【差別的取扱いの禁止と合理的配慮が義務化】理解を深めておきたい改正のポイント

2024年(令和6年)4月1日から、事業者には障害のある方への「合理的配慮の提供」が義務化されました。

事業者は規模に関わらず、継続する意志をもって事業を行う者全てが対象とされており、私たち不動産業者も当然に含まれます。

この法律は、2013年(平成25年)6月に「障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)」として制定されました。従来は「負担が重すぎない範囲で障害者の求めに応じて合理的配慮をする」との定めは努力義務に過ぎませんでしたが、改正により義務化されました。

事業者が、定めに反する行為を繰り返した場合や、行政の見解として自主的に改善を期待することが困難であると判断した場合、報告を求められるだけではなく、助言や指導、勧告を受けることもあります。

私たち不動産業者は賃貸、売買を問わず、人々が住まう家や土地取引に関わる仕事を担っています。

したがって、他の事業種以上に配慮が必要です。障害のある方はもちろん、高齢者やシングルマザー、LGBTなどの方々にたいしても同様の配慮が求められるのです。

ですが、現実には住宅弱者の部屋探しが難航しているとの報道が取り上げられるたび、私たち不動産業者は「貸さない側」に加担していると糾弾されます。

対応したくても、賃貸オーナーが同意してくれない。家賃保証会社が承認しないケースもあるでしょう。特に生活利便性の高いエリアでは、住宅確保配慮者(障害者のほか、低額所得者、高齢者、被災者など)に部屋を貸す理由が見つからない場合もあります。

媒介業者はあくまで仲介人であり、貸主の了解がなければ部屋を紹介できません。結局は貸手と借手のミスマッチが発生し、私たちはその間で苦慮しています。

中には、隣接住戸とのトラブルや賃料の滞納、コミュニケーションの問題などを引き受けるリスクを懸念し、敬遠する業者もいるでしょう。

今後は、そのような差別的取扱は禁止され、私たちに合理的配慮義務が課せられました。私たちはこの義務を正確に理解して、適切に対応していく必要があるのです。

今回は合理的配慮義務とは何か、私たちは今後どのように対応していくべきかについて解説していきます。

柔軟に対応する業者だけが生き残る

私たちは、不動産業者の置かれている現状を直視する必要があります。

帝国データバンクが2024年3月2日、2023年は媒介業者の倒産件数が前年比7割増加したと公表しました。

プレスリリースでは『不動産仲介倒産が急増、過去最多』との見出しで掲載され、年間の倒産件数として過去最多となった背景もあり注目を浴びました。

コロナ禍以降、働き方の変化により転勤が減少し、契約件数も減少したことから収益が悪化したことが主な原因とされています。それ以外にも、DXを活用した情報発信やオンライン内見を始めとする先進技術の導入に乗り遅れた業者の倒産件数が増加しているとも指摘されています。

レポートでは築浅優良物件の囲い込みの動きにも触れており、今後も大手と中小における格差の広がりが想定され、物件紹介の機会を失った業者の淘汰がさらに進む可能性があるとまとめられています。

株式投資の格言には、「人の行く裏に道あり花の山」というものがあります。これは不動産に限らず全ての業種に当てはまる言葉です。

少し視点を変えれば、チャンスも広がるのです。

確かに転勤は減少していますが、その一方で部屋を借りるのに苦労する方々、いわば「住宅確保配慮者」は増加を続けています。

不動産事業者の中には、住宅確保配慮者の住まい相談や、入居後のサポートを献身的に行なって安定した業績を挙げている業者も存在しています。

不動産・住宅サービス大手であるLIFULL HOME'S(ライフルホームズ)は、「FRIENDLY DOORS」というプラットフォームを運営しています。

https://actionforall.homes.co.jp/friendlydoor

このプラットフォームでは、障害のある方はもちろん、外国籍やLGBTQ、高齢者など様々な背景や属性を持つ人々が、賃貸を借りる際に偏見を持たず支援してくれる不動産会社を検索できます。

FRIENDLY DOORS

このプラットフォームは日本最大級のクリエイティブアワード2022において、「マーケティング・エフェクティブネス部門」で総務大臣賞(ACCグランプリ)を、さらに2部門(計3部門)を受賞し注目を浴びました。

対応可能な登録不動産会社も増加しており、住宅弱者の拠り所になっていると同時に専門性の高さをPRできる場所となっているのです。

合理的配慮の提供と差別的取扱

前述したプラットフォームでは、注意事項として「親身に対応してくれる不動産会社ではありますが、ご紹介できる物件がない場合もあります」との文言が記載されています。

良心的に対応したいと思っても、賃貸オーナーに納得してもらえないと部屋を紹介できません。これが私たちの課題です。

オーナーの了解を得るためには、説得が必要です。

法人、個人問わず、反復継続して所有物件を賃貸しているオーナーは、「合理的配慮の提供」が義務です。部屋を貸してもらうよう説得する際には、これを説明すると良いでしょう。

そのためにも「合理的配慮の提供」について、正確に理解しておく必要があります。

合理的な配慮とは、障害のある人から「社会的なバリアを取り除いて欲しい」という表示が示された場合において、実施に伴う負担が過重とならない範囲内で、バリアを取り除くために必要な合理的対応を行うこと、とされています。

事業者には、事業の目的・内容・機能に照らして以下三つの要件を満たしていることが求められます。

①必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること。
②障害のない人との比較において、同等の機会の提供を受けるためのものであること。
③事務・事業の目的・機能の本質的な変更に及ばないこと。

具体的な事例として、応接机で話を聞くケースを想定してみましょう。

車椅子を利用している方から「車椅子のまま着席したい」と申出があったため、椅子を片付け、車椅子のまま着席できるスペースを確保した。これが、合理的配慮になります。

また難聴で弱視でもある方から筆談を求められ、細いペンでは文字の判別が困難だとの要望があったので、太いペンで大きな文字を書き対応する。

太いペン,大きな文字,筆談

このように過重な負担が生じない程度で、障害のある方からの要望に対応することが必要なのです。

つまり「思いやり」や「いたわり」の精神が根底にあれば、そう悩む必要はないのです。

したがって特別扱いは必要ありません。度を超えると逆に失礼になることもあります。

求められているのは、あくまで求めに応じて障害を除去することです。代筆可能な書類で記載を求められれば、内容を確認して貰いながら対応するなどです。

障害者,不動産,対応

意思疎通を円滑にするため、タブレットなどを活用すると言った配慮です。

そのような対応が求められた場合、一部の従業者に「過重な負担」と感じられることもあります。

「過重な負担」について明確な判断基準は存在していません。個別の事案ごと具体的な場面や状況に応じ総合的、かつ客観的に判断するほかないのです。

本来の業務に付随するものであり、かつ障害のない方との比較において、同等の機会が提供されれば問題はないのです。

さらに過重な負担を負うことまで想定されていませんから、事業目的や内容、機能の本質的な変更にまで及ぶ必要はありません。

また不当な差別的取扱にも注意が必要です。

障害を持つ方だけではなく、外国籍やLGBTQ、高齢者などに対しても、正当な理由なくサービスの提供を拒否したり、提供にあたっての場所や時間帯を制限したり、などの行為は差別的取扱に該当します。

障害者,差別的取扱

様々な背景や属性を持つ人々に対して、差別的取扱を行わない配慮が必要なのです。

こんな断り文句はNG

法が対象としている障害については、障害者基本法第2条第1号で規定されています。

具体的には身体障害、知的障害、精神障害(発達障害、高次脳機能障害を含む)、心身機能障害(難病に起因する障害を含む)がある方で、それらが障壁となり、継続的に日常及び社会生活に相当の制限を受ける状態の方々です。

ですから、障害者手帳の所持者に限定されません。

障害のある方にたいしサービスの提供を断るには、具体的場面や状況において、総合的かつ客観的な判断が必要です。

少なくても安全確保、財産の保全、事業の目的や内容、機能の維持、損害発生の防止などの観点を総合的に斟酌しなければなりません。したがって主観的に判断するのではなく、第三者の立場から見ても納得が得られるような客観性が必要なのです。

したがって下記のような断り方は適切ではありません。

「取引の経験も前例もないので、対応しかねます」

「法律が制定されたからと言って、特別扱いはできません」

「リスクが懸念される方への紹介は、弊社としては出来ません」

前例がなくまたノウハウもない、一般的な顧客にたいする以上のサービス提供を求められても困る、リスクを勘案すれば対応できないなど、断る理由はあるのでしょう。

ですが、障害があることを理由に賃貸人や家賃保証会社への交渉や、契約に必要な調整を行うことなく断る行為は禁止されています。また車椅子を利用している方にたいし、車椅子のまま内覧が可能かどうかの調整を行わず、主観的な判断で断ることも同様です。

それ以外にも通常は使用しない誓約書などを、障害を理由に求める行為も禁止です。

政府広報でも、下記のような断り文句は不適切であるとしています。

合理的配慮,差別的取扱,禁止

合理的配慮や差別的取扱の禁止は、過重な負担を強いている訳ではありません。内容を正確に理解することが必要です。

セーフティネット住宅の活用

住宅確保配慮者からの相談を受け、物件を紹介しようと思っても見つからないケースがあるでしょう。

その場合、セーフティネット住宅システムを活用すると良いでしょう。

セーフティネット住宅システム

https://www.safetynet-jutaku.jp/guest/index.php

プラットフォームに掲載されている物件は、原則として住宅確保要配慮者の入居を拒まない物件です。

もっとも、入居を受け入れる範囲(高齢者、被災者の入居は拒まないなど)が限定されている場合もありますので、紹介する前に物件詳細を確認する必要があります。

住宅,要配慮者

また築古であるなどの理由で入居者が集まらない場合、賃貸オーナーにセーフティネット住宅の登録を提案しても良いでしょう。

登録には、規模・構造などについて一定の基準に適合しているほか、耐震性を有することが求められます(地方公共団体が供給促進計画を定めることにより、強化・暖和することは可能)が、改修が必要な場合、費用に関しての補助制度が創設されています。額(改修工事に要する費用の1/3かつ、補助対象戸数✕50万円など)や詳細については、地方公共団体のHPなどで確認できます。

また賃貸契約時に保証人もしくは保証会社の利用が必須とされている場合も多いのですが、セーフティネット住宅については居住支援法人(住宅セーフティネット法に基づき、居住支援を行う法人)による家賃保証を利用できる場合もありますので、併せて確認すると良いでしょう。

まとめ

今回は2024年(令和6年)4月1日から義務化された障害のある方への「合理的配慮の提供」について解説しました。同時に、不動産業者が住宅確保配慮者に対して果たすべき社会的意義についても紹介しました。

住宅確保配慮者からの相談に対しては、「面倒だ」、「ノウハウがない」、「問題を起こされたら困る」といった先入観が先立ち、敬遠される傾向があります。しかし、大手と中小に広がる格差や、業者が物件紹介の機会を失う可能性についても考慮すべきです。

令和3年3月に公開された「中小不動産業者のあり方に関する研究調査報告書」によれば、媒介業者の約8割は従業者3名の小規模事業者であり、従業者10人未満の業者は約9割を占めます。一方、従業者51名以上の業者はわずか0.1%に過ぎません。

にも拘らず、大手と中小の格差を指摘されているのが媒介業者の現状です。

特色を持たない「街の不動産屋さん」のままでは、加速を続ける不動産DXの進展や、人口減少への適応が困難になるのです。

だからと言って、他社が採用して成功しているシステムを自社で導入しても必ずしも成功をもたらすわけではないことを認識する必要があります。行き当たりばったりの対処法では問題が解決できません。

原点に立ち返り、「顧客満足度が成果に比例する」ことを目指しましょう。つまり、「ありがとう」の数だけ、売上も上がるという発想です。

空家が増加している一方で、部屋が借りられず困窮している住宅確保配慮者も増加しているという矛盾を解消するために、発想を転換することが重要です。

現状を理解し、他社との差別化を図るためには、常に学び続ける姿勢が欠かせないのです。

【今すぐ視聴可能】実践で役立つノウハウセミナー

不動産会社のミカタでは、他社に負けないためのノウハウを動画形式で公開しています。

Twitterでフォローしよう

売買
賃貸
工務店
集客・マーケ
業界NEWS