増え続ける空家は日本全体における喫緊の課題として、政府と市区町村が協力し増加の防止と解消に取り組んでいます。
対応に苦慮する市区町村の動きを後押しするため各種関連法が整備され、行政代執行など様々な権限が強化されるなどの対策が取られています。
成果として「その他空家(特定含む管理不全空家)」が減少していれば良いのですが、実際には増加を続けています。
もっとも空家対策特別措置法に代表されるような、行政代執行まで行える法律が存在するおかげで増加率が抑制されているのであって、もしこれらの法律が存在していなければ現在の増加率程度で収まっていないであろうことは明白です。
私達、不動産業からすれば放置しているぐらいなら「捨て値」でも良いから処分すれば良いのにと考えてしまいますが、相続者間で「争族化」してしまい収拾がつかない、もしくは売却のため解体をすれば売値よりも解体費用の方が高くなってしまうなど様々な理由により「処分したくてもできない」といった事情もあるのでしょう。
ですが私たち不動産業界の人間はすでに「放置していることにメリットなど存在しない」ことを充分に理解しているはずです。
その理由を分かりやすく、かつ丁寧に説明し処分方法等について提案することにより顧客の信頼を得て販売に繋がるのではないでしょうか?
知り得た知識を声高に発信していくことにより空家の所有者からも相談が増加し、結果として空家増加の抑制に貢献していくことができるでしょう。
今回は国土交通省住宅局が令和4年10月に公開した「空家政策の現状と課題及び検討の方向性」を活用しながら、実際の空家増加状況や問題点等についての知識を深めていきたいと思います。
人口は減少に転じストック数はさらに増加する
総務省統計局によれば2022年10月1日現在の日本人口は1億2,483万人とされています。
これでも充分に多い気もしますが、人口ピークとされている2008年(平成20年_1億2,808万人)と比較すれば325万人減少しています。
これは横浜市(2022年1月人口_約377万人)より小さく、大阪市(2022年4月人口_約274万人)より大きい政令指定都市が丸々消えたほどの人口減少です。
最も普段の生活では人が減ったようには感じませんが、改めて考えれば驚くべき人数が減少しているのです。
ですが人口の減少はこれからも続きます。
現在から45年後の2065年には、日本の人口はなんと8,808万人まで減少すると予測されているからです。
よく日本人について表現する場合「1億〇〇」なんて言い方を耳にしますが、2050年前後には総人口が1億人を切ってしまうので、そのような表現ができなくなるのですね。
人口が減少すれば当然に世帯数も減少していきます。
新築・中古を問わず住宅を購入するキッカケは世帯人数の増加によることが多いのですが、日本人には「新築信奉」が根強くあります。
世帯数は減少しているのに新築住宅が一定の増加を続けると、必然として住宅ストック数は増加していきます。
もっともこの現象は1968年、つまり54年前から始まっているのですが、それを補うように世帯数が増加を続けている時代でしたからそれほど大きな問題として取り上げられることはありませんでした。
ですが人口が減少に転じれば話は変わります。
住宅ストック数と世帯数のバランスが逆転し、その差異が年を追うごとに増加する、つまりは空家が増加するということです。
上記の図は住宅ストック数と世帯数を対比させたものですが、隣接する黄色と青のグラフ格差がそのまま「空家数」を示しています。
この格差は1998年から2018年の20年間で1.5倍に上昇しています。
さらに二次的利用、つまり賃貸用や売却用の住宅を除いた「その他空家(長期間入居者不在の住宅)」は349万戸に達しており、これは20年間で1.9倍の増加率になります。
全住宅ストック数に占める「その他空家」の割合は全国平均では5.6%とされていますが、東京都(2.4%)や神奈川県(3.3%)など全国平均を下回る地域もあれば、高知県(12.7%)鹿児島県(11.9%)和歌山県(11.2%)など、平均値の「倍」も空家が存在する地域もあることから、空家には地域格差が大きいこともデータ上で確認されています。
空家の傾向
前項で二次利用、つまりは賃貸への転用や売却活動がされずに長期間居住者不在(その他空家)は349万戸存在すると解説しましたが、その内訳はどのようになっているかについて補足します。
総務省の調査によれば約7割(240万戸)が木造住宅であるとされています。
そのうち腐築・破損等が確認された住宅は約101万戸となっており、2015年に施行された「空家対策特別措置法」により多少の減少は見られますが依然として高い数字で推移しています。
また、この101万戸の3/4(77.5%)については新耐震基準(昭和55年)以前に建築された住宅であるとされており、腐築・破損の状態により異なりますが解体して更地にする、もしくは耐震改修など相応のリノベーション工事を前提としなければ売却が困難であると推察されます。
現在各種の法整備等により所有者不明空家のあぶり出しと並行し、解体費用や二次的利用に必要とされるリノベーション工事等に関して補助金を支出する自治体も増加していますが、これは空家数が2025年(令和7年)に420万戸、さらに2030年(令和12年)には470万戸に達すると予測されていることからこそ実施されている制度です。
簡単な手入れにより活用可能な「その他空家」に関しては50万戸を二次適利用に、管理不全の空家20万戸については除去を行うとした住生活基本計画により、その他空家の数を400万戸程度に抑え込みたいとの考えがあるからです。
現在、空家等に関しての利活用に関する取り組みは8割以上の市区町村で実施されていますので、空家の所有者にアプローチする際にはそのような補助等についての詳細な内容を調査して提供することにより信頼が得られるのではないでしょうか。
空家となった原因は相続が過半数
続いて空家になった理由について解説します。
これは想像のとおりなのですが、その他空家全体の約55%は相続により取得されています。
建て替えを除けば、新築もしくは中古住宅の購入によりその他空家に分類されているものもありますが、それは全体のうち19.3%に過ぎません。
さらに、相続した物件までの移動時間が1時間を超える遠隔地の場合に、放置状態の空家となる可能性が高まることも確認されています。
相続により取得し、さらに遠隔地であれば管理ができないことは理解できます。
「それなら早々に売却してしまえば良いのでは?」と思ってしまいますが、当事者にすれば「更地にしても使い道がない」や「住宅が古くて質も悪い」など、二次的利用するにも前提としての問題解決に悩み、結果的に放置状態が継続しているケースが多いようです。
ですが不動産業者に相談して「この物件は売れませんね!」と断言されたのならいざ知らず、その多くは素人的な思い込みによるものではないかと推察されます。
時間と手間は必要であっても、売却できない不動産などそれほど存在しませんから「売却できない」と思いこんでいる所有者へのアプローチをどのように行うかは私達の課題であると言えるでしょう。
私達がそのような空家の所有者にアプローチする場合には効果的な売却方法や手法をあらかじめ検討し、具体的な提案を含め交渉に望む必要があるのでしょう。
空家は中心市街地に集中しているのは本当?
空家の所在地は密集市街地区以外の郊外に多いと思いがちですが実際にはそうではありません。
市区町村からの報告によれば中心市街地が最も多いとされているのです。
さらに中心市街地と密集住宅市街地の合計は、なんと72%にも達しています。
何とも勿体ない話です。
住宅が老朽化していても、場所が良ければ解体して更地にすれば早期売却を見込むことができます(よほど高値でなければですが)
状態によりそれほどの費用をかけなくても賃貸への転用等、二次的な利用も考えられるでしょう。
正確に理解しておきたい空家等対策特別措置法
放置状態となっている空家の所有者と売却交渉等に望む場合、市区町村による補助金など利点を説明することも大切ですが、同時にデメリットについて理解して貰うことも大切です。
筆者が空家の売却相談に出向き放置していることにメリットはないと諭しても「そんなに急がなくても……」とのんびり構えている方が多いものです。
そのような方の多くは、特定空き家に指定された場合のデメリットをほとんど理解していません。
そのような方を説得するためには、私達が空家関連防止に関する一連の法律について正確に理解している必要があります。
とくに重要なのが、空家等対策特別措置法第14条1~15項における「特定空き家にたいする措置」についてです。
特定空き家は以下のような状態である住宅の場合、指定される可能性があります。
1. 倒壊もしくは保安上危険となる恐れのある状態
2. 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
3. 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
4. その他周辺の生活環境保全を図るために放置することが不適切である状態
特に注目したいのが、指定要件が腐築・破損等が進行している状態に限られないという点です。
建物の損傷状態に問題がなくても、ゴミが放置されているなど衛生上有害な場合や管理不全による景観への影響等、市町村がその権限に基づき実施する立ち入り調査等により要件に該当していると判断された場合には必要とされる措置が求められ、それに応じない場合には「特定空き家」として登録されます。
判断基準は市区町村に委ねられています。
ですから市区町村が立入検査を実施して上記の要件を満たしていると判断すれば、それがもし主観による(チェックマニュアルは存在しますが、それも主観的に判断できる程度のものです)ものであっても指定されてしまうということです。
特定空き家に指定されれば勧告により住宅用地としての固定資産税優遇については適用外とされ、さらに命令に従わなければ50万円以下の過料、最終的には行政代執行による解体など強制的な排除が行われ、その費用は所有者に請求されることになります。
所有者不明の場合には、勧告等の手続きを経ず略式代執行まで一気にすすみます。
空家を放置することのデメリットについて説明する場合には、これら一連の流れを説明する必要がありますので正確に理解しておくようにしましょう。
今後、あらたに検討されている措置について
現在、行政において新たな空家対策として検討されている措置には様々なものがあります。
所有者の管理責任を重くする法案や、緊急時においては行政代執行の手順を経ず行えるようにするなど様々な案が検討されています。
今回、コラムで解説した現状の空家件数や実態を理解すれば、このような措置が検討されるのも当然であると思われるでしょう。
ただしこれらの措置を実施するには法整備はもちろんのこと、所有者探索に労力が必要とされるほか、担当者の不動産等に関する法的知識が必要とされるなどマンパワー不足が指摘されています。
そのような現状から、新たな措置が矢継ぎ早に講じられる可能性は低いとも考えられますが、段階的には厳罰化の方向へシフトしていくのは間違いないでしょう。
まとめ
参入障壁が低いこともあり、不動産業者の登録件数はこの不況下でも増加を続けています。
ですが売上に余裕のある事業を展開している業者がどれほどいるのかは疑問です。
同業者の集まりに参加して、その後、打ち上げ等で酒がはいり本音が飛び交うと「正直、厳しいからそろそろ……」なんて話があちらこちらから聞こえてきます。
筆者の知る限りではありますが従来どおり広告等で集客し、他社と競い合うように査定書を作成している手法で安定している業者はそれほど多いとは言えず、自社の「強み」を全面的に押し出し事業展開している業者が実績を上げているような気がします。
強みは「買取」でも「任売」でも良いのですが、その他大勢から抜け出すためには何か一工夫して認知される必要があるのでしょう。
そのような意味合いから、今後、間違いなく増加していく「空家」に関しての全般的な知識と、その主な原因となる「相続」に関しての知識は深く学んでおいて損はないでしょう。
例えば相続の場合、家族信託に精通しエキスパートとして相続前の段階、つまり生前から不動産の処分や分配等に関しての相談に応じることにより「争族化」を未然に防止し、それにより相続人からも信頼を得て、将来的な相続不動産の処分や管理を任されることに繋がります。
現状を理解し、その問題を解決することのできるスキルが「強み」となり、末永く事業を継続していく力になるのではないでしょうか。