【物件提案前に検討したい】ブロック塀の安全対策について

皆さんが仲介案件として中古戸建を紹介する場合、あらかじめ物件の下見をしているだろうと思います。

顧客が飛び込みで来社した時には、「取りあえず何件か見てみますか」といった感じでレインズから希望にあう物件を引っ張り出し内見に出ることはあるかも知れませんが、そうではない場合、あらかじめ顧客の要望や予算・希望エリアなどに基づいて提案物件を決定するでしょう。

その場合にはあらかじめ下見しておくのは当然です。

近隣環境や前面道路の幅員、境界の有無や外壁の状態、庭の植栽などまで入念に、さすがに居住中の場合には敷地に立ち入ることまではしませんが、空き家の場合にはより細かく物件を下見していることでしょう。

隣地や道路の「境」にブロック塀が積み上げられている場合、その状態も確認しているはずです。

不動産業者にはあまり認知されていないようですが、2019年1月1日から旧建築基準法で作られたブロック塀については耐震診断が義務化(建築物の耐震改修の促進に関する法施行令)されています。

もっとも義務とされたのは「避難路沿道に設置された一定規模(道路に面する塀の長さが8~25mの間で、長さについては市区町村もしくは知事が決定)以上のブロック塀」です。

すべての住宅に当てはまる訳ではありませんから、認知度が低いのも仕方がないでしょう。

ですがブロック塀が倒壊し、人や物に被害を与えた場合には所有者に責任が課せられることはご存じでしょう。

外観からも劣化が確認でき耐震性に疑問が生じる場合には、遅くとも契約前までにはそのリスクや万が一の場合における所有者の法的な責任についてはもちろん、耐震診断の必要性や耐震改修に要する費用まで説明しておくことが必要です。

宅地建物取引業法では耐震性に疑義が生じるブロック塀について説明しなければならないという直接の定めは設けられていません。

ですが購入判断に影響を与える重要な情報については提供が義務づけられています。

今回はブロック塀に関して、倒壊した場合のリスクや耐震診断の方法などについて解説したいと思います。

耐震診断が義務化された背景

外観からも耐震性に疑義が生じるブロック塀が設けられた戸建住宅は、築年数相応の廉価な住宅に多いでしょう。

実際に筆者がそのような住宅を確認して回ると、いつ倒壊してもおかしくないような既存塀が管理されないままの状態であるケースを数多く目にしますので、皆さんが活動されているエリアも同様ではないでしょうか?

そのような塀の多くは、わずかな「力」が加えられただけで倒壊する可能性があります。

前述した「建築物の耐震改修の促進に関する法施工令」が施行された背景には平成30年6月12日に発生した大阪府北部地震を原因とした甚大な被害があります。

所有者のみなさまへ,地震,ブロック塀

地震により高槻市の小学校に設けられたブロック塀が倒壊し、登校中の小学生児童が巻き込まれて亡くなるという痛ましい事故の発生です。

後の報道によればプール基礎を含めた塀の高さは3.5mとなっており、建築基準法施行例で定められた2.2mを大きく超えていました。

さらに高さ1.2mを超える場合に義務付けられていた「控え壁」も設置されていなかったことから「建築基準法違反」であったことが発覚し話題になりました。

これを受け国土交通省は都道府県建築行政主務部長あてに「建築物の既設の塀の安全点検について(国住指第1130号)」を発し、学校などに限らず、一般住宅における既存の塀などについても、その所有者にたいして注意喚起を行うよう促しました。

建築物の既設の塀の安全点検について(国住指第1130号)

気になる診断費用やチェックポイント

塀の状態チェックは難しくありません。

耐震性について正確に判断した場合には専門家に依頼する必要はありますが、その費用は塀の長さや諸条件によって変動します。

一般的な住宅であれば2~4万円が目安(地域によっては市区町村が診断に要する費用の一部を助成してくれます。

詳しくは建築指導課などにお尋ねください)でしょうか。

もっとも日頃から不動産を扱っている皆さんなら国土交通省が発行している「ブロック塀の点検のチェックポイント」を活用すれば、危険性の有無や耐震改修などの必要性について容易に判断ができるでしょう。

ブロック塀の点検のチェックポイント

私たちが目視で確認する場合、構造が「ブロック塀」「組構造」であるかを確認します。

ブロック塀,組構造

「ブロック塀の確認事項」は以下のようなものです。

  1. 塀の高さ(地面から2.2m以下に収まっているか)
  2. 塀の厚さ(鉄筋のかぶり厚が多いものの方が耐久度はあがります。少なくても10cm以上、高さが2mを超える場合には15cm以上必要です)
  3. 控え壁の有無
    目安は3.4mごとに塀の高さ1/5以上突出した控え壁が設けられているかです。控え壁の有無
  4. 基礎があるか
    目視で確認しにくい部分ではありますが、塀の基礎回りを掘り返すことができればコンクリート基礎が施工されているか確認することができます。
  5. 塀の傾き
    水平器や傾斜水準器などを利用するのが理想ですが、精度は劣るもののスマホアプリでも「傾斜測定器」がありますのでそれを利用するのも良いでしょう。
  6. ひび割れ
    目視でひび割れが確認できなくても、表面の錆色(茶色のにじみ)や白い付着(ブロック内部に雨水が侵入することにより、コンクリート成分が溶けだし表面で固まった状態)が確認される場合には劣化を疑う必要があります。

「組構造の確認事項」についても、基本的な項目はブロック塀と同様ですが、高さや厚み・控え壁などの寸法が変わります。下記にことなる点だけを列挙します。

●塀の高さ(地面から1..2m以下に収まっているか)
●塀の厚さ(塀の高さの1/10以上の厚みが確保されているか)
●控え壁(塀の長さ4m以下ごとに塀の厚さの1.5倍以上の突出した控え壁が設置されているか)

火災保険などの対象とされるのか?

筆者が顧客にたいし劣化した塀についての危険性を指摘した場合、よく「損害保険にはいっているから、万が一何かあっても保険で支払われるから大丈夫ですよね」と言われることがあります。

本当にそうでしょうか?

確かに一般的な住宅火災保険の場合、門や塀、物置、車庫などについても建物付属物とされ保険対象とされます。

損壊した場合にはその程度に応じ保険金が支払われます(契約内容によっては付属物に面積制限などが設けられているほか、保証対象外としている場合もありますので注意が必要です)

ただし地震など天災地変による倒壊については、たとえ地震保険に加入していても主要構造部以外は対象とされません。

次に塀の損壊・倒壊により第三者に損害を与えた場合ですが、個人賠償責任保険特約により保証を受けられる可能性はあります。

ただし損壊などの原因が地震など自然災害である場合には対象とされません。

法的な見解としては、自然災害を原因とした倒壊などにより第三者に損害を与えた場合については不可抗力であるとして、所有者は相手方にたいし損害賠償責任を負わないとしています。

ですが管理を怠たっている場合や倒壊の危険性があると知りながら放置していた場合などについてはその限りではないともしています。その場合には損害賠償責任を問われる可能性があるでしょう。

無論、道義的責任を追及される可能性もあります。

これらのことから、「保険に加入しているから安心できる」というものではないと理解し、顧客に説明する必要があると言えるでしょう。

日本は地震大国。あらかじめの備えが大切

偶然ではありますが、コラムを執筆していた2023年5月11日、4時16分に千葉県南部でM5.4、最大震度5強の地震が発生したとの「速報」が流れてきました。

これによらずとも日本は地震大国です。

日本における地震発生件数は2001~2010年気象庁データによればM3.0~3.9で3,800回/年、M4.0以上1,060回/年(合計すると年5,000回前後が目安)とされていますが、それ以降においても2011年には10,680回、2016年は6,587回など突出した発生件数を記録した年もあります。

国連開発計画(UNDP)がまとめた報告書によれば1980~2000年のデータではあるもののM5.5以上の地震発生頻度は中国、インドネシア、イランに続いて日本は世界第四位とされています。

このような情報を知るまでもなく小規模な地震は日常茶飯事、相応規模の地震も毎年のように発生しています。

そもそも耐震基準に合致していない塀などは地震が発生するたびに応力が低下し、それが徐々に蓄積されていきます。やがてそれほど大きくもない地震で倒壊する可能性が高くなります。

このような応力が低下している塀については、傾きやひび割れなどが発生しているはずですから「ブロック塀の点検のチェックポイント」を利用すればすぐに確認することができます。

塀についてのメンテナンスや補修・補強を怠ることにメリットなど存在しません。

私たちがそれを理解し、説明責任を果たしたいものです。

まとめ

塀が倒壊し第三者に損害を与えた場合には、所有者はもちろんですがその危険性について知りながら適切な説明やアドバイスを行わなかった不動産業者の責任が追及される場合もあるでしょう。

不動産業者は「売ってなんぼ」ではありますが、不動産を通じクライアントの明るい暮らしをサポートするという使命があるはずです。

プロとしての自覚と透明性を持ち、問題が生じる可能性があるのならそれを指摘し、適切なアドバイスを心がける。

そのような誠実な対応を心がける必要があると言えるでしょう。

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