【任意売却を手掛ける】実践編

任意売却を手掛ける_基礎理解編】の続編となります。

前回の記事ではコロナ禍で住宅ローン支払い困窮者が増加している現状を踏まえ、解決策としての任意売却が金融機関も推奨する有効な手段であり、不動産会社としての社会的意義も踏まえ正しく斡旋する心構えについて解説しました。

今回は実践的な手続きについて解説します。

【動画講座】はじめての任意売却の手掛け方

お客様から任意売却の相談があっても、
経験が少なくどうすればいいかわからない

任意売却は通常の仲介と比較して、確かに難しいです。
ただ、それは他社も同じ。
任意売却を扱えるようになることで、他社と大きく差別化を図ることができます。
本動画では任意売却を手掛ける際の「マーケット知識」「債務者との折衝の仕方」「債権者との交渉の仕方」「陥りがちな失敗」をお伝えさせていただきます。

任売のメリットを再確認する

住宅ローンの支払い困窮者が銀行に相談すればリ・スケジュールを、弁護士などの士業に相談すれば破算を推奨されます。

金融機関も士業も、根本の解決手段として「任売」が有効であるのは理解しているはずですが、実際には推奨されていません。

何故でしょうか?

任売は、不動産売却の実務が絡むからです。

私たちにとって日常業務である不動産査定や、広告展開(紙媒体・HPによる情報公開)、内見などの業務が、金融機関や士業にとってはノウハウもないことからハードルが高く、結果的に自分の専門分野である処理方法を勧めているのです。

つまり「任売」は、優れた解決手段ではあるけれども私たち不動産業者以外に手を出しにくい分野であり、実績を積み重ね実力を養えば、困窮者が初回相談する金融

機関や士業から処理を依頼される可能性もある業務です。

情報の集め方

住宅ローンの支払いに困窮している人は、ネガティブな精神状態になっています。

一般的な認識として任売にはマイナスイメージがありますので、任売という言葉をそのまま前面に押し出し広告展開をしても、問い合わせがくる可能性は低いでしょう。

任売に代わるキャッチコピーとして

「住宅ローン支払い相談」
「ローンの支払い困ったらまず相談」

など、一見するとそれっぽいメッセージをかかげている広告をよく見かけますが、具体的な提案や内容が不明なことから効果が期待できません。

それよりも寄り添って相談をするといったメッセージを具体的な言葉で発信するほうが、問い合わせに期待できるようです。
具体的には

「営業時間中なら、何度でも無料相談可能」
「メール相談なら、何時でも大丈夫」
「同じ問題に悩む方々の相談会に、無料参加できます」
「一緒に問題を解決しましょう」

など、問題解決型の切り口です。

また困窮者は士業や金融機関に先行して相談に赴きますから、それらの業種から信頼を得て紹介してもらうのが一番の近道です。

実際に任売取り扱いで実績をあげている業者の多くは、紹介を情報収集の中心に据えているものです。

また同業である不動産業者の中には言葉は知っていても任売ノウハウがないため、相談を受けても対応に苦慮する業者も多く、そのような業者から紹介を受けるのも有効です。

任売実務1_「返済断念」を宣言する

任売への移行手続きや申請に使用する書式は、債権者である金融機関によって異なります。

ですが基本の「型」として、住宅金融支援機構が採用している一連の手続き方法を理解しておけば、ことなる金融機関にたいしても応用が可能です。

実際に筆者も、住宅金融支援機構の基本形をマスターしてから任売業務を始めましたが、一連の流れや書式については、金融機関の多くが住宅金融支援機構の手法を

参考にして作成しているのではないかと思うほどです。
そのような経緯から、実践編としての基本形は住宅金融支援機構の書式を使用して解説を続けます。

最初に、債務者自らが金融機関にたいし「任売売却に関する申出書」を提出します。

提出は債務者自らと表現していますが、それ以前に私たち不動産業者が介入していることが前提です。あくまでも手続き上の表現であるとご理解ください。

この書類提出により債権者である金融機関にたいし、返済計画の断念を宣言したことになります。

つまり「返済計画を断念したことにより、月々分割して支払う期限の利益を自ら放棄する」ことを表明します(支払いを複数か月、延滞している場合には金融機関から期限の利益喪失を宣言されているケースもありますが、状態に関わらず宣言書類は同じものを使用します)

書面には、以下の内容が記載されています。

① 支払いが困窮したことにより、担保物件を売却し債務を弁済する。
② 状況によらず、債務者の権利である期限の利益を放棄する。
③ 担保物件を売却しても残る債務(残債)については、可能な範囲で弁済する意思を有している。
④ 担保物件は可能な限り高値で売却できるように努めるが、延滞損害金については免除または減額の協力を要請したい。
⑤ 任売を委任する仲介業者にたいして、債権者が有する個人情報の提供に同意する。
⑥ 今後の協議により任売を容認する(任売による売却見込み判断)に満たないと判断される場合には、競売へ移行する旨を了解する。

住宅金融支援機構_任売書式1_転用

この書類はリ・スケジュールなど様々な対策を講じても状態を改善できず、万策尽きたことにより任売をもって債務を完済する意思の表明です。

金融機関にたいし事前相談をせず一方的宣言できる書類ではありますが、事前の根回しもなく提出すれば金融機関の不評を買い、それ以降の交渉に支障がでる可能性が高まります。

提出するタイミングには注意が必要です。

書類には任売を依頼した仲介業者名の記載箇所があります。

つまり金融機関としても、あらかじめ仲介業者が介入し顧客と綿密に打ち合わせをしてから具体的な計画を策定し、それから書類が提出されることを望んでいると理解する必要があります。

これから解説する任売価格の提示など、販売金額や計画に妥当性がないとされた場合の拒否権は債務者(金融機関)にあり、私たち任売を手掛ける不動産業者のスキルや計画性が、どれだけ大切であるかも理解しておきましょう。

任売実務2_書類を準備しておく

顧客から任売相談を受け(または提案し)、具体的な打ち合わせを重ね正式に受任してから宣言をおこないますが、交渉段階から具体的な計画策定に必要な調査と併せて書類も準備しておきます。

手順としては宣言をしてから金融機関と交渉を重ね順次提出をしていく書類ですが、時間勝負である任売においてゆったり構えている暇はありません。
スピード重視で先読みし、先行して準備をすすめていきます。

任売手続きに必要な書類は下記のとおりです。

① 売り出し価格確認申請書
② 価格査定書(全事項を満たしていれば、任意の査定書でも可能)
③ 実査チェックシート
④ 価格査定書に採用した取引事例の概要(成約情報)
⑤ 周辺地図
⑥ 住宅地図
⑦ 方位が分かる間取り図
⑧ 写真_ア.遠景イ.建物外観ウ.建物内部(玄関・リビング・水回り・全居室)
⑨ その他、建物や土地特徴が分かる写真_プラスマイナスポイントの分かる写真
⑩ 各写真の方位説明
⑪ 固定資産評価証明(戸建住宅の場合のみ)
⑫ 競売評価書(可能な場合のみ)
⑬ 建物賃貸借契約書(賃貸契約がある場合)

事項から、それぞれの書類作成についての注意点などについて解説していきます。

任売実務3_売り出し価格確認申請書を提出する

住宅金融支援機構_任売書式3_転用

もっとも重要な書式です。

これ以外は、極論ではありますがこの書類を裏付けるために存在するといっても過言ではありません。

取引事例をもとに査定物件との相違を加算・減算して評点し、最終的な査定額を算出します。

金融機関の多くは任意売却の申し出があった時点で債権を保証会社(債権回収会社)などに移行することから、実際の交渉相手は、それら保証会社となります。

ただし保証会社が実際に現地に赴き、物件を確認することはほぼありません。

基本的には提出された書類で判断します。

ですから査定額(任売開始額)が、納得が出来るレベルで算出されている必要があります。

任売という最後の手段として顧客から依頼を受けた以上は、「売れませんでした」は通りません。

制約期間内に、それも出来る限り早い段階で売り抜ける必要があります。

早く売り抜けるには物件の希少性など、いわゆる物件力も大切ですがそれ以上に「価格」が重要です。

金融機関は1円でも多く回収したい。

つまり任売であっても「高く売却して欲しい」という意向がありますし、私たちとしては相場よりも低い価格が早期売却のポイントであると考えます。

この相反する考えが基本にありながら、双方が合意に達する査定額を算出する訳ですから、妥当な金額であると債権者に納得させる裏付けが重要です。

購入検討者にたいして効果が期待されるインスペクションの実施費用や、劣化箇所にたいして必要なリフォーム費用の計上のほかにも、新耐震基準前の建物の場合には耐震工事の必要性を訴えるなど、価格と併せて訴求力のある工事を予め盛り込んでおく必要があります。

販売価格ももちろんですが、販売場有利となる費用計上を、いかに債権者に承認させるかが私たち不動産業者の腕の見せ所だと言えるでしょう。

添付書類に関しての注意事項

前項で記載したとおり、添付書類は「売り出し価格確認申請書」の査定根拠を裏付ける書類となります。

補足書類であっても、査定額が順当であるということを証明するための書類ですから手を抜けません。

書類についての解説と併せ、注意事項も含めて解説します。

査定価格所

債権者が要望する事項を全て満たしていれば、通常業務で使用している任意の査定書を使用して問題ありません。

実査チェックシート

私たちにはあまり聞きなれない名称ではありますが、たんなる物件調査書です。

債権者である金融機関により名称・書式もことなる他、査定書の提出により不要とされる場合もあります。

住宅金融支援機構_任売書式4_転用

価格査定書に採用した取引事例の概要(成約情報)

レインズの成約情報も含め、近隣における自社の成約事例などの販売資料と成約額を具体的に提示する必要があります。

当然の話ですが販売価格ではなく、成約価格の裏付け書類です。

実勢を理解してもらうのが目的の書類ですので、可能な限り具体的な事例を準備しておきましょう。

住宅金融支援機構_任売書式10_転用

周辺地図・住宅地図

特に説明は必要ないかと思いますが、広域と周辺の地図をそれぞれ準備します。

広域はGoogleマップなどのネット地図、周辺はゼンリン地図をプリントして当該物件をマーキングすれば問題ありません。

方位が分かる間取り図

広告販売用の間取り図で構いませんが、必ず方位マークが入った状態で準備しておきましょう。

写真_ア.遠景イ.建物外観ウ.建物内部

先ほど解説しましたが、債権会社が物件をみにくることはほとんどありません。

写真により状況を確認します。

ですから室内写真も含め、外観写真においても損傷や劣化箇所などが鮮明に、かつ早期売却のためにはリフォーム工事が必要であると認識できるレベルの画像が必要です。

内部における撮影指定箇所は玄関・水回り・リビング・各居室ですが、それ以外のポイントについても撮影し交渉に備えましょう。

提出写真の台紙(フォーマット)が指定されていない場合には、A4サイズの用紙に4枚程度貼り付け、それぞれ方位・撮影場所(居室・洋室A等)を写真下部に記載しておきます。

固定資産評価証明

住宅金融支援機構の場合には戸建てのみに提出が義務付けされていますが、いずれにしても取得しておくべき書類です。

競売評価書

当該エリアで活動している土地家屋調査士が作成した鑑定評価書です。

私たち不動産業者が作成できる書類ではありませんし、作成依頼すれば費用が発生します。

住宅金融支援機構でも提出が可能である場合とされていますが、基本的に不要な書類です。

建物賃貸借契約書(賃貸契約がある場合)

任売物件が賃貸に供され、賃借人が専有している場合に必要です。

任売実務4_売り出し開始

これまでに解説した書類を全て提出すると、債権が金融機関から保証会社などの債権回収部門に移行します。

この移行手続きは、金融機関によりことなりますが概ね1~3か月程度の期間が必要です。

この債権移行(委託)が成立すると、委託先から連絡が入り書類についてのヒアリングがおこなわれます(査定価格の妥当性について)理路整然と説明ができるように、準備しておきましょう。

ヒアリングが終了すると、査定価格の妥当性等を斟酌し、債権会社から「売り出し価格等通知書」が発行されます。

この通知書に記載された価格が任売許可金額になりますので、その条件で販売活動を開始します。

注意事項ですが、原則としてこの通知書が発行されるまで販売活動はできません。

内々で動くことは可能ですが、販売価格も未定であるという不安定な情報ですから先走った情報の公開には、くれぐれも注意しましょう。

媒介契約を忘れずに

売り出し価格等通知書が発行されてから、専属もしくは専任媒介契約を締結します(任売には一般媒介契約はありません)

媒介締結後は、定められた期日までにレインズに登録し、媒介契約書・レインズ登録書の写しを債権会社に送付します。

媒介契約は所有者である債務者とおこないますが、販売に関する意見などについて所有者が申し出ることはできません。

債権者である金融機関(保証会社等)と、私たち不動産業者が“主”となり販売活動がおこなわれることから、突然の内見予約など所有者にストレスが生じてクレームに発展することも多くあります。

ただし任売で売却ができなければ「競売」に移行するという現実を理解してもらい、結果的には早期売却が自分のためになるのだという点についても説明し協力を得られるように日頃からのコミュニケーションを大切にしておきましょう。

任売実務5_販売状況報告書は内容も綿密に

業務処理状況報告書と意味合いは同じです。

債権者により求められる報告頻度はことなりますが、最低でも月に1回以上の報告義務があります。

記載する内容は基本的に販売活動の進捗状況ですが、その中で重要なのは販売価格見直しなどに関する意見申述です。

住宅金融支援機構_任売書式7_転用

任売においては査定額が、必ずしも販売価格として承認されるとは限りません。

債権者意向により、実勢価格と変わらない価格での売り出しを要望される場合もあります。

早期売却をするために最も大切な販売価格ですが、懸命な販売活動によっても進展が得られない場合には早い段階で価格の見直しを申述する必要があります。

債権者は報告書類でその合否を判断しますから、相手方に納得してもらえるよう、常に先を見据えて報告をおこなうように心がけたいものです。

任売実務6_購入希望者が見つかれば遅滞なく報告する

住宅金融支援機構_任売書式8_転用

購入希望者がみつかった場合に提出する書類です。

債権者により買付証明書で代用がきく場合もありますが、住宅金融支援機構のように、買付証明書を添付書類としている金融機関も多くあります。
予め確認をしておき定められた書式に内容を記載し、添付書類をそえて提出します。

また当初の調査では確認できなかった利害関係人が、新たに発覚することがあるのが「任売」の特徴です。

そのような場合にはそれらの利害関係人の処理に要する費用計上も、併せて報告する必要があります。

住宅金融支援機構_任売書式9_転用

任売実務7_いよいよ決済

販売活動が実り、債権者の承認後に売買契約を締結すれば、最終段階である決済準備にはいります。

決済日が決まったら速やかに報告をおこないます。

住宅金融支援機構の場合には決済予定日2週間以上前までの報告と定められており、債権者により違いはありますが、余裕を持って決済日を設定するのが良いでしょう。

また添付書類を確認していただければお判りになるとおり、購入者の身分証明が必要とされます。

これは債権者である金融機関にたいして任売による正当な販売活動の結果として購入者が現れたことを証明する意味を持ち、併せて競売を阻止する目的で当初から予定されていた購入者ではないことを証明するといった意味を持ちます。

分かれの取引では、宅地建物取引業法の定めに反して買側の個人情報を取得していないケースも見受けられますが、任売取引では絶対に必要であると理解しておきましょう。

住宅金融支援機構_任売書式12_転用

文面はすでに提出済みの「任意売却に関する申出書」と酷似していますが、抵当権抹消にかんする申出書も併せて決済許可申請書類となります。

住宅金融支援機構_任売書式11_転用

まとめ

今回、解説した任売の流れは書類の時系列に沿って構成しています。

記事を最後までお読みいただければ判る通り、求められるタイミングに併せ書類を提出すればよいので、書類記載方法などは難しくありません。

任売を取り扱う場合に大切なのは、査定額を始めとして、より早く確実に売却をするための手法であり、また販売を開始したあとも反響状況を勘案しながら早期売却のための価格見直しを適切におこない、債権者の同意を得ることです。

債権者の立場からすれば価格を見直すことにより回収金額が下がり、また債務者にとっても任売後の残債が増加しますので、双方から良く思われることはありません。

ただし任売が不調で終われば競売に移行することが確実ですから、実勢価格からみた優位性などを常に俯瞰し、適切に調整をおこなう意識が大切です。

また士業などからの紹介で任売業務に着手した場合、売却が出来ず失敗してしまうと信用を失い、それ以降の紹介が得られません。

任売に着手すれば、多少強引であっても確実に売り切る。

このことを充分に理解する必要があります。

これらのことを理解したうえで、実務能力さえ伴っていれば実勢価格より低く販売でき、物件として訴求力が強いのですから有利に売却をすすめることはそう難しくないでしょう。

任売は正規の仲介手数料を売却金額から費用控除して確実に売り上げに貢献できますし、何よりも住宅ローン支払い困窮者の根本原因を解消するといった社会的意義もあります。

実績と経験を積み重ね、皆様のビジネスに役立てていただきたいと思います。

【本記事執筆者解説】はじめての任意売却の手掛け方

お客様から任意売却の相談があっても、
経験が少なくどうすればいいかわからない

任意売却は通常の仲介と比較して、確かに難しいです。
ただ、それは他社も同じ。

任意売却を扱えるようになることで、他社と大きく差別化を図ることができます。

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