「空家バンク」の名称を知らない不動産業者はいないかと思いますが、利用した経験がなければその運営方法をご存じない方も多いでしょう。
国土交通省が地域の空き家対策の貢献できるとして、空家の流通促進を目的とした「空家バンク」の設置を各自治体に推奨しています。
制度が本格的に開始されたのは「空家等対策の推進に関する特別措置法」が全面施行された2015年のことです。コラム執筆時点から遡れば、制度開始から8年経過したことになります。
ご存じない方も多いとは思いますが、制度の発端はアメリカのバッファロー市であるとの説が有力です。
制度が開始されたのは遡ること51年前、なんと1971年のことです。
国土面積が日本とは比較にならないほど広大なアメリカはそれだけ地域格差も大きく、一部地域では昔から空き家問題に直面していたのですね。
その後、アメリカで急速に広まりを見せた「空家バンク」を参考に、日本においても長野県松本市を始め幾つかの市区町村が早い段階から独自の制度として運営していたようです。
もっとも統一された運用方法はありませんでしたから試行錯誤しながら苦労していたとのことです。
そのような先進的な取り組みを参考に国土交通省が各市区町村にたいして「空家バンク」設立を推奨し始めてから8年が経過しました。
令和4年10月に公表された「空家対策の現状と課題及び検討の方向性」によれば、現在8割以上の市区町村で取り組みが実施されているとのことです。
ですが運営している市区町村は増加しましたが、成果にはかなり隔たりがあるようです。
運営ノウハウ自体に得手不得手も存在しますから、自治体ではなく民間団体やNPO法人が市区町村の委託を受け運営しているケースも見受けられます。
そもそも私たち不動産業者ですら「空家バンクの名称は知っているけれど詳しくは知らない」、「登録して効果があるの?」という意見が多いのですから、一般の方における認知度はいかほどなものかが伺えます。
皆さんは「空家バンク」を経由した成約事例はどの程度あるのか、登録方法はどのようにすれば良いのかなどについてご存じでしょうか?
今回は「知っているようで以外に知らない」空き家バンクについて解説したいと思います。
申請条件は市区町村に確認する
ネット上で「空家バンクでは原則として媒介依頼中の物件は登録できない」としている記事をよく見かけますが、それは「誤り」です。
自治体により見解がことなる面は否定できませんが、一般の方が直接不動産取引をおこなえば、問題が発生する可能性が高いことは市区町村も充分に理解しています。
そこで、直接取り引きを否定まではしていませんが、提携している宅地建物取引業協会の各支部などを通じ、媒介業者の介入を推奨もしくは必須条件としているのです。
もっとも、介入できる媒介業者については空家所在地に本社もしくは支店があることを条件としている市区町村もありますので、確認は必要です。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが令和4年度に行った「空き家対策に関するアンケート調査(空家バンク部分会)」の報告によれば宅建協会など団体との協定は6割に達していますが、単独である不動産会社と協定を締結しているのは1割弱しかないとされています。
当然に媒介業者が介入すれば手数料が必要になると前置きされていますので、紹介があれば積極的に対応を検討すべきでしょう。ですが、中には媒介するのに適さない物件(建物の状態や境界に関しての相隣トラブルなど)も存在しています。
基本的には登録を受理する前に書類上で審査されかつ現地調査が行われているのですが、中には怪しい物件も紛れ込んでいます。
当然のことではありますが協会などを通じ依頼があった場合にも、媒介を引き受けるかどうかは独自に調査してから判断したほうが良いでしょう。
現在までのところ登録申請については「原則として空家の所有者が申し込まなければならない」としている市区町村の方が多いようですが、積極的に制度を見直し実績をあげているところほど柔軟性を持ち、不動産業者による登録を認めています。
そもそもの話ですが、国土交通省は「空家バンク」の設立を推奨しているのに留まり、またデザインや物件情報の掲載判断などについて統一するよう求めている訳ではありません。
あくまでも「空家・空地バンク導入のポイント」などを公開して情報を提供しているだけなのです。設置要項や運営方針などについては、あくまで各市区町村の判断なのです。
市区町村としては空家を減らすと同時に、住人を誘致して税収を少しでも増やすことが目的ですから、不動産の専門家に協力を仰いだほうが早期売却に期待が持てるのです。
もっとも媒介依頼中である物件登録の可否など、宅地建物取引業者の介入は市区町村によって見解も異なりますので、担当窓口に確認する必要があるでしょう。
総合情報ページと成約実績
地方公共団体が独自に運営しているものが都道府県で運営する「空家情報」に紐づけされ、さらにその先にある国土交通省が運営する「空家・空き地バンク総合情報ページ」とリンクしています。
ページヘは下記URLから利用できます。
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/akiyabank_link.html
自治体が把握。提供している空家などの情報について、自治体を横断して検索できるように構築されたのが「空家・空き地バンク総合情報ページ」ですが、本格運用が開始されたのは2018(平成30)年4月のことで、まだ5年ほどしか運用されていません。
いずれにしても全体を俯瞰して物件の傾向を見る目的であれば、こちらを利用すると良いでしょう。
次に気になる空き家バンク登録物件の成約状況です。
令和5年7月末時点として国土交通省が各自治体にたいしアンケート調査を行い、その結果を公表しています。それによれば空き家バンクを経由しての成約は約14,600件あったとされています。
もっとも市区町村の運営開始時期にバラツキがありますから、年間あたりの成約件数について正確に把握することはできません。ですがそれを差し引いてもなかなかの成果ではないでしょうか。
先述した三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査でも、登録件数・成約件数ともの増加傾向にあるとされていますから、徐々にですが認知されてきたのでしょう。
空家バンクの登録方法
市区町村によって申請書式も必要書類もことなりますので、詳細については担当窓口で確認する必要があります。
当初はペーパレスに対応していないところがほとんどでしたが、最近では各自治体が登録申請フォームを提供し、電子申請に対応しているところがほとんどです。
また市区町村で対応していなくても、都道府県で運営している「空家情報バンク」では対応していますのでそちらから登録申請すれば良いでしょう。
必要書類としては登記事項証明書のほか物件写真や周辺地図、各種図面などが必要となりますが、電子申請の場合、それらはすべてPDFなどて提出できます。
空家バンクの利点と問題点
空き家バンクサイトを閲覧して購入を検討する方の多くは、「安く購入できそうだから」というのが理由ではないでしょうか。
その他にも情報が各市区町村のホームページ上で紹介されていることから、購入時などにおいて行政から手厚いサポートを受けられると勘違いしていることもあるようです。
解説するまでもないですが空家バンクに掲載されているのは個人が所有している「空家」です。
契約不適合責任を始め、市区町村は掲載物件にたいしなんらの責任も負わないことを明確に謳っています。
掲載場所を提供しているだけなのですから、スーモなどのポータルサイトとなんら変わらない訳です。
市区町村としては空家の抑制を始めとして地域活性化、環境への貢献や地域社会などが上げられているものの、少しでも空家の数を減らしたいのが本音でしょう。
ですが登録物件を一般の方同士で直接取り引きすれば様々な問題が生じるのは間違いありません。
安く購入できることがメリットである空家バンクであっても、取り引きに危険性があるのでは行政側の責任を追求される場合もあるでしょう。そこが大きな問題点になります。
もっとも、取り引きにおいてそのような齟齬が生じないよう私たち宅地建物取引業者の介入が求められている訳です。
まとめ
下手をすれば経費倒れになりかねない廉価な地方物件は、依頼されてもあまり嬉しいものではありません。
広告宣伝についても自社のホームページに掲載するだけでは引き合いも弱いですから、SUUMOなどに情報を掲載したいところです。ですが気になるのは費用です。
その点で考えれば、「空き家バンク」は積極的に利用したい制度です。
掲載料不要で国土交通省の「空家・空き地バンク総合情報ページ」と都道府県と市区町村がそれぞれ運営する「空き家バンク」に情報が掲載されるのですから、目に留まる機会も多いでしょう。
費用対効果を勘案すれば積極的に掲載を検討したいところです。
もっとも、市区町村によって「力」の入れ具合や協力体制も異なりますから、その辺りには注意が必要です。
国土交通省では空き家バンクで成功している市区町村の取り組みについて情報公開して共有していますが、それを見ると「VRを活用した内覧システム」や、担当者が自ら不動産業者を個別に訪問し制度の周知や宣伝活動、協力要請などを行なっているようです。
そのような積極的な活動があるからこそ、提携している不動産業者が協力し、その地域の空き家バンクが信頼性を高めでいるのです。
成果を上げている市区町村ほど業者を味方につけるのが上手いと言えるでしょう。
そのような地域では空家の清掃や除草、除雪など物件管理に必要な労力や資金についても補助を行っていることが多く、家財や残置物の処分に関しても同様に補助金を支給していることが多いものです。
詳細については物件が所在する市区町村の概要を調査する必要はありますが、空家を取り扱えることが強みとなることもあるでしょう。
是非検討してはいかがでしょうか?