【管理費の長期滞納を理由とした競売申請は認められるのか?】管理組合からの相談に備え覚えておきたい、申請が簡単ではない理由

分譲マンションにおける管理費や修繕積立金は、集合住宅を「快適に住みやすい暮らしの維持・管理」に必要な費用です。

管理費は短期的に日常の清掃や各設備の定期点検に利用され、修繕積立金は長期的な視野で建物全体の維持管理や修繕のために利用されます。

物件の規模や築年数などの諸条件により差はありますが、管理費は全国平均で1万5,000円/月、修繕積立金は6,500円/月とされています。

ですからおおよそ月額2万円以上を各区分所有者が負担しているわけです。

住宅ローンを完済してもこれらの支払いは物件が存在している限り続きますから、戸建派の方などに言わせると「もったいない」となるのですが、日々の快適な暮らしを含め、大規模修繕に備える意味合いから必要であるのはご存じのとおりです。

分譲マンションの清掃業務は自主管理をのぞけば管理組合から委託された管理会社が行いますが、それら委託先の決定や管理費・修繕積立金の運用は管理組合によります。

快適な日々の暮らしは各組合員(区分所有者)やその家族が規約に則り、ルールを守り生活をすることが前提となりますが、管理費や修繕積立金の支払い義務も規約によるものです。

ですから管理費などの支払いが遅延された場合において、それを回収するために頭を悩ませるのも管理組合の業務となります。

筆者も札幌市内の分譲マンションに住んでいますので、管理組合の議事録には毎月、目を通しています。

それによれば毎月のように管理費の滞納が記載されています。

単月未納であれば「ついウッカリ」もあるのでしょうが、2~3ヶ月、もしくはそれ以上の滞納が確認されている場合、その回収のために管理組合の役員などは法的な手段も含め「どのように回収するか」で頭を悩ませています。

最初の段階では文章の投函や電話、ついで訪問へとすすみ、それでも回収できない場合には法的手段が検討され、最後には競売請求なども視野に入れられます。

ですが管理費などの回収で本当に競売申請が認められるのでしょうか?

今回は具体的な回収方法や判例を交え解説したいと思います。

根拠法は区分所有法59条だが……

管理費や修繕積立金の滞納を理由として競売申請する根拠は区分所有法第59条によるものですが、その前提に同法第6条及び第57条が存在します。

まず区分所有法第6条では第1項で「区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理または使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない」と規定し、続く第57条で、「第6条第1項に規定した行為をした場合またはその行為をするおそれがある場合」について行為の停止・行為の結果除去・行為の予防のため必要な措置を請求することができるとしているのです。

同法第59条は管理費や修繕積立金の滞納が区分所有者の共同生活上著しい場合に限り「競売請求」できることについて規定していますが、「他の方法によってはその障害を除去して共有部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとき」という前提を設けています。

区分所有法第59条を適用させるためには総会の「特別多数議決」が要件とされますが、問題はそれだけではありません。

任意売却には対抗できない

ビジネスマン,NG

管理費などの滞納分を回収する目的があるとはいえ、区分所有法第59条による競売申請は純粋に債権回収のために申し立てられる競売とは趣旨がことなります。

根底に「他の区分所有者の共同生活上著しい影響を与えている所有者を、管理組合から除名したい」という目的があるからです。

つまり周りに迷惑をかける人は出ていってほしいという趣旨なのです。

ですから区分所有法第59条による申請が裁判所に認められ判決を得られても、同時期にその区分所有者が任意売却などにより退去した場合は「競売」を行うことはできません。

通常の売却であれば管理費・修繕積立金は決済時に精算されますが、任意売却などの場合にはそれを行わず所有権が移転される場合もあります。

よくあるのは「売却した資金できちんと支払いをしておくから」と言われ信用していたのに、実際は支払いを行っていなかったケースですね。

この場合、新たな区分所有者が滞納分についての支払義務を継承しますから、管理組合としては新たに請求する手間は必要ですが、回収できる可能性は高まるでしょう。

その場合、支払いを行った新区分所有者は売主にたいしその費用を請求できますが、その原因を予め予見し対応しなかった媒介業者にその責任が問われることでしょう。

区分所有法59条はハードルが高い

これまで解説したように、管理組合による競売の申立は区分所有法第59条にもとづき規定されていますから、回収に苦労している場合には検討すべきでしょう。

ですが前述した「他の方法によってはその障害を除去して共有部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとき」という要件を満たすのがなかかなに難しい。

同法に基づく競売請求が棄却された判例にことかかないからです。

一例として東京地裁で平成18年6月27日にくだされた「棄却判決」を紹介します。

約5年半にもわたり管理費などが滞納されその総額が170万円にも達し、管理組合は銀行預金の差し押さえをしましたが、預金残高がないため回収できませんでした。

回収のため強制競売を検討しましたが、設定されている担保権は高額なため、たとえ競売しても「無余剰による取り消し」が見込まれるため断念しました。

参考までに「無余剰による取り消し」について簡単に解説しておきましょう。

先程少し触れましたが、通常の競売は債権回収が目的です。

ですから、先順位の抵当権者が設定した抵当権が想定される競落価格よりも多い場合、それより下位の抵当権設定者が配当を得られる見込みはありません。

その場合、裁判所は競売申立てをした債権者に通知のうえで競売手続きの取り消しをしなければならないのです(民事執行法第63条)

そこで管理組合は、目的を「管理組合からの除名」に切り替え区分所有法第59条による競売申請を行ったのです。

滞納期間5年半でその総額が170万円もあればすんなりと申立が認められそうに思うのですが、裁判所は管理組合の申立を「棄却」しました。

その理由は「区分所有法第59条は行為者の区分所有権を剥奪し、区分所有関係から排除するものであるから厳格に解する必要がある」として、先取特権の実行や区分所有者が保有するその他の財産に対しての強制執行が、「競売による以外の回収がない」と判断できるまで尽くされたのかという点をあげています。

管理組合は預貯金債権にたいし差し押さえを実行していましたが、それ以外の財産について特段の手段を講じていませんでした。

さらにくだんの区分所有者が長期滞納について法定で謝罪し、かつ経済状態が好転したことから分割弁済による和解を希望する態度を示したこともあり、裁判所は、「和解によって回収する途も残されており、競売申立て以外に管理費等を回収する途がないとまではいえない」としたのです。

管理組合から相談されたらどうすればよいか

このような管理費回収に関し、平成18年から開始された新司法試験合格者の若手弁護士、いわゆる新司組が展開しているサイトなどで区分所有法第59条による競売申請は簡単にできると勘違いさせるような情報が掲載されている場合もありますが、筆者の知る限り適用は厳格に判断されています。

預貯金はもとより、家財や自家用車などの動産も含め差し押さえるなど、「もはや競売以外では回収の目処がたたない」というところまで実行して認められるぐらいの理解をしておく必要があるでしょう。

半年や1年程度の滞納ではまず認められない可能性が高く、ましてや数ヶ月程度ではなおさらです。

管理組合の役員はあくまでも区分所有者です。あくまでも一般人の集まりですから、誰しもが法律に長けている訳ではありません。

管理会社を通じ顧問弁護士などからの助言を得ることはあるのでしょうが、私たち不動産業者に相談が持ちかけられる場合もあるでしょう。

そのような場合には、区分所有法第59条については最終手段であると理解して、それ以外の方法で回収を図る方法についてアドバイスするほうが良いでしょう。

月並みではありますが、まずは督促文章の投函や電話から始め、在宅時間を狙い頻繁に訪問するのが効果的です。

債権回収とはいっても管理組合による督促は、貸金業規制法による朝8時から夜9時までという時間制限を受けません。

道義的な面を考慮しなければ深夜でも訪問できるのです。

それにより新たなトラブルが発生する可能性もありますから程度問題ではありますが、同じマンションに居住する管理組合役員などにより精神的にプレッシャーを与えるのがもっとも効果的だと言えるでしょう。

まとめ

今回は管理費滞納に関して解説しました。

不動産業者は利益を上げるため「売り・買い」をしなければなりませんが、頭を悩ませるのは顧客との接点です。

広告により集客するのが正道ですが、紙媒体では効果も得られにくく、最近はネット広告やSNSが主流です。人脈に依存する紹介営業は歩留まりも高く効果的ですが、常に開拓を続けなければいずれ情報も枯渇します。

不動産営業はコンサルティング営業が理想であるというのは誰しも理解していると思いますが、そのような意味合いから幅広く不動産に関しての相談に応じてファンづくりに尽力し、そこから紹介につなげていくという考え方は効果が高いと言えるでしょう。

大手の不動産会社がサイトで「F&Q(よくある質問・解答集)」を盛り込んでいるのも、顧客の疑問や不安に解答するページを掲載することで信頼を得て、問い合わせにつながることを目的としてのことでしょう。

企業に属していても、不動産営業は個人のスキルに依存されることの方が多いものです。

幅広い知識を取得し、様々な相談に迅速に対応できるよう備えておきたいものです。

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