【防火設備関連の調査・説明は不動産業者の義務なの?】不動産業者なら覚えておきたい説明義務について

火災を未然に防ぐためには火の後始末はもちろん、ストーブの周りに燃えやすいものを置かないことやコンセントのほこりを清掃するなどのほか、コンロなどは安全装置の付いた機器を使用するなど日頃の備えと心がけが大切です。

ですが一般家庭であれば、このような日頃からの心がけで火災予防を行うことができますが、不特定多数の方が利用する店舗や商業ビルなどについては個人の心がけでどうにもなるものではありません。

そのような建築物には防火に関しての定期検査が定められています。

いわゆる防火扉や防火シャッターなど防火設備について重点的に検査される「法定検査」のことですが、特定建築物に該当する場合には建築基準法第12条に基づく定期報告が求められます。

特定建築物とは興行場、集会場、遊技場、店舗などのほか旅館や学校など一般的に用途面積が述べ3,000㎡以上(学校教育法第1条に規定される建築物は8,000㎡以上)あるものをいいます。

特定建築物に定められている点検は、一般的に「12条点検」と呼ばれますが、敷地の地盤や内外部、避難施設から始まり、換気設備や防火扉や昇降機などの点検状況について概ね毎年から数年おきに実施され、その周期は特定行政庁ごとに定められています。

点検報告制度に係る罰則規定について

この報告を怠る、もしくは虚偽の報告をした場合には「100万円以下の罰金」が科せられる可能性があります。

特定建築物に該当していないからと安心はできません。

規模が小さくても防火対象物に該当する場合や定期報告の対象物件として特定行政庁から指定された場合、消防用設備や特殊消防設備など設置された設備を点検し、その結果を管轄消防署などに報告することが義務付けられています。

この報告を怠る、もしくは虚偽の報告をした場合には「30万円以下の罰金または拘置」が科せられる可能性があります。

「ビルなどを所有していないから関係ない」というわけではありません。

万が一、火災が発生し人的被害が生じた場合には事故の直接的な原因を引き起こしたテナントだけではなく、ビル所有者や防火管理責任者個人にたいし禁固刑などの刑事罰となる場合もあります。

万が一の場合、尊い人命が失われるのですから当然であるとは思いますが、それだけ責任があるということは自覚しなければなりません。

これは私たち不動産業者においても心がけておきたいことです。

防火検査の対象とされているビルの売買に関与した場合だけではなく、テナントを斡旋する場合においても私たちには防火検査の実施状況などについて説明をする配慮が求められます。

もっとも、これら防火設備などに関しての定期報告実施状況などについては宅地建物業法第35条書面の記載事項とはされていません。

ですから、あまり関心もないのが実際のところでしょう。

ですが建物全体についての防火検査が行われていないとしたら、その事実を告げていなかった道義的な責任については媒介業者にもあると言えるでしょう。

万が一、それを原因として死亡者がでるような火災事故が発生すれば、道義的な責任も含め追求される可能性があります。

今回は防火設備や定期点検実施状況について、私たち不動産業者に説明責任が存在するのかについて解説すると同時に、具体的な説明の範囲などについて解説していきたいと思います。

重要事項説明時に消防設備などに関しての説明は必要?

まず、冒頭で解説したように宅地建物取引業法で定められた法35条書面(重要事項説明書)においては、国土交通省の標準書式においても記載箇所がみあたりません。

「それなら調査や説明は義務ではないのだから、必要ないだろう」と言うのは短絡的です。

宅建協会や全日などの不動産保証協会おいても、消防法が改正された平成28年6月前、2015年ごろから「消防用設備などの配置及びその点検結果に係る事項」は購入者などの契約締結判断に影響を与える事項であるとして、説明することが望ましいとしているはずです。

ですが努力義務のような状態だからでしょうか、あまり浸透している気がしません。

実際に筆者と知己のある不動産業者数社に「消防設備に関して調査、説明をおこなっていますか?」と質問したところ、9割以上の確率で「説明義務がないのに、わざわざ調査もしていないし説明もしていませんよ」という回答でした。

確かに任意ですから宅建業法違反でもなく、説明を行っていないこと自体に問題はありません。

そこで、平成27年6月に東京地裁で争われた裁判において「媒介業者に電気設備及び消防設備・定期点検報告書の調査・説明義務があるのか」について争われた事件を題材に裁判所の見解について解説していきましょう。

事件は「別れ」取引された商業ビルの売買に絡んで発生しました。

別れですから、売主・買主双方に媒介業者が関与しています。

この取引においては『付帯設備表の作成・交付を行わない』との特約が設けられていました。

決済を終えた後、買主から以下のような理由により媒介報酬は支払わないと宣言されました。

「当該建物の電気設備及び消防設備には補修を要する瑕疵があり、媒介業者には点検報告書を確認するなどにより、容易に瑕疵の存在を調査し説明できたにもかかわらず、これを怠ったのは債務不履行である。また補修により損害を被った。よって媒介報酬を損害賠償と相殺する」

取引終了後、一方的に報酬と損害賠償を相殺すると言われては黙っていられません。

媒介業者は報酬の支払いを求め提訴しました。

この裁判は媒介報酬と損害賠償の相殺が認められるかが争点とされていますが、その前段である「媒介業者による電気設備及び消防設備・定期点検報告書の調査・説明義務」について、裁判所がどのように判断するかがポイントでした。

裁判所はまず「宅建業者の重要事項の説明義務は、購入者等に対し取引物件、取引条件等に関する正確な情報を積極的に提供して適切に説明し、購入者等がこれを十分理解した上で契約締結の意思決定ができるようにするための規定である」と重要事項説明書の説明義務を定義づけました。

ついで「宅建業者が調査した上で説明すべき程度及び内容は、個々の取引における動機、目的、媒介の委託目的、説明を受ける者の職業、取引の知識、経験の有無・程度といった属性等を勘案して、買主等が当該契約を締結するか否かについて的確に判断、意思決定することのできるものであることを要する」としました。

この見解は「契約締結の判断に影響を与える事項は、契約当事者により違う」ことを示唆しています。

そのうえで「当該物件が商業ビルであることから、不特定多数の人が出入りし、またテナントが多数入居しているのだから電気設備の設置は当然として、これら電気設備が通常の使用に耐えうるか、また直ちに修繕が必要なのかどうかについて、基本的には調査・説明の対象義務であると考えられる」として、基本的に説明は義務であると考えられるとしています。

ここは大切です。

法35条書面の記載事項には含まれていませんが、契約の締結に影響を与える情報なのだから、媒介業者には調査・説明が義務であるとしているのです。

またそれにより「とくに特定防災対象建築物に該当するビルなどについては、消防設備が設置されていることはもちろん、これが維持されているかについて調査・説明義務があると考えられる」としました。

大切なポイントですから重複させますが、裁判所は重要事項説明書に義務付けられた記載事項ではなくても、商業ビルなどにおける消防設備や防火定期検査についての調査・説明は、契約の意思決定に影響を与える事項であるとして「これらについての調査や説明は媒介業者の義務と解される」と判断しているのですね。

ですが判決では媒介業者の主張どおり、媒介報酬の支払いを命じました。

どういうことでしょう?

調査・説明は媒介業者の義務と考えるのであれば、被告(買主)の主張が通りそうなものですが……
ここでのポイントは特約条項で「付帯設備表を作成・交付しない」としていたことです。

これにより契約当事者は現状有姿渡しであると認識しており、各設備の修復義務が発生する可能性もあるとしたリスクも含め売買価格が決定されたと判断されたのです。

つまりリスク込みの価格で、納得して売買したということですね。

であれば明らかに大規模な修繕が必要となる場合などを除き、通常メンテナンスの範囲内における修繕・交換などの事項についてまで媒介業者に調査・説明義務があるとまでいえないとしたのです。

また取引が「分かれ」であったこともポイントでした。

この場合、通常取引においても売買物件の基礎的調査などは売り側媒介業者が調査した内容を基礎として説明すれば足りるとするのが一般的な考え方です。

ですから裁判所は通常の注意を払えば知り得る情報について、買主から依頼があった場合も含め、過大な費用ないしは労力の負担なくできる範囲内で調査・説明すれば足りるとしました。

またこのケースでは、特約で「付帯設備表を作成・交付しない」としながらも重要事項説明書には当該建物が特定防災対象建築物に該当することなどについて説明しているので、これにより最低限必要な説明は果たしているとされているのも抑えておきたいところです。

添付書類と具体的な説明範囲

前項の裁判では、電気設備及び消防設備・定期点検報告書の調査・説明は媒介業者の義務であるとしながらも、特約の締結や、法35条書面に特定防災対象建築物である旨の記載をしていたことでその責任は果たされているとしました。

この判例から、指定建築物などの取引をする場合には、取引後、買主より電気設備・消防設備等に関し思わぬ修繕費用が必要になったとする同様のトラブルが発生する可能性を考える必要があるでしょう。

具体的には事前にエンジニアリング・レポート(ER)の取得を勧めるほか、売主から定期点検報告書などの写しを取得し、事前に買主に交付・説明をするなどの配慮です。

また、重要事項説明時には別紙として下記のような書面を準備し、説明を行うよう徹底したいものです。

重要事項説明,防災

また物件提案時には、総務省消防庁より公開されている「違反対象物公表制度」に該当していないかどかを事前に確認しておくと良いでしょう。

定期報告を行わない、もしくは消防署の指導に対応していない違反対象物件は下記に記載したURLから簡単に調査することが可能です。

https://www.fdma.go.jp/relocation/publication/

違反対象物公表制度

このように、それほど費用や労力を必要としない程度の調査と説明を行っておけば、説明義務は果たしたとして後日に発生するトラブルをある程度は抑制することが可能でしょう。

また万が一、裁判に提訴された場合にも「調査・説明責任は果たしている」とされる可能性が高いでしょう。

もっとも消防設備などの劣化状況などについては購入者の関心の高い情報であることは間違いないのですから、入手が可能であればそれらの情報を収集し提示するほか、何らかの特約を検討することも必要でしょう。

まとめ

あまり広くは知られていませんが、2015年4月1日から消防法による消防用設備設置基準が改正されたことにより、公益社団法人不動産保証協会など、私たちが加盟している各保証協会各支部などから「消防用設備の設置等の重要事項説明書への記載」について、周知依頼が発せられています。

あくまでも努力義務のような依頼ですから、ご存じない方のほうが多いかと思います。

ですが今回のコラムで解説したように、それによりトラブルが発生し裁判で争われた場合には、判例に基づき「調査・説明は不動産業者の義務である」と判断される可能性が高いでしょう。

判例で裁判所の見解を紹介しましたが、判断として納得のできる内容です。

消防設備の不備などにより火災が発生し、尊い人命が失われることになれば火事を発生させたテナントはもちろんビルなどの所有者もその責任を問われますが、そのような建物の媒介をした媒介業者の道義的責任もまた問われる可能性もあるでしょう。

「明確に義務とされていないのだから必要ない」という考え方ではなく、契約当事者を保護する観点からも積極的に説明をするよう心がけたいものです。

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