市街化調整区域についての解説を行ったコラムの第五回目になります。
これまでは市街化調整区域の基本から建築許可・開発許可などについての概要、次に既存住宅と既存宅地について、市街化調整区域を取り扱う際に欠かすことができない「知識」について解説してきましたが、今回は「具体的な販売方法のポイント」について解説し、区切りよく最終回にしたいと思います。
これまで過去四回に渡り市街化調整区域に関しての注意点などについて解説してきましたが、市街化調整区域は都市計画法に代表される各種制限など、市街化区域内の土地であれば通常、必要としない制限があることから手間もかかり、敬遠したくなる気持ちは充分に理解できます。
わたしたち不動産業者は「売れてナンボ」の世界ですから、できれば苦労は少なく、利益を追求したいという思いがあるでしょう。
もちろん依頼してくれたクライアントに満足いただき、ひいては不動産を通じて社会に貢献するといった大義名分はありますが、それは経営(営業成果)が安定しているという前提があっての言葉で、実績が上がらなければたんなる綺麗事になってしまいます。
これまで市街化調整区域について解説してきましたが、それも「市街化調整区域を毛嫌いせず、逆転の発想で積極的に手がけてみてはどうか」という思いがあったからです。
「市街化調整区域の物件は手間ばかりかかって利益が薄い」というのは大半において事実だと言えますが、裏を返せば競合も少なく、薄利であっても多売を見込むことが可能です。
「市街化調整区域専門の業者です」などのキャッチをネット上で見かけることもありますが、本当に市街化調整区域の物件ばかり扱っているかどうかは別にしても、少なからず売却などで困っている当事者の目は引くことでしょう。
隙間を狙った差別戦略の発想です。
もっともそのために必要なのが、市街化調整区域ならではの法律やルールに関する理解です。
最終回となる今回は、これまで学んだ内容について復習をかねながら、市街化調整区域内の土地建物を有利に販売する方法について考えていきましょう。
まず建築できるかどうかの見極め
「市街化調整区域の売買は難しい」と考える一番の要因は、土地の開発行為や建築などについてハードルの高いことが原因でしょう。
「建築や改築・増築に関しては原則として開発許可が必要である」まずこの原則を正確に理解しておく必要があります。
開発許可を得るためには技術上の許可基準(都市計画法第33条)及び立地上の許可基準(同法第34条)の双方の要件を、それぞれ満たしている必要があります。
開発許可の詳細な要件などについては第三回目のコラム【不動産業者なら覚えておきたい】市街化調整区域の開発行為をご覧ください。
個人申請で開発許可を狙えるのは「周辺居住者の利用に供する公益上必要な施設、日常生活に必要な店舗など(法第34条第1号・政令29条5)」ぐらいだとお分かりいただけるでしょう。
それ以外で開発許可を得るのは不可能に近いと考えておくのが無難でしょう。
ですから市街化調整区域内で建築・増改築などができるのは、属人性により開発許可が不要とされる方(農林漁業従事者が自己の居住に供するため建築する場合、開発許可が不要。ただし建築許可は必要)を除けば「線引き前宅地」や「既存住宅」のみです。
市街化調整区域の不動産を扱う場合、再建築などが開発許可不要で行えるかどうかについての調査や見極めが大切である理由です。
それにより販売方針やアプローチの手法も変わるからです。
市街化調整区域でも売却がしやすい物件は
市街化調整区域内で販売しやすい物件は、説明するまでもなく「線引き前宅地」や「既存住宅」です。
建築行為などが可能であれば「線引き前宅地につき建築可」もしくは「再建築可」として立地や間取りなどの要件を勘案し、適正な金額で売り出せば良いだけだからです。
市街化区域内の物件販売と大差ありませんので、事前調査の手間を除けばそれほど頭を悩ませる必要はないでしょう。
問題はそれ以外の既築住宅や土地に関しての販売です。
購入できる人を絞り込み、創客活動する
建築行為ができない土地や、再建築不可の既築住宅(線引き後に建築された住宅は、購入にも用途変更の許可が必要)は購入者も限定されます。
なかには建築ができなくても購入を検討する人もいるでしょうが、その絶対数は少なく、広告などに掲載しても費用対効果が低く経費倒れになる可能性が高いでしょう。
ならば創客が近道です。
そのために効果的なのが近隣への告知活動です。
余談になりますが、線引き後の宅地や既築住宅は原則として開発許可を得ず建築行為は行えませんが、すでに集落が形成されている区域の場合、市区町村によっては「指定区域集落」として指定している場合があります。
指定区域集落に指定されている場合には、その集落に一定期間以上居住(概ね10年以上居住していることが条件。実家が指定集落内にあり、過去に10年以上居住していた場合を含む)していた方に限り、自己の居住に供する新築行為がみとめられる(市区町村の建築指導課に要確認)場合があります。
それ以外でも駐車場や資材置き場など近隣ならではの利用方法もありますから、まず近隣住民に飛び込み営業を行うのが近道でしょう。
筆者の場合ですと、まず売り看板を立てる。
そして「ご近所で売却依頼があり現地に売り看板を立てさせていただきました。万全の注意をもって設置しましたが、万が一を考え、あらかじめご近所に挨拶をと思いまして」なんて感じで、売り込みではなくあくまでも挨拶であることを強調し、名刺を配り歩きます(箱ティッシュなどの粗品を配布するのも効果的です)
集落は近隣同士の結びつきが濃いので「そういえば〇〇さんの息子が最近都会から帰ってきて、近所で家を建てようか、なんて話が……」と噂話を聞ける場合もありますし、そうではなくても近隣住民の方に好意をもっていただければ、少なくても「損」にはなりません。
また調査に赴く市区町村の各課で「じつはこの土地を売り出すことになって」と、さりげなく話題にしておけば、担当者によってフランクに「この辺で土地探ししている人がいたら声をかけるよ」なんて言っていただけることもあります。
まずは近隣から攻めるのが販売への近道だと言えるでしょう。
売却できなくても活用する方法はある
立地や規模によっては、売却にこだわらず活用方法を提案するのも一つの方法です。
建築ができないからと悩んでも、何も前進はしません。
それならば立地や規模、市街地からの距離や最寄り施設の有無などから、何か方法はないか考えることです。
たとえば空港などが近くにある場合には「送迎つき(パーキングと空港を無償で送迎するサービス)パーキング」としての活用を提案するなどです。
筆者の経験ですが、最寄り空港から車で15分少々にある相当規模の土地について売却相談を受けたことがあります。
市街化調整区域内で地目は山林でしたが、およそ平坦で、幸いなことに幅員6mの道路に接していました。
とはいえ開発許可を得る以外に建築は認められません。
近隣に店舗なども存在しておらず、公共交通機関とのアクセスも悪いことから団地として開発するにも不向きです。
そこで「送迎つきでパーキング」にしたらどうかと活用方法を提案しました。
面倒だからと所有者には断られましたが、収支まで含め立案した計画を無駄にするのもどうかと思い、ダメ元で「送迎つきパーキング」を運営している会社に営業をかけたところ乗り気になり、もろもろ調整は必要でしたが無事契約し引き渡しを終えることができました。
現在も、旅行シーズンなどの繁忙期には「空きまち」がでるほど盛況に営業しておられます。
墓地や霊園開発、医療施設や資材置き場など市街化調整区域であるからこそ低予算で活用できる方法はあります。
立地や規模、近隣のリサーチを徹底して活用方法のアイディアを考える。
市街化調整区域は売りにくいと敬遠するばかりではなく、販売に向けて創意工夫することが大切だと言えるでしょう。
まとめ
結局のところ市街化調整区域の販売に関してエキスパートになるためには、開発許可を筆頭とする各種制限などを正確に理解して見極める。
それにより販売方針や購入者へのアプローチ法を検討し、具体的に行動するしかないのでしょう。
最後になりますが、今回のコラムは前4回と今回のコラムを併せ全5回で完結としています。
市街化調整区域の基本から建築許可、開発許可から既存住宅へと順番に解説をしていますので、基本を学ぶためには最初から、部分的に確認したいときにはそれぞれのコラムをご覧いただければ理解が深まることでしょう。