【空家ビジネスの新時代が到来!】確実に抑えておきたい不動産業者による空家対策推進プログラムの内容と業法改正のポイント

近年、空家や空地、マンションの空き室等の急増を防止することが喫緊の課題であるとして、政府は立て続けに対策を講じています。

とくに周辺環境に悪影響を及ぼす可能性の高い「管理不全空家」や「特定空家」などにたいして罰則を強化する一方、二地域住居など新たな働き方・住まい方を提唱しています。

それを実現させるには、物件調査や価格査定、売買や賃貸の媒介などの経験が豊富で、流通から利活用までを一括してサポートできる私たち不動産業者の存在が欠かせません。

しかし価格が割安であることから、媒介しても利益が低い割に手間のかかる地方の空家などを、積極的に手掛けようとする不動産業者は多くありません。

そこで国土交通省は令和6年6月21日に、「空き家等に係る媒介報酬規定の見直し」を柱に以下の内容を盛り込んだ、「不動産業者による空家対策推進プログラム」を策定し公開したのです。

不動産業者による空家対策推進プログラム

策定されたプログラムは「流通に適した空家の掘り起こし」と「空家等に係るビジネス化支援」に大別され、さらに4つに分類されています。

このうち空家の掘り起こしについては、空家所有者からの相談体制を充実させるための対策や、空家対策業務に精通した宅建士を育成するための研修の実施など、主に国や地方公共団体と不動産団体等の連携により実施されるものです。

それぞれ重要な対策ではありますが、私たちが直接関与できる性質のものではありません。

それにたいし空家流通のビジネス化支援は、上手く活用すれば事業拡大の契機になりえます。

策定された施策は以下の4つですが、どれもが理解を深めておきたいものばかりです。

空家流通のビジネス化支援

全てを一気に解説すると長文になりますので、2.の「空家管理受託ガイドライン」については、下記不動産会社のミカタコンテンツをご覧ください。

今回は、残る1.「空き家等に係る媒介報酬規定の見直し」と3.「媒介業務に含まれないコンサルティング業務の推進」を中心に解説を行います。

正確に理解しておきたい空家の現状

空家等対策の推進に関する特別措置法によれば、空家とは「建築又はこれらに付属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地」と定義されています。

つまり劣化や老築化が進展したものだけではなく、築年数も浅く状態が良い物件も「法」の定義では空家とされるのです。

空き家,法の対象

法の定義による空家戸数は、総務省による2023年(令和5年)の住宅・土地統計調査概要によれば、調査時点の住宅総戸数は約6,502万戸とされています。

そのうち、法の定義で空家に分類される戸数はおよそ約900万戸(13.8%)とされています。

さらに余されている空家、分類上「その他空家(賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家)」とされる住宅数は5.9%(385万戸)です。

つまり住宅総戸数のうち、およそ20件に1件の割合で賃貸運用や売却予定もなく、また二次的住宅としても活用されていない空家が存在しているということです。

空き家数及び空き家率の推移

令和元年に国土交通省が空家の実態調査を実施しましたが、それによると「その他空家」の約3/4が新耐震基準以前(昭和55年以前)の建築であることが分かりました。

空き家の建設時期

さらに「その他空家」戸数385万戸のうち、「腐朽・破損あり」と判定された戸数が89.7万戸(約23%)に達していることが確認されたのです。

新耐震基準以前の住宅を取り扱う場合には、旧耐震が震度5程度の地震で倒壊しないレベル(新耐震は震度6~7)であることの説明は必須ですし、求めに応じ耐震改修工事の斡旋が必要となる場合もあるでしょう。

また、自治体によっては耐震改修工事等に補助金を支給してくれるところもありますから、その要件や額についての知見も欠かせません。

空き家,耐震,補助限度額

つまり、それらに関する知識が不可欠なのです。

都心部に存在する売れ筋不動産ばかりを、苦も無く扱えれば空家ビジネスに目を向ける必要はないかも知れません。

しかしそのような物件の「物上げは」、競合他社と鎬をけずって得られる成果です。

それならば、他社が敬遠しがちな「空家」に注力するのも一つの方法です。

そこにはブルーオーシャンが広がっている可能性が高いからです。しかし、以下のような問題点があります。

労力がかかる割に収益性が低い。
扱うには相応の知見が必要だが、そのような人材がいない。
物件が遠方にあるため、タイムパフォーマンスが悪い。

これらについては不動産業者による空家ビジネスを阻害する要因として、国土交通省が検討を続けてきました。

不動産業者による空家ビジネスを阻害する要因

今回の「不動産業者による空家対策推進プログラム」は、このような問題を打開するため策定されたと理解しましょう。

引き上げられた報酬上限額

媒介報酬の上限額については、宅地建物取引業法で厳格に定められています。

特別に依頼された広告や遠方への出張費など、合意形成された例外を除き上限を超えることはできません。

空家ビジネス,報酬上限額

もっとも例外規定を適用させるには厳格な要件をクリアする必要がありますから、実務上、全ての経費を媒介報酬で賄っているのが現状です。

物件価格が高額なほど報酬額も連動して上がるのですから、誰しも訴求力のある高額物件を扱いたい。

しかし、大規模な物件の売買に地場密着の業者が関与できる機会は多くありませんから、適度なバランスを維持しながら事業を継続しているのが現実でしょう。

利益が得られるチャンネルを数多く保持すれば安定収益に繋がります。

しかし、空家が存在している比率は地方圏の方が高くさらに報酬も少ないとあっては、下手に手を出せば赤字になりかねません。

そこで国土交通省は48年ぶりとなる報酬改正を平成30年1月1日から施行しました。

具体的には第46条第1項による空家等の売買又は交換の特例として、400万円以下の金額の宅地又は建物取引については、報酬告示の規定額と現地調査に要した費用相当額を計上した金額として、上限額を18万円(税込み19.8万円)まで引き上げたのです。

ただしこの特例は、空家等の売主又は交換を行う者である依頼者から受けるものに限られていました。

買主等については、あくまで本則により計算された額が上限です。

例えば物件価格300万円で両手媒介した場合の報酬は以下のとおりです。

売主:19.8万円(税込み上限規定)
買主:300万円✕4.4/100+消費税=14.52万円(税込)

両手でも34.3万円の報酬が上限です。

しかも、「当該現地調査等に要する費用に相当する額」が加算された上限です。

したがって、どれだけ遠方であっても特別依頼としての報酬を請求・受領することが、原則としては認められていない内容です。

この額では、少し経費が嵩めば赤字になりかねませんでした。

そこで今回、以下のように宅地建物取引業法第46条関係について、施行日を令和6年7月1日からとして報酬上限を改めたのです。

報酬上限,空き家ビジネス

改正条文は正しく理解しておく必要がありますから、以下にその全文を記載しておきます。

低廉な空家等(売買に係る代金の額(当該売買に係る消費税等相当額を含まないものとする。)又は交換に係る宅地若しくは建物の価額(当該交換に係る消費税等相当額を含まないものとし、当該交換に係る宅地又は建物の価額に差があるときは、これらの価額のうちいずれか多い価額とする。)が八百万円以下の金額の宅地又は建物をいう。以下同じ。)の売買又は交換の媒介に関して依頼者から受ける報酬の額(当該媒介に係る消費税等相当額を含む。以下この規定において同じ。)については、宅地建物取引業者は、第二の規定にかかわらず、当該媒介に要する費用を勘案して、第二の計算方法により算出した金額を超えて報酬を受けることができる。この場合において、当該依頼者から受ける報酬の額は三十万円の一・一倍に相当する金額を超えてはならない」

この条文を読みこなすには、2つのキーワードについて理解する必要があります。

まず特例の対象は、低廉な空家等の売買又は交換であること。

「低廉な空家等」は、国土交通省による運用解釈において「宅地または建物の価格が800万円以下の金額で、当該宅地又は建物の使用の状態を問わない」と定義されています。

つまり空家に限定されておらず、現に居住中であっても特例を適用できるということです。

同様に「当該媒介に要する費用を勘案して」については、人件費や交通費等を含むと同時に、取引態様や難易度等に応じて必要と見込まれる費用の水準や多寡を考慮することを求めている表現としつつ、「当該費用に相当する金額を上回る報酬を受けることを禁ずる趣旨のものではない」とも明言しています。

つまり実務上勘案される労力の多寡によらず、800万円以下の低廉な住宅等については特例適用金額(税込み33万円)を上限として、売主・買主双方から受領できるとしたのです。

売買取引に係る報酬額

また賃貸物件の媒介報酬についても改正されています。

具体的には「依頼者双方から受ける報酬の額の合計額が、賃料の1ヶ月分の2.2倍に相当する金額」が上限に改正されました。

賃貸借取引に係る報酬額

売買・賃貸のいずれの場合でも、特例を適用させる場合、媒介契約締結前に予め依頼者等に説明を実施し、合意を得ておく必要があります。

また賃貸物件については、少なくとも1年を超える期間、居住者が不在となっている空室などが対象とされているなどの要件が求められています。

特例を適用するための要件については、正確に理解して事前説明を徹底しましょう。

とくに実務においては、例えば売出額300万円の物件にたいし媒介上限額の合意を求めても、すんなり納得が得られる可能性は低いかも知れません。

法の趣旨や見直された経緯について適切に説明し、折り合える金額を見出す必要があるのです。

コンサルティング報酬は、媒介報酬と別個であることを明言

一般的な媒介業者は、相談報酬や物件の維持管理に必要とされる作業等についての報酬を請求していません。

例えば空家の媒介依頼を受けた場合の定期的な巡回や通風作業、土地の媒介依頼を受けた場合に実施する草刈り作業なども、全て媒介報酬に含むとしているのです。

媒介契約が締結された以降の助言については、宅地建物取引業法で定められた業務範囲と解されるので致し方ないかも知れません。

しかし媒介契約締結前でも無料相談に応じるのは、その結果、媒介に繋がるとの期待があるからでしょう。

回答結果が対価に値するかどうかの議論はさておき、例えば弁護士の場合は初回30分程度の相談は無料でも、二回目以降は30分0.5~1万円などの相談料を請求するのが一般的です。

そもそも深い知識や知見は、簡単に身につくものではありません。

日頃からの努力が結実した結果です。

したがってそれ自体が対価の対象となるのは当然で、苦労して資格を取得した専門士業であれば尚更でしょう。

インターネットの普及により知識格差は減少したと言われています。

この見解は概ね正鵠を得ているのでしょうが、実践的知識や経験則は知識総量だけで図れるものではありません。

そのような観点から言えば知識や経験に長けている不動産業者が、コンサルティングを実施して報酬を得ることは当然だと言えるのです。

そもそも、コンサルティングフィーと媒介報酬は別個のものです。

コンサルティング契約の多くは委託者の抱える課題にたいし、コンサルタントが専門的アドバイスを口頭、もしくはレポート等の提示をすることにより、問題を解決するのが目的です。

つまり「解決に必要な知識等の提供」という事実行為が委任され、それを受託し準委任契約(民法第656条)となるのです。

媒介契約も準委任契約であるのは同様ですが、こちらは特別法である宅地建物取引業法により、免許や義務、禁止行為や罰則などについて規制されています。

不動産コンサルティング業務は宅地建物取引業法の規制範囲に該当せず、あくまで民法により規定される業務です。したがって、まったく別物なのです。

これまで国土交通省は、媒介業務と不動産コンサルティング業務が別物である点について明言を避けてきました。

これは宅地建物取引業法における従前の定めでは、媒介に係る報酬以外に受け取れる報酬の規定が、明確に記述されていなかったからです。

しかし「不動産業者による空家対策推進プログラム」の策定に伴い宅地建物取引業法が改正されたことにより、媒介報酬以外に受領できる報酬の範囲が明文化されました。

これについては、下記宅地建物取引業の解釈・運用の考え方の新旧を比較すれば理解しやすいでしょう。

(旧)「宅地建物取引業者が、第34条の2関係11に従って、媒介業務以外の不動産取引に関連する業務を行う場合には、媒介業務に係る報酬とは別に当該業務に係る報酬を受けることができる」

(新)「宅地建物取引業者が、第34条の2関係11に従って、空き家 ・空き室等の所有者等のニーズに対応して行う業務又はいわゆる不動産コンサルティング業務など、媒介以外の関連業務を行う場合には、媒介業務に係る報酬とは別に当該媒介以外の関連業務に係る報酬を受けることができる

媒介以外の関連業務としては、利活用に向けた課題整理や相続相談、権利者間の協業支援などの不動産コンサルティング業務のほか、除草や巡回点検、郵便物の保管や転送などの空家管理業務などが想定されています。

媒介以外の関連業務

これらの業務を媒介業務とは別個のものであるとして受託する場合には、業務内容に応じた適切な料金設定を行い予め説明が必要なのは当然ですが、将来的な紛争を避ける意味でも「不動産コンサルティング業務委託契約書」、「管理委託契約書」など業務内容の応じた契約書を締結することが重要です。

まとめ

相応に手間も必要で利益の少ない空家ビジネスへの参入はどうなのか?

不動産業者なら誰しも悩むところでしょう。しかし年間流通量も多く価格が安定している地域は競合他社も多く、しかも新たな業者が次々と参入してくるのですからラクな営業展開は望めません。

宅地建物取引業者数は近年増加傾向にありますが、地域によっては減少しているところもあります。

その傾向は地方圏ほど顕著に現れています。

競合他社が少ないほど一人勝ちできる可能性は高まります。

したがって、労力を厭わない覚悟をすれば、競合他社の少ない状態でビジネスを展開できるのです。

しかし、下手をすれば収益が赤字になる危険のが高い地方圏の空家取扱は、そのような観点から敬遠されてきました。

ですが今回策定された「不動産業者による空家対策推進プログラム」や、それに基づく宅地建物取引業法の改正により、労力に見合った報酬が確保できる可能性が広がったのです。

さらにライフスタイルの変化を見逃してはなりません。

都心部から地方圏へ移住して生活したいとのニーズが高まりを見せているのです。

都心部から地方圏へ移住して生活したいとのニーズ

地方圏の、しかも空家等を取扱うには管理面も含め、相応のノウハウも必要です。

状況によっては、これまでの経験が必ずしも役立たない可能性もあるでしょう。

しかし政府が本腰を入れて空家を防止するため動き出したのですから、いち早く参入して経験を積むことにより、空家ビジネスのパイオニアになれる可能性があるということです。

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