不動産業は「情報サービス産業」の側面を持っています。
広告などによる売り・買い検討者の情報はもとより、顧客に物件を紹介する場合にもヒアリングを徹底して行い、予算や要望を把握して最適な物件を紹介するのが契約への近道です。
また近隣相場の変動や各種関連法の改正のほか税務面まで、まさに情報を制するものが仕事を制すといっても良いでしょう。
インターネット全盛の現在においては、どれだけ早く最新情報入手しているかで顧客からの「信頼度」に影響を与えることもあります。
もちろん情報の重要性は直接的に営業活動に関わるものだけに限りません。
少子高齢化や日本社会経済のグローバライゼーションに伴う度重なる構造改革、それによる情報化・規制暖和などは経済市場の国際化を促進しており、さらに円安の影響もあることから、日本の不動産を海外投資家が積極的に購入しているのも、様々な情報をもとに「今が日本の不動産は買いである」と判断してのことなのでしょう。
わたしたち不動産業界においては、今後、単純な売り買い提案だけではなく「所有者による活用」という観点から、活用方法まで含めたトータル提案を行えるスキルが必要とされるでしょう。
不動産業界においても不動産DXや電子取引などが注目され多くの企業が導入していますが、それはあくまでも業務合理化と効率化を目的としています。
業務を効率化しても、入手した情報をどのように生かし不動産ビジネスに繋げていくかを検証し、その方法を確立していなければ単に流行に踊らされ導入したことにもなりかねません。
もともと不動産業は他業種と比較して情報化による合理化と飛躍が可能な産業です。
現在の不動産業界における課題や市場動向、買い替えを検討する顧客が抱えている現状の不満点など様々な情報を意識して入手することにより、最適解ともいえる方針を決定することが出来るのではないでしょうか?
そのための情報として利用にしたいのが「住宅経済関連データ」です。
国土交通省住宅局住宅政策課の監修により、新設住宅着工や不動産投資などのほか住宅にたいする国民意識や居住水準、住宅政策の展望や課題まで多くの情報を公開している、わたしたち不動産業者にとって「知りたい」を叶えてくれるデータです。
最新版である2021年の住宅経済関連データは、下記のURLで確認することができます。
https://www.mlit.go.jp/statistics/details/t-jutaku-2_tk_000002.html
無償で公開されているデータですから利用しないのは勿体ない話です。
今回は住宅経済関連データではどのようなものが取り扱われているか、そしてどのように利用するのが効果的かについて、筆者が注目したポイントをもとに解説します。
世帯数や住宅戸数・規模は必ずおさえておきたい
世帯数や住宅戸数の推移、住宅ストック数の推移は必ず抑えて置きたい情報です。
それ以外にも、住宅にたいする国民意識としての不満率や評価、今後考える住み替えや改善に関しての意向は抑えておきたいものです。
まず世帯数についてです。
平成30年までの世帯数までしか公開されていませんが、日本全体では54,001,000世帯とされています。
そのうち持ち家率は61.2%となっています。
この数値は昭和43年からのデータと比較しても60%前後で推移しており、大きな変化は見られませんが、着実に増加しているのが空家数です。
2018(平成30)年時点の住宅ストック数は約6,200万戸でとされていますから、世帯数約5,400万世帯にたいし約16%多いのですからすでに充足率は満たしているのです。
充足率を満たしている状態で、毎年、新設される住宅があるのですから居住の用に供されていない住宅、つまり空家が増加するのも道理で、昭和43年当時は1,034,000戸であったものが平成30年には8,489,000戸と約8.2倍にまで増加しています。
これらの空家のうち二次的利用や貸家、売却を検討しているのは全体の43%で、それ以外、転勤や入院などで一時的に空家となっているものも含め、その他が52.8%にも達しています。
つまり4,482,192戸もの住宅がその他に分類された状態で空家になっているということです。
それ以外にも注目したいのが新耐震基準を満たしていない住宅数です。
現在、居住されている住宅ストック数は約5,362万戸とされていますが、そのうち約22%にあたる1,160万戸は新耐震基準以前の建築物です。
今回は空家の増加問題に関し解説することを目的としたコラムではありませんので件数の紹介までに留めますが、新耐震基準前の住宅数や利用目的が明確ではない空き家数などについては覚えておく必要があるでしょう。
床面積の減少は不満になっている?
住宅の床面積についてですが、民間借家などの床面積はそれほど変動していませんが、持ち家については減少傾向が見受けられます。
コロナ以降の資材や燃料費の高騰による建築価格の上昇や、土地価格の高騰により、次回調査ではさらに床面積が減少していることでしょう。
持ち家であればゆぅたりと住みたいとの要望が高いかと思い、床面積の減少が不満に上げられているのかと思えば、どうやらそうでもないようです。
住宅の各要素に対する不満率をみても「広さや間取りに関して不満」と答えている方は、16あげられた不満ポイントのうち最下位でした。
不満率の上位には、バリアフリー性など高齢者配慮や地震に対する建築物の剛性などの基本性能のほか遮音性などが上げられています。
床面積や間取りなどは工夫によってある程度は解消することも可能ですが、住宅の性能などについてはリノベーション工事などによるしか解消する方法はなく、そのような点が不満となっているようです。
住み替え需要を狙うなら50代がオススメの理由
持ち家に不満があれば、改善が検討されるかと思います。
不満点が前項のようなものである場合、方法としてはリノベーションする、住み替えるなどの方法がすぐに思い浮かびます。
ですが皆さんご存じのように、実際に住み替えをする世帯はそれほど多くありません。
筆者の経験でも住み替えは両親もしくは子供と同居するために住み替える、もしくは子供が別に世帯を持ち現状の家が広すぎるからといった理由が大半で「不満があるから住み替える」方はほとんど見たことがありません。
ですが多いとは言えないまでも、住み替え需要は確実に存在しています。
それでは住替えを本格的に検討している年齢は何歳頃なのかを知るのに、下記のグラフが参考になります。
もっとも高いのは50~59歳まで、つまり所有する住宅のローンもある程度返済し、売却をしてある程度まとまった資金を手にすることができる可能性が高く、また新たに住宅ローンを組むことができる年齢でもあります。
また堅実に貯蓄をしていれば貯金もあすでしょうから、もっとも現実的な年齢であると言えるでしょう。
また全年齢における住替えを検討した場合の課題ですが、やはり資金・収入面の不安や予算、現在所有している物件の売却など「お金」に関する面が上位に上げられていることも覚えておきたいものです。
既存住宅流通量の動向
不動産仲介業を行っていれば気になるのは既存住宅流通量でしょう。
新築信奉の根強い日本では、既存住宅流通量において諸外国の後塵を拝していますが、昨今の木材や設備高騰により新築価格が高騰し、三大都市圏では一般的な勤め人には手の出ない価格帯の物件が多くなっています。
そればかりが理由ではないのでしょうが、既存住宅が見直され取引量が増加しています。
平成6年以降の既存住宅流通シェアで最も比率が大きかったのは平成21年の17.6%ですが、この年は新設住宅着工戸数が極端に落ち込んだ年でした。
原因としてはリーマンショックによる影響が大きかったのですが、既存住宅は比較的安定した流通シェアを維持していることから比率が上がっています。
それ以降は新設件数の回復に併せシェア率は下降傾向にありましたが、平成30年からは上昇に転じています。
とはいえ近年の既存住宅シェア率は14~17%の間で推移していますから、アメリカ81%・イングランド85.9%・フランス69.8%など、不動産流通量の大半が既存住宅である諸外国と比較すればけして多いと言えません。
欧米諸国と比較すれば1/6~1/5程度であるのが日本の既存住宅シェア率なのです。
この傾向は住宅を購入した際のリフォーム額にも現れています。
広義のリフォーム費用は増加傾向にありますが、欧米諸国と比較した場合のリフォーム投資額からみれば低調であることが確認できます。
欧米諸国は住宅性能の向上などをメインとして工事が行われているのにたいし、日本においては「見た目」が重視されていることからリノベーションではなく、リフォーム工事が主流であることも「額」に影響しているのでしょう。
住宅は躯体の材質や工法によらず適切な改修工事やメンテナンスを施せば、寿命を延長することができます。
ただしそのようなメンテナンスを怠れば劣化は躯体にまで及び、改修工事をするよりも建て替えをした方が安上がりになってしまいます。
そのようなメンテナンスにたいする価値観のちがいにもよるのでしょうが、滅失住宅数(解体された住宅件数)における平均築年数において、日本は諸外国と比較すれば半分以下(30年前後)となっています。
木材住宅が主流である点や高温多湿な気候条件など、日本が持つ特有の条件なども影響しているのでしょうが、見直されるべき時期が到来しているのではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたか?
今回は国土交通省から公開されている住宅経済関連データから、わたしたち不動産業者が知っておいて方が良いと思われるデータを中心として取りあげ、解説をくわえました。
あくまでも推計ですが、2060年には日本の総人口は9,284万人まで減少するとされています。
人口ピークであって2005~2010年と比較すれば、すでに日本の人口は減少に転じているのです。
それにたいして住宅ストックは年々増加していくのですから、充足状態を通り越し過剰に至るのは必然です。
生涯未婚率の増加や平均初婚年齢の高齢化傾向、それによる出生率の低下を防ぐ手段も具体的にはありません。
ですがどのような時代においてもわたしたち不動産業者は、不動産事業を展開していくしかありません。
そのためには時代の傾向やきたるべき未来について現在入手できる情報から予測し、不動産の利活用など様々な対策をこうじていくことが必要だと言えるでしょう。
論語に「敵を知り己を知れば百戦危うからず」との言葉もありますが、公開されている様々な情報を積極的に入手して時代に備える心構えが大切だということではないでしょうか。