増築未登記の建物取引に関して、注意点を解説

中古住宅の媒介依頼を受け調査を進めた結果、増築未登記が判明した経験を持つ方も多いでしょう。

固定資産評価証明書に記載されている面積と、登記事項証明書に記載されている面積に違いがある場合、または建物図面を取得しても現況と整合性のない場合には増築未登記が理由になります。

調査結果は重要事項説明書や融資の申込書にも正確に記載をする必要があり、また増築面積が建蔽率や容積率を超えている場合には「違法建築物」として取引に支障をきたすことになります。

皆様もご存じの通り、建築基準法第6条では増築・改築・移転の場合において床面積の合計が10㎡を超える場合には建築確認申請が必要とされています。

逆説的に、それ以下である場合には建築確認申請が必要ないことから未登記のまま放置されている事例がみうけられます。

今回は、このような増築未登記の場合における重要事項説明書への記載方法や、取引を行う際の注意点について解説します。

重要事項説明の記載について

増築未登記のまま取引する場合、重要事項説明書への記載について以下のような点に注意しなければなりません。

① 未登記の内容について、建物表示欄に登記事項証明書の公募面積を記載する。
② 備考欄に、未登記部分の位置や面積・形状・増築時期を記載する。
→記載例「本件建物については公募床面積の他に増築未登記部分(1階南側リビングを増築)約10㎡があります。
建築確認通知書により増築時期は平成〇年〇月であり、増築部分については前述の通り未登記となっています」

重要事項説明への記載については上記のポイントに注意して記載すれば問題はありません。

ただし以下のようなケースでは更に詳しい記載が必要となります。

③ 増築により建蔽率や容積率を超えてしまっている場合
④ 固定資産税評価証明書に記載されている面積と、未登記であるにもかかわらず登記事項証明書の大きさが同じ場合(増築を自治体が認識していないケース)

増築により建蔽率や容積率を超過している場合は「違法建築物」となります。

上記については行政処分の可能性もあることから、重要事項説明書への記載や物件紹介時の口頭説明は詳細におこなう必要があります。

記載もしくは説明
「本件物件は増築により建築面積が建蔽率(または容積率)を超過しています。これにより監督官庁より是正命令を受ける可能性もあります。また再建築時には現況と同規模の建築をおこなうことはできません」

増築を自治体が認識していない場合、固定資産税の金額について変更になる可能性が高いことからその旨の記載及び説明が必要になります。

記載もしくは説明
「本件建物は増築により表題変更登記が必要ですが、現在まで未登記となっています。表題変更登記を実施した場合、もしくは変更を伴わない状態において自治体の調査が実施された場合には固定資産税及び都市計画税が増額する可能性があります」

上記の両方に該当するケースには、例であげた文面を組み合わせます。

原則として表題変更登記をおこなってもらう

増築を行っているにもかかわらず表題変更未登記の場合には、増築部分の所有権が誰に帰属するか法的に分からないという見解になります。

そのような不安定な状態では安全な取引がおこなえませんから、私たち宅地建物取引業者としては「表題変更登記」を所有者に推奨することが原則です。

それではなぜ、冒頭から未登記の場合における重要事項説明書の記載方法を解説しているかというと「説明をしても応じてくれない所有者」がいるからです。

建物表題登記は建物の物理的状況を明らかにすると言う目的から、竣工後1か月以内の登記「義務」とされています。

建築確認申請を提出して工事を実施した場合にはその限りではありませんが、床面積合計が10㎡以下の場合には申請が不要であることから増築工事を実施しても、自ら「表題変更登記」申請をしなければ発覚しにくいという事実があります。

申請すれば固定資産税が上がる、もしくは知識不足などの理由により建築確認不要の増築に対する表題登記変更は非常に少ないのが実情です。

このような物件を取り扱う場合においても表題変更登記を推奨し、実施してもらうことが取引の基本となります。

また所有者が納得した場合において、売買契約時点で未実施の場合においては「所有権移転時までに表題変更登記を完了する」として記載する必要があります

表題変更登記により違反建築部になる場合には住宅ローンが受けられない

表題変更登記をおこなって、現況と建物登記事項証明を一致させれば住宅ローンの対象とされます。

問題は表題変更登記の実施により建蔽率や容積率を超える場合、つまり「違法建築物」となる場合です。

表題変更で違法建築物となる場合でも、融資の利用を検討する場合には変更登記が絶対条件となります。

これは先に解説した建物全体にたいする所有権を明確にしなければ、金融機関が抵当権を設定できないからです。

建築基準法第9条では違反建築物に対する処置として

「相当の猶予期限を付けて当該建物の除去、移転、改築、増築、修繕、模様替え、使用禁止、使用制限その他これらの規定または条件にたいする違反を是正するために必要な処置を命ずることができる」

と定めており、このような状態ではコンプライアンスやそのほかの観点からも金融機関が住宅ローンの対象としてくれる可能性は低くなります。

物件の担保評価よりも人的評価を優先して審査してくれるケースもありますが、可能性は著しく低いといえます。

ただし違反建築物の売買を禁止する法律が存在しているわけではありませんので、「現金で購入する買主」を探すのが一番の近道です。

どうしても融資を利用したい場合には不測の事態を勘案し、相応のローン特約期間を設けてあらかじめ金融機関に打診する必要があります。

信販系の住宅ローンは独自の審査基準を設けていますので、条件によっては相談に応じてくれることもあります。

違反建築物の査定額を算出するのは

違反建築物を査定する場合には、以下の点について検討し実勢額を基本としての調整が必要です。

① 違反建築物にたいして購入者の嫌悪感や心理的な不安

② 住宅ローンが利用できない可能性が高いことからの減額調整

③ 将来的に可能性のある違反是正命令による取り壊しや増改リスク

④ 転売する場合の減額リスク

査定時には上記の事項を勘案して、物件ごとに異なる条件を検討しなければなりません。

ですから通常査定に対して何%減といった「掛け率」は存在しません。

あくまでも目安ではありますが、③に記載している「取り壊しと修復費用」の金額を算出し、通常査定額から差し引き、端数金額を調整すると購入検討者にとって「値ごろ感」のある金額となります。

まとめ

今回ご紹介した「表題変更未登記」によるケース以外にも、建築業者が意図的に行っている「3戸1棟の1戸」のような連棟建築物の壁を切り離して一戸建てにしている場合には「再建築不可」となり、将来的に建て替えを行うことが出来ず増改築のみが可能となります。

この場合には表題登記に記載される新築年月日は、全体を建て替える場合を除き、終生変わらず当初の新築年度とされることから融資対象としてくれる金融機関は、ほぼありません。

このような物件が多い地域では行政が救済に動いているケースもあると聞き及びますが、実際に融資を実施する金融機関にどの程度影響力があるのか不明です。

宅地建物取引業者である私たちは、自己防衛のために知識を拡充しながらも顧客利益のために最善を尽くす心構えが肝心です。

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