【不動産業者なら抑えておきたい】失火責任法と延焼予防の知識

火災により家屋が全焼しても、住宅ローンの返済は免除されません。

家屋の全焼により、そこに設定されていた抵当権は目的物(家屋)の滅失を原因に消滅します。

抵当権が滅失した場合、期限の利益(返済期限まで猶予される、もしくは分割返済する権利)も喪失されます。その場合、債権者は残金全額を直ちに支払わなければなりません。

もっとも直ちに全額支払えと言っても無理がありますから、金融機関は金銭消費貸借契約に基づき、以下のような方法で債権を保全しようと考えます。

①支払われた火災保険金による、全額または部分返済を求める。
②代替担保の提供を求める。
③債務不履行(貸付条件違反)による法的手続きに着手する。

このうち②は、一般の方が他の担保物件を所有している可能性は少ないことから現実的とは言えず、③は最終的な強硬手段です。

債権者からの申出により債務再編成、つまり返済条件や支払期間などを再検討する場合もありますが、債権保全に必要な担保がない状態です。交渉は難航するでしょう。

もっとも現実的な選択肢は①です。

そのためほとんどの金融機関は火災保険への加入を融資条件としています。

金融機関も損害保険を取り扱っていますが、強引には勧誘してきません。他の保険会社と保障内容を比較して、自由に選択できます。

住宅ローンと火災保険は切り離せない関係にあることから、不動産会社の中には損害保険代理店として登録し、従業者にも募集代理人資格の取得を推奨して業務を行っている所も多いでしょう。

そこまで本腰を入れないとしても、火災保険の重要性を理解した上で顧客に説明することが必要です。

質問や相談をされて満足に答えられないようでは信用を損なうからです。

そこで今回は、確実に抑えておきたい失火責任法と、火災や延焼を防止する観点について解説したいと思います。

正確に理解しておきたい失火責任法

失火責任法(失火ノ責任ニ関スル法律)は、明治32年3月8日に交付されています。

条文は「民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス」です。

要約すると、火災については重大な過失が存在しない限り民法第七◯九条を適用しないとの内容です。

ちなみに民法第七◯九条は「不法行為による損害賠償請求」の定めで、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責を負う」との内容です。

つまり失火責任法の内容を現代用語で表現すれば「過失により失火し、他人の権利又は法律上保護される利益を侵害したとしても、重過失が存在しない限り損害賠償の責を負わない」となるのです。

もっとも失火原因は、令和3年版の消防白書によれば、タバコや焚き火、コンロなど、言わば「過失」により発生しているとされています。

失火原因

過失により火災が発生し近隣住宅等に被害を及ぼした場合、民法第七◯九条(不法行為による損害賠償請求)を適用させれば、失火者には莫大な額の損害賠償責任が生じます。

ですが失火責任法により、失火者に責任を問えないとされているのです。法律は理解しても、延焼し被害を受けた方々からすれば、心情的にはすんなり納得できないでしょう。

そこで過失が軽微なのか、それとも重過失なのかで争われるのです。

例えば以下のケースでは、失火者に重過失があると判断されました。

①寝タバコによる火災の危険性を認識していながら、何の対策も講じず喫煙を続け火災を発生させたケース

②電力を供給する配線が垂れ下がった状態であるのを認識していながら対策も講じず、強風時に配線が切れたことにより火災が発生したケース

③石油ストーブの火を付けたまま給油し、こぼれた石油に引火して火災が発生したケース

④電気ストーブを付けたまま寝入り、布団が電気ストーブに触れたことにより発火したケース

もっとも④のケースは札幌地裁で昭和53年8月22日に判決されたものですが、微妙とも言える判断でした。

昭和53年5月に新潟地裁において類似する事件が審議され、判決で失火者には重過失がないとされたからです。

この裁判の失火原因は、ガスストーブを点火したまま寝入ってしまい、布団に火が燃え移ったことによる延焼でした。

電気ストーブとガスストーブの違いはありますが、どちらも暖房器具に布団が接触したことによる発火が、失火原因です。諸条件に違いはありますが、暖房器具の近くでウトウトしてしまうことは誰しも起こり得ます。

そのような観点からでしょう、新潟地裁の事件で裁判所は、「一般的に見受けられることであり、通常人に要求される注意義務を著しく欠くとまではいえない」として、原告の請求を退けたのです。

もっとも重過失とされるかどうかは、具体的な状況や当事者の行動により異なります。

私たちは失火責任法や重過失の判断基準を理解し、火災を防ぐための対策を顧客に促す必要があります。防火対策や火災保険の重要性を説明し、火災発生リスクを最小限に抑える行動を奨励することが、私たちの責務なのです。

火災予防の知識

一般家庭からの失火は、そのほとんどが下記のような点を注意すれば防げます。

火のついたコンロからは目を離さない、寝タバコをしない、小さな子供の手の届く範囲にマッチやライターを置かないなどを徹底するほか、放火を防止するため、ゴミは指定日の朝に出す、家の周りに燃えやすい物を置かない、車庫や物置は施錠するなどです。

それ以外にも、配線回りが失火原因になることも多いことから、コードの上に物を乗せたり、むやみに丸めたり、タコ足配線などに注意するほか、コンセント周辺を定期的に清掃する配慮も大切です。

出火防止

これらを注意するだけでも失火を防止することはできますが、万が一に備え消化器のほか、ホームセンターや通販などで販売されているファイヤーブランケットなどを持っておくと良いでしょう。

また2011(平成23年)年6月から消防法の定めにより、新築・既築にかかわらず全ての住宅に防災機器(火災報知器)の設置が義務付けられています。

家庭用火災警報機には、無線式でひとつが煙や熱を感知すると、他の警報機も連動するタイプ(連動型)や、単体のみで作動(単独型)する物があります。

また警報機への電力供給についてもコンセント等から供給する外部電源方式や、電池(電池方式)を利用するタイプに分かれますが、消防法ではこれら使用等に関しての規定はありません。

警報機,家,火災

ですが自治体の火災予防条例で設置箇所や、設置する警報機について指定されていることがありますので注意が必要です。

家庭用の警報機には、下記3種類の方式があります。

●定温式住宅用防災警報器(警報機の周辺温度が一定以上になると、警報:熱感知式)
●光電式住宅用防災警報器(光の反射を利用して煙を感知し、警報:煙感知式)
●イオン式住宅用防災警報器(イオン電流の流れで煙を感知し、警報:煙感知式)

大別すると「熱感知」と「煙感知」ですが、キッチンについては熱感知、それ以外の設置箇所については煙感知としている自治体が多いようです。

設置箇所は原則、寝室と階段ですが、大都市圏などではキッチンを含む全ての居室に設置が義務付けられている場合もあります。条例を確認して必要な箇所に適切に設置することが重要です。

覚えておきたい震災時後の火災発生原因と対策

総務省消防庁は2024年2月15日、能登半島地震直後、石川県輪島市中心部の朝市通り周辺で発生した大規模火災は、地震の影響による電気配線のショートや接触不良が原因の可能性が高いと発表しました。

過去においても阪神・淡路で6割、東日本大震災では過半数の火災原因が、電気配線の接触不良等によるとされています。

大規模震災は注意したからと言って個人で防げる訳ではありません。ですが設定以上の揺れを感知した際、電気供給を自動で遮断する「感電ブレーカー」を採用すれば、自宅が失火原因となる可能性を防止できるかも知れません。

感電ブレーカー

感電型ブレーカーには、分電盤に内蔵された基本型と、既存分電盤の隣に設置する増設型(後付タイプ)があり、どの家庭にも設置できます。

設置は電気工事店に依頼しなければなりませんが、基本型(材料・工賃)で7~8万円、増設型で3~4万円(材料・工賃)程度です。また最近では既存分電盤に粘着テープで感電装置を取り付ける簡易型も普及しており、こちらだと1.5~2万円(材料・工賃)で収まります。

自治体によっては助成対象区域を定め、設置費用の3分の2程度(上限あり)を補助しているところもありますから、調べて見ると良いでしょう。

まとめ

今回は失火に関する法律のほか、失火原因とならないため必要な心構え、そして万が一失火しても、延焼を最小限に留めるために必要な予防措置等について解説しました。

火災の主な発生原因が不注意であること、またそれを防止する、被害の拡大を防ぐためにどのような方法があるかを理解しておくことで、顧客にたいし適切なアドバイスができるでしょう。

とくに火災警報器に関しては、設置箇所や形式等が自治体の条例によることから、一般の方にはあまり認知されていません。そのような知識不足に漬け込み、訪問販売で嘘の説明をし、必要のない箇所への設置や電池交換を行ない、高額な費用を請求する業者が存在します。

そのような業者の勧誘に不信を抱いた顧客から、相談が持ち込まれる場合もあるでしょう。

そのような相談に備えるために、自社の営業エリアに関しての条例等については理解しておきたいものです。

また失火や延焼を予防する意味でも、感電ブレーカーについての知識を拡充しておくなど、有益な情報提供が行えるよう備えておきたいものです。

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