【爆買いされる日本の不動産】事前に覚えておきたい外国人取引のポイント

記録的な円安傾向が続く渦中、外国人から日本の不動産が注目されています。

各種、メディアでも報じられている「不動産の爆買い」です。

日本の不動産が外国籍の企業や個人により買い漁られるのに抵抗を覚える方も多いかと思いますが、バブルの時代に日本人がありあまる「金」で諸外国の不動産を買い漁っていた時代があってのですから因果応報と言うべきかも知れません。

私達、不動産業者からすれば適正価格で問題なく取引が出来るのであれば、外国籍の方だからといって偏見を持たれる方は多くないでしょう(賃貸に関しては、生活習慣等の問題からオーナーが外国籍の方を嫌がる傾向が依然として高いのですが)

もっとも前提として違法性が存在しない場合に限られます。

大韓民国の国家行政機関である国土交通部(日本における国土交通省に相当)の調査によれば、外国人の不動産取引を調査した結果、567件もの違法行為が確認されたとの記事が亜洲経済(韓・中・英・日・越_5カ国語によるグローバル経済新聞)に掲載されていました。

調査は住宅価格上昇で外国人住宅買収が急増した2021年1~2022年5月までの2年間における2万38件を対象に、外国籍の直接取引と現金支給率・賃貸運用目的の大量買取など一定基準により選別した1145件を異常取引として選別し、結果、411件の取引において計567件もの違法疑惑行為が摘発されたとのことです。

大韓民国と日本は当然に不動産に関しての関連法規や各種法律は異なりますが、摘発された内容を見ると海外資金不法搬入・無資格ビザ賃貸業・名義信託・業務上横領・貸出用途外流用・疎明資料未提出など、内容によっては日本でも違法性が認識されるような内容です。

外国籍の方と取引する場合、内見時におけるコミュニケーションの方法や契約締結時における書面作成、決済時における登記手続きなどが問題点として頭に浮かびますが、実際にはどのような点に留意して行えば良いのでしょうか?

今回は外国人との取引を行う場合に備え準備しておきたい対策と、万が一にでも犯罪行為やトラブルに巻き込まれることがないよう、本人確認や送金トラブルについての留意事項について解説します。

取引における対応と課題

企業として積極的に外国人取引対応を検討する場合、予め様々な準備が必要とされます。

対策を講じていなければ、外国人からの購入や売却相談が寄せられた時に慌てるばかりか、知識が不足しており信頼できないと判断され、みすみすビジネスチャンスを失うことになりかねません。

少なくても下記のような点について対応策を検討しておく必要があるでしょう。

●対応部署の設置
●対応言語の範囲
●外国語対応人材の確保・教育
●契約書等の外国語版作成
●外国語版資料(ホームページ含む)等の作成
●対応マニュアルの作成
●海外不動産会社・金融機関等の提携
●アウトソーシング先(通訳等含む)の確保

もっとも小規模な不動産会社において上記のような準備を予め行うことは困難でしょう。

大概は担当営業マンの資質で取引対応可能かを判断することが多いからです。

そのような場合には、営業個人が学びを深め対応できるよう備えるしかありません。

外国人取引で想定されるトラブルと対策

前項で解説したのはあくまでも企業としての外国人取引に関する事前準備ですが、実際に担当する営業マンとしては以下のような点で不安を覚えることでしょう。

筆者も初めての外国人取引は分からないことだらけで、自らの調査で分からない場合には専門家に相談しながら対応したものです。

そのような経験を踏まえ、よくある不安と対策等について解説しておきます。

情報伝達・意思疎通・言語面で不安

日本国内で不動産購入を検討する外国人は、少なからず英語を喋ります。

それだけ英語が国際語として利用されているということですが、それ以外の言語、もしくは担当者自身が英語でコミュニケーションができるほど語学力を有していない場合には通訳を探して依頼するのが王道です。

とくに不動産の契約においては法的な説明等に必要な言語能力は単にコミュニケーションが取れるなどのレベルではなく法の趣旨を理解し的確に通訳する必要がありますから、少なくても不動産取引の通訳実績がある方を探すようにしたいものです。

商習慣上のトラブル(条件合意後に再び価格交渉されるなど)

筆者の経験ですが、日本の物件購入を希望する外国人からかなりの値引き要請があり、売主と協議の結果、金額を受託して合意、その後、相手方の国まで契約締結をしにいったことがあります。

契約には双方、通訳をたて望んだのですがいきなり「よくよく考えたのだがまだまだ価格が高い。もう少し値引きしてくれ」から始まりました。

IT重説等が認められていない時代でしたが、合意した契約書を携えて購入者の国までやってきた筆者にいきなりの洗礼です。

当然に「話が違う!」とやり返し、結局その日は契約を締結することができず交渉のみで終了した経験があります(最終的には無事、契約を締結することはできたのですが……)

外国人との取引においてこのようなケースはよく耳にしますから、日本人とは異なる価値観が存在していると理解しておく必要があるでしょう。

物件が日本国内の場合、契約書・重要事項は日本語のみで良いのか、参考訳は必須か、また外国語による契約書を作成した方が良いのか

筆者の場合、両方の準備をします。

日本の不動産を取引するのですから、原本はあくまでも日本語のものとします。

ただし、英語等(購入者の国籍に合わせた言語のもの)を別途準備し、予めその両方を確認できるようメール等の添付データとして送付しています。

また契約書等に記載された約款の内容等の理解を深めるため、民法・登記法・宅地建物取引業法等の要点を記載した参考訳を準備するようにしています。

これは法解釈において「この条文は変だ!」と指摘されることが多いので「日本の法律ではこの場合にこのような解釈をしている。根拠法として……」と反証するためのものです。

重説を含む契約内容が理解されているか不安

完全に理解されているかどうかの判断は難しいのですが、前段で解説した準備等を行い相手が納得するまで根気よく説明するしかないでしょう。

日本人相手の契約ですと、重要事項説明と契約を合わせての契約時間は1時間程度が目安ですが、外国人との取引の場合、筆者の経験ではありますが重要事項説明だけで丸一日必要なことも珍しくありません。

時間と心に余裕を以て臨むことが大切です。

どこまで説明をすれば良いのか分からない

国によって様々な考え方はありますが、日本で不動産の購入を考える外国人は契約書の内容についてシビアに考えると思って間違いはないでしょう。

日本人間での取引のように以心伝心で伝わるだろうという考え方はせず、疑問点が生じているのであればとことん説明しておく必要があるでしょう。

外国人が日本国内の銀行口座を解説するのが難しい

賃貸の場合であれば家賃振込み用、それ以外であれば電気代・ガス代等の引き落としをするため日本での銀行口座の解説は必須だと言えるでしょう。

一昔前よりは外国人の口座開設は柔軟に対応してくれるようになりましたが、最低限として以下のような事前準備が必要です。

また非居住者の場合、ほぼ口座開設はできないと考えたほうが良いでしょう。

1. 本人確認書類(在留カード・旅券・特別永住者証明・住民票の写し等)
2. 居住証明(電気・ガス代等の請求書等)
3. 印鑑(ハンコ文化ではなくても印鑑が必要とされます。またシヤチハタ等では登録できないので注意が必要です)
4. 電話番号(携帯電話でも登録は可能)

口座開設には本人確認資料として住民票の提出を求められますが、住民登録をするには中長期在留者、つまり適法に3ヶ月を超えて在留していることが必要です(在留カードの交付対象者)

ですから非居住・短期滞在ビザでは在留カード交付対象外となり、口座を解説することはできません。

在留カードの交付対象となるためには中長期滞在者である必要があり、それ以外だと特別永住者・一時擁護許可者または仮滞在許可者・出生による経過滞在者または国籍喪失による経過滞在者など所定の条件を満たしていない限り口座開設はできないと考えたほうが良いでしょう。

口座がない場合などにおいては、固定資産税や電気代・ガス代等の支払い方法をどのように行っていくのか事前に打ち合わせしておく必要があります。

海外送金に手間取り、決済準備が進まない

これもやっかいな問題です。

相手方国の慣習や個人的な性質にもよりますが、決済約定期日の直近になっても振込日が明確にならないので準備ができないこともあります。

また当然のことではありますが、契約前に決済資力の確認を徹底するようにしましょう。

登記手続きの必要書類も早めに準備

登記の手続自体は外国人であるからと言って大差ありません。

ただし非居住者等の場合には登記手続きに必要な書類の所得に時間がかかることもありますので、早い段階から書類の取得を心がける必要があります。

具体的に非居住者の場合(住民票・印鑑証明が取得できない場合)以下の書類が必要となります。

1. 宣誓供述書

住民票の代わりとして用いられます。

名前・生年月日・戸籍地・住所・本人に間違いない旨などが記載された書面ですが、在住国公証人による認証が必要です。

2. 署名証明書

印鑑登録証の代わりとして用いられます。

対象者が委任状に記した署名について、本人のものに間違いない旨を本国官公署・在日公館・所属国駐在の日本大使館等が証明したことを証する書類です。

引き渡し後のトラブルにも備えが必要

不動産会社の仕事は契約・決済まで「引き渡し後のことまで関知しない!」というのも間違いではないのですが、生活習慣や言語により近隣住民等とのコミュニケーションがうまくできずに問題が生じ「販売した不動産会社に文句を言ってやる!」とばかりに、管理組合や町内会役員・近隣住民の方からクレームが入るのはよくある話です。

筆者の経験では、とくに分譲マンション等において管理費等の滞納や管理組合運営の理解不足、議決権の未行使、ゴミ分別や時間帯等などの生活マナーに関してのクレームが多いようです。

冒頭であげたように引き渡し後には一切関わらないも一つの方法ですが、それでは近隣住民等から「売ったら知らんふりのとんでもない会社だ」と評判を落とすことになりますから、放置は考えものです。

居住・非居住により生じる問題にも違いはありますが、下記にあげるような不安面をあらかじめ解消しておく必要があるでしょう。

購入後サービス等の検討

賃貸管理等の業務委託・納税管理人の紹介等が必要かなど予め打ち合わせし、必要に応じ対応するようにしましょう。

情報伝達・意思疎通・言語面不安の解消

外国人が日本で居住する場合、在留手続・納税手続・労働関係・社会保険制度・医療手続きなどの法令・制度のほか日常でのゴミ出しルールなどの社会生活上のルールまで含めわからないことが多いでしょう。

さらに言語面での不安も残ります。

このような問題について各機関の関係部門を集約させた外国人の在留支援センターとして出入国在留管理庁によるフレスク(FRESC)が令和2年7月に開設されています。

フレスクが、地方公共団体が設置する一元的窓口対応の相談対応などにも応じていますので、まずは地方公共団体の関連窓口を紹介しておくと良いでしょう。

滞納等の対策

管理費の滞納などもよく問題としてあげられるケースです。

これは非居住者の場合には特に注意が必要ですが、日本の銀行口座を取得することができないことから口座引き落としが利用できず、海外送金による払込の煩雑さもあり遅滞するなどの状況です。

対応策として以下のような検討が必要でしょう。

1. 本人以外の第三者による支払い等(保証人・連帯保証人の確保)
2. 海外居住地の連絡先を明確にしておく

犯罪防止のため重要な本人確認

冒頭で紹介したように各種犯罪行為に加担しないためにも本人確認は重要です。

パスポート等の身分証明により本人であるとの確認まではできますが、それ以上の、例えば個人が反社組織等に属していないかなどの確認が出来る訳ではありません。

勤務先企業から証明書を発行してもらうのも一つの方法ですが、企業自体が反射組織であれば何の意味もありません。

そこで各国政府機関が公表している「制裁リスト」を利用することをお勧めします。

このデータにはテロリスト・重要犯罪者・マネロンなど、過去に犯罪歴のあった企業や個人の情報が掲載されています。

基本的に誰でも閲覧できるデータです。

ただし掲載されている企業・個人の情報は膨大であり、適切に利用するには慣れが必要ですので、不安な場合には有償で反社チェックを行っている企業などに調査を依頼するほうが良いかもしれません。

参考までに「制裁リスト」の例としてアメリカ 財務省外国資産管理室(OFAC)を紹介しておきます。

アメリカ,財務省外国資産管理室

https://home.treasury.gov/policy-issues/financial-sanctions/specially-designated-nationals-and-blocked-persons-list-sdn-human-readable-lists

このリストでは以下のような制裁リストを確認することができます。

SDN:米国大統領により安全保障を脅かすとして指定された国・法人・個人などを掲載

SSI:大統領行政命令13662号執行用リスト(制裁対象者の資産又は資産持分のため、米国内における返済期間60日間を超える新たな債務に関する取引・融資・その他の関与を禁止された企業・個人等)

FDN:海外制裁逃避者リスト

これ以外でも各国政府機関では様々な形式での「制裁リスト」が公開されていますので、当事者の国籍に応じて調査すれば良いでしょう。

また日本でも金融庁・財務省・経済産業省において「制裁リスト」に相応するものが公開されていますので簡単に紹介しておきます。

金融庁:コールド・コーリング

コールド・コーリング

https://www.fsa.go.jp/ordinary/cold/index.html

投資家にたいして証券会社や投資運用会社を装い、メールや電話などを利用して証券投資を勧誘する企業等のリストです。

財務省:経済制裁措置及び対象者リスト

経済制裁措置及び対象者リスト

https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/gaitame/economic_sanctions/list.html

外為法に基づく経済制裁措置が実施されている関係者等のリストです。

経済産業省:外国ユーザーリスト

外国ユーザーリスト

https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220310004/20220310004.html

大量破壊兵器関連等に係るキャッチオール規制(国際合意により輸出規制が行われている大量破壊兵器開発に用いられる恐れの物品等の輸出を規制する制度)により、懸念が払拭されない外国や他地域の団体等をまとめたリストです。

まとめ

売買に限らず賃貸住宅の斡旋においても外国人がスンナリと契約にこぎつけられることは多くありません。

今回、解説したトラブル要因等について懸念し、賃貸オーナーが貸し渋りをすることも多く、また本人確認や日本における居住のルール等を説明し理解を深めて置かなければ何かと問題が生じやすい等の理由にもよるのでしょう。

ですが円安の影響により外国人投資家が熱い視線を送る日本の不動産市場において「外国人との取引は行いません」というのはあまりにも勿体ないことです。

ですが今回のコラムで解説したように反社チェックや契約・決済、そして引き渡し後にいたるまで、日本人同士の取引では必要のない手順が必要であることも事実です。

また手間が必要なのは間違いなく、引き渡し後に問題が生じる可能性も高いのも同様です。

それを面倒だと考え外国人との取引を「行うかどうか」を判断することは自由だと思いますが「行わない」理由が、単に知識が不足していることに起因しているのであれば悲しい思いがします。

基本的なところだけ押さえれば、外国人との不動産取引はそれほど難しい訳ではありません。

また様々な部分で発生するトラブルも事前に回避することができるでしょう。

ビジネスシャンスを失わないため、少なくても基本だけは覚えておくよう心がけたいものです。

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