【所有する2項道路を通行止めにしたいのですが……】気持ちは分かるが無理な理由

建物は、原則として敷地が、道路に2m以上接していなければ建築をすることができません。

これは建築基準法第43条第1項本文で定められており、一般的には「接道要件(または義務)」と呼ばれています。

建築基準法では第42条で「道路の定義」、続く第43条で「敷地等と道路との関係」について定められています。

建築基準法では第42条第1項で、以下の5つを道路として定義しています。

① 道路法による道路
② 都市計画法、土地区画整理法等による道路
③ 都市計画区域等の指定、変更前や、条例の制定もしくは改正前から存在する道
④ 道路法、都市計画法、土地区画整理法等による新設又は変更の事業計画があり、2年以内に事業が執行される予定として特定行政庁が指定して道路
⑤ 位置指定道路
建築基準法上道路の種別

続く同法第42条第2項では、都市計画区域等に指定もしくは変更される前、及び条例の制定や改正前に建築物が立ち並んでいる幅員4m未満の道で、特定行政庁が指定したものについては建築基準法上の道路とみなすとしています。

これをいわゆる「2項道路」と呼びます。

この場合、建築(または建て替え)の際には「道」の中心線から水平距離で2m(指定によっては3mもしくは4m)の線を境界線とみなし、不足する部分を、宅地から道路として供することにより建築が可能となります。つまり、セットバックです。

2項道路のイメージ

敷地と道路との関係は重要事項説明の記載事項ですから、これについては十分に理解されていると思います。

これらの規定により、幅員4m未満の道に接している中古住宅でも、位置指定道路であれば将来的な建て替えも担保されますが、セットバックによる敷地の減少が問題となります。

そのため、再建築時に現存する建物と同程度の規模で建築できるとは限りません。

これだけでも懸念材料とされるのですが、問題はセットバックに供した土地の取扱です。

道に供した土地の所有権を個人のままにすれば、管理責任が伴います。行政が舗装工事などを実施する場合にも、そこだけ取り残されることになります。

宅地建物取引業者には、セットバックに供した後の道の取扱について説明することまで求められていませんが、「どうしたら良いのですか?」と質問される場合もあるでしょう。

また、「道路に供したとはいえ自分の土地なのだから、他人が通れないようにしても良いのですか?」などと質問されるかも知れません。

今回はセットバックに関し、深堀りして解説したいと思います。

二項道路の通行止めは認められるか?

「セットバックした土地も自分の所有地なので、他人に通行してほしくありません。

通行止にすることは可能でしょうか?」と、何度か質問されたことがあります。

結論から言えば、そのような行為は認められません。

そもそも2項道路は、誰もがそこを通路として利用できることを前提に指定されます。

したがって、他人の通行を禁止することはできないのです。

平成14年11月29日に東京地裁で、2項道路の通行について争われた裁判が結審しました。

判決において裁判所は、「第三者が私道を通行できるのは当然であり、敷地提供者はそれを甘受せざるを得ない」と述べています。

さらに裁判所は、「私道の所有者は他人の通行権を否定したり、一般的な通行禁止を命ずる裁判を求めたりすることは、権利の濫用であり許されない」として、通行禁止を求め提訴した原告を戒めています。

道路は、公共の需要を満たすために存在するものです。

したがって自己が建築確認を受けるためにセットバックした場合は、当然に他人の通行も許容すると同時に、都市の安全性や快適性の確保を、社会一般にたいして許容したものとされるのです。

私道を所有したままにしておくことにメリットはない

セットバックした土地を、個人の所有にしておくことにメリットはありません。

自治体に申請することでセットバック部分についての固定資産税が非課税とされる場合もありますが、必ずというわけでもありません。

自治体の中には、宅地並みではないにしても、固定資産税を徴収しているところがあるからです。

固定資産税の課税状況

また、所有している場合には管理責任が伴います。

固定資産税の課税状況

まれに管理責任と使用権を混同して、セットバック部分を花壇や、駐車場として使用しているケースを見受けますが、先述した裁判例からも分かるように、公共の要に供した部分に個人の使用権は認められません。

舗装工事等,取り残される,土地

所有権を保持していても個人使用は認められず、自治体が舗装工事等を行う際に、その部分だけが取り残される状態になってしまいます。

そのため、早めに自治体へ寄付、もしくは買取を依頼するのが得策です。

後退用地の寄附制度の有無

とはいえ、寄付や買取がどの自治体でも認められているわけではありません。

例えば、セットバック用地の寄付については約8割の自治体が応じているとされていますが、制度を設けていない自治体も存在しています。

狭あい道路拡幅整備事業が行われているか

物件所在地のセットバック用地の取扱については、自治体によって「狭あい道路拡幅整備事業」が実施されていますので、まずその概要を調べて見るとよいでしょう。

狭あい道路拡幅整備事業とは、敷地と道路との関係、用途制限及び形態制限を柱として、市街地の整備改善のために定められる特例や建築規制のことです。

狭あい道路拡幅整備事業

幅員4m未満の「狭あい」な道路は、災害時の避難路など、安全で良好な環境を形成するうえで問題になります。

そこで、自治体ごとに補助や、拡幅整備後の後退用地に関する維持管理・課税方法などを定めています。

国土交通省は令和元年に283の自治体を対象に、狭あい道路拡幅整備事業についてのアンケート調査を実施し、補助対象の項目を公開しています。

狭あい道路拡幅整備事業についてのアンケート調査

用地取得(私道の買取)については半数(損失補償は33.9%)程度ですが、測量費や道路舗装費については、70%を超える自治体が補助対象としています。

ただし移管等が認められる要件は自治体によらず、図①のように公道から他の公道につなぐ路線で32.7%、公道から同一の公道に戻る形で接続された路線で15.1%、袋路上の③は3.6%と低い水準になっています。

道路に供した土地,自治体,移管

以上のことから分かるように、再建築時にセットバックをした場合、道路に供した土地について必ずしも自治体が移管に応じてくれるとは限りません。

ましてや有償で買取をしてくれる可能性は、無償での移管が認められる以上に低いのです。

したがって再建築時にセットバックが必要とされる中古住宅を販売する場合において、セットバックした土地の取扱について質問された場合には、迂闊に「自治体に移管すれば良いですよ」と回答してはならないのです。

事前に概要調査を徹底しましょう。

覚えておきたい狭隘協議

媒介業者の業務範疇ではありませんが、覚えておきたいのが狭隘(きょうあい)協議です。

自治体によって細街路協議や後退協議などと名称は変わりますが、単純にセットバックする際に必要な自治体(建築指導課等)との協議と理解すれば問題ありません。

すべての狭隘道路が対象となるわけではありませんが、協議の前提として測量が必須とされます。

従って前述した、「狭あい道路拡幅整備事業」に基づく測量補助金が支給されるかどうかが大切になるのです。

また、セットバック後の敷地について舗装や、側溝の整備が求められる場合がありますので、それらの費用が補助されるからも把握しておく必要があります。

まとめ

今回、解説したセットバックで土地を供与した以降の取扱や説明は、再建築を行う建築会社の業務です。

したがって私たち媒介業者は、「再建築時にはセットバックが必要である」旨を説明すれば足ります。

しかし、不動産のプロとしては、実際にセットバックした場合における道路に供した敷地の取扱について、理解を深めておきたいものです。

実際に再建築時にセットバックが必要である旨の説明をした場合、その敷地の取扱について様々な質問を受けることが予想されます。

説明義務がないからと誤魔化すのは、あまり好ましい対応とは言えません。

少なくとも概要について、適切に説明できる程度の知識を備えておくことが重要です。

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