大規模な地震が発生する度に取り沙汰される液状化による被害。
建物や敷地、道路の沈下やマンホール等の浮き上がりなどが生じます。
地盤改良をほどこした場合、建物の沈下は防止できる可能性は高いのですが、敷地内や周辺道路が沈下すれば上下水道管が破断され、ライフラインが断絶されます。
そのような影響を受ける液状化が発生する可能性の高い土地を避けたいと考えるのは当然のことでしょう。
そこで「この物件は液状化の危険性がありますか?」と質問されることもあるでしょう。
地震発生後は、特にその手の質問が増加します。
宅地建物取引業法では不動産取引の際、水害ハザードマップや土砂災害警戒区域に該当しているかについて説明義務が設けられていますが、あくまでも重要事項説明時においてです。
内見時や物件紹介時にこれらの情報について説明する義務はありません。
ですが、義務ではなくても購入の判断に影響を与える重要な情報です。
購入検討者が質問するのは当然でしょう。
その際に「媒介業者は水災や土砂災害警戒区域に関して説明する義務はありますが、それは今ではありません。それに具体的な地盤情報などの提供は義務とされていません」などと回答するのは、少なくても顧客が満足する回答とは言えません。
義務ではなくても、具体的なエビデンスを提示して回答したいものです。
そのために必要なのが、液状化のメカニズムに関しての知識や当該地の古地図です。
国土交通省の『わがまちハザードマップ』は地域の災害リスクに関する詳細な情報を提供していますが、液状化の危険度に関しては作成されている地域が限られており、全国1,718市町村のうちわずか26.4%(455市町村)に過ぎません。
残る1263市町村については白で表示されていますが、無論のこと安全性が確認されている地域というわけではありません。
そこで今回は、公開されていない地域についての液状化リスクをどのように判断するか、また液状化の発生メカニズムに加え、古地図などを利用して危険性を読み取る方法について解説いたします。
液状化が発生するのはこんな地層
地中で砂粒同士がかみあい、摩擦により安定している状態であっても、地下水位が高い場合、地震による震動が加わると、一時的にではありますが砂粒同士のかみ合いが外れます。
それにより、地中の砂粒同士が一時的にドロドロとなり支持力を失います。
これが「液状化」です。
この現象は地下水位の高い砂地盤ほど発生する危険性が高いのです。
具体的な例としては埋立地や干拓地、旧河道の埋立地、砂丘や砂州の間の低地などが挙げられます。
もっとも、最近の調査では粘土製地盤においても発生が確認されていますので、砂地盤が含まれていないからと言って安心はできません。
液状化の対策
建築をする場合、液状化による被害を防止するための対策としては地盤改良により地盤内の水分量を減らす(液状化しにくくする)方法や、杭を支持層まで打ち込む方法などが一般的で、これらの工事により建物自体は影響を受けづらくなります。
ですがこれは建物に対してのみで、敷地内や前面道路などについて液状化が発生しない訳ではありません。
建物は影響を受けなくても、敷地が隆起すれば上下水道管が断絶されることもありますし、高台であれば擁壁の崩壊などによる影響を受けることもあるでしょう。
阪神・淡路大震災の記録写真(提供:神戸市)を見ても擁壁の内側の土砂が流出して抉れているのを確認できます。
新築時の地震対策により、支持杭でかろうじて水平を保っていたとしても、敷地が崩壊しては安心して暮らすことなどできません。
そのような液状化リスクにたいし、住宅を購入される方の判断基準は以下のように分類されます。
①が地盤改良工事などを実施した上で地震保険に加入し、かつ工事の実施により付保される補償があることから、ある程度までの被害については許容するという考え方です。
ただし地盤に関しての補償は、新築時から10年で補償が終了(特約や延長により20年の補償が受けられる場合もあります)しますので確認が必要です。
その対極となるのが、②の危険性が高い地域の不動産を購入しないという考えかたです。
情報収集を徹底し、液状化の危険性がある地域の物件は購入を見合わせる。
液状化の危険性について質問してくる方はこのタイプが多いので、回答する際には配慮が必要です。
次が何ら対策を講じない、つまり③を選択する方です。
ご存じのように新耐震基準(昭和56年6月1日)以前に建築された住宅は耐震性に問題がある可能性が高く、また液状化対策(地盤改良工事など)が講じられていない可能性も高いでしょう。
耐震補強工事にはおよそ150~300万円もの費用が必要ですし、建物のある状態で液状化対策工事を実施するのは困難です。
そのため「発生するのはしょうがない」としてリスクより価格を優先します。
最後の選択肢は④で、これは土地を購入して新築される方々です。
2000年(平成12年)の建築基準法改正以降、新築時の地盤調査、そして調査で地耐力に問題があるとされた場合、必要な地盤改良工事を実施(建築基準法施行令第38条他)することが、事実上義務とされています。
ですからひとまず安心であると考えます。
ただし地滑りやがけ崩れ、断層の活動や地割れなど自然環境の変化に起因する損害は免責とされますので、必ずしも万全という訳ではありません。
地耐力の確認
地盤調査を実施して改良工事等が行われていればひとまず安心できますが、震災の発生時においては、隣接する家屋の倒壊や崖崩れ、敷地の液状化などにより被害を受ける可能性があります。
間接的な被害を防ぐことは困難ですが、事前調査によりある程度までなら対策を講じられます。
そのためにも地耐力の確認が必要です。
冒頭で解説したように、国土交通省が無償で公開している「わがまちハザードマップ」で液状化図が確認できます。
ただし液状化図を公開していない地域についてはその限りではありません。
そのような地域における液状化のリスクについては、確実な方法として地盤調査(有償)の実施が挙げられるでしょう。
もっとも地盤調査には5~10万円程度必要ですし、物件所有者が快く協力してくれるかどうかも疑問です。現実的には難しいでしょう。
その場合、JHS(ジャパンホームシールド)が無料で公開している「地盤サポートマップ」を利用するのも方法です。
https://www.j-shield.co.jp/supportmap/
過去に同社が調査を実施している地域であれば、おおよそではありますが近隣の地盤強度を確認できます。
もっともマップは地耐力を色分けしているだけに過ぎませんので、地層まで確認することはできませんし、また調査が行われたことのない地域については空白となり、近隣の地耐力について確認できません。
古地図などを利用して液状化リスクを調査する
「わがまちハザードマップ」や「地盤サポートマップ」を利用しても液状化リスクが確認できない場合、古地図を確認する方法があります。
具体的には旧版地形図(明治以降の地形図)や過去の空中写真(1940年後半に撮影された米軍写真や、1960年以降に国土地理院により撮影された写真)、土地条件図、治水地形分類図、迅速測図原図(明治10年代の土地景観情報:関東地方南部のみ)などを閲覧し、確認します。
これら古地図情報等の大半は、国土地理院のHPで公開されています。
https://www.gsi.go.jp/tizu-kutyu.html
これらの地図を利用し、液状化の危険性について予測するのです。
古地図では埋め立て前の「潟」や「沼地」などを確認できます。
まず「地図・空中写真閲覧サービス」から調査したいエリアを指定します。
地図左側の空間ライブラリーから、調査したい年度とエリアの範囲をチェックすると色が反転します。
その後、確認したい地図番号をクリックします。
すると番号に連動した古地図が開かれます。
この古地図を現状と比較すれば、埋め立てなどの履歴が確認できます。
古地図と併せて確認したいのが「治水地形分類図」です。
これも国土地理院のウエブサイトで公開されています。
https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/fc_refer.html
「治水地形分類図」は治水対策を目的にしており、国や都道府県が管理する平野部を中心にした河川流域における扇状地、自然堤防、旧河道、後背湿地などの地形分類や堤防、河川工作物等が表示されている地図です。
これを閲覧することにより土地の成り立ちが分かり、水害や液状化を含む自然災害リスクを推測することができるのです。
地図は細かく色分け(20種)されており、地形の特徴や防災上の留意点を表しています。
https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/bousaichiri41051.html
地形分類図は対象地域の地形や表層地質について、形成時期(いつできたか)、形成営力(どのような作用でできたか)、形態(どのような形をしているか)、構成物質(どんな物質で作られているか)の4つを条件に分類されていますから、精査すれば液状化リスクについて確認できるでしょう。
まとめ
今回は発生原因も含め、液状化リスクの調査方法について解説しました。
冒頭で解説したように、不動産業者には液状化の危険性に関しての調査義務は科せられていません。
ですから「心配ならご自分で調査してください」と返答しても問題はないのです。
そもそも、確実な情報として地層の状態を知るには地盤調査を行うしかありません。
ですから、本当に心配であれば自己負担で調査してもらうしかないのです。
ですが購入を検討している状態での費用の拠出や、所有者の協力が必要であるなどの前提条件を考えると現実的とは言えません。
土地の売り依頼を受けている場合、よく買い側業者から「事前に地盤調査に入らせてくれないか」と相談されるケースがあります。
ですが、契約前に了承してくれる売り側業者はまずいないでしょう。
地盤の状態が悪く大規模な地盤改良工事を必要とするなどの情報は、売主にとって不利益にしかならないからです。
場合によっては、それを根拠に価格交渉されるかも知れません。
とはいえ、買い側にしてみれば地震などによる災害は可能な限り防止したい。
新築時なら、地盤調査が行われ必要な改良工事が実施されますからひとまず安心でしょうが、そうではない場合には心配です。
少なからず高額な融資を組んで購入するのですから、知りたいのは当然でしょう。
確実とは言えませんが、今回、解説した調査によりある程度は液状化リスクを予測できます。
高額な不動産を購入する顧客の心情を考えれば、それらの情報を提示する必要もあるのではないでしょうか。
そうではなくても調査方法についての知見は持っておきたいものです。