【入札予定の公売物件に占有者あり】立退き交渉はどのようにすれば良いですか?

それほど件数が多い訳ではないですが、筆者のもとに「公売物件を入札しようと思っているのですが、占有者を立退きさせる方法について教えてください」と問い合わせが入ります。

不動産業者からの相談も時にはありますが、ほとんど一般の方からです。

ご存じのように競売は、債務不履行などを原因とした債権者からの申立により、裁判所が物件を差押えて売却し、その代金を債権の弁済にあてる手続きです。

この場合の債権者は金融機関や企業・個人などの民間です。

これにたいし公売は、債権は滞納された「税金等」で、国(国税局や税務署)もしくは地方自治体が窓口となり差し押さえた財産を売却して充当を図る「滞納処分」です(もっとも、官公庁オークションサイトでは公有財産の売却も一部含まれています)

競売と公売どちらもオークション方式で行われますが、売却基準価格(公売の場合は見積額)以上、かつ最も高値で入札した方が落札するのは同様です。

ですが両者には、下記2点に関し大きな違いがあります。

①物件に関して提供される情報量
②立退きに関する手続き上の違い

ご存じのように競売物件には所謂三点セット(物件明細書・現況調査報告書・評価書等)が公開され、そでだけで完全に物件の状態などが把握できるものではないものの、かなり詳細な情報が得られます。

それにたいし公売は、2~3枚程度の写真と地図のほか物件図面と測量図がせいぜいで、物件の劣化状況や占有に関してはわずかに特記されている程度です。

はっきり言えば、「ほとんど何も分からん!」といった状態なのです。

競売と公売、どちらも建物内部を確認できないのは一緒ですが、競売の場合は三点セットに劣化状況についての詳細情報が記載されていますので、想像力と現地踏査によりある程度は把握できるのにたいし、公売ではそのような詳細情報は得られません(自治体によっては内覧会を開催する場合もありますが、かなり稀なケースです)

さらに、立退きに関する取扱の違いがあります。

その違いについては後述しますが、公売における占有者の立退きは競売と比較して手間がかかるとだけ言っておきましょう。

今回は主に公売を中心として、手間をかけるほどはメリットが得られない状況や、一般の方から相談された場合に説明ができるよう、占有者の立退きについて解説したいと思います。

私たちが注目するほどの物件は少ない

家,ビジネスマン

競売と公売のどちらにも言えることですが、不動産価格の上昇機運によるものでしょうか、どちらも目ぼしい物件が少なくなっています。

また、稀に面白い物件が出たなと思っても最低基準額等で落札できる可能性はほとんどなく、「その金額なら普通に購入した方が安いのでは?」と思える金額で落札されています。

それでも稀に出る情報を探すため、筆者もネット検索を心がけてはいます。

優良物件が少なくなった背景には、一般の方による入札の増加と任意売却の普及があるのでしょう。

任意売却の場合、債権者の合意は必要ですが流通相場より割安で販売できる可能性が高く、また占有している債権者からの依頼で売却するのだから立退きで揉めることもありません。

債権者との交渉や状況報告、引き渡し時期の調整などそれなりのスキルは必要ですが、販売については一般的な媒介物件と変わりはありません。

上手く進めば債権者・所有者そして私たち不動産業者の全てにメリットが生まれる手法です。

競売に公売、最近はどちらも価格が上昇傾向にあり、落札された価格をみると労力や手直し、リスクを勘案すると流通物件を値段交渉して購入したほうが、はるかに安全で手続きも楽なケースが散見されます。

「なんでこの金額で札をいれたのだろう?」という感じですね。

私たち不動産業者であればそのような「愚」はおかさないでしょうが、一般の方はその限りではないのでしょう。

ネットで検索すれば、競売や公売物件を購入する場合のメリット・デメリットに関する情報を豊富に確認できますが、その大半は他の記事を踏襲したような内容で、およそ実践的とは言えないものが多いようです。

無論、内容としては正しいのですが強制執行後の室内状況などには触れていない。

腹いせもあるのでしょうが居室のいたるところで壁が蹴破られていたり、ペンキをぶち撒けられていたり(これもそう多い訳ではないですが)、そこまでいかなくてもおよそゴミ屋敷のような状態であるケースなどについては触れられていません。

一般の方から相談された場合には、そのような点も含めて説明してあげる必要があるのでしょう。

手間のかかる物件にはメリットも生まれるが……

多少、話が脱線しましたので本題に戻します。

最近の競売や公売は不動産業者にとってウマミがないという解説をしましたが、だからといってそれらの情報を入手しないのはお勧めしません。

時に目ぼしい物件が出てくるからです。

この場合の目ぼしい物件は占有者がいたり建物自体に「難」があったりなど、およそ一般の方が手を出さない「面倒な物件」のことです。

すでに空家で外観や室内の状態も良い物件は、落札価格が跳ね上がります。

仕上りが流通価格を上回ることなど珍しくもありません。

なのに契約不適合責任は免責されますから、たとえ隠れた瑕疵が存在しても追及できません。

それにたいし、一般の方が手を出さない物件は相応の労力は必要とされますが、うまく仕上がればそれなりの成果が得られます。

手間をかけるほど採算が得られない根本的な理由

競売物件の占有であれば、不動産引渡命令の申立を行うことにより裁判所が速やかに「不動産引渡命令」を出してくれます。

もっとも、命令の後には裁判所にたいして「強制執行の申立」を行い、『催告』の後に『断行(強制執行)』に進みます。

催告とは、裁判所の執行官・強制執行に必要な業者(引越業者など)にくわえ、競落人が私たち不動産業者であれば一緒に現地へ出向き、「強制執行を予告」する行為です。

執行官は強制執行の説明を当事者に行うと同時に、強制執行日を記載した張紙を玄関などに貼り付けます。

時折、ビルなどの入口に貼られているのを見たこともあるでしょうが「それ」です。

その間、私たちは業者さんと室内の各所を見て回り、荷物量を勘案して見積もりをするほか、リフォーム業者を紛れ込ませおおよその手直し費用を勘案するなどの作業を行います。

原則論としては転居費用などは占有者の負担なのですが、そのような金銭的な余裕がないのは普通ですから、大概は新所有者の負担になります。

断行時に交渉して、任意で立ち退いてくれれば手続きは終了するのですが、そうではない場合次のステップに進みます。

それが『断行』、つまり強制執行です。

ちなみに催告から断行までの期間はおよそ1ヶ月が目安です。

この執行現場はかなり生々しい。

企業ならそれほどではありませんが、占有者が一般の方でしかも小さな子どもがいる場合などは大泣きされることなどザラで、占有者から「鬼」などの罵声が浴びせられることも少なくありません。

そんな状況ではなくても、高齢者の方が涙を流しながら去っていく後ろ姿を見た場合などは、合法ではあっても後ろめたい気持ちに苛まれます。

また中には鍵をかけ籠城を決め込む占有者もいますから、鍵屋の手配も忘れてはなりません。

手掛けた事案にもよるのでしょうが、強制執行を一度でも経験した方で「二度とゴメンだ」と言われる方も少なくはないのです。

引渡命令が簡単に得られる競売ですらそうなのですから、占有者が不法占拠している状態の公売物件はそれ以上に手間が必要なのです。

非弁行為には注意

不動産業者の中には「立退き交渉は簡単だ!」と豪語される方もおられますが、何度も手掛けている筆者としては簡単だと考えたことはありません。

稀にそれほどの苦労もなく終了することもありますが、それは「運」が良かっただけです。

前述したように公売物件の占有者は、落札され所有権が移転された状態でも転居していない。つまり他人の物件に居座っている状態です。

賃料も払われず占有されている状態ですから、所有権に基づく立退き請求は確実に認められるでしょう。

ですが、『起訴⇒裁判⇒勝訴⇒強制執行申立⇒催告⇒断行(明渡命令の執行)』という法的な一連の手続きは、考えている以上に手間と時間そして費用が必要です。

立ち退き,フロー

理想は任意の明渡し交渉により、立退きが完了することです。

ですが、交渉は簡単ではありません。知識や経験の無い方が軽く考えて扱う事案ではないのです。

そもそもの話ですが、不動産会社のミカタに寄稿している記事で何度も解説しているように、私たち不動産業者が立退き交渉を有償で行えば「非弁行為」、つまりは違法になります。

「報酬を得なければ非弁行為にならないでしょう」と反論される方もおられますが、直接的な報酬を得ていなくても、立退き後の物件売買について専任媒介を約定しているなど間接的に利益を得るような状態は「報酬を得る行為に準じる」とされ、非弁行為を追及される可能性が高いのです。

私たちが任意の立退き交渉に関与できるのは、「純然たるボランティアの場合」だと理解しておく必要があるでしょう。

覚えておきたい立退き交渉の極意

ビジネスマン,都会,光

さて、ここではあくまでボランティアとして立退き交渉を行う前提で、一般的(賃貸物件など)な立退交渉における注意事項について幾つか解説しておきましょう。

1. 引越まで家賃をタダはNG

「立退きに応じてくれるなら、6ヶ月先までの賃料を無料にします」なんて条件提示をよく耳にしますが、これは悪手です。

タダで住めるのに出ていく理由なんかない。

「一筆取ったから大丈夫」なんて自信たっぷりに反論する方もおられるのですが、一筆とはどのような文章を指しているのでしょう?

強制執行認諾文言付の公正証書でもあれば話は別ですが、念書や覚書・承諾書などでは「心変わりしたから出ていきません」もしくは「署名した覚えはあるけれど、意味が良くわかっていなかったし……」なんて言われれば終わりです。

「署名したでしょう!」と捲し立てても、トボけられればそこまでです。

2. 交渉開始はリサーチ後が鉄則

交渉相手がどのような人間か、勤務先や家族構成、性格的な傾向やライフスタイルで重視していることや家賃の滞納履歴の有無やクレーム回数まで、およそ調べられるものは徹底的に調査します。時に張り込みや尾行も必要です。

そのようなリサーチもせずいきなり相手方に出向くのはお勧めしません。

失敗する可能性が飛躍的に高まるからです。

それにいきなり訪問して「顔バレ」しては、その後にリサーチしようと思っても支障があります。

交渉前に相手方を可能な限りリサーチして、方針を定めてから交渉を開始するのです。

3. いきなり書面は出さないこと

初訪問でいきなり書面を出す方もいるようですが、これもNG行為です。相手方からすれば見も知らぬ相手がいきなり「立ち退いてください!」と訪ねてくるのです。

「いきなり訪ねてきて何を言っている!」と、反感を持って当然でしょう。

そんな状態で立退き条件を説明し、さらに書面を出してうまくいくはずもありません。

初回はあくまでもご挨拶。

低姿勢にお伺いを立て、時に罵詈雑言を浴びてもひたすら耐え忍ぶ(正当事由が存在していても高圧的な態度を取ってはいけません。あくまでも交渉で収めるのが一番だからです)

怒鳴り散らされても人間の怒りはそれほど長続きしません。

落ち着いた頃合いを見計らい意向を伝えるのです(時に日を改める配慮も必要です)

4. 人間関係の構築が最優先

正当事由が存在(家賃滞納など)する場合は話も変わりますが、そうではない場合、人間関係の構築が「鍵」を握ります。人間関係を構築すると言っても、相手方の性格的な傾向などが分からなければミスします。

そのために必要なのが、先述したリサーチです。

交渉相手を知り推測をたて、それに基づきテスクロ(テストクロージング)を行う。相手方の反応により話題の振り方を見直す。

まさに「営業」と同じです。

そして人間関係を構築してから、本題である立退きの条件交渉に入る。

これがプロの仕事です。

5. 立ち退き料は段階提示、成立してもすぐには渡さない

6ヶ月後の立退きに合意した。

合意した立ち退き料が100万円であったからすぐに相手方に持参、もしくは指定された口座に振込む。

これは一見、当然の行為のように見えますがNGです。

立ち退き料は、引越が完了して明渡しを確認するまで渡さない。これが原則です。

先行して渡すとどうなるか。かなりの確率で使われてしまいます。

6ヶ月後には「引越代もなくなったから立退きできない」と言われるのがオチなのです。

転居先の敷礼や前家賃などは、こちらが直接支払います。

引越費用も同様です(もちろん相手方にその旨を伝達してからです)そのうえで退去が完了したことを確認してから、前述した費用を差し引いて支払うのです。

この他にも立ち退き料の金額を、月が進むほど下げる、例えば提示額が100万円の場合、すぐに立退きすればそのまま。

1ヶ月後であれば80万円、翌月は70万円、最終的には引越費用と転居先に必要な費用のみにするなど細かいテクニックはあります。

立退き交渉のスキルは、このような記事を読んだり机上で想像していたりするだけでは上達しません。

注意事項を念頭に、場数を踏むしかないのです。

まとめ

今回は主に「立退き」に関しての解説を行いました。

記事で解説したように、立退交渉は原則として弁護士業務です。

報酬を得ないでの行為は該当しないとの建前はありますが、純粋なボランティアで交渉を代理する方がどのくらいおられるのかは疑問です。

実際に不動産実務として立退交渉を手掛けている方は多い。

くれぐれも原則を逸脱しないようご注意ください。

建前論について論じるつもりは毛頭ありませんが、正当事由が存在する場合を除き立退交渉を軽く考えてはいけません。

それなりのノウハウがなければ、事案を引っ掻き回して終わるなんてことになりかねません。

顧客からの信頼を得るためにも今回、解説した内容については深掘りして知識を得るキッカケが生まれたなら僥倖です。

【今すぐ視聴可能】実践で役立つノウハウセミナー

不動産会社のミカタでは、他社に負けないためのノウハウを動画形式で公開しています。

Twitterでフォローしよう

売買
賃貸
工務店
集客・マーケ
業界NEWS