【受任すれば義務が発生‼】専門ではないとの言い訳が許されない理由について

不動産の媒介を「業」としていると、様々な相談が寄せられるものです、例えば信頼できる引っ越し業者やリフォーム業者の紹介を依頼されるのもその一つでしょう。

顧客満足に繋がるのならとばかりに、知己である業者を紹介するのは悪いことではありません。

ですが、どの程度、誠実に対応してくれるかについて把握してから紹介する必要があります。

顧客はアナタから紹介されたのだから安心できると考えます。

結果、問題が生じた場合には、紹介者である皆さんにクレームが及びます。

それを理解しているからでしょう、優秀な営業マンほど迂闊な紹介は行いません。

紹介とはそれほど責任が伴う行為なのです。

したがってやすい請け合いは禁物です。

気安く引き受けてはならないのは、なにも紹介に限った話ではありません。

顧客から、皆さんの専門外である分野についての調査依頼があった場合も、引き受けには注意が必要です。

軽はずみに「〇〇は可能です」などと受け答えしないのはもちろん、必要に応じ専門家への調査依頼を推奨する心がけが重要です。

例えば相続に関する税金や、問題が生じた場合の法的アドバイスなどは、それぞれ税理士や弁護士の専門分野です。

媒介業者には、そのような分野について説明する義務は設けられていません。

ですから「専門外ですのでお答えできかねます」、と返答しても良いのです。

ですが実際には、そのような専門性の必要な質問にも応じているのが現状です。

無論、「詳しくは専門士業などに相談してください」などと前置きして回答しているのでしょうが、いざ問題が生じると、その前置きは無視され、「あなたが言ったから信じたんだ」などと追及されることがあります。

したがって専門外の質問や依頼にたいしては、十分に検討して応じる必要があるのです。

今回は、通常の媒介業務の範囲を超えた依頼にたいし、どのような対応するのが適切なのか考えていきたいと思います。

不動産業者の調査義務はどこまで必要?

不動産取引を行う場合、私たちには様々な調査義務が科せられます。

もっとも、その範囲については宅地建物取引業法で定められた重要事項説明書で説明が義務付けられた範囲に限られます。

もっとも、義務とされる範囲だけでも都市計画法や建築基準法関連から始まり、私道の負担に関する事項や飲用水、ガス、電気の供給並びに排水施設の整備状況のほか、契約の解除や損害賠償などのついての民本解釈についての説明など盛りだくさんです。

義務とされる関連法だけでも多岐に渡るため、細かい規定についてまで詳細に把握している方はほとんどおられないでしょう。

とくに民法や法令上の制限などについては、業務に直結する部分を除けば専門士業が対応する分野です。

「水害ハザードマップ」を例にとってみましょう。

宅地建物取引業法の改正により、令和2年8月28日以降から、市町村が水防法の規定に基づき水害ハザードマップを提供している場合には、重要事項説明時に当該マップを提示して、当該不動産の概ねの位置を示すことが必要となりました。

水害ハザードマップ

もっとも、義務とされるのは位置を示すまでであり、具体的な説明まで義務とされていません。

ですがハザードマップで浸水想定が5m以上とされていた場合などにおいては、「過去に浸水被害があったのですか?」などと質問される場合もあるでしょう。

物件で浸水被害が生じている場合は物件状況報告書で売主から告知されますが、近隣の浸水履歴までは告知されません。

その場合、「調査や説明は私たちの義務ではありません」と対応するかもしれませんが、以下に該当する場合には調査や説明が義務とされますので注意が必要です。

①顧客が具体的な説明を求めてきた場合(浸水のケースでは、浸水実績図の提示)
②調査の過程で浸水事項等の懸念があることを知った場合(通常、知り得る場合も同様)

この基準は、税金や各種法的見解などについても同様です。

顧客から調査を依頼され、それを引き受けた場合(調べてから返答しますと答えた場合も同様)、調査やその結果の説明が義務となるのです。

判断基準は微妙ですが、「人の死に関する説明」を例に考えてみましょう。

賃貸の場合、自然死や不慮の事故が原因で死亡した場合で、かつ特殊清掃を実施していない場合、事故発生から概ね3年を経過した場合には告知不要とされています。

ですが、発生した事故が衆目に注目された事件で、数年では人の記憶から消え去らない場合や、顧客から「この部屋で人が亡くなったことはありますか?」などと質問された場合はその限りではありません。

したがって契約の意思決定に影響を及ぼすと勘案されるものについては調査・説明の義務がある(調査を依頼され、受任した場合も同様)と理解しておく必要があるのです。

どこまでの調査が必要か、また過大な費用が必要な場合はどうするのか

重要事項説明書の作成に必要とされる調査は、「通常の不動産調査の範囲」です。

したがって、調査費用は媒介報酬に含まれるとされ、別途に請求はできません。

それにたいしインスペクション(建物現況調査)や地盤調査、土壌汚染調査などは、買主の不安解消のほか、購入目的を満たすために必要とされる調査です。

したがって宅地建物取引業法上の「あつせん」手順を遵守し、調査の実施に向けて具体的なやりとりが行われるよう手配すると同時に、見積費用を伝え、媒介報酬とは別途に実費を請求できます。

このような業務は、「特命的調査依頼業務」に分類されます。

たとえば「音に敏感なので、夜間の交通量が多いところや近隣で騒音を発するような建物がある地域は避けてください」との要望や、「子供がぜんそくなので、緑が豊で、空気汚染がない地域を探してください」などと依頼された場合などにおいては、周辺環境に関して調査が必要です。

音の問題については多分に主観も含まれますし、ましてや夜間の相応状況などは、特定の時間帯に複数回、騒音測定機を片手に現地入りしなければ判断できるものではありません。

これはなかなかの労力です。

このような調査は、その結果が買主の契約に関する意思決定に影響を与えます。

したがって契約不適合の対象とされるので注意が必要です。

もっとも宅地建物取引業法はそこまでの調査を求めておらず、義務とされているのは通常範囲です。

宅地建物取引業法,特命的調査依頼

ですが特別な調査依頼を受任した場合はその限りではありません。

通常の調査を超えた範疇であっても、購入動機や目的、私たちが受任した経緯などにより、説明義務があると判断されるケースがあるからです。

これは調査や説明に関してのグレーゾーンです。

調査内容や説明について媒介業者が責任追及され、裁判で争われているケースにおいては、このグレーゾーンについての見解がトラブルの温床となっていることも多いのです。

特命的調査でトラブルを生じさせないためには

特命的調査についての範囲や、説明責任がどこまで及ぶかについては、依頼された経緯も含め総体的に判断されます。

グレーゾーンを巡る各種裁判においては、被告とされた媒介業者が「宅地建物取引業法で定められた調査、説明義務は果たしており、原告が求める調査は業者の責任ではない」と主張しているケースが散見されます。

それにたいし裁判所は、業者の主張を認める場合もあれば否定する場合もあるのです。

そのためトラブルの発生を回避するためにも、特命的調査を受任する場合には以下のポイントについて理解しておく必要があります。

①確認した内容については、推測を交えず事実だけを報告する。

②専門業者に依頼しなければ正確な情報が入手できない場合にはその旨を伝え、費用負担について説明を行う。

③依頼された経緯や調査内容、結果については必ず記録を残す。

④受任する場合には、特別依頼書等を作成して締結することが望ましい(多くの場合、特命的調査依頼は不動産コンサルティング業務となります。そのため、通常の媒介業務と明確に区分する配慮が必要です)

⑤調査結果等については、重要事項説明書の特記事項欄などにその旨を記載する。

特命的調査,重要事項説明書

上記図は筆者が受任したアスベストに関する特命的調査について、重要事項説明書に記載したものです。

後日紛争を回避するためには、徹底して履歴を残すことが肝要なのです。

特命的調査の費用は、媒介報酬とは別途に請求できる?

宅地建物取引業法第46条で媒介の報酬額は、国土交通大臣の定める額を超えてはならないとされています。

国土交通大臣の定める額とは、国土交通省告示に記載されている下記の額です。

特命的調査,費用

空家等の売買または交換の媒介における特例(金額が400万円以下の場合、本則上限の18万円の1.1倍が報酬上限とされる)に該当する場合と、国土交通省による「宅地建物取引業法の運用解釈」で認められている、売主からの特別依頼による広告相当料金の報酬請求権を除けば、本則を超えた報酬は受領できません。

例外として、下記要件を満たす特別依頼については媒介報酬とは別に受領が許されます。

①依頼者からの依頼によって行う広告料金
②遠隔地の現地調査費用など、依頼者からの特別な依頼による業務

もっとも、上記の他に下記の条件を満たしていなければ受領は認められません。

A. 事前に金額(費用)を提示して承諾を得ていること。
B. 媒介報酬で賄うことが相当ではない、多額な費用が生じていること。

承諾を得ること自体は難しくないかもしれません。

ですが、通常の広告や調査費用は媒介報酬に含まれるとの考えが定説です。

遠隔地の場合、具体的にどの程度の距離や料金が必要とされる場合を指すのか例示されてもいません。

何より業務効率を考えれば、調査や内見などで現地に赴くたびに過大な費用が必要となる物件の媒介依頼は、受任しなければ良いとの解釈になるのです。

広告宣伝費の妥当性について争われた裁判(東京高裁昭和57年9月28日)において裁判所は、媒介報酬を超えて受領できるケースとは、依頼者から特別に依頼があり、その費用負担について事前に承諾があったうえで、かつ「報酬の範囲内でまかなうとことが相当とはいえないほど多額な費用が必要な場合」に限り媒介報酬を超えた額を受領できるとしています。

つまり極めて現適的な条件が必要とされ、かつ媒介報酬の範囲内についても具体的な基準が示されていないことから、特別依頼費用として請求するのは難しいと判断されるのです。

ですが、通常業務の範疇を明らかに超える労力が必要とされる調査などについて、すべてを媒介報酬の範囲内であるとするのも無理があります。

したがってそのような依頼を受任する場合には、通常の媒介業務と明確に区分して、不動産コンサルティング業務として請け負えば良いのです。

不動産コンサルティング業務委託契約書

ただし、区分には注意が必要です。

不動産コンサルティング業務の成果として受領した報酬が、実質は媒介業務の範疇を超えておらず、したがって媒介報酬の上限を超えているとして争われた(東京地裁 平25年9月3日判決 ウエストロー・ジャパン)判例があります。

このケースは、不動産コンサルティング業務として締結された内容が、実質的には借地権付建物の媒介に過ぎなかったことから、媒介報酬の上限を超えた金額は不当利得にあたるとしてその返還を請求した事件でしたが、裁判所は原告の主張を認め返還を命じています。

特命依頼を受任する際には、少なくても下記の手順等から逸脱しない必要があります。

①媒介業務とは明確に区分できる内容であること
②実施する業務内容について説明し、承諾を得ていること
③事前に費用を提示し、承認を得ていること
④不動産コンサルティング業務委託契約書を締結していること

つまり、依頼内容が通常の媒介業務を超えているとしても、それを明確に区分して適切な手順を講じなければ、別途報酬の請求は困難であることを理解しておくことが肝要なのです。

まとめ

一般の方が不動産を購入するのは、ほとんどが生涯一度きりです。

不動産は高額ですから、誰しも失敗などしたくありません。気になる点は徹底して拘りたいでしょう。

ですが気になる点についての調査を行うにも相応の知見が必要で、かつそのような知識は、簡単に身につけられるものではありません。

私たち媒介業者は、そのような顧客の疑問や不安を専門的知見により解消し、円滑な取引が行われるようサポートするのが責務です。もっとも、不安や疑問は際限がありません。

そこで宅地建物取引業法では、説明しなければならない事項を定め、それについての説明は媒介業者の義務としているのです。

もっとも、顧客の不安や疑問は際限がありません。

義務として説明された範囲では安心できない部分もあるでしょう。

そこで、近隣の騒音問題や、建物のホルムアルデヒド発散量に関しての質問、もっとも有利な住宅ローン商品はどこかなど様々な質問が寄せられるのです。

通常の調査で回答できるものであれば良いのですが、時に専門士業に依頼が必要な場合や、特別な労力が必要とされる場合もあるでしょう。当該地の地耐力や土壌汚染、インスペクションなどはその典型です。

前者の専門士業への依頼は比較的簡単です。

あっせんに過ぎないからです。

ですが後者の「特別な労力が必要とされる調査」はやっかいです。

適切な説明を事前に行わなければ、媒介報酬に包括されていると認識されるからです。

特別依頼報酬の請求が困難なことは、皆さんご存じでしょうし、可能であれば追加報酬を請求せず要望に応えてあげたいとの思いもあるでしょう。

ですが、それも程度問題です。

あきらかに通常の媒介業務を超える場合には、労力に見合う報酬を得る必要があるでしょう。

どのように高度な依頼であっても、受任すれば責任が伴います。

引き受けたからには、徹底した調査が必要です。

そのために労力が必要であるなら、それは正当な報酬です。

区分を明確にして適切な手順を経たうえで、双方納得できる成果を提供したいものです。

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