先日の話ですが、古家付土地の売却を担当する媒介営業マンから「共同媒介の担当者が心配な場合、契約に立ち会った方が良いのか?」との相談を受けました。
詳しく話を聞いたところ、相談者は築25年の中古住宅(空家)の売媒介を担当しており、内見要望があったことから鍵を開け立会いをしたとのこと。
直接の担当ではないことから質問を受けない意見を口にしないのが礼儀と思い、笑顔を浮かべ沈黙を貫いたが、聞くとはなしに耳に入る営業マンの説明が、かなりのレベルで怪しかったらしいのです。
例えば将来的な建替えについての説明で、用途が第二種中高層(建蔽率80%、容積率300%)だから、3階建て住宅が建築できると説明するところまでは良いとして、約50坪(159㎡)の二世帯住宅が建築できるという説明は過剰すぎる印象を受けました。
販売資料にも書いてあるが道路や隣地斜線、北側斜線が適用されることを考えれば、容積率の上限まで建築できるとは思えません。
相談者は建築知識に長けている訳ではありませんでしたが、狭小地で各種制限を受ければ容積率の上限まで建築できないことぐらいは理解しています。
また間口が狭い住宅密集地であることから、採光や通風確保を考慮すれば建築に制限がかかることが予想されます。
詳細な調査を行わなくても、建蔽率上限の建築が建築できないだろう程度のことは分かります。
最終的には担当する建築士が説明する分野かも知れませんが、「それなら将来的な建替えも安心ですね」と満足気な顧客の様子を見ると心配でなりません。
内見立会だけなら杞憂で終わったかも知れませんが、購入意志が示され契約段取りに入ったことから心配が募りました。
業界の慣習もあり契約書や重要事項説明書は相談者が担当するので良いとしても、買側は持回り契約を希望しています。先述した容積率の件もそうですが、リノベーションに関する説明も、かなりの部分で怪しい内容でした。
持回りを希望されても、重要事項説明を始め契約時に立会いした方が良いのではないかと不安になり筆者に相談してきた訳です。
結論から言えば、「立ち会うべき」です。
今回は、立会うべき理由について解説します。
共同媒介は連帯責任
取引される不動産については、買主が購入目的を達せられるよう調査と説明する義務が媒介業者にはあります。
相談のケースでは、当面は既存住宅に居住し、将来的には二世帯住宅を建築して同居する目的があることが分かります。
よしんば建替えが実現しなくても、公法規制などに関する調査は確実に行ない、制限等がある場合はその内容を具体的に説明する義務が媒介業者にはあります。
共同媒介の場合は連帯責任が原則であることを忘れてはなりません。
問題が生じた時には「共同媒介先が説明したことだから、当方には何の責任もありません」と主張しても、責任を免れるとは限らないのです。
相談のケースでは看過できない不適切な説明や、事実と異なる点が認識されています。したがって買主の理解に齟齬が生じている可能性が高いと判断されます。
適切な情報開示と説明は媒介業者の義務です。
そのため、買主側との認識に齟齬がある可能性が高いと判断される場合には、契約に立会い、そうしたズレを修正する必要があります。
取引によっては複数の媒介業者が関与するケースもありますが、その場合でも全ての媒介業者に等しく善管義務(善良なる管理者の注意義務)が課せられる可能性があります。
媒介業者には、他の業者が重要事項説明を行っている場合でも、説明不足や誤りが確認された場合には補足して説明する必要があることを理解すれば、立会が必要な理由もお分かりいただけるでしょう。
説明時の注意点
重要事項説明時には法的規制の種類や名称等をつげるだけではなく、具体的な内容について理解できるよう、十分に配慮する必要があります。
もっとも重要事項説明時に限らず、通常の内見業務や交渉時などにおいても、購入の意思決定に影響を与える部分については詳細な調査を心がけると同時に、消費者が理解できるよう分かりやすい説明を行う必要があるのです。
とくに共同媒介の場合、重要事項説明書の作成は売りを担当する業者が作成することが慣例化していますが、他の業者が作成した書面や、売主の物件状況報告書に記載された内容に懸念が残る場合、鵜呑みにせず内容を確認する必要があると言えるのです。
また営業する場合においても、確実ではない事柄については、軽はずみに「◯◯が可能」、「〇〇です」などの断定表現は使用しない心がけが肝要です。
特に建築や法律問題、税金や登記関連などの専門性が高い分野については、必要に応じ専門士業に相談が必要な場合もあります。
したがって「私は〇〇のように理解しているけれども、詳しくは専門士業に相談してから判断する必要があるでしょう」などと、一定の見解を示しつつも最終的には専門士業に判断を仰ぐ必要があることを示唆する必要があるのです。
また説明の不備が指摘された場合、「重要事項説明書に記載されているでしょう」という逃げ口上が、必ずしも認められるとは限りません。
記載されていても、内見時などに担当営業が口頭ので説明した内容と乖離していた場合、責任を問われた裁判例が多数確認できるからです。
例えば、地盤改良工事が必要とされ、かつがけ条例の適用が必要な土地、所謂建築に制限のある土地に関して、重要事項説明書にはその旨が記載されているが、口頭での説明が異なっていたことを理由として媒介業者の責任を認めた裁判例などです(東京地裁・判決平成24.5.31ウエストロー・ジャパン)
重要事項説明書に記載する事項は、宅地建物取引業法により定められています。
従ってそれが省略されることはないでしょう。
ただし正しい内容が漏れなく記載されているか、また補足が必要な箇所などについては、詳細に分かりやすい表現で記載されているかは別ものです。
重要事項説明制度は、取引当事者の利益を図るために設けられています。
通常、取引当事者は不動産に関する知識を有していませんから、制度の趣旨を理解して分かりやすい説明を心がける必要があります。
このような配慮を徹底することにより、取引当事者が安心して不動産取引を行なえます。
同時に私たちも、不測のトラブルに巻き込まれないための防衛策を講じられるのです。
したがって営業時の説明はもとより、重要事項説明書の記載内容についても十分に精査する必要があるのです。
レントロールも根拠なく信用してはならない
専門としていなくても、時に投資用物件の売却や斡旋を依頼される場合もあるでしょう。
購入を検討する場合、楽待など投資物件サイトを利用して物件を探す場合が多いかも知れません。
投資物件サイトでは、価格や所在地、交通、築年数、面積などの概要にくわえ「利回り」が掲載されています。
レインズなどの収益物件を検索しても同様の情報を確認できますが、注意したいのは利回りの妥当性です。
特に高利回りを謳っている物件については注意が必要です。
収益性を確認する資料として代表的なのはレントロールですが、これには定められた書式が存在していません。
最低限として、契約状況や賃料、敷金や保証金の有無、固定資産税や管理費、電気や水道など収益に影響を与える情報については提供して欲しいのですが、中には満室時想定賃料が記載されたエクセルデータを、レントロールとして開示してくる業者も存在します。
また詳細な情報が盛り込まれたレントロールが提供されたとしても、家賃設定が適切であるとの保証はありません。
特に築浅物件の場合、新築時プレミアによる家賃が適用されている場合があります。
新築物件であっても、運用が開始されれば中古物件になります。賃借人の入れ替わりが生じた場合、その賃料で入居者が表れるとは限りません。
筆者は投資家から依頼され、投資用物件に関する妥当性の調査を請け負っています。
したがって様々な書式のレントロールをこれまで目にしてきましたが、必要な情報が漏れなく記載された書面が開示されることは、ほとんどありません。
もっとも書面の体裁が立派でも設定家賃が市場性から乖離している場合もあるため、見かけで判断することはできません。
都心部の不動産価格が高騰していることから、地方の中古物件を投資対象とするケースも増加していますが、修繕費やランニングコストを見誤れば収支がマイナスになります。
収益物件の斡旋を行う場合においても、他社から提供されるレントロールを鵜呑みにせず、自ら調査する心づもりが肝要なのです。
まとめ
今回は共同媒介において、相手方業者やその担当者の言動などに不安を覚えた場合、それらを包括して監視する責任があるのかを解説しました。
文中でも触れましたが、共同媒介では関わる業者数によらず、それぞれが連帯責任を負います。
問題が生じた場合、自分は業法に則り、問題なく業務を遂行したとの言い分が通用しない可能性があるのです。
したがって必要に応じ、遠慮せず介入する必要があるのです。これが防衛策となることを忘れてはなりません。
主観ではありますが、意図的に業法違反を行うなどの特殊な事例を除けば、「嘘」を言う意図はないような気がします。
知識や経験が不足しているのに、顧客に「知らない」とは言えず、苦し紛れに説明した内容が結果的に誤っている場合が多いのではないでしょうか。
もっとも、経験や知識が不足しているからと言ってそのような説明が許容される訳ではありません。
不動産業に従事している以上、顧客は不動産のプロとみなしているのです。
プロが説明すれば、理解が及んでいなくても「そうなんだ」と納得するでしょう。
私たちが説明する一言一句により、購入の動機が形成されていくことを忘れてはならないのです。