言った言葉が、顧客の記憶に刻まれ「あの時にこう言ったでしょう」と詰め寄られることもありますから営業マンは常に表現に気を使い、説明を誤って解釈されぬよう「何か今の説明に関して質問や疑問点などはありませんか?」と、理解が及んでいるかを確認しながら慎重に説明をするよう心がけするようになってからは、説明内容などについてクレームが入ることはなくなりました。

今回は皆様に、そのように不必要な経験をして戴かないようにとの思いも込め、ウッカリ説明したことにより発生した裁判やトラブルについて解説します。

分からないことは説明しないが肝心

内見して顧客が気に入れば、矢継ぎ早に質問されることが多いでしょう。

興味を示さない物件であればサラッと見て特に何も聞かれないのですが、真剣に購入を検討しようと思えば接道が公道か私道か、私道だとすればどのような問題があるのか、その所有者はどんな人なのかなどのほか、隣地が空き地であれば建築計画の有無や近隣の嫌悪施設の有無まで矢継ぎ早に質問されます。

自社で売り依頼を受けている物件や、事前に詳細に調査していれば話は別でしょうが、顧客の要望に合うと思われる物件を「取り敢えず見てみましょう」と連れ出したのであれば物件資料に記載されている情報か、過去にそのエリアでの取引経験により知り得た情報を説明するのがせいぜいです。

宅地建物取引士の資格の有無や、経験によりそのような矢継ぎ早の質問にも対応できるようになりますが、資格試験の受験勉強で得た知識も日頃、使っていなければ記憶も曖昧でしょうし、そもそも試験勉強をしたこともなく経験も浅い営業マンも多いのが業界の実情です。

離職や転職率が高いのも不動産業界の特徴ではありますが、法的に正確とは言えないセールストークを行ったため、重要事項説明書には正しく記載されていたにもかかわらず営業マンの説明が問題とされ損害賠償や契約の取り消しが求められるケースは多いものです。

「不確実な情報は口にしない」は原則ですが、長時間に及ぶ交渉などではついウッカリと口をすべらせることもあるでしょうし、完璧な営業トークなど存在するものではありません。

ですが重要な事項についての説明は、絶対に迂闊にはしないよう注意が必要です。

近隣の空き地にたいし「当面、何も建築予定はありません」の説明は要注意

 

注意,ビジネスマン

比較的、有名な判決ですので、ご存じの方も多いかも知れませんが東京高裁で平成11年9月8日に判決された事件です。

訴えられたのは分譲マンションの売主である不動産会社です。

物件を顧客に紹介した当時、販売していたマンションの南側には大蔵省が所有する空地が存在していました。

日照や眺望を遮る建物は建築されておらず、日当たりも良好です。

日当たりの良さを気に入った顧客(原告)は、南側の土地に建物が建築されれば影響が生じることからそのような計画が存在するのかを担当営業マンに尋ねました。

営業マンは「あくまでも私の意見ですが……」と前置きを入れたうえで「現在のところ具体的な建築予定はなく、当面は大丈夫でしょう。また将来的に建築されるのにしても変な物は立たないでしょう」との趣旨で説明をおこないました。

大蔵省の所有地だから簡単に払い下げも行われないとの思い込みはあったのかも知れませんが、その時点での営業マンの説明としては、具体的な建築計画も存在しておらず、あくまでも私見であると断りを入れての説明ですからそれほど問題があると思えません。

顧客はその説明により、契約に至った訳です。

ところが契約してまもなく、大蔵省がその土地をマンション供給会社に売却し、買い受けた業者は地上11階地下1階のマンション建築計画を立案、近隣説明のため、先述した買い主を含む管理組合に対し申し入れをおこないました。

その話を聞いて顧客は怒ります。

「当面は建築されないと聞いていたし、建築されるのにしても眺望や日照が妨げられるような建物は建築されないと説明を受けていた」と、販売会社にクレームを言いますが折り合いがつかなかったことから訴訟に踏み切りました。

訴えに対し、分譲マンションの売主である不動産会社は重要事項説明書の記載内容を根拠に反論しました。

ちなみに記載内容の趣旨は、以下のとおりです。

「本物件周辺の現在空地となっている用地については、将来、所有者の都合その他により建築基準法その他法令の許す限り許可を得て、中高層建物等が建築される場合があります。したがって建築された場合、日影等の環境変化が生じる可能性があります」

また上記、重要事項等の記載内容と同時に、当人は現地にてマンションを内見しているのだから、建築される可能性があることも当然に予測できたはずだとの言い分です。

あくまでも私見として説明を行った営業マンと、その内容を前提として購入を決断したとする顧客との対立ですが、裁判所は販売業者に対し告知義務違反の債務不履行が存在するとして買主の過失割合を50%としたうえで、250万円の損害賠償の支払う必要があると認容しました。

裁判所による判決の論旨は、以下のようなものです。

1. 売主業者は不動産売買に関する専門的知識を有している者として、南側土地所有者である大蔵省が、いつでも換金処分する可能性があることを予見できた。

2. 上記により、当該地の用途地域等から中高層マンションが建築される可能性も高く、その場合においては日照・通風・眺望が阻害されることも当然に予測できた。

3. 上記1.2について、不動産会社には営業社員等に周知徹底させる義務がある。

4. 周知義務が徹底されていないことにより担当営業が私見とはいえ、担当営業は顧客に対し当面は建築されず、また建築されたとしても中高層マンションのようなものは建たないと誤解させるような説明を行った。

5. 業者として重要事項等に南側土地に対しての建築可能性についての記載を行っているが、顧客は営業マンの説明により建築の可能性があることは理解していても、中高層の建築物が建てられることはないと認識し、その前提で契約をしている。

6. 上記までの趣旨により業者には告知義務違反の債務不履行が存在していると考えられる。

環境変化は常におこりうる

街並み,空き地,空

前項で解説したような環境変化については、訴訟にまで発展していなくても日常的にトラブルが発生しています。

マンションに限らず、眺望や採光が良好である表現は広告でもよく使われていますし、実際に内見をおこなった時にも「どうです、この見晴らし。日当たりも良くて最高でしょう」なんて営業トークも普通に行われているでしょう。

ですが、環境変化は常に起こりうる可能性があることを前提として説明は行われるべきです。

ここで隣地に空き地があるような場合も含め、説明ポイントについて解説しておきましょう。

告知するか悩む事項は、告知するのが「吉」

相手方等の判断に重要な影響を及ぼすことになるものについては宅地建物取引業法で説明が義務付けられていますが、定めによる告知事項だけが影響を及ぼすのではありません。
顧客のライフスタイルにより保育園までの距離が、日照や通風などよりも重要かも知れません。

契約をして入居してからまもなく、保育園が廃園しという笑えない話もあるほどです。

スーパーが徒歩圏内であり「日々のお買い物が楽ですね」と説明をしていても、そのスーパーが廃業する可能性は常にあります。

求められていない余計なことまで説明する必要はありませんが、購入に影響を及ぼす要素については正確に説明するように心がけましょう。

専門用語や法令用語は、根気よく理解されるまで説明する

顧客が理解できていない状態であれば、説明をしたことにはなりません。

不動産屋の常識・非常識と揶揄されるように、とくに業界の専門用語や法令用語などは、一般の方には馴染みのない物ですから、分かりやすく言い換えをして意味を説明する必要があります。

建ぺい率や容積率の違いや、セットバックに既存不適格、公道と私道の違いないなどは一般消費者にはなかなか理解がしにくい物ですから、説明の途中で念を押し、理解度を確認しながら説明するように心がけましょう。

推測や見込みは口にしない

顧客に質問され、自信がない場合には

「~だろうと思います」
「詳しくは知りませんが、おそらく……」

なんてフレーズを多用することがあるかと思います。

とくに不利益事項などの説明は語尾を曖昧にしがちですが、マイナス面こそ十分に説明すべきでしょう。
たとえば近隣で中規模店舗の誘致が計画されていたとしても、決定ではありません。

「近々、大規模店舗が建築される予定ですから買い物も便利になりますね」なんてトークは、誘致計画が頓挫すればトラブルに発展する可能性が高い言い回しです。

前段として「計画されていますが、決定ではありません」の一言は必要でしょう。

予定にすぎないことは、変更等が生じる断りを入れ説明しましょう。

また前項の裁判事例ばかりではないですが「重要事項説明書に記載されている」という反論は、裁判においてはほとんど通用しないようです。

その理由は記載されている書面が交付されていても、説明がされなければ一般人がその内容を正確に理解できることはないという観点によるものです。

ですから宅地建物取引業法においても、重要事項説明は交付を規定しているのではなく「交付して説明をおこなうこと」を規定しているのです。

重要事項の説明をおこなえるのは宅地建物取引士ですが、前項の分譲マンショントラブル事例でも、重要事項説明時、南側土地の建築可能性を記載内容どおり、中高層建築物が建てられる可能性はあり、その場合、眺望・採光等に影響が生じると念をおして説明していれば顧客から「でも、営業マンからはこのような説明を受けたのだが……」と言われ「それはあくまでも私見であり建築される可能性は否定できませんし、どのような建物が建築されるか予測できません」と、改めてそのような状態であるが購入するのかという決断を迫ることができたかも知れません。

結果として契約に至らなかったとしても、それにより訴訟にまで発展する可能性を考慮すれば、得だと言えるのではないでしょうか(営業マンとしては不本意でしょうが)

まとめ

営業マンは物件を紹介する際、顧客に新しい生活をイメージさせその生活を具現化するために法的な部分も含め、顧客の不安に思う要素や内容についての説明や解決策を提案し、顧客が購入を決断できるようサポートする仕事です。

とはいえ1件でも多く契約したい、売上が欲しいのは会社も営業マンも同様ですから、原則は理解していてもつい、トークがオーバーになってしまうこともあるでしょう。
特に不利益事項なんかは、できれば軽く流して契約を優先したいのが本音かも知れません。

ですが筆者の31年にも及ぶ不動産経験でも、不利益事項こそ入念に説明しそのうえで契約すればトラブルを回避できることは実証済みですし、質問に対してその場で回答できないときは期限を区切って後日、調査して回答するよう心がけることをオススメします。

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