【クレームはどこに持ち込まれている?】傾向を知り備えることが大切な理由

営業保証金を自ら供託している場合を除き、ほとんどの不動産業者が利用している宅地建物取引業保証協会。

重要事項説明においても宅地建物取引業保証協会の社員である場合にはその旨を、そうでない場合には営業保証金を供託している供託所についての説明が義務付けられていますのでよくご存じかと思います。

不動産業者と取引をして損害を受けたものを保護する目的として、業者には事業開始までに宅地建物取引業法第25条に基づき営業保証金を供託することが義務付けられていますが、供託する金額が高額であるなどの理由からほとんどの業者は保証協会に「弁済業務保証金分担金」を納付して社員となっているでしょう。

このような手続きの関係からでしょうか、保証協会は定期的に開催される研修や弁済に関する業務はよく知られていますが取り扱い業務はそれだけではありません。

大切な業務として苦情解決業務があります。

そもそも弁済を行うにしても、申請者からの一方的な申出により支払われる訳ではありません。

弁済業務は宅地建物取引業保証協会に所属する宅地建物取引業者との取引により損失が生じた場合、社員(加盟している不動産業者)に代わって弁済を行う業務ですが、弁済の前提として認証を必要とします。

認証するための手続きとして申請人が受けた損失が、宅地建物取引業者にその原因があるのか、また請求している損失額は妥当なものかどうかを審査する必要があります。

申請された資料に基づき、当事者である宅地建物取引業者と申請者双方から聴取して判断されます。

当然、申し出の内容により弁済ではなく、和解の提案や助言などの相談解決業務が行われることになります。

これらの関係団体等から苦情に関しての事情聴取や文章もしくは口頭による説明を請求された場合にはこれを拒むことはできず、拒んだ場合には宅地建物取引業法第64条5及び加盟する保証協会で定める約款に基づき除名処分とされます。

それでは、このような保証協会への申立件数は年間でどれくらいあるのでしょうか?

例として全国の不動産業者数の約8割が加盟しているといわれる公益社団法人全国宅地建物取引業保証協会連合会(全宅連)による令和3年度事業報告書によれば、弁済申請301件に対し51.2%となる154件は苦情解決処理により解決・撤回され、実際に弁済に移管されたのは全体の43.2%です。

公益社団法人全国宅地建物取引業保証協会連合会,苦情処理

弁済依頼の相談があっても、内容を聞きとり和解を提案することも多いのですから、苦情解決処理業務として処理される業務が主となるのでしょう。

公益社団法人全国宅地建物取引業保証協会連合会,苦情解決,件数

今回は、保証協会と国民センターに寄せられる不動産関連の相談内容や傾向を初めとして、同様にトラブル相談に対応している国民生活センター等の傾向も併せ、トラブルを誘発しないためにどのような点について注意し業務を行う必要があるかについて解説します。

保証協会への苦情相談件数

全国の不動産業者数の約8割が加盟しているといわれる公益社団法人全国宅地建物取引業保証協会連合会は、47都道府県に存在する全国宅地建物取引業保証協会により構成される国内最大規模の業者団体ですが、保証協会はそれ以外に公益社団法人 全日本不動産協会があり、私達、不動産業者の間でハトマークの宅建協会・ウサギマークの全日と呼ばれているのはご存じのとおりです。

不動産業者の登録件数は令和3年度128,597業者で、令和2年度の127,149業者から1,448業者(1,564業者)、1.1%増加しています。

自社で法務局に供託している業者はほとんど存在していませんから、この約12万件の不動産業者はいずれかの保証協会に加盟していることになります。

保証協会の各団体は、その基本業業務以外に加入不動産業者の育成や指導、消費者相談、不動産市場に関連する政策提言などを実施していますから優劣が存在する訳ではありません。

これら各保証協会に寄せられている弁済申請を含む苦情相談等の件数についてですが、公益社団法人全国宅地建物取引業保証協会連合会による事業報告書によれば令和3年度の苦情相談件数は178件、弁済申請件数は58件ありましたが、そのうち認証件数は33件(認証率39.1%)とされています。

これら確認できた情報からも、保証協会に寄せられる苦情件数は全体として500件に満たないことから、業者数約12.万件という不動産業者の数から言えばあまりにも少ないように見受けられます。

相談件数は国民生活センターが圧倒的に多い

消費者が不動産取引で不満を持った場合、相手方となる業者にクレームが寄せられると思いますがそこで不満や問題が解消されない場合、保証協会以外に都道府県の担当窓口や国民生活センターに相談が持ち込まれるでしょう。

前項で保証協会に持ち込まれる苦情相談件数は500件に満たず少なすぎるのではないかと書きましたが、クレーム産業と揶揄(やゆ)される業界の苦情件数がこれほど少ないはずはなく、保証協会以外に相談が持ち込まれているだろうことは容易に推察されます。

そこでまず国土交通省庁や都道府県における不動産関連の苦情相談件数を確認してみましょう。

この情報は公益財団法人不動産流通推進センターの不動産業統計集においてまとめられていますが、令和元年で1,374件の相談件数が確認できました。

公益財団法人不動産流通推進センター,苦情紛争相談件数

続いて国民生活センターを見てみましょう。

国民生活センターに寄せられる不動産に関しての相談は年間12,000件前後で推移しており、保証協会や都道府県等の件数を圧倒しています。

国民生活センター,不動産,相談件数

もっともこれ以外にも弁護士や司法書士などに直接相談が持ち込まれるケースもあるでしょうから、正確な全体数を把握することは困難です。

ですがこれまでに得られた情報を勘案すると概ね15,000件前後が、いずれかの相談窓口に持ち込まれた苦情等の件数ではないかと考えられます。

令和3年度の業者件数が128,597業者ですから、業者数に対する苦情件数が15,000件(11.7%)であれば信憑性が持てる数字ではないでしょうか?

苦情とトラブルの傾向

上記までに解説したように各相談窓口に寄せられる実数把握は推察の域を出ないのですが、相談内容の傾向について解説を続けます。

それぞれの相談内容に関しての資料を総点検してみると、敷金返還や原状回復に関する相談・高齢者による自宅売却トラブルに関しての相談が目に付きます。

いずれの相談窓口においても、あいも変わらず「敷金返還・原状回復トラブル」が目に付きます。

令和3年11月に国土交通省庁が「原状回復とトラブルのガイドライン」を再改定し、賃貸人・賃借人それぞれの原状回復負担についてはかなり詳細に示されましたが、今年度においても相談件数は集計前月対比においては多少の減少傾向が見られる程度です。

定着して減少に転じるにはもう少し時間が必要なようです。

次いで目につくのが訪問販売等によるリフォーム工事や点検商法ですが、このような詐欺的手法は近年における各団体等からの注意喚起や、厳罰化の傾向により減少しています。

訪問販売,リフォーム工事,苦情

全体として相談件数の多い敷金返還や原状回復、訪問販売によるリフォームに関しては相談件数は、法律の改正や注意喚起により減少傾向が見受けられるのですが、全体に占める割合は小さいものの上昇しているのが「高齢者による自宅売却」に関しての相談です。

とくに不動産価格が上昇傾向にある昨今、どの不動産業者でも立地の良い高額な売り物件を扱いたいのが本音でしょう。

そのような本音が具現化されたのではないでしょうが、加齢により状況判断など問題が生じることの多い高齢者に対し、長時間に渡る居座りや、契約内容を理解させず売却を迫るなどの相談が増加しているのです。

高齢者による自宅売却,相談件数

国民生活センターによる相談の比率を見ると、上記に関連するような売買に関しての相談者の約70%は60歳以上の方からであり、さらに2020年度のデータによれば70歳以上の高齢者による相談割合は52.3%と過半数に達しています。

このことから高齢者が不動産トラブルに巻き込まれているケースがどれだけ多いかお分かり戴けるでしょう。

値上がりする不動産価格を背景として「買取専門業者」も増加傾向にありますが、そうではなくても希少性の高い不動産であれば積極的に取引に介入したいのが私達の本音ですが、取引に介入するのにしてもそこには不動産業者として基本的なコンプライアンスを守り、消費者保護の観点を重視するのが不動産業者としての矜持でしょう。

ですが実際に寄せられている相談を見ると、下記のように営業や説明方法にかなり問題があると思われる内容が目に付きます。

「長時間の勧誘を受け、説明もなく書面も渡されないまま強引に売却契約をさせられた」
「有利な話があると長時間勧誘され売却と賃貸借の契約をさせられた」
「強引に安価な売却契約をさせられ、解約には高額な解約料がかかると言われた」
「嘘の説明を信じて、自宅の売却と賃貸借の契約をしてしまった」
「自宅の売却をしたようだが覚えておらず、住むところがないため解約したい」

高齢者による相談ですから私達の説明を理解できず、多少なり思い込みによる部分もあるかも知れませんが、それを差し引いても長時間の居座りや強引と受け取られる勧誘方法が目立ちます。

とくに判断能力が低下していると思われる高齢者に対して契約内容の理解度を確認せず契約し、近親者などによる解約請求に対して高額な解約料を請求してトラブルになっているケースが見受けられます。

自宅で勧誘されて契約書に署名すればクーリング・オフは適用されませんから、手付倍返しや違約金等が合法的に発生することになります。

このような相談が増加傾向にあることから、国民生活センターから下記のような内容で国土交通省庁や不動産保証協会・関係団体にむけ要望が提出されています。

(1)法令の遵守 不動産業者が高齢者へ売却契約について勧誘する際に、長時間にわたる勧誘や、夜間に及ぶ勧誘、取引の相手方等が契約を締結しない旨の意思(勧誘を引き続き受けることを希望しない旨の意思を含む)を表示したにもかかわらず、勧誘を継続していることに対して苦情が寄せられています。より一層の法令遵守に努め、従業員等の指導、教育を徹底すること。

(2)高齢者に対する配慮 高齢者が契約内容等について十分に理解できていないことが原因と思われる苦情が寄せられています。高齢者との契約にあたっては、単に書面を交付するのにとどまらず、勧誘時から契約の締結にいたるまで、契約内容等について随時丁寧に説明を行うよう、また、高齢者ご本人のみならず、家族等の関係者にも契約について確認の上、十分な理解と納得を得てから行われるよう、不 動産業者へ周知していただくこと。

このような要望を受けるまでもなく、宅地建物取引業法第47条の2や宅地建物取引業法施行規則第16条の12 一号のニにおいて、取引の相手方等が契約を締結しない旨の意思を表示しているのにかかわらず勧誘行為を継続することは禁止されています。

このような行為によるトラブル相談が多発する業者に対しては、保証協会を含め国土交通省や各都道府県担当局も厳罰とする傾向もあり、割に合う行為ではありません。

まとめ

不当な勧誘行為を自覚して行っているのであれば確信犯ですから、擁護するまでもないことですが、そうではない場合、例えば私達が正しく説明を行っているのに当人の理解力が不足しており、結果的に親族等の近親者から問題だと指摘される場合があります。

実際に筆者自信も、高齢者に対して説明を行う場合には可能な限り近親者に同席を依頼するなどを配慮しますし、立会が無理であれば説明内容を書面にし、確認状況を確認しながら説明をおこなうよう細心の注意を払うようにしています。

そこまでしても、近親者からクレームに近い連絡が入る場合もあります。

おそらくは理解が不足していることから近親者に対し、当人が説明できないことがその理由のようですが、国民生活センターの要望事項にも記載されているように、当人が高齢者である場合には、必ず理解の度合いを確認しながら勧誘行為等を行う必要があることはもちろん、可能であれば親族などの相談者に立会を依頼するなど、後々、相談窓口に駆け込まれないように注意をする必要があるでしょう。

【今すぐ視聴可能】実践で役立つノウハウセミナー

不動産会社のミカタでは、他社に負けないためのノウハウを動画形式で公開しています。

\無料配布中/

Twitterでフォローしよう

売買
賃貸
工務店
集客・マーケ
業界NEWS