【ガイドライン策定からもうすぐ2年】理解しておきたい事故物件の取扱いについて

「告知事項あり」この表現がレインズや販売資料・ネット情報でよく見かけるようになったのは、2021年10月8日に国土交通省により「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が策定され、それが公表された以降からです。

公表から半年以上を経過した2022年6月、筆者はガイドラインの振り返りとしての記事を不動産会社のミカタに寄稿しています。

そこからまた月日が過ぎ、もうじきガイドラインの策定から2年を迎えようとしています。

そこで今回は、改めてガイドラインが策定されたことによる功績、そして一般の方が感じる事故物件のイメージについて考えてみたいと思います。

ガイドラインのポイント

「契約の判断に影響を及ぼす重要な事実」である心理的瑕疵は、ガイドライン策定前から不動産業者の悩みの種でした。

売主から事実を知らされた場合、もしくは近隣などからその事実を聞き及んだ時に告知が必要かどうかについて不動産業者に丸投げされたような状態だったからです。

殺人や火災事故で人が亡くなった場合、10年経過すれば告知の必要がないという風説が、まるで事実のように浸透しているなど、物件ごと告知の必要性を巡り、社内において同僚と喧々囂々議論を戦わせたものです。

ガイドラインが策定されたことにより、そのような議論が少なくなったことでしょう。

下記のように調査範囲や判断基準がかなりの部分について明確にされたからです。

1. 不動産業者には積極的に事件・事故の内容を把握し説明する義務はない(売主・貸主にたいし告知書等への記載を求めることにより、調査義務を果たしたとされる)

2. 人の死に関する事案が、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合に は告知が必要である。ただし下記に該当する場合は告知が不要とされています。

①自然死もしくは日常生活において誰しもが訪れる可能性のある不慮の死(転倒・階段からの転落・誤飲)
②集合住宅の共用部分での事故(通常使用されるかどうかで告知が必要となる場合もあり)
③賃貸住宅においては①以外の死(心理的瑕疵に該当する死)について事案発生もしくは特殊清掃実施から概ね3年を経過した以降
④売買・賃貸問わず集合住宅の日常使用されない共用部・隣接住戸などにおける①以外の死

もっとも、上記に該当し告知が不要とされた場合においても事件性・周知性・社会に与えた影響等などについて、特に高いと勘案される場合には告知の必要があるとされています。

また、告知が不要とされている場合でも「理由がなんであれ、絶対に事故物件は嫌」という方のほか、顧客から事案の有無について問われた場合において、買主や借主が把握しておくべき特段の事情があると私たちが認識した場合は、経過期間や死因によらず告知は必要とされています(これには期限がありません)

多少、曖昧な部分は残されてはいますが、ある程度の部分について明確な判断基準を示していくれたガイドラインの功績は、私たちにとって大変大きな物でした。

もっともあくまでもガイドライン、つまり「指針」ですから絶対ではありません。

ですが万が一、告知を原因として裁判などに発展した場合でも、裁判所はガイドラインを遵守していたかどうかを判断基準の一つにするでしょうから、大きな一歩であることに変わりはありません。

事故物件を積極的に扱う業者も増加中

事故物件を積極的に扱うことで注目を浴び、東京本社はもとより大阪・福岡まで支店展開している成仏不動産(正式名_株式会社マークス不動産。成仏不動産はサイト名です)は、ネットニュースでも度々取り上げられていますのでご存じの方は多いでしょう。

それに触発されたという訳でもないでしょうが、全国各地で「事故物件取扱」をPRする会社が目立つようになりました。

ですが、多いのは「事故物件の買取」です。

告知あり物件は敬遠される傾向が高いことから、媒介の場合でも市場価格の10~20%は割安で、エリアや死因などによっては半値近くで販売されています。

買取の場合は流通価格の7~8割程度が一般的な目安ですから、事故物件の買取はそれ以下、場合によっては流通価格の2~3割程度で買取られている場合もあるでしょう。

叩き売ってでも処分したいという売主と、できる限り安く仕入れたい業者の意向が一致しての結果であれば、「暴利を得ようとしている」などと非難されるいわれもありません。

「告知あり」物件を扱った経験のある方なら、販売の難しさも十分に理解しているでしょう。

そのようなリスクをあえて引き受けるのですから、苦労が報われる恩恵があっても良いでしょう。

持ち家比率から考えれば、事故物件の取扱を避けては通れない

少子高齢化による人口減少は、まるで既定路線のような様相で、予想通りに推移しています。

政府はこれを可能な限り回避しようと2007年8月27日に内閣府特命担当大臣を創設し、少子化対策担当としました。

岸田内閣では2023年4月1日より新たな行政機関として「こども家庭庁」を発足させ、これまで内閣府や厚生労働省が担っていた事務を一元化させるとしています。

子供の成長と発達に関する支援や、育児支援プログラムの提供のほか育児休暇や保育サービスに関する政策も管理している行政機関ですから、これにより少子化に歯止めがかかれば良いのですが、現状ではその効果が明確に確認できる状態ではありません。

少子高齢化

少子高齢化に歯止めがかからなければ、必然的に増加するのが独居老人の増加です。

内閣府から高齢化の状況について情報が提供されており、それによれば65歳以上の独り暮らし、いわゆる独居老人は増加の一途を辿っています。

65歳以上の一人暮らし者の動向

皆さんご存じのとおり、持ち家世帯比率は年齢階級が高くなるほど割合も上がります。

総務省統計局による「住宅・土地統計調査(2018年集計)」によれば、60歳以上の持家比率は80%にも達します。

持家世帯比率の推移

単純に考えてみれば分かるのですが、60歳以上の持ち家比率は高い。

しかし自然の摂理で、高齢者はやがて配偶者のどちらかが先にお亡くなりになる。

したがって独居世帯は増加する。そうなれば懸念されるのが孤独死の増加です。

多少、強引な三段論法ではありますが、一般社団法人日本少額短期保険協会の孤独死対策委員会がまとめた第7回のレポートによれば、孤独死が発生してから発見されるまでの平均日数は18日とされています。

もっとも、発生から3日に発見される割合は約半数とされていますから、平均値を引き上げている残りの半数が発見されるまでに要した期間は長いものであれば数ヶ月にも及ぶことでしょう。

季節により遺体の損傷や腐敗状況にも違いはあるものの、発見が遅れればたとえ死因が自然死であっても状況は推して知るべし、少なからず特殊清掃もしくは相応程度のリフォームは余儀なくされるでしょう。

この場合、当然に「告知あり」となります。

よく勘違いされている方もおられますが、死因が自然死もしくは不慮の事故の場合、告知は必要ありません。

ですが特殊清掃などを実施すれば、死因によらず告知は必要です。

「特殊清掃を実施しなければ問題ないじゃないか!」という賃貸オーナーもよくおられますが、それは現場をご覧になった経験をしていないからでしょう。

夏場で長期間発見されなかった状況を、自ら第一発見者として経験すれば理解できるはずです。

空気の入れ替えや消臭剤などで「臭い」が軽減されるものではありません。

そんな物件を、死因が病死で特殊清掃も実施していないことを根拠に、告知なしで斡旋する不動産業者はいないでしょう。

少なくても筆者は、お断りします。

取扱方を学んで、適正に流通させることが大切

前項をご覧いただければ、殺人や自殺、火災による死亡など特殊な死因ではなくても、「告知あり」、所謂事故物件を扱う機会は、ごく普通におとずれます。

もちろん、そのような物件について「当社では一切、取扱ません」というのも一つの考え方でしょう。

ですが高齢者の住宅取得率と少子高齢化による独居率の上昇を勘案すれば、告知有り物件の増加は避けて通れないでしょう。

どちらを選択するかは自由ですが、取り扱い方法を正しく学び流通に貢献するほうが自社の売上も上がりますし放置空家の増加防止にも繋がるでしょう。

ひいては不動産業者としての社会貢献になるのです。

販売時の注意と、注目したい消費者動向の変化

さて、告知が免れないとしたら、その物件を販売もしくは賃貸として斡旋する場合、どのような方法を用いるか考える必要があります。

死の告知に関するガイドラインでは、不動産業者に積極的な調査が必要ないと定め、売主や貸主による告知内容を踏まえたうえで「当物件は『告知有り』となります」の一言でよい。

別段、死因や発見時の状況、事件であればその模様まで説明する必要は一切ありません。ですが、顧客は聞きたがります。

その動機が興味本位であれば応じる必要はありませんが、内容によって購入もしくは借りたいと考えている顧客にたいし「申し訳ありませんが、業者には状況調査やそれに対する説明義務もありませんので、詳しくはお答えできません(これも間違いではないのですが)」としては、機会損失になりかねません。

私たちが詳しく説明しなくても事故物件公示サイトである「大島てる」やそれに類似するもの、もしくは信憑性に疑問符がつくネットニュースなどを閲覧すれば、事実かどうかは別として情報を検索できます。

そのような偏った情報が判断基準にされるぐらいなら、所有者からヒアリングした内容を正しく伝達したほうが良いかもしれません。

「所有者からお聞きした内容ですが、死因は老衰による自然死です。その場合、告知を必要としないのですが、発見が多少遅れご遺体の損壊が進んでいたことから特殊清掃を実施しました。それにより、「告知あり」としています。購入(もしくは賃貸)される方のお気持ちを考え、住職を招き供養を行い、販売価格についても市場価格の8割を目安にしています」と、胸を張って説明すれば良いでしょう。

告知あり物件は、その全てが「事故物件」として面白おかしく言葉ばかりが先行している傾向が見られます。

ですが、賃貸における事故物件の契約検討意向に関してのアンケートにおいて、およそ半数の方は死因が病死や自然死である場合「条件次第で検討する」と回答しているのです。

事故物件,契約,検討意向

賃貸と売買では検討する判断基準にも違いはあるのでしょうが、告知や該当する物件の取扱いは不動産業界全体における課題です。

平均寿命の上昇と高齢者の増加に伴い、独居老人数もまた増加する。

これにより「告知あり」物件の増加も避けられないのが現実です。

和達たちはこれを機会と捉えて適正な取り扱い方を学ぶことにより、社会貢献できるでしょう。

消費者ニーズや動向に合わせたアプローチ方法を模索していく必要が求められているのです。

まとめ

様々なデータを調査し考察を重ねていくと、「告知あり物件」が増加していく可能性は極めて高いという結論に落ち着きます。

積極的に扱う必要があるとまでは言いませんが、一切、扱わないとすることにメリットはないでしょう。

「事故物件」という言葉はおもしろおかしく認知度もあがり、それにより購入や賃貸での入居を検討した場合、事故情報サイトで調べる方が増加していると聞き及んでいます。

それらのサイトでは告知事項に該当しない事案も多分に掲載されています。

不動産業者が心理的瑕疵を調査するため運用されているサイトではないのですから、掲載内容が事実であれば文句を言う筋合いではありません。

ですが筆者はマンションの内見立会中、顧客から「サイトで見たんですけど、数年前にこのマンションの屋上から飛び降りて自殺した事件があったんですよね」と言われたことがあります。

10年以上前に発生した、住人が立ち入りできない共用部である屋上からの飛び降り事件で筆者もその事実は把握していました。

ですが、通常立ち入りできない共用部で発生した事件ですから告知事項には該当しません(当然、説明はしませんでした)

ですが、質問されれば答える必要があります。

そこで「その話は聞いたことはあります。ですが、ガイドラインによる見解によれば心理的瑕疵に該当しません。従って詳しい調査も実施しておりませんし、不確実な内容について詳しく説明することはできません」と、回答しました。

顧客が興味本で質問したのか、それともそのような事件があったのだからもう少し安くしろと言いたかったのか定かではありません。

ですが、似たような経験は皆さんもあるのではないでしょうか。

「そもそも事故物件はムリ!」という方にたいしては、言葉を尽くして営業しても成果は得られません。

まさに心理的な要因だからです。

条件によっては検討するという方にターゲットを絞り、販売活動を行うのが得策だと言えるでしょう。

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