【最近の競売はメリットがないは本当か?】全国の競売物件動向から考える

競売物件という言葉を知らない不動産業者はいないと思いますが、実際に入札を行ったことのある方、競落して引き渡し交渉を行った方の数となればとたんに人数が減少するのではないでしょうか。

比較的に年配の方は、専門とは言えないまでも競売経験を持つ比率は高いのですが、年齢が若くなるにつれ競売にはメリットがないと達観し、期間入札情報に見向きもしない方が多いようです。

実際に若手の営業マンが「競売にはそれほどメリットはないから」と言っているのを聞いて、筆者が具体的な理由について尋ねると「ネット記事で読んだから」が回答でした。

確かにインターネットで検索すると、競売はリスクの割に不動産業者にとってのメリットがないと言った趣旨の記事が多いようです。

ですが本当にそうでしょうか?

確かに占有者にたいし簡易手続きで裁判所が立ち退き命令を発してくれる環境が整ったことや、暴対法により反社組織が介入してくるケースがほぼ見受けられなくなったことにより、参入障壁も低く一般の方による入札も増加しました。

入札の増加は競落価格の上昇をまねきますから、転売による差額利益を目的としている場合にはそれほどメリットが感じられなくなった部分はあるでしょう。

またコロナ禍による住宅ローン支払い困窮者支援を目的として、厚生労働省が金融庁に働きかけたことにより、各金融機関にたいして各債務者のニーズを踏まえた条件変更等に関し迅速に対応することが要請されました。

各金融機関もこれを受け、条件変更だけでは返済計画が成り立たない場合には任売を推奨するなど、柔軟な対応を行いました。

これにより任売の件数が増加した反面、競売は減少しています。

確かに私達、不動産業者が誠実に対応した場合において債務者と債権者にメリットがあるのは「任売」です。

ですが債権者、つまり金融機関等の柔軟な対応を知らず、相談に出向く勇気がないなど様々な理由で期間が経過し、競売に移行してしまうケースも一定以上、存在しています。

そのような物件の中には不動産知識を有していなければ手が出せない物件も多く、そういった物件の競落にはメリットが存在するはずです。

今回は、競売の物件傾向や件数などについて各種データを見ながら検証すると共に「競売入札のメリットは本当になくなったのか」について解説します。

競売のメリット・デメリットを確認

冒頭で紹介したように、競売業務を実際に手掛けた経験がないのに周りから聞いた話やネットによる情報で競売にはメリットがないと思い込んでいる方は多いでしょう。

そこで、まずは一般的に言われている競売のメリット・デメリットについておさらいしてみましょう。

メリット

1. 購入価格が安い(あくまでも流通価格と比較して)
2. 市場に流通していない物件が購入でき、物件種別も多様
3. 手続きが簡単(入札・所有権移転等)

デメリット

1. 立ち退きリスク
2. 内覧ができず、物件調書から読み取るしかない
3. 入札期間が定められ余裕がない
4. 契約不適合責任を追求できない
5. 競落には事前調査が必須(入札額・修復費用予測)

これ以外にもありますが、一般的にこのようなものでしょう。

この中でもデメリットとして2番目にあげた「内覧が出来ない」は、競売に限らず公売の場合も同様です。

とくに公売においては競売三点セットに変わるものは存在せず、図面すら確認できない場合もあります。

一般的には所在地や坪数、建築年月日等の基本情報以外では外観写真が確認できる程度ではないでしょうか?

公売では日時指定で内覧会が行われる場合もありますが、全ての物件が対象ではありません。

買受人の要望により内覧に応じる制度も存在していますが、実施されるのは稀で、競売よりもさらに物件の見極めが難しいと言えるでしょう。

競売においても、競落率を向上させるため2004年4月1日の改正民事執行法において「債権者の申し出があった場合、裁判所は執行官により入札締め切り前の競売不動産の内覧に応じなければならない」とされましたが、内覧請求できるのはあくまでも債権者であり、入札する買受人が申出できる訳ではありません。

また専有者が存在している場合、債務者当人であるかを問わず個人情報やプライバシーの観点から協力が必須となりますので、空き家である場合を除き有名無実の制度となっています。

結局のところ物件明細書・物件調査報告書・評価書の三点セットを頼りに判断するしかない競売は、基礎知識がないと競落した後に思わぬ出費が発生します。

競売物件数の推移

競売物件(競売公告数)について年度別でその推移を見てみましょう。

とはいえ全国の裁判所に導入されている不動産競売物件情報サイトBITから、年度別公告件数を確認することは出来ませんので(各地域の地裁からは、それぞれの裁判所で扱った公告件数が個別に公表されている場合もあります)ここでは一般社団法人不動産競売流通協会が公開しているグラフから確認してみましょう。

物件公告数,2012〜2021

グラフは2012年からの公告件数ですが、およそ四半期を単位としてまとめられた公告件数に連動しています。

2012年度には四半期で3,000件を上回る物件公告が行われていましたが、以降は減少を続け2021年度においては1,000件前後で推移しています。

コロナ禍の影響で業績が悪化した企業は多く、雇用者にたいし基本給の見直しやボーナスカット、人員整理などが行われていますから公告件数が上昇に転じてもおかしくはないのですが、現在までのところそのような動きは見られません。

これは冒頭で解説したように政府主導による、支払い困窮者にたいする優遇制度等が効果を発揮していると考えられますが、原因そのものが解消されている訳ではありませんから延命措置に過ぎません。

ですが金融機関や債権を引き継いだサービサーにしても、手続きにそれなりの手間や費用の必要な競売よりも、煩雑な書類を必要とせず回収金額も増加する可能性の高い「任売」を好む傾向は高まりつつあります。

ですが残債の額や査定金額で折り合いがつかないなどの理由で債権者が任売に応じないケースもありますし、また任売により販売を開始しても必ず売却できるという保証はありません。

今後、優遇制度等の見直しにより困窮者が増加し、急激に不動産公告件数が増加する可能性については専門家の間でも意見が分かれています。

競落価格は上昇している

首都圏エリアの不動産競売情報を扱う株式会社エステートタイムズが2021年上期の1都3県不動産競売統計を発表しています。

2021年上期の1都3県不動産競売統計

首都圏を対象とした結果ですが、これを見ても緊急事態宣言前は下降傾向でしたが、折からの不動産価格高騰を受け入札数が増加しているのが見て取れます。

流通不動産価格の上昇により、自身が居住するなどの実需として少しでも不動産を安く購入したいと考える一般入札者の増加が、件数を引き上げているのでしょう。

平均入札数の上昇は下記の図からも確認することができます。

平均入札数,2012〜2021年

このような動きは何も首都圏に限定されず、変動幅は小さいながらも地方圏にまで及んでいます。

競売はオークションですから、参加者の増加により競落額が上昇するのは必然です。

1件あたりの入札件数が増加すれば競争倍率も上がり、確実に競落したいと考えれば高値で入札するしかないからです。

一昔前の競売は占有者の立ち退き交渉等も困難で、それにより参入障壁も高かったことから競売屋と呼ばれるプロの独断上でした。

難易度によっては売却基準価格で札を入れ、相応の労力が必要なものの再販時のリターンも多きく、どれだけ売却基準価格に近い価格で競落出来るかを読み合っていたものでした。

ですが、法整備により一般の方が入札する件数が増加したことにより、売却基準価格の「倍」で競落されるなど、そのようなスレスレの読み合いなど意味がなくなりました。

競落価格が読めない状況です。

下記の図は昨年度(2021年)における売却基準価格と落札額の平均を表したものですが、倍とまでは言えないもののかなりの高値で入札しなければ競落できないであろうことが見て取れます。

平均落札額,2021年公告分

評価人による物件評価額も上昇し、それにより最低競落額もまた上昇傾向にありますが、競落するためには更に高値で入札する必要がありますから再販を目的として競売を扱うにはかなり難しいと言えるでしょう。

それでは実際に競落しているのは不動産業者ではなく一般の入札者かと思いますが、どうやらそうでもないようです。

下記の落札者属性年度別の図を見ても、一定数は個人が競落しているもののほとんどが法人です。

落札者属性,2012〜2021年

落札者の情報は確認できるはずもないのでここからは筆者の推測に過ぎませんが、自社の開発計画等に必要など、確実に落とす理由がある場合などを除き、流通価格と遜色のない高値で競落している法人の多くは、競落後リフォーム工事を施し、付加価値をつけ比較的高値で販売する「買取再販業者」の数が多いのではないかと推察しています。

つい先日、クライアントからの要望によりとある競売物件の入札をしたのですが、事前に独自査定をして物件評価を割り出し、過去の競落価格等も参考にして流通価格より心持ち高値で札を入れたのですが、アッサリと競り負けました。

次順位買受申出人(最高買受申し出人が売却代金を支払わなかった場合に買受人になることが出来る手続きで、開札期日において執行官に申出る必要がある) となる可能性も考え、 開札当日は裁判所に出向き開札に参加したのですが、競落したのは顔を知っている買取再販業者で、競落額は筆者が査定した価格のおよそ1.3倍でした。

つまり一般的な流通価格よりもかなり割高です。

無論、リフォーム工事を施し、そこに利益を乗せ売価設定しても「売却できる!」と見込んでそのような高値で競落したのでしょうが、同行していたクライアントと顔を見合わせ「こりゃ無理だわ」と言って嘆くしかありませんでした。

まとめ

今回、解説したように公告件数の減少・1件あたりの入札件数増加・競落額の上昇から考えても、私達、不動産業者が競売に参加するメリットは少ないと言えるでしょう。

ですが、だからと言って期間入札情報に見向きもしないというのはお勧めできません。

数はそれほど多くありませんが、競売には狙い目の物件が存在するからです。

私達が狙うべきは、競合が多く落札価格の跳ね上がるような良好物件ではなく、不動産業者ならではの実践経験や知識によってしか扱えないような物件です。

つまり物件調書等に記載されている内容が「難」ありで、掲載されている内外部の写真はゴミだらけ、いたるところで破損等が確認できる、一般の方は見向きもしない物件です。

程度により相応の手間は必要ですが、だからこそ仕上げれば再販時の利益が期待できます。

ただし、現地踏査等を行い写真では確認できない物件の状態等について入念に独自調査を行う必要はありますが、入札件数が少ないからこそメリットが生まれるのです。

誰が見ても良好な物件については、明確な理由が存在しない限り不動産のプロが手をだすべきではないでしょう。

公告件数の動きや競落価格の動向等についての情報は積極的に入手し、入札をしなくても期間入札情報にはコマメに目を通し、機会があれば積極的に競売に参加する柔軟さが必要だと言うことでしょう。

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