【取引当事者の素性調査はどこまで必要?】判例から見る宅建業者の調査義務

人は見た目で判断できないとは言いますが、担当する顧客の言動がどうにも怪しく感じるなんてことはありませんか?

典型的なのは「反社」と称される反社会的勢力の代表的なものとしては暴力団、総会屋、犯罪組織などが上げられますが、フロント企業と呼ばれ表面上では見分けの付かない暴力団関係企業などは余程のツテや注意を持って情報を集めなければ判明できません。

企業にはCSR(企業の社会的責任)の観点により、反社組織の資金源とならないよう、そのような組織や団体と取引を行わないことが求められていますが、私達、不動産業者にも不動産売買契約書の約款等に記載されているとおり「暴排規定」が定められています。

暴排規定.企業

ですが契約書の約款に記載されている反社会的勢力の排除に関する規定等は、あくまでも契約当事者が反射組織等に属していることはありませんという確約と、実際には属していた場合における契約解除や違約金等について定めているに過ぎません。

筆者も「実は私、反社に属しているのですがそれでも購入できますか?」なんて聞かれた経験はありません。

多くは身分や素性を偽っており、事後、発覚するものです。

もっともそのような詐称行為を防止し、発覚した場合には契約解除ができるよう「反社会的勢力の排除」が約款に設けられているのですが、組織に属しているかどうかについては自己申告であり、発覚したからといってスンナリと違約金を支払い契約解除に応じてくれるかといえば怪しい限りです(もっとも、そのような場合には警察の関係部署に相談すれば、柔軟に応じてはくれますがなんせ時間が必要です)

所有者など利害関係者から「なんで事前に調査しない!」とお叱りをうけ、さらに解約に向け走り回る必要があるでしょう、しかも相手は反射組織等に属している相手ですから大義名分があってもやはり怖い。

媒介報酬は請求できますが、割に合うのかは微妙なところです。

手間暇を考えれば、はなから契約を締結しないのが得策でしょう。

ですが前述したように、フロント企業の社員などは表向き判断できません。

真っ当な社会人として生活していれば、素性調査なんてツテを持たないでしょう(反社チェックを提供している会社もありますが、中小が大半の不動産業者で利用しているという話はあまり聞きません)

実際のところ、当事者に関する積極的な素性調査はどこまで必要なのでしょうか?

今回は判例も交え、宅建業者の調査義務の是非について解説します。

素性調査はどこまで必要

ビジネスマン,人事

東京地裁で平成26年11月28日に出された判決が、媒介業者の調査について一定の判断基準の目安を与えてくれますので紹介します。

この判例は不動産業者の間でも話題になりましたから、ご存じの方も多いでしょう。

高額物件の媒介を完了させた媒介業者に対し調査不足を理由として「善管義務・信義誠実の原則に反する行為があり報酬を全額請求することは権利濫用にあたる」として、その支払を拒んだことから、媒介業者の調査義務を主として争われた裁判です。

所有者の主張として「相手方の素性調査を媒介業者に依頼したが実行されなかった」としていますが、裁判所は「買主の素性調査の義務を媒介業者が負っているとは認め難い」として申し出を否定しました。

この判例では判決に至る詳細な理由が示されておらず、特殊ともいえる事例と見ることもできますが媒介業者による素性調査の義務について判断していますから、参考になるものだと言えるでしょう。

ですがその一方で、平成26年4月に東京地裁で判決された例は一定の調査義務が認められるとしました。

争われた物件はコインパーキングでした。

取引物件の道路を挟んだ場所に位置するビルに反社団体事務所が存在していたことから、購入の意思に影響を及ぼす重大告知の義務違反があるとして争われた事件です。

当該地はコインパーキングでしたが、向かい側ビルの関係者が利用してくれるのですがどうにもトラブルが多いとパーキング管理会社から聞いたことから、そのビルの様子を見に行くと1階集合ポストに「指定暴力団傘下では?」と思わせる名前が確認され、その後、警察に問い合わせをしたところ間違いないと確認されました。

話が違うと媒介業者にクレームを入れたところ「もと所有者からは、近所では色々と噂されているようだが、たんなる興行事務所である」と説明を受けていたことから、媒介業者もそれ以上の調査を実施していませんでした。

原告からすれば、少し注意をして調べれば簡単に調査ができるような内容について、所有者の言葉だけを信じ調査を行わず、告知をせずに販売したことは善管注意義務にあたるのであるか損害賠償をおこなうべきだと主張した訳です。

売主による告知により、それ以上の調査をしなかった媒介業者に調査義務は存在するかが争点となっている訳です。

判決では原告の主張は否定されました。損害賠償を支払う必要はないとの判断です。

もっともこの裁判は、契約当事者ではなく一種の近隣嫌悪施設に関しての調査についてですからその辺りは考慮しておかなければなりません。

まず判決における、近隣に反社組織の事務所等が存在している場合の告知義務については、重要事項の告知義務について宅地建物取引業法35条、重要事項説明書に記載されるべき事項に該当するかどうかについて「重要事項説明書に記載される各事項は、宅地建物取引業者が調査説明すべき事項を限定列挙したものとは解されないことから、ある事実が売買当事者にとって売買契約を締結するか否かを決定するために重要な事項であることを認識し、かつ当該事実の有無を知った場合には、信義則上、その事実の有無について調査説明義務を負う場合があると解される」としました。

つまり売買契約の締結における意思決定に影響を及ぼす重大な事項について、それを認識し、かつ知り得た場合においての説明義務を肯定しているのです。

これにより外形的に反射組織等が確認できるなど、媒介業者がその存在を疑うにたる事情が認識されている場合においては一定の調査義務が存在し、重要事項説明書に記載すべき事項に該当するという判断です。

ただしそれを踏まえたうえで損害賠償の支払いを否定したのは、以下のような事情が存在していたからです。

当該ビルは競売による取得されたビルでしたが、競売三点セットである物件評価書には当該ビルには少なくても2台の監視カメラが設置され懸念が残るとして追加調査を行った執行官が「外見上特別な建物と思われるものは見当たらない」と意見を述べていること。

被告である媒介業者の社員は当該土地取引のため複数回、測量や境界立会等の作業を実施しているが、その際に本件ビルが反射組織の事務所であるとその存在を疑うような事態に遭遇していないこと。これにより、その存在を認識している社員は存在していなかったこと。

これらにより媒介業者が、当該ビルに反射組織の事務所が存在するとの事実を認識していたと認めるには足りないと認定しました。

また原告が主張した「調査依頼」については、そのような要望をしたという事実が伺えず、そうであれば当該ビルに存在する事務所等の名称について媒介業者が認識していても、個々の所有者や使用者の属性について調査すべき義務があったとまでは言えないとしています。

もとの所有者から興行事務所であると説明を受け、それ以上の調査を実施していない点についても、媒介契約締結前において資料の明示等もないままの会話により受けた説明であったことから、それにより反社組織等の存在を疑うのは困難であるとして、認識していたとは認められないとしました。

これらにより媒介業者は損害賠償の支払いは否定されたのですが、別件として提訴されていた売り主に対しては信義則上の説明義務違反があったとして損害賠償請求の一部が認められています。

先程、売主は土地を競売により所有したと記載しましたが、その時の最高買受申出人が当該ビルは反射組織により利用されていることを理由として売却不許可の申出がなされ、それにより裁判所が追加調査を行った結果、事実であることが確認され評価額を下方修正した経緯があったのです。

売主は当然に下方修正された事実を知っており、それを踏まえて購入していたのです。

ですから「近所では色々と噂されているようだが、たんなる興行事務所である」との主張は通らないのも当然です。

事実を知っていれば虚偽の告知だからです。

もっとも裁判所による補充評価書には「追加された現況調査報告書及び警視庁への調査委託の結果からは必ずしも明らかではない」と記載されていましたが、売主はその内容を把握し、競売前に顧問先に調査を依頼し、その調査の結果で反射組織の事務所であると認識していたのですから逃げ道はありませんでした。

これにより売主のみが損害賠償の対象とされたのです。

結局のところどこまで調査を実施すれば良いの?

上記の判決において裁判所が示した判断基準が、調査範囲の目安となるでしょう。

まず近隣嫌悪施設としての判断です。

まず所有者からの聞き取りを行います。

ここで所有者が近隣反社事務所等の存在を告知した場合、それが例え噂話に過ぎないとしても「裏」を取るため調査する必要があるでしょう。

告知された内容をそのまま買主等に説明するのも有効でしょうが、勘違いや近所の噂を鵜呑みにしているケースも考えられます。

近隣嫌悪施設の存在は告知事項であると同時に、査定価格等に影響を与える要因となりますから、事実であるかどうか調査を実施するのが良いでしょう。
ただし調査するとは言っても、表面上で構いません。

まず外形的に反社組織であると判断できるような状態であるかどうか。

入り口に複数台の監視カメラが設置されているのは典型的な外形特徴ですが、それ以外にも表札等や、ビル等の前に駐車場がある場合にはその車種の傾向やそのナンバーも注意して見る必要があります。

333などのゾロ目ナンバーは分かりやすい例ですが、それ以外でも数字を合計して「9」になるナンバーはオイチョカブの最強目でもあり、また九星などによる縁起数字として好まれる傾向が高いからです(無論、別の意味で好まれ取得されている一般の方も多くおられますから、これだけが判断材料ではありません)

このように建物外形や駐車されている車両の傾向により「疑わしい」と判断することは可能です。

このような外形的調査で疑わしいと感じた場合には、その社名や団体名でネット検索し過去に事件歴の報道等がないかを調査します。

ネット等で検索する場合、反社組織であるかの他、事件や不祥事、行政処分等の履歴について調べておくと良いでしょう。

費用は必要となりますが専門の調査会社や興信所などに調査を依頼するのも方法です。

このような基礎調査により、かなりの確率で反社組織である可能性が高い場合には警察の暴力団追放センター等に照会・相談することも可能です。

警察には「暴力団関係者データベース」が存在しており、照会は可能ですが限りなくグレーであるなど「疑わしい」に留まる場合には開示請求に応じてもらえません。

反社である組織・団体・個人に限らず、基本調査で知り得た内容を説明すれば媒介業者としての調査義務は果たしたと言えるでしょう。

そのうえで「費用は負担するので、調査会社等を利用して調べてほしい」との要望があれば、特別依頼として受任し調査を依頼すれば良いでしょう。

もっとも所有者の告知を状況報告書等に記載し説明するだけで、提訴された場合には媒介業者としての責任は果たしていると判断される可能性が高く、当事者から特別に依頼された場合を除き積極的な調査は必要ありません。ですが後になってからトラブルになる可能性が高い内容ですから外形的な調査やネット検索程度は実施しておくのが得策だと言えるでしょう。

まとめ

筆者は昨年の2021年5月に、ご覧頂いている不動産会社のミカタに【反射チェック調査の重要性】というタイトルの記事を寄稿しています。

主として反社チェック方法について寄稿した記事なのですが、今回の記事を執筆するにあたり「反社・調査・不動産」をキーワードとしてインターネットで検索する、約190万件の検索結果において、ほぼトップに表示されていました。

それ以外に検索されたものを見ると、反社会的勢力に関する説明義務についての記事が目立ち具体的な調査方法について言及されているものは目に付きません。

それだけ実践的な調査方法等を知りたいという要望が高いのではないかと推察されます。

筆者は現役の不動産実務者ですから、机上の話題ではなく、実際に経験した過去の事例や現在も自ら心がけ実践している調査方法などについて解説するようにしています。

前回は調査方法についての記事でしたので、今回は調査義務の範囲を明確にし、どこまでの調査を行う必要があるかについて解説しましたが、以前の寄稿記事である調査方法と、今回解説した調査の範囲を参考に、反射組織との取引予防に貢献できれば幸いです。

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