【財産分与審判前に立退きさせることは可能ですか?】ある相談者からの質問

不動産の売却理由は人それぞれですが、離婚が理由であるケースも少なくありません。

私たち不動産業者は、離婚に関する法律相談には応じられないものの、離婚を原因とする不動産売却について助言を求められることが多々あります。

先日、すでに離婚が成立している方から「所有する分譲マンションを売却したいが、元妻が居住を続けており、売却に応じてもらえない。良い解決策はないか」という相談を受けました。

相談者が所有しているのは分譲マンションで、登記上の所有者は相談者の単独名義です。相談者には子供が2人いますが、親権は元妻が持ち、養育費に関しては別途裁判で取決めがされています。そのため、元妻が速やかに退去に応じてくれると予想していました。

しかし、元妻は「婚姻後に取得した不動産であるため、共有持分を有している」と主張し、退去には応じてくれません。当該マンションは婚姻後に取得されたものですから、法的には離婚時の財産分与の対象とされます。そのため、現在は共有持分を巡って係争中です。

相談者は養育費に加えて慰謝料も分割で支払っています。自身は別居して生活していますし、そのうえ居住していないマンションのローン返済が重くのしかかっている状態ですから、できるだけ早く売却したいと考えています。

ところが、元妻は「内見には一切協力しないし、立退きにも応じない」と言い、売却できない状態です。相談者はこの状況に困惑しています。同様の相談が、皆さんのもとに寄せられるかもしれません。そこで今回は、このケースで元妻を強制的に退去させることが可能かどうかについて、詳しく考察します。

特有財産と共有財産の判断は難しい

離婚時には、財産分与の取り決めが必要となります。

財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に協力して形成した財産を、離婚に伴い分割する制度のことです。民法第768条第1項では「協議離婚した者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる」と規定されています。

「請求することができる」と明記されているように、これは夫婦の一方が有する権利です。そのため、一般的に「財産分与請求権」と呼ばれています。

分与請求できる財産は以下図のとおりです。

さらに財産分与の性質は、以下の3つに分類されます。

◯清算的財産:夫婦が共同生活中に築いた財産です。婚姻後に購入された不動産はこれに該当し、財産分与の中でも特にトラブルになりやすい部分です。

◯扶養的財産:離婚により一方の生活が困窮しないよう、生活費を補助するために取決められる定期的な支払いです。必ず定めなければならない性質のものではありません。

◯慰謝料的財産:離婚に際して相手方に与えた精神的苦痛に対する損害賠償金(慰謝料)として支払われます。

不動産業者が関与するのは清算的財産です。ただし、清算的財産の対象は、夫婦共有名義の財産や、どちらに属するか不明な財産に限られます。夫婦の協力により形成されたという実態がない限り、「特有財産」には及びません。

特有財産は民法第762条第1項で定められており、具体的には「婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産)とする」と規定されています。

このため、たとえ婚姻後に購入された不動産であっても、自己資金が夫名義の口座から拠出され、住宅ローンや所有権も単独名義である場合、その不動産は「特有財産」です。

前述した相談のケースは、まさにこの特有財産に該当します。したがって、元妻による「婚姻後に取得した不動産だから共有持分を有している」という主張は、法的な根拠が乏しいのです。

一方で、民法第762条第2項では「夫婦のいずれに属するか明らかではない財産は、その共有に属するものと推定する」と規定されています。この規定は、夫婦間の協力や寄与度の実態を考慮し、離婚時における不公平を避けるため設けられています。しかし、この定めが時に誤解を生み、法的トラブルに発展することがあるのです。

立退き請求は可能か?

前述したケースにおいて、元妻を強制的に退去させることはできるでしょうか?

結論から言えば、現時点では強制的に退去させることはできません。

本件は、財産分与の協議が成立しておらず、共有持分を巡る係争が続いている状態です。裁判所が最終的な判断を下す際、夫婦間の協力や婚姻時の財産状況を考慮することがあります。元妻の「共有である」という主張がそのまま受け入れられる可能性は低いかもしれませんが、その帰趨は裁判所の判断に委ねられています。

そのため、現段階では元妻の財産分与権は法律によって保護されており、相談者(元夫)の特有財産であると見なされる可能性が高い場合でも、その保護は変わりません。

この状況において、相談者が元妻に対して立退き請求を行うことは、権利濫用と見なされる可能性が高く、法的に認められないのです。実際、相談者に対しても「現時点で明け渡し請求は認められないため、できるだけ早く裁判が結審するよう、手続きを進めることが重要だ」と説明しました。

ただし、たとえ元妻が潜在的所有権を持つ可能性があるとしても、離婚成立後もマンションに居住し続けていることは、所有権を侵害する不法行為であるとみなされます。したがって、相談者は元妻に対し、賃料相当の損害金を請求することは可能です。この点も補足して伝えました。

損害金請求は権利濫用に当たらない

筆者の助言に従い、相談者は離婚成立の翌日以降から請求日までの賃料相当額を損害金として請求すると同時に、以降、明け渡しが完了するまでの間、毎月の賃料相当額を請求する旨を内容証明郵便で元妻に送付しました。これに対し、元妻は「権利濫用であり許されない」と反論してきました。

この件については別途裁判が提起されましたが、裁判所は元夫が不当な目的で請求していない点や、養育費に関して別途結審済である点を考慮し、「元妻及び子が本件マンションを無償で使用することは認められない」として、元夫の請求は権利濫用にあたらないとの判断を下しました。

このように、離婚成立後も居住を続ける元配偶者に対して賃料相当の損害金を請求する手段は有効ですので、覚えておくと良いでしょう。

そもそも、夫婦相互の協力や寄与度は一律に評価できるものではありませんが、法の定めでは「推定する」とされています。推定とは、「反対する事実や証拠がなければ、事実として取り扱う」ことを意味します。

これにより、「旦那は子育てに一切協力していなかった」というような主張を基に、財産分与の割合を増やそうとするケースが増加するのです。

離婚協議はその原因によっては泥沼化することが多く、私たち不動産業者が積極的に関与すべき事柄ではありません。しかし、離婚を原因とする不動産の売却相談は頻繁にあるため、基礎的な知識は必要です。

例えば、「離婚による財産分与は贈与税の対象になりますか?」といった質問はよく受けます。この場合、通常であれば贈与税が課せられません。

財産分与は贈与ではなく、夫婦間における財産関係の清算や離婚後の生活保障を目的に、財産分与請求権に基づき給付されるものだからです。

このような知識を有していることで、適切な助言が可能となり信頼が得られ、結果として不動産売却の依頼を受けるチャンスも増えるのです。

まとめ

今回は離婚成立後も居住を続け、売却にも協力してもらえないという事例を題材に、財産分与の対象となる財産の内訳や対処法について解説しました。

離婚に際しての財産分与は、夫婦間で築かれた財産を適切に分割する重要な手続きですが、その内訳や割合は、離婚事由や双方の事情により大きく異なります。

特に慰謝料は精神的苦痛に対する損害金であるため、一定の基準は存在せず、個別事情によって取決められます。私たち不動産業者が直接関与するのは、精算的財産の中でも不動産に関してですが、最低限の法律知識を持つことで、より適切な助言が可能となります。

離婚を原因とする不動産問題は、相談者に混乱が生じやすいため、冷静かつ専門的な対応が求められます。そのため私たちは専門知識を深めるための努力は怠らず、相談者にとって信頼できるパートナーとして対応することが重要なのです。

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