総務省による住宅・土地統計調査の速報集計によれば、令和5年時点の空家戸数は約900万戸とされています。
そのうち「賃貸・売却用および二次的利用を除く空家(その他空家)」は385万戸です。
住宅・土地統計調査は5年に一度実施されます。前回調査は平成30年(2018年)でしたが、その時点における「その他空家」は349万戸でした。
つまり、わずか5年で「その他空家」は36万個戸増加しているのです。
空家は私有財産ですから、その管理は所有者自ら行うのが原則です。
しかし遠方に居住しているなど様々な理由で、管理が行き届かない空家が増加しました。
そのため、空家等対策の推進に関する特別措置法(以下「空家法」という)が平成26年に施行されたのです。
空家法では第5条で「空家等の所有者等の責務」について明文化されています。
しかし空家所有者の責務が明文化されても、増加は抑制できませんでした。
そこで最大で固定資産税を6倍にできる(管理不全空家にたいする住宅用地特例除外)などを盛り込んだ改正空家法が、令和5年に施行されたのです。
適切に管理されていなければ、住宅の痛みは早くなります。
居住していれば不具合も早期に発見されるでしょうが、空家ではそうもいきません。
空家所有者にたいする調査によれば、取得経緯の約6割は相続によるものです。
また居住地から空家まで移動する所要時間が、1時間を超える所有者の割合は約3割占めるのです。
適切に管理するつもりがあっても、実現できない理由があるのでしょう。
しかし適切な管理をせず周辺環境に悪影響を及ぼしている状態を放置すれば、いずれ管理不全空家や特定空家に指定され、最終的には解体命令もしくは行政代執行による解体が待ち受けています。
そのため所有者自身による管理が覚束ない場合には、私たち不動産業者や知人などの第三者に管理を委託するでしょう。
しかし業務の適正化を図る制度が存在していないことから、管理の範囲や報酬額を巡るトラブルが多発しているのです。
私たち不動産業者は、豊富な取引経験と地域密着の強みを活かせることから、空家に関する相談窓口としては適任です。
また他の専門士業(弁護士、司法書士、税理士等)とのパイプを繋ぐことにも長けています。
つまり適切な管理・流通・利活用のサービスを、ワンストップで提供できる立ち位置なのです。
そのような背景から国土交通省は、空家管理受託における標準的なルールとして「不動産業者による空き家管受託のガイドライン」が策定されたのです。
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001750009.pdf
空家管理の段階から所有者と関わりを持ち、その後、流通や利活用に繋げられる可能性が高いビジネスモデルの構築は、私たち不動産業者にとって理想です。
それを実現するにはガイドラインを理解して、いち早くガイドラインに基づいた業務を開始することです。
今回は速報として、策定されたばかりの「不動産業者による空き家管受託のガイドライン」について解説を行います。
必要なのは発想の転換
不動産業者の使命は、「購入者等の利益保護」です。
これは宅地建物取引業法の第1条でも明文化されています。
その定めにより、空家の所有者にたいしのサービス主体として適切な管理サービスを提供する必要があります。
それを実現することで所有者から信頼を得て、将来的な売却や利活用に関する相談に発展していくのです。
空家管理を通じワンストップサービスを提供する場合、まず従来の「狩猟型」営業から脱却しなければなりません。
長期的に良好な関係を築き上げることで、総体的な利益が確保されるからです。
ガイドラインでも空家管理業務は、「事業運営において想定されるリスクを低減しつつ事業を実施できる」ことがメリットである点について言及しています。
ガイドラインの適用範囲
ガイドラインにおいて空家の管理範囲は、原則として空家及びその敷地(立木等を含む)としています。
注意点としては、すでに「管理不全空家」や「特定空家」として市町村長から指導・勧告の対象とされている物件については、ガイドラインの対象外とされていることです。
これらの空家は、現に周辺環境へ悪影響を及ぼしている状態です。
指定した市区町村としては、所有者に速やかな原因の排除を求めているのです。
したがって、適切な管理としての指針であるガイドラインの趣旨にそぐわないのです。
またこのような趣旨から腐朽・破損などが著しい住宅についても、安全な管理業務の遂行が困難であるとの理由からガイドラインの適用外とされています。
無論、私たちが指定空家等の所有者から相談を受け、原因除去や解体の代行業務などを受託することは禁じられていません。
管理不全空家等については不全状態の解消を優先したうえで、今後の維持管理について相談を受けるのです。
管理不全状態を解消するための提案としては、解体のほか改修工事の斡旋、売却などが考えられます。
もっとも売却する場合には解体が必須とされるでしょうし、管理不全状態の住宅改修にはかなり大掛かりな工事が必要とされるでしょう。
所有者によっては、それらの費用を拠出するのが困難かも知れません。
あらかじめ地域の除去費用制度の額や要件について理解を深めておくと良いでしょう。
管理の頻度
管理の頻度については、本来所有者が自ら行う日常的な管理(一定の頻度で行う点検、定期的な通気や換気等)としています。無論、所有者の意向によっては立木等のみの管理や、外観目視による点検のみを委託しても構いません。
しかし国土交通省が私たちに求めているのは、空家が適切に管理され、周辺環境に悪影響を及ぼすような劣化が進行しないようにすることです。
管理頻度や範囲が多くなるほど受託費用も高くなりますが、それを惜しんで外観目視のみの管理を依頼された場合、通風や内部破損等の点検は所有者自らの責任になります。実際に所有者が適切な管理を行えるかについて、十分に協議する必要があるでしょう。
空家法に基づき国土交通省が策定した「管理指針」には、「所有者等は、空家等が管理不全空家や特定空家とならないよう、一定の頻度で点検を行うとともに、空家等に破損等が見られる場合にはその修繕等を行うことが必要」とされ、さらに「事象の発生を予防するためには、定期的に通気や換気等の管理を行うことが求められる」と記載されています。
私たちは所有者の責任について説明すると同時に、管理範囲や具体的な作業内容について取り決めておく必要があるのです。
具体例としては定期巡回について、門や塀、屋外階段や外壁、立木、擁壁などの建物外周部や、外壁・屋根の目視点検、内外部の簡易的な清掃のほか、通風・換気などの作業内容について、可能な限り詳細に取り決めておくのです。
それらの作業内容についてはチェックリストを作成し、それを活用すると同時に実施状況報告書への添付をお勧めします。
管理業務についての報告頻度は、賃貸住宅管理業法第20条(委託者への定期報告)の規定により、国土交通省令で年1回以上とされています。
しかし、より頻度の高い報告が望ましいでしょう。
少なくても月1回以上の頻度で、書面による報告を実施しておきたいものです。
ガイドラインでは巡回頻度について具体的な言及をしていません。
しかし「本来所有者が自ら行う日常的な管理」との趣旨を踏まえれば、外観目視は1~2週に1度以上、内部については月1回以上、台風や大雨などが発生した場合には、事象終了後速やかに行う配慮が必要と勘案されます。
もっとも災害発生時の点検作業等については、どの程度必要となるか予測できるものではありません。
そのため、二次被害の防止を目的に目視調査を標準的な作業として、安全が確保された時点で実施する瓦礫撤去の作業等についてはオプションとして新たに受任するのです。
状況を勘案しながら柔軟に作業内容や費用を決定することが、ガイドラインでも推奨されています。
管理受託前には現況確認が必須
私たちが管理を受託するのは、空家を適切に管理して、著しい劣化が進行するのを防止するためです。
したがって物件状況については、受託前に確認が必要です。
具体的には受託前に、以下を徹底するのです。
1. 「受託前況確認表」の作成及び記載
2. 残置物等が残されている場合、その品目と状態を別紙で記録する
3. 記載内容については現地で、双方立会いのうえ状況確認をする
現況確認を証する書類としては、通常の売買契約等で利用されている「物件状況報告書」を使用しても構いませんが、国土交通省から参考資料として「空家管理作業 受託前現況確認表」が公開されています。
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001750010.pdf
使い勝手の良い内容ですので、こちらを参考に作成しても良いでしょう。
また相続が取得原因である空家の場合、家具などが残されたままであることが多いでしょう。
盗難や破損などによる後日紛争を防止するため、別紙を作成し詳細に記録しておく必要があります。
また管理を受託する場合には、「管理委託契約書」を締結する必要があります。
こちらも国土交通省から参考資料が公開されています。
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001750012.pdf
管理委託契約書は所属している保証協会等から提供されている書式を流用しても構いませんが、少なくても下記内容が記載されているか確認しましょう。
また、管理物件に常駐しているわけではありませんので、管理委託契約書には管理に係る作業に起因する損害のみならず、管理に係る作業外で発生した損害についても、責任の発生要件・責任範囲等について定めておく必要があります。
具体的には、受託者側の故意または過失により損害を与えた場合のみ責任を負うとする条項です。
委任契約は、当事者の一方が法律行為することを相手方に委託し、相手方がそれを承諾することで効力が生じます(民法第643条)。
したがって契約書等の有無は絶対条件とならず、口頭でも有効とされるのです。
しかし、物件状況報告書の作成や管理委託契約の締結を怠って口頭により受任した場合、物件の破損や家財等の紛失などが受託者の「責」によるものか否かを判断できません。
管理に係る作業に起因していないことを立証できなければ損害賠償を請求される可能性が高まるとして、ガイドラインでも注意喚起しています。
まとめ
ガイドラインでは管理委託契約に関する報酬について言及されていません。
一般的な賃貸物件であれば設定家賃の3~5%程度が管理費用の目安とされています。
しかし賃貸運用を目的としていない管理のみの場合、報酬の設定に頭を捻ります。
そのため近隣の賃料相場を根拠として想定家賃を参考に、巡回頻度や作業内容などを総体的に勘案して報酬を設定するしかありません。
不動産業者に求められているのは定期的な物件の点検や、それを踏まえたうえでの修繕提案など、蓄積されたノウハウを活用しての総合的なサポートです。
それにより地域に悪影響を及ぼしかねない空家の発生を防止して、地域価値の共創に貢献できるのです。
「売ったら終わり」の狭量な観点ではなく、地場密着だからこそ育むとの考えが、地域を支える産業として認知される結果を生み出すのです。
今回のガイドライン策定は、空家の管理に苦慮している方の注目を浴びるでしょう。
いち早く準備を整え告知することが必要なのです。