【知っているフリは厳禁!】業務に付随して有すべき相当程度の専門知識についての見解

日本トレンドリサーチが、不動産エージェントマッチングサービス「タクシエ」を運営する三菱地所リアルエステートサービスと共同で行ったアンケートによれば、不動産売却経験のある方の77%が会社だけではなく担当者も自ら選びたいと回答していました。

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(引用元:日本トレンドリサーチ『【不動産売却】77%が、不動産会社だけでなく「仲介担当者も自分で選びたい」 その理由とは?』)

アンケートでは、「不動産を売却する場合に担当者に求める要素」についての質問を行っていました。

結果、「実績」、「説明の分かりやすさ」、「レスポンスの早さ」が上位に上げられ、その合計は78.2%に達しています。

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(引用元:日本トレンドリサーチ『【不動産売却】77%が、不動産会社だけでなく「仲介担当者も自分で選びたい」 その理由とは?』)

先述したようにアンケートは不動産売却経験のある方を対象に実施されていますから、営業担当者に求められている能力と考えても良いでしょう。

求められているのは不動産営業に限らず仕事ができる人間の要素です。

仕事ができる人間ほどレスポンスが早い、つまりスピードがある。

「空き時間などないのでは?」と思えるほどの案件を抱えていても、クライアントからの質問や要望にたいし速やかに対応し、状況により自ら講じてくれる。

そのようなタイプはアナログな伝統かつ直感的な領域と、テクノロジーの基づいたデジタル領域を使い分け自らの業務効率を引き上げているケースが多いものです。

例えば顧客からの質問にたいするメール作成などにおいてもChatGPTなどを駆使すれば短時間で返信することが可能です。

ジェネレーティブAI(Generative AI)は膨大なオープンソースを利用し短時間でオリジナルテキストを生成してくれますから業務効率を引き上げるのに有効です。

反面、オープンソースが利用されていますので生成テキストの「真偽」を確認することが必須です。

もっともらしいテキストが生成されていてもよく見れば法令に反している見解や、誤解を与えるような文章が生成されている。それを瞬時に見抜くには相応の「知識」が必要です。

クライアントが求める「説明の分かりやすさ」を実践するためには、説明内容についての深い理解がなければ要約して説明することなどできません。

つまり仕事ができる人間とは常に学び続けている人間だと言えるかもしれません。

Microsoftのビル・ゲイツは著名な読書家として名をはせていますしFacebookの創設者であるマーク・ザッカーバーグも同様です。

読書による学びを通じて自己成長や知識の獲得を重視しているのです。

学びが深いからジェネレーティブAI(Generative AI)など最新のDXにも造詣が深く、使いこなせる(つまりは業務処理がより早い)そのような営業マンであれば、顧客が求める要素を満たしているのですから実績があがるのは当然です。

知識がなければ本来であれば不要なトラブルを呼び込んでしまう。

今回は知識が不足していたことにより引き起こされた法的トラブルについて紹介すると同時に、不動産営業マンに求められる相当程度の専門知識について解説します。

租税特別措置法の優遇措置が受けられなかったことで訴えられた

大阪地裁で平成10年11月に出された判決です。

土地の売買において租税特別措置法の優遇制度を受けられないのに、業者が正確に理解しておらず誤った説明したことが不法行為にあたるとして損害賠償責任について争われた事件です。

被告Bは建設業者で、原告Aが所有している所有地(927.04㎡)の共同開発をもちかけました。

共同開発すれば租税特別措置法31条の2による優良宅地造成として優遇措置が適用され、開発地のうち436.2㎡を原告に売却すれば、資金負担なしに敷地内の原告Aが居住する住宅の建替のほか新たに予定する賃貸住宅建築費用を賄うことができると説明しました。

原告Aはこの説明を信じ、売買契約金額1億556万円のとした土地売買契約と同時に住宅及び賃貸住宅等の請負契約を被告Bと締結しました。

翌年、原告Aが確定申告したところ税務署から当該地は500㎡に充たないことから優遇措置は受けられず国税及び地方税を追加納税しなければならないと指摘されました。

原告Aは納付に応じると同時に被告Bにたいし「受けていた説明と違う!」と立腹し、被告Bを相手として国税及び地方税額を相当とする損害賠償を請求したのです。

原告Aの土地所有期間は5年を超えていましたので、この場合の譲渡税率は20%(所得税15%、住民税15%)です。

判例で土地取得金額やその経緯が明らかにされてはいませんが、売買金額のみを根拠にすれば最大の譲渡税率はおよそ2,100万円になります。

被告Bが説明していたように、優良宅地造成としての優遇措置が適用されていれば課税長期譲渡所得金額2000万円を超える場合として「200万円+当該譲渡所得金額から2,000万円を控除した金額の100分の15に相当する金額」となります。

つまり「200(万)+1711(万)=1911(万)」となり、本則の2,100万円にたいして約190万円ほど税金が安くなる計算です。

これだけをみればそれほど安くなっているようには見えません。

ところが判決による損害賠償額を見ると、「優遇措置により税負担がなくなる」との誤った説明をしたように見受けられます。

そもそも市街化区域内における優良な建築物を建築する事業として租税特別措置法の適用を受けるためには、施行地区面積500㎡以上の条件を満たしてなければなりません。

所有地(927.04㎡)を全て売却していれば話は別ですが、436.2㎡を分筆して売却しても対象とされないのは多少なり調べれば誰でも分かることです。

裁判所は被告Bにたいして、「建設業として本来の業務に付随した事項についても相当程度専門知識を有するものとして一般人の信頼を受ける立場である以上、優遇措置の趣旨、適用要件については正しく説明すべき信義則上の義務がある」としました。

上記により原告Aに誤った説明を行い売買に応じさせて損害を被らせたことにつき、被告Bには契約締結上の過失があり、原告Aにたいし不法行為に基づく損害賠償責任を負うとしました。

もっとも原告Aについても被告Bの説明を鵜呑みにしたことにより3割の過失はあるとして、被告Bに命じられた損害賠償額は1,388万円となりました。

先述したように損害賠償額の根拠が、納税額相当とされていることから原告Aが「優遇措置により税負担がなくなる」と説明したのではないかと考えられる訳です。

ですが重要なのはそこではありません。

本来であれば税務知識は建築業に関係のある分野ではありませんが、「本来の業務に付随した」ものであるとして「正しく説明することが信義則上の義務である」とされていることです。

付随した事項における相当程度専門知識についての見解

不動産取引には様々な法律が関係します。これは宅地建物取引士試験の出題範囲をみれば明らかでしょう。

基本は民法・宅地建物取引業法・法令上の制限・その他関連知識の4つですが、詳細に分けていけば都市計画法・建築基準法・国土利用計画法・農地法などは基本として、さらに登記法・税法・不動産鑑定評価基準・地価公示法や統計に関する知識までを幅広く有していなければなりません。

出題傾向などの対策がされているので試験には合格できますが、資格を有していてもそれぞれの法律に精通していると胸を張れる方はほとんどおられないでしょう。

有資格者であるということは一つの目安にはなりますが、だからと言って「資格=知識を有している」との図式はなりたちません。

顧客から想定外の質問を受けた場合などは「確かそんな法律があったなぁ……なんとなくだけど」と頭の中で考えたしまうのではないでしょうか。

ですが前項の判例でお分かりになるように業務に付随する事項、つまり税務であろうが相続における法律相談であろうが応じてしまえばその発言には責任が伴います。

顧客からすれば宅地建物取引士資格やその他資格の有無によらず、不動産取引に関与している担当者は相当程度専門知識を有している人とみなしているからです。

誤った説明を受けそれを鵜呑みにしてしまうのも仕方がないでしょう。

人間誰しもミスや勘違いはありますから、時に誤った説明をしてしまうこともあるでしょう。

そのような説明に気がついたときには、速やかに謝罪するのはもちろん訂正することが大切です。

とくに顧客の購入判断に影響を与える内容については誤った説明をしてはならない重大な要素です。

知識が及ばない場合においてごまかすような真似はせず、「調べてから連絡させていただきます」と宣言し追って速やかに説明責任を果たせば良いのです(のちほど連絡しますを頻繁に繰り返せば、何も知らない担当者だと呆れ返られますから日頃からの学びは大切です)

まとめ

筆者は現役の不動産業者ですから、皆さんと同じように新人の同行や自身の担当案件として査定のため客宅訪問する機会があります。

何社かの競合会社が存在しているのは珍しくもありませんが、例えば専属・専任・一般媒介の違いなどについても説明するのですが、その際に「初めて聞きました」と言われることがあります。

「私の前にどちらかの業者さんがこられるていのですよね?」と聞くと、「専任ですか?それだけは説明してくれましたけど、それぞれの違いについての説明は受けていません。

ただ媒介契約書に署名してくださいと迫られただけで」なんて言っておられる。

説明を聞いてはいても理解できていない可能性は否定できませんから一概に言えませんが、本来であれば理解の度合いを確認しながら正しく説明しなければなりません。

そのような部分が省略されていると感じることはよくあります。

不動産営業の役割は、プロとして適切なアドバイスや情報提供により信頼関係を築き安心・安全な取引をサポートすることです。

そのために常に高い専門性と優れたコミュニケーション能力の向上を意識し学び続けることが肝要だと言えるでしょう。

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