【そんなのあり?】契約直前の物件が仮差押えに。いったいどうすれば良いの

住宅やマンション・土地などを媒介し、販売を開始する際には販売理由も含め基礎的な調査を行うのは基本ですが、一般の方が不動産を購入する場合、銀行ローンを利用するのは一般的ですから、登記簿にその旨が記載されているからと言ってそれほど気にはしないでしょう。

少し目端の利く営業マンであれば、残債務の額を把握するため償還予定表を見せてもらうなども行います。

もっとも抵当権や償還予定表を見ても、延滞せず住宅ローンが支払われているかどうかまでは確認できる訳ではありませんから、所有者から特段の話がない限り「問題はないだろう」と媒介契約を締結し販売を開始するでしょう。

そこで質問ですが、契約直前の物件が仮差押になったらどうしますか?

客付けが済んでいなければ、「顧客都合により売りヤメ」にすればよいだけですが、契約準備に入っていた場合やすでに契約している場合、「え、なんで……」と絶句し、利害関係者にどう話をすれば良いのかパニックになってしまうでしょう。

つい先日のことですが、知己の若手営業マンから「契約直前の物件に、調査時点(売出し開始前の調査)で確認できなかった新たな債権者による仮差押が入りました。一体、どうすれば良いのでしょうか……」と、途方にくれた声で相談電話がありました。

ご存じのように仮差押とは、債権回収の手段として提訴を起こす前に財産を確保するための制度ですが、これにより債務者の財産処分は禁止されてしまいますから経験がなければ慌てますよね。

さして難しい話でもないのですから、「上司に相談してはいかがですか」と言ったところ、相談は真っ先にしたのだが「お前の責任だから、自分で何とかしろ」と突き放されたのだとか。

小規模な不動産会社にありがちな「塩対応」ではありますが、速やかに仮差押をした債権者に連絡し、売買契約が予定されている旨を説明、差押解除の交渉に入るように説明しました。

通常売買においてこのようなケースはレアでしょうが、任売の場合には多数の債権者が紐づいていることも珍しくはありません。

筆者のように30年以上も不動産業を行っている方であれば、媒介締結時に確認できなかった債権者が突然「仮差押」をするようなケースを、少なくても1度は経験していることでしょう。

今回は、そのような事態に陥った際の対応方法と、そうならないための予防策について解説します。

対応は「理」を説いて粘り強く

対応方法について説明する前に、仮差押えの基本について簡単に解説しておきます。

抵当権者が債権を回収する場合には、登記されている抵当権に基づき競売を申し立てすればすぐにでも回収手続きに入ることができます。

これは民事執行法第181条第1項第3号(不動産担保権の実行の開始)で定められており、不動産担保権の実行前に求められる提出書類は、抵当権設定がない場合には「審判または同一の効力を有するものの謄本」「担保権の存在を証する公正証書」などが求められるのにたいし、抵当権を有していれば請求債権の疎明だけで申し立てができるからです。

裁判所は申立が適法にされていると認められるとき、不動産執行および目的不動産を差押さえる旨を宣言する開始決定を行います。

債権差押命令手続の流れ

差押さえをする理由は、競売の場合には執行官や評価人が裁判所から命じられ詳細な調査を行い買受希望者に閲覧してもらう三点セットを作成する時間が相応に必要で、その間に財産が処分されないよう防止するためです。

もっとも不動産担保権の実行を開始される前には、債務者または不動産の所有者に執行抗告や執行異議の申立が認められていますので、根拠のない申立まで認められる訳ではありません。

ですが債務者の意見陳述は後回しで、債権者により一方的に行えるのが差押さえ(競売手続)です。

「差押さえ」と聞くと強制的に財産を奪うイメージがあるかも知れませんが、それは「強制執行」と混同しているだけで、差押さえはあくまで「財産の処分を禁じる手続き」に過ぎません。

よく順位1番の債権者による以外、仮差押(競売申立)ができないと勘違いしている方をみかけますが、そうではありません。

後順位の債権者であっても申立は認められています。ただその後の手続きにおいて、先順位抵当権者が優先弁済を受けると余剰を生じる見込みがないときは原則として競売手続きが取り消されるだけです。

さて差押さえ手続きの基本はこんなところにして、調査時点で確認できなかった後順位の抵当権者による「仮差押」に対する対応方法に話を切り替えましょう。

嫌がらせ目的でなければ(こんなことをしても無駄ではありますが)仮差押を行うのは債権回収のためです。

つまり財産の処分を禁止して、競売手続きに持ち込み債権を回収することが目的ですね。

相談のケースではすでに契約が予定されているのですから、その契約額と競売に移行した場合の競落予想額を予測してその情報を提供し、予定通り契約手続きをすすめた方が結果的に回収額が増加することを「理をもって説く」ことです。

債権者は少なからず金融のプロですから、細々と説明しなくても疎明書類を見ただけで判断してくれるかもしれません。

債権者との交渉力はとくに「任売」を取り扱う際には必須とも言えるスキルですが、交渉力とはいっても喧々諤々やりあう必要はありません(まれにそのような交渉が必要な金融会社もいますが……)納得できるエビデンスが揃っていればスムーズに行えるでしょう。

もっとも後順位が参入したことにより売却益による分配内容が変化しますから、場合によっては先順位にたいし減額交渉が必要になるかもしれません。

そのような場合には契約を一時中断し、先行して各債権者の合意を取り付ける必要があるでしょう。

慌てないため「疑わしい場合」の予防が大切

ご存じのように抵当権設定登記は、貸付債権の返済に不履行があった場合に備え不動産を担保にするため行われます。

通常の不動産における抵当権は、よほど資産価値の高いものではない限り2・3番抵当までがせいぜいでしょう。

後順位になるほど強制執行による債権回収は見込めないのですから、他の担保提供を求めるものです。

住宅ローンは基本的に第1順位で抵当権を設定できる場合にしか融資を承認しませんが、不動産担保ローンなどは個人の信用状況や担保評価を独自に審査し、万が一の際にも回収できると判断するれば融資を実行します。

後順位になるほど差押えにより回収できる可能性は低くなりますが、任意に不動産を売却する場合はすべての抵当権者に抹消について相談し了承を得なければなりません。

抹消に応じてもらえない場合、裁判所に「抵当権抹消登記請求訴訟」を提起し、判決を取得して抹消登記申請できますが、時間と費用が必要なことから現実的な方法とはいえません。

債権者としては強制執行になった場合、配当要求できるほどの売却益が出ないとわかっていても抵当権を設定するのは物件の担保力が高い場合を除けば、抹消相談が持ちかけられる可能性があり、そこから債権回収できる道筋がみえるからです。

「抵当権は登記を対抗要件」としていることはご存じかと思いますが、結局のところ抵当権の効力を第三者に対抗するためには登記が必要だからです。

そこで「寝耳に水」の新たな債権者による権利行使を回避する手段として、登記されたもの以外に借り入れはないかヒアリングを徹底することはもちろん、個人信用情報を取得してもらい、その情報を開示してもらうことです。

融資や割賦販売を利用すれば信用情報に登録されますが、信用情報機関には下記の様なものがあります。

全銀協(全国銀行信用情報センター)
KSC(一般社団法人 全国銀行協会)
JICC(日本信用情報機構)
CIC(シー・アイ・シー)割賦販売法・貸金業法指定信用機関

このうちCRIN(個人信用相互交流ネットワーク)によりKSC、CIC、JICCの3つは情報が連動していますので、所有者(債権者)に行ってもらう開示請求は全銀協を除けばCRINのうちいずれか一つで大丈夫でしょう。

開示請求はインターネット・開示報告書を郵送・窓口開示の3種類ありますが、方法によらず本人以外の請求はできませんので、当人に取得してもらい開示してもらう必要があります。

記載された記号の意味などまでは解説しませんが、基本的には債務情報・申込情報・利用記録・参考情報などが記載されており、これにより「どこから幾ら借りているか、また延滞履歴はどうなのか」などを確認することができます。

所有者へのヒアリングで、すべての借り入れを正直に話してくれれば良いのですが、複数債務がある場合などは気後れし、なかなか本当のことが言えない場合もあります。

また家族がいると話しにくい場合もありますから、借り入れに関するヒアリング中に挙動不審になるなど「なにか変だ」と感じる場合には、うまく「1on1」になるよう誘導して話を聞くことが大切でしょう。
個人信用情報を取得するには手間もかかりますし高額とはいえないまでも手数料が必要です。

それ以前に、本来であれば他者に開示する必要もないセンシティブ情報(漏洩した場合、犯罪に利用される可能性があるなど、重大な不利益を及ぼす可能性のある秘匿性の高い情報)です。

任意売却を引き受ける場合は必須ですが、それ以外ではうかつに取得を依頼するものではありません。

まとめ

今回はレアケースとして、取り扱い物件が「仮差押」などの事態に陥らないために必要な調査やヒアリングの大切さ、そして残念ながら「仮差押」が入ってしまった時の交渉方法について解説しました。

通常の取引ではあまりこのような経験をすることもないでしょうが、「任売」を扱っている場合にはさほど珍しい話ではありません。

任売の場合、抵当権を設定している債権者すべてにたいし任意売却の宣言をしなければなりません(実際には任意売却に関する申出書を提出するのですが)

これにより返済計画の断念を宣言したことになり、それから各債権者と配分や減額交渉に望むのですが、やっかいなのは抵当権を設定していない債権者がなぜだか抵当権設定書類一式を所有していて(所有者が渡しているからなんですが)分配相談が終了した後に入りこんできた場合です。

このような事態も今回、解説したように個人情報の開示書類を入手し確認すれば未然に何らかの手段を講じることができますから、やはり任売の際にはヒアリング結果だけを信用せず裏付け確認することが大切だということでしょう。

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