【防犯カメラによりプライバシーが侵害されていると隣家からクレーム】設置を検討する顧客に助言したい判断基準について

近年、防犯意識の高まりから、新築はもとより新たに購入した中古戸建においてもカメラ付きインターフォンを設置する家庭が増加しています。

訪問者の来訪時間や画像を記録するのは当然として、最新のテレビドアホンなどでは夜間においても鮮明に画像が記録できるナイトビジョンや、地域の気象警報や自然災害警戒情報を知らせてくれるアラート機能のほか、外出中でもスマートフォンでリアルタイムに映像と音声で来客対応できるなど便利機能が満載です。

また、機種によっては屋外防犯カメラと連携できる商品も存在しています。

都市防犯研究センターの調査によれば、空き巣などを目論む犯罪者のおよそ47.5%がインターフォンにより在宅確認をするとされていますが、カメラ付きインターフォンが設置されている建物にその手法を用いることはありません。

自らの「顔」を録画されることを好む犯罪者などいないからです。

警察庁が公表している侵入窃盗の認知件数が減少しているのも、「防犯効果の高いカメラ付きインターフォンの普及が貢献しているのでは」とされています。

侵入窃盗認知事件数の推移

ですが、玄関が無理ならその他の場所からの侵入を試みるのが道理で、空き巣犯などの侵入経路も変化しています。

少なくなったとはいえ、全国的にみれば一日平均の侵入窃盗事件は約43件発生と報告されており、そのうち33%は戸建住宅で発生している事件です。

玄関以外で人の目につきにくい場所にある窓付近の防犯対策は講じておきたい。

そのような対策としてよく用いられるのが窓などを開けた場合にアラームが鳴り響く防犯ブザーの設置や、侵入されやすい窓付近を俯瞰する防犯カメラの設置です。

先述した屋外カメラ連携の機能を有していれば、外出先から防犯カメラの映像を確認することもできますし、ホームセキュリティー会社が提供しているサービスを利用していれば防犯カメラに内蔵されているスピーカーを通じ音声で威嚇することもできます。

そこまでの機能を有してはいなくても、防犯カメラが設置されているだけで抑止力になるでしょう。

このように防犯効果の高いカメラの設置ですが、取り付け位置によっては隣家などから「カメラでウチの家を覗き見している」などのクレームが発生する可能性があります。

今回は筆者のもとに寄せられた相談事例を参考に、防犯カメラの設置が隣家などの第三者にたいしプライバシー侵害にあたるのかについて解説します。

相談事例の詳細

まず筆者に最近、寄せられた相談事例を紹介しておきましょう。

数ヶ月前に築12年の中古物件を購入した方からの相談です。

丁寧に使用されていたことから建物はそれほど傷んではいませんでしたが、せっかくだからと言うことでリフォーム工事を行いました。

住宅を購入する際に調べたところ近所で数件、空き巣被害が発生していることを知りました。

最近はストーカー被害が増加するなど何かと物騒ですから、リフォーム工事の際に最新のカメラ付きインターフォンを設置すると同時に、死角になりがちな寝室と庭に面するリビングの引き違い窓が監視できるように、インターフォンと連動する防犯カメラを設置することにしました。

リフォーム工事も終わり、防犯カメラの設置によりセキュリティー対策も万全だと喜んで入居したところ、隣家からクレームが入りました。

「防犯カメラを設置したようだが、我が家の庭やリビングを覗きこめるような角度で設置されている。監視されているようで不愉快だし、プライバシーの侵害にあたるから即刻撤去して欲しい」との内容です。

言うまでもなく防犯カメラは隣家を監視するために設置した訳ではありません。

ですが設置したのは家庭用であるとはいえ水平・垂直回転や拡大・縮小を遠隔操作で行えるPTZカメラです。

操作次第では隣家を覗き込むことが可能ですから、プライバシーの侵害について反論もできない。

せっかくだからと導入した高額なシステムが仇になってしまいました。

さてここで皆さんに質問です。

防犯を目的として設置したカメラについて、隣家が主張するようにプライバシーの侵害にあたることはあるのでしょうか?

受忍限度を超えると判断される場合、撤去に応じなければならない

このような場合、社会通念上の受忍限度が判断基準とされます。

判断基準は後述しますが、上記の相談事例において筆者は「設置目的など諸般の事情を総合考慮しても相手方の言い分には合理性があり、たとえ裁判で争っても敗訴する可能性が高いでしょう。求めに応じ撤去する、もしくは隣家とよく話し合い、了解を得てから設置位置を変更するなどの対応が必要です」と助言しました。

実際、同様の事案で争われた判例が存在しています。近年で有名なものとしては、東京地裁で平成27年11月5日に判決された事件ですが、これは区分所有建物の共有部分である屋外に設置された防犯カメラ4台にたいし、原告がプライバシーの侵害にあたるとしてカメラの撤去と損害賠償請求を行い、裁判所が原告の主張を一部容認した事件です。

詳細は割愛しますが、判決において裁判所は最高裁で昭和44年12月24日に下された判例を引き合いにだしました。

「人はみだりに自己の容貌などを撮影されないことについて保護されるべきである」との判断です。

それを引用したうえで、「容貌等を、その承諾なく撮影することが不法行為上違法になるかどうかについては、撮影の場所・範囲・態様・目的・必要性・撮影された映像の管理方法などの諸事情を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会通念上受任の限度を超えるものといえるのかどうかを判断して決すべきである」としました。

この判断基準が、それ以降提訴された同様の裁判で採用されています。

統一見解であると覚えておけば良いでしょう。

さて相談者が防犯カメラを設置した目的は、言わずもがな防犯です。

ですが水平・垂直回転や拡大・縮小を遠隔操作で行える高性能なPTZカメラですから庭に出ている隣人の顔や、通風のため開放している窓から室内風景を撮影できます。

このような事実関係を加味すれば、隣家の主張は正当であると考えられます。

幸いなことに隣家の要望は損害賠償の請求ではなくカメラの撤去でしたから、事実関係を踏まえても事を荒立てるのは得策ではなく、撤去に応じるもしくは了解のもと設置位置を変更するのが無難であると助言したのは前述したとおりです。

判断基準はケースバイケース

相談されたケースは、せっかくだからと高性能なPTZカメラを選択したことが仇になってしまった事例ですが、それではカメラ操作ができない固定式で、かつ感度が低いカメラを設置していたらどうだったのでしょうか?

断片情報だけで判断するのはご法度ですが、特定の窓付近だけを固定して撮影しているカメラで、さらに性能が低く容貌もぼやけて撮影されるような感度であれば、隣家に画像を確認してもらって納得してもらえた可能性はあるでしょう。

前述した東京地裁の判例においても原告が主張したカメラのうち3台については、設置位置などから社会通念上受任すべき限度を超えているとはいえないとして請求を棄却しています。

ちなみにこの裁判において認められた損害賠償額は原告一人あたり10万円でした。

貨幣価値は違いますが、参考として覚えておくと良いでしょう。

受任限度の判断について前述しましたが、それを裏付ける裁判が令和2年1月27日に東京地裁で判決されています。

この裁判で原告側は、隣接する建物壁面に設置された防犯カメラによりプライバシーが侵害され、転居等を余儀なくされたとして、隣地建物所有者にたいし損害賠償の請求を行いましたが、裁判所は「社会通念上受忍限度を超えるものとまではいえない」として原告の訴えを棄却しています。

この訴えにおいても、裁判所は「撮影の場所・範囲・態様・目的・必要性・撮影された映像の管理方法など諸般の事情を総合考慮して、被撮影者のプライバシー権をはじめとする人格的利益の侵害が社会生活上受忍限度を超えるものといえるがどうかを判断して決するべき」としています。

もっともこの裁判では、原告の迷惑行為がカメラを設置した原因となっており、そのような行為を注視する目的で被告がカメラを設置したことについては合理的に確認できるとしています。

ですが、設置されたカメラは隣家の玄関や室内を撮影できるような角度では設置されておらず、またPTZカメラのように特定人を追跡して撮影する機能を有していないこともあり、隣家の迷惑行為を牽制する目的であることが確認できたとしても、それをもって日常的な行動を監視する目的があったとまで認めることはできないとしたのです。

防犯カメラの設置を相談された際に心がけておきたいこと

顧客は担当した不動産業者の営業マンが、不動産に関することは何でも知っていると思い込んでいるものです。

ですが、営業マンは販売することが主業務です。

知識総量は日頃の努力の賜物ではありますが、過剰に期待されるのも困りものです(無論、顧客にたいしそのような弱気発言はできませんが)

無論、自分の業務に関することはどのようなことであっても知っておきたいという真面目な方も多く、そのような向学心に燃える方々のために不動産会社のミカタでコラムが掲載されているのです。

ですが理解が及んでいないことについて誤った説明を行えば、意図せずトラブルを発生させる原因になりかねません。

自信がない分野については正確な情報を調べてから返答する、もしくはその道のプロに助言を請うことが大切です。

では防犯カメラの設置について相談された場合、誰に聞けば良いでしょう。

セキュリティーを専門に扱っている業者であれば、プライバシー侵害に関しての知見も有しているでしょうが、単に施行だけを手掛けている職方などに聞いてもプライバシーに関しての法律知識に関しては期待できません。

施工することが仕事なのですから無理からぬことです。

設置する機種や位置などについて相談したい場合には専門業者に相談する、もしくは今回解説した裁判所の判断基準を思い出し「撮影の場所・範囲・態様・目的・必要性・撮影された映像の管理方法」などについて配慮するようアドバイスすることが必要でしょう。

まとめ

近年はセキュリティーやプライバシー意識の高まりにより、戸建住宅においても防犯カメラを設置するケースが増加しています。

毎日のように報道されている様々な犯罪から身を守る手段の一つとして、防犯カメラの設置は効果が期待できるのですから、設置台数が増えるのもうなずけます。

ですが、それに伴い増加しているのがプライバシー権の侵害に関してのトラブルです。

カメラの撤去を求める申出は日常のことで、訴訟も増加傾向にあります。

防犯のために設置したカメラが、それを理由としてトラブルを誘発しては本末転倒になってしまいます。

せっかく高額なシステムを導入しても、すぐに撤去したのであれば意味がなくなるからです。

設置を検討する場合にはコラムで解説したように設置位置について充分に配慮すると同時に、あらかじめ隣家にたいし、設置目的や撮影角度などについて説明を行い、了解を得てから工事を行う必要があると言えるでしょう。

直接、工事などに関わらなくても、相談を受けた際には不動産のプロとして正しくアドバイスできるよう備えておきたいものです。

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